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新人魔導師、発表会に参加する
同日、言わなくてはならないことと、言えなかったコト
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第5研究所の門が見えた瞬間、体中の力が抜けていくのを感じた。帰って来た、そんな気持ちで安心したようだ。いつの間にか、実家よりも安心する場所になっていた。
疲れ切った一同は何も言わず、「家」へ入っていった。そのまま流れるように食堂に集まる。
目覚めた恭平も含め、全員がいつもの定位置に座った。普段は賑やかな食堂だが、今日ばかりは誰も何も言わなかった。夏希が全員分の飲み物を用意する。流石の彼女も疲れているのか、手作業でグラスを運んできた。疲れた体に、魔力回復の効果があるハーブティーが染み渡る。全員、無言でグラスを空にした。
ややして、零が立ち上がる。
「本来なら今すぐにでも休んで欲しいところですが……大事な話があります」
「零、無理に言わなくても……」
夏希は零に寄り添う。2人の姿は美しく、絵画のような光景だった。そして、芸術品のように、触れればすぐにでも壊れてしまいそうな儚さを持ち合わせていた。
「言わなくてはならないことですから。本当は、ずっと話そうと思っていたんです。今、その時が来ました」
緩く首を振ると、零は大きく息を吸った。これから話すことの準備をするように、深く。
「長くなるかもしれませんが、聞いてください」
零はそう前置きして、ゆっくりと話し始めた。
「僕の本当の名前は西沢零。始まりの研究者と言われている、西沢健一の息子です。そして……『白の十一天』のリーダー、西沢一花は僕の双子の妹。あんな組織ができたのは……僕のせいなんです」
事情を知る夏希と天音以外、全員が言葉を失った。雅は一花の自己紹介で薄々気が付いていたのか、他の研究員よりは驚いていなかった。
その間、夏希はずっと零に寄り添っていた。手を握り、無理に話さなくていいと表情で訴えている。だが、零は深呼吸を挟みながら、時間をかけて話していく。
「僕は魔導元年以前から不思議な力……固有魔導が使えました。父はその原因を探ろうと、魔法や魔法使いについて調べていたんです。そして、12年前に遺跡が見つかった。その後、父は研究結果を盗まれて、今でいう魔導考古学省や第1研究所の人物に殺されました。僕は魔導研究のために第1研究所に連れて行かれました。母は人質として監禁され、やがて病死しました。一花は……妹は、両親の死の原因となった僕を恨み、死んだふりをして、僕を殺すための組織を作りました」
「それが、『白の十一天』ってことですか……?」
由紀奈の掠れた声がやけに響いた。それに頷き、零は話を続ける。
「初めこそ僕は必要とされていましたが、段々と強くなるにつれ、魔導考古学省は僕を恐れるようになりました。そこに気づいた妹は、取引をしたんです。僕を殺す代わりに、反魔導主義団体を作らせてくれ、と。その条件を、魔導考古学省はのみました……その結果が、今日の事件です。全部、僕が……僕が悪いんです」
「違います!」
天音はテーブルに手を叩きつける勢いで立ち上がった。手が痛いが、今はそんなことを気にしていられない。
「所長と妹さんは関係ないでしょう! あの人は、所長じゃなくて自分の父親を殺した犯人を恨むべきだったんです! 所長を恨むなんてお門違いですよ! だって、所長も被害者でしょう!? 自由を奪われて、親元から引き離されて! やりたくもないことをやらされて! なのになんで自分を責めてるんですか! おかしいでしょう!」
「そッスよ! 何泣きそうなツラしてんスか! 悪いのはあっちッスよ!」
「そうですよ! いつもの何考えてるかわかんない笑顔はどこいったんですか!」
「天音の言うとおりじゃ。そなたも被害者なのじゃぞ」
「そ、そうです! 所長さんは悪くないです!」
「うん」
「悪くないね」
「悪いのは向こうでしょ」
「所長のせいじゃないです!」
「あぁ……本当にそうだ。悪いのはお前じゃねぇ」
天音に続いて、全員が零を擁護した。それを聞いた夏希は意を決したように、震える声で言った。
「お前じゃなくて……あたしだ」
「何を言ってるんです? 夏希、貴女が悪いことなんて……」
「いや……全部あたしが悪いんだよ」
しん、と静まり返った食堂。夏希はまっすぐに皆を見つめて、言葉を紡いだ。
「零が言ったんだ。あたしも話す。12年前に、何があったか。本当のコトを」
「12年前……魔導元年ですか?」
「あぁ。あたしがそのとき何をしちまったのか、そんで、何を知ったのか。今言えるコト、全部話す」
「そんなこと、今まで一度も……」
零も知らなかった夏希の話があるらしい。どうして言ってくれなかったのか、なぜ今なのか。彼はそう問うた。
「……言えなかった。あんまりにも話がデカすぎて。それに……」
「それに?」
「……お前に、嫌われたくなかった。けど、もう限界だ。隠しきれなくなっちまった。なぁ、信じられねぇと思うけど最後まで聞いてくれ。12年前の12月12日のコトを」
「夏希……」
零の父が、「魔法は存在した」と発表した12年前の日に、一体何があったのか。夏希は、俯いたまま話しだした。
疲れ切った一同は何も言わず、「家」へ入っていった。そのまま流れるように食堂に集まる。
目覚めた恭平も含め、全員がいつもの定位置に座った。普段は賑やかな食堂だが、今日ばかりは誰も何も言わなかった。夏希が全員分の飲み物を用意する。流石の彼女も疲れているのか、手作業でグラスを運んできた。疲れた体に、魔力回復の効果があるハーブティーが染み渡る。全員、無言でグラスを空にした。
ややして、零が立ち上がる。
「本来なら今すぐにでも休んで欲しいところですが……大事な話があります」
「零、無理に言わなくても……」
夏希は零に寄り添う。2人の姿は美しく、絵画のような光景だった。そして、芸術品のように、触れればすぐにでも壊れてしまいそうな儚さを持ち合わせていた。
「言わなくてはならないことですから。本当は、ずっと話そうと思っていたんです。今、その時が来ました」
緩く首を振ると、零は大きく息を吸った。これから話すことの準備をするように、深く。
「長くなるかもしれませんが、聞いてください」
零はそう前置きして、ゆっくりと話し始めた。
「僕の本当の名前は西沢零。始まりの研究者と言われている、西沢健一の息子です。そして……『白の十一天』のリーダー、西沢一花は僕の双子の妹。あんな組織ができたのは……僕のせいなんです」
事情を知る夏希と天音以外、全員が言葉を失った。雅は一花の自己紹介で薄々気が付いていたのか、他の研究員よりは驚いていなかった。
その間、夏希はずっと零に寄り添っていた。手を握り、無理に話さなくていいと表情で訴えている。だが、零は深呼吸を挟みながら、時間をかけて話していく。
「僕は魔導元年以前から不思議な力……固有魔導が使えました。父はその原因を探ろうと、魔法や魔法使いについて調べていたんです。そして、12年前に遺跡が見つかった。その後、父は研究結果を盗まれて、今でいう魔導考古学省や第1研究所の人物に殺されました。僕は魔導研究のために第1研究所に連れて行かれました。母は人質として監禁され、やがて病死しました。一花は……妹は、両親の死の原因となった僕を恨み、死んだふりをして、僕を殺すための組織を作りました」
「それが、『白の十一天』ってことですか……?」
由紀奈の掠れた声がやけに響いた。それに頷き、零は話を続ける。
「初めこそ僕は必要とされていましたが、段々と強くなるにつれ、魔導考古学省は僕を恐れるようになりました。そこに気づいた妹は、取引をしたんです。僕を殺す代わりに、反魔導主義団体を作らせてくれ、と。その条件を、魔導考古学省はのみました……その結果が、今日の事件です。全部、僕が……僕が悪いんです」
「違います!」
天音はテーブルに手を叩きつける勢いで立ち上がった。手が痛いが、今はそんなことを気にしていられない。
「所長と妹さんは関係ないでしょう! あの人は、所長じゃなくて自分の父親を殺した犯人を恨むべきだったんです! 所長を恨むなんてお門違いですよ! だって、所長も被害者でしょう!? 自由を奪われて、親元から引き離されて! やりたくもないことをやらされて! なのになんで自分を責めてるんですか! おかしいでしょう!」
「そッスよ! 何泣きそうなツラしてんスか! 悪いのはあっちッスよ!」
「そうですよ! いつもの何考えてるかわかんない笑顔はどこいったんですか!」
「天音の言うとおりじゃ。そなたも被害者なのじゃぞ」
「そ、そうです! 所長さんは悪くないです!」
「うん」
「悪くないね」
「悪いのは向こうでしょ」
「所長のせいじゃないです!」
「あぁ……本当にそうだ。悪いのはお前じゃねぇ」
天音に続いて、全員が零を擁護した。それを聞いた夏希は意を決したように、震える声で言った。
「お前じゃなくて……あたしだ」
「何を言ってるんです? 夏希、貴女が悪いことなんて……」
「いや……全部あたしが悪いんだよ」
しん、と静まり返った食堂。夏希はまっすぐに皆を見つめて、言葉を紡いだ。
「零が言ったんだ。あたしも話す。12年前に、何があったか。本当のコトを」
「12年前……魔導元年ですか?」
「あぁ。あたしがそのとき何をしちまったのか、そんで、何を知ったのか。今言えるコト、全部話す」
「そんなこと、今まで一度も……」
零も知らなかった夏希の話があるらしい。どうして言ってくれなかったのか、なぜ今なのか。彼はそう問うた。
「……言えなかった。あんまりにも話がデカすぎて。それに……」
「それに?」
「……お前に、嫌われたくなかった。けど、もう限界だ。隠しきれなくなっちまった。なぁ、信じられねぇと思うけど最後まで聞いてくれ。12年前の12月12日のコトを」
「夏希……」
零の父が、「魔法は存在した」と発表した12年前の日に、一体何があったのか。夏希は、俯いたまま話しだした。
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