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新人魔導師、3回目の発掘調査に参加する

7月2日、研究発表会について学ぶ日

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 研究発表会に参加することになった旨はすぐに伝えられた。意外なことに、皆楽しみなようだ。

「やっとッスか! っしゃあ! じゃああれとあれと……あと、この間のあれと……」
「僕は……うーん、見学にしておきます」
「じゃあオレは書きかけの論文仕上げよっと」
「私たちはあれでいこう」
「そうだね」
「俺は今回の資料からやれるところまでいこうかな」
「わらわも見学だけにしておこうかの。由紀奈に勉強させたかったところじゃ」

 それぞれの研究テーマに基づいた発表の準備を考えているようだ。研究員たちは虎太郎の話を知らない(口止めされている)ので、純粋に研究発表会に参加できると喜んでいるのだろう。

「ま、今までウチはこういう機会なかったからな」
「あの……参加するってことは、何かしなくてはいけないことがあるんですよね?」

 天音の問いに、夏希は「あぁ」と言って、新人2人に対し説明し始めた。

「研究発表会は、まぁ、元々は第1研究所の連中が『どうだ、俺たちはすごいだろう!』って威張るために作られた場だよ。それが、研究所が増えるにつれて、それぞれの研究所が発表する場になっていった。今回ウチが参加するから、開催は5日間。全研究所が集まって発表を聞く。技術班だろうが医療班だろうが調査班だろうが、平等に参加の権利は与えられてる。聞くだけってのもアリだ」
「あ、じゃあ、勉強しに行くのもいいんですね」

 少しほっとした。国中の魔導師が集まる前での発表など、恐ろしくてやりたくない。

「そうもいかねぇんだな、これが」
「……と、言いますと?」
「あたしと零は発表者として出れねぇんだ。これは一応、所長と副所長は講評側ってルールがあるから仕方ねぇ。んで、双子は共同研究してるから、1人換算。透と雅は見学。由紀奈はまだ研究テーマが決まってない」
「そ、そうですね……?」
「すみません……」

 由紀奈が申し訳なさそうに俯いた。だが、天音ですら時間のかかったことなので、彼女を責めるつもりなどない。

「そーなると、発表者が葵に恭平、和馬、双子だろ? 発表者は5人以上いねぇといけない決まりなんだよ」
「つ、つまり……」
「天音も出る必要があるな!」
「増田さぁん!」

 代わりに出てくれとすがるが、透も発表できない理由がきちんとあるらしい。

「僕の研究の場合、衣装と論文、両方用意しないと成立しないので……班長みたいに発明品のストックとかないですし……出てもお粗末な発表にしかならないんです……」
「う……」

 それは仕方がない。天音は行き場を失った手を下ろした。

「安心しろって。ちゃんと協力するからよ。それに、新人だからそんなにしっかりしたモンじゃなくても平気だぜ。わかってるトコまで発表原稿とか作っときゃ大丈夫だよ」
「ううう……」

 先行きが不安すぎる。当日の発表に加え、裏切り者を探さなくてはいけないという任務まであるのにできるのだろうか。

「1番出来がいいヤツがいた研究所は予算が増えるぞ」
「だから魔導考古学省は僕たちが参加できないようなルールを作っていたんですよ。まあ、今回で人数も増えましたから、さぞかし向こうは悔しいでしょうね」

 ふふふと笑っている零は、普段の穏やかさを取り戻しているようには見えた。感情を隠すのが上手い人なので、本心はわからないが。

「わ、わかりました……頑張ってみます」
「頼んだ」

 夏希はポン、と天音の頭に手を乗せた。そのままわしゃわしゃと撫で始める。彼女なりの応援の仕方なのかもしれない。撫でられた後には、天音の髪はぐしゃぐしゃになっていた。そっと透から櫛が渡される。葵の身だしなみ用だろうか。ひとまず借りることにした。

「さて、お前ら、これから忙しくなるぞ」
「全員、思う存分研究してくださいね。見学の方はフォローをお願いします」

 零が言うなり、発表予定の研究員は食堂から飛び出していった。葵を抑えるように透も走って行く。雅は由紀奈を連れて医務室へ行くようだ。

 全員が去ったのを確認して、夏希は小さく囁いた。

「当日、あたしと零は講評しなきゃいけねぇが、隙を見て裏切り者を探す。お前は発表に集中してていい。ウチは最終日だから、それまでに発表時間の30分を埋められるものを作ってみてくれ。あたしも零も、全力でサポートする」
「ありがとうございます……」

 どうしようと頭を抱えていたが、少しは気が楽になった。一息つこうと飲み物を用意する。
 棚から自由に飲んでいい茶葉を探す。置いてある缶や袋に名前が書いてあったら許可なしに飲んではいけない。夏希のアールグレイと双子のアップルティー以外は比較的自由に飲むことができる。

「……天音。悪ぃが休憩はナシだ」
「え?」
「お客様ですね。4人分、お茶の準備をお願いしても?」

 窓の外を見ていた2人は、何かに気づいたようだった。天音に夏希、零で3人。客人は1人らしい。茶葉の缶を開けつつ、天音は質問した。

「私の知ってる方ですか?」
「あぁ」

 腕を組み、壁に背中を預けた体勢で、夏希はなんてことのないように言った。

「美織だ」
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