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新人魔法師の調べもの
12月10日、今も昔も
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読む。片付ける。読む。片付ける。読む。片付ける……朱音の日常は、暫くそればかりだった。清水夫妻に少しでも触れられているものはひたすら読んだ。だが、成果は得られず、ただただ読んだ本が増えていっただけだった。
「やあやあ~」
「支部長!」
睨みつけるように本を読んでいた朱音のもとに、柚子がやってきた。普段よりも疲れた顔をしている。
「調べもの? ちょうどよかった。私も色々やったんだ、話そうと思って」
「ありがとうございます! 全然手がかりがなくて困ってたんです」
柚子は魔法衣のポケットから1枚の紙を取り出した。彼女の丸い字が細かく書かれている。
「私は本じゃなくて、あちこちにいる旧第5研究所の研究員や関係者の子孫を探してみたんだ~。私なら顔も知ってるしね~」
「100年前の戦いに参加したのに、他の研究員の方々はあまり有名じゃないですよね……」
天音1人の手柄ではないのに、彼女ばかりが歴史に名を残している。朱音は誇らしいような、それでいて恥ずかしいような気持ちだった。
「うん? そ~かな?」
「だって、明らかに残された文献の数が違うでしょう」
「う~ん、文献だけが残されたものだとは思わないけどね~。技術とか、文化とか、人間は短い命で色んなものを残すよね。私たちにはできないことだ」
さて。
柚子はそう言うと、紙を朱音に見せる。
「まずは松野家ね。朱音も行ったことあるでしょ? ご飯屋さんの松野さん」
「えっ、あ、あそこって、もしかして……」
「かなたちゃんの子孫だね。はるかちゃんはずっと独身だったから」
先日、光に連れられて行ったあの店は、高祖母の先輩の子孫だったのか。言われてみれば、同じ名字だった。
「和馬くんと結婚したから、2人の子孫だね。で、ここには特に何も伝えられてなかった」
「そうですか……」
「雅ちゃんと由紀奈ちゃんは、一般の男性と結婚したから、晩年は魔法から離れて生活したみたいでね。ここも情報がなかった。あと、よく夏希ちゃんに頼られてた占術魔導師の美織ちゃんの子孫は、今も占いをしてるみたいだけど、こっちも特に聞いたことはないって」
魔法師ならば必ず聞いたことのある名前が次々飛び出してきた。だが、誰も何も知らないようだ。朱音は紙を見ながら、手がかりの無さに落ち込みそうになっていた。そんな朱音を見て、柚子は励ますように言う。
「せっかく会ったから、子孫の子に占ってもらっちゃった」
「どうでしたか!?」
「どうやら見つけるのは私じゃないみたいでね。はっきり視えないって。でも、近いうちにわかるとは言われたよ~」
わからないと言われるよりはずっといい。問題は誰が魔法を見つけるかだが、情報が少なすぎて視えないとのことだった。魔法にも制限はあるのだ。
「私なりに頑張ってみたよ~」
「こんなにたくさん……ありがとうございます」
「もうあんまり時間がないからね」
「確かに……12月12日まで、もう2日しかないですしね」
「……それだけじゃないんだけどね」
「え?」
柚子が何かを呟いたが、上手く聞き取れなかった。朱音がそう聞き返した瞬間、食堂の扉が勢いよく開けられた。
「お待たせしました! 魔法衣の相談ですか!?」
「違う違う」
目を輝かせて入って来た薫だったが、違うと言われた途端に無表情になり、そのままラボに戻ろうとする。
「待って~、支部長命令~」
「……なんですか?」
「人命がかかわったりかかわらなかったりする大事な話なんだよ~」
「大事さが1ミリも伝わりません」
「魔法狩りについてだよ」
「最初からそう言ってください」
溜息を吐き、薫は椅子に腰かけた。一応、仕事をする気はあるらしい。
「……ボクの先祖が、何か残してないかってことですか?」
「察しがいいね。助かる~」
「あるのは設計図と三面図くらいです」
「う~ん、流石としか言えないね~」
「けどまあ……一応、実家に帰る時に探してみます」
「よろしく~」
「じゃあ、ボクはこれで。魔法衣のことならいつでも呼んでください」
ペコリと一礼して、薫はラボに戻っていった。さりげなく朱音の魔法衣を確認して、「ここに刺繡を……」と独り言を言っていたのが聞こえてしまった。
「仕事熱心だよね~」
「あれは……その一言で片づけていいんでしょうか……」
スイッチが入った薫は未だに苦手なので、朱音にとっては恐怖でしかない。仕事熱心というより、何かに取り憑かれたよう、のほうが表現として正しい気がする。
「何かを極めるってことは、ああいうことなのかもしれないよ~」
「……100年前の方々も、そうでしたか?」
旧第5研究所の研究員たちはどうだったのか。朱音の問いに、柚子は何かを思い出すように淡く微笑んだ。
「今も昔も変わらないよ」
「……私のこともそう思ってます?」
「まだ違うかな~」
いずれは薫と同じカテゴリになるのか。その日が来るのが怖い。
「ひとまず、私がわかってることはここまでかな。朱音も、何か収穫があったら教えてね~」
「は、はい!」
今のところ何もないのが悔しい。何か報告したい、と朱音は再びページを捲り始めた。
「やあやあ~」
「支部長!」
睨みつけるように本を読んでいた朱音のもとに、柚子がやってきた。普段よりも疲れた顔をしている。
「調べもの? ちょうどよかった。私も色々やったんだ、話そうと思って」
「ありがとうございます! 全然手がかりがなくて困ってたんです」
柚子は魔法衣のポケットから1枚の紙を取り出した。彼女の丸い字が細かく書かれている。
「私は本じゃなくて、あちこちにいる旧第5研究所の研究員や関係者の子孫を探してみたんだ~。私なら顔も知ってるしね~」
「100年前の戦いに参加したのに、他の研究員の方々はあまり有名じゃないですよね……」
天音1人の手柄ではないのに、彼女ばかりが歴史に名を残している。朱音は誇らしいような、それでいて恥ずかしいような気持ちだった。
「うん? そ~かな?」
「だって、明らかに残された文献の数が違うでしょう」
「う~ん、文献だけが残されたものだとは思わないけどね~。技術とか、文化とか、人間は短い命で色んなものを残すよね。私たちにはできないことだ」
さて。
柚子はそう言うと、紙を朱音に見せる。
「まずは松野家ね。朱音も行ったことあるでしょ? ご飯屋さんの松野さん」
「えっ、あ、あそこって、もしかして……」
「かなたちゃんの子孫だね。はるかちゃんはずっと独身だったから」
先日、光に連れられて行ったあの店は、高祖母の先輩の子孫だったのか。言われてみれば、同じ名字だった。
「和馬くんと結婚したから、2人の子孫だね。で、ここには特に何も伝えられてなかった」
「そうですか……」
「雅ちゃんと由紀奈ちゃんは、一般の男性と結婚したから、晩年は魔法から離れて生活したみたいでね。ここも情報がなかった。あと、よく夏希ちゃんに頼られてた占術魔導師の美織ちゃんの子孫は、今も占いをしてるみたいだけど、こっちも特に聞いたことはないって」
魔法師ならば必ず聞いたことのある名前が次々飛び出してきた。だが、誰も何も知らないようだ。朱音は紙を見ながら、手がかりの無さに落ち込みそうになっていた。そんな朱音を見て、柚子は励ますように言う。
「せっかく会ったから、子孫の子に占ってもらっちゃった」
「どうでしたか!?」
「どうやら見つけるのは私じゃないみたいでね。はっきり視えないって。でも、近いうちにわかるとは言われたよ~」
わからないと言われるよりはずっといい。問題は誰が魔法を見つけるかだが、情報が少なすぎて視えないとのことだった。魔法にも制限はあるのだ。
「私なりに頑張ってみたよ~」
「こんなにたくさん……ありがとうございます」
「もうあんまり時間がないからね」
「確かに……12月12日まで、もう2日しかないですしね」
「……それだけじゃないんだけどね」
「え?」
柚子が何かを呟いたが、上手く聞き取れなかった。朱音がそう聞き返した瞬間、食堂の扉が勢いよく開けられた。
「お待たせしました! 魔法衣の相談ですか!?」
「違う違う」
目を輝かせて入って来た薫だったが、違うと言われた途端に無表情になり、そのままラボに戻ろうとする。
「待って~、支部長命令~」
「……なんですか?」
「人命がかかわったりかかわらなかったりする大事な話なんだよ~」
「大事さが1ミリも伝わりません」
「魔法狩りについてだよ」
「最初からそう言ってください」
溜息を吐き、薫は椅子に腰かけた。一応、仕事をする気はあるらしい。
「……ボクの先祖が、何か残してないかってことですか?」
「察しがいいね。助かる~」
「あるのは設計図と三面図くらいです」
「う~ん、流石としか言えないね~」
「けどまあ……一応、実家に帰る時に探してみます」
「よろしく~」
「じゃあ、ボクはこれで。魔法衣のことならいつでも呼んでください」
ペコリと一礼して、薫はラボに戻っていった。さりげなく朱音の魔法衣を確認して、「ここに刺繡を……」と独り言を言っていたのが聞こえてしまった。
「仕事熱心だよね~」
「あれは……その一言で片づけていいんでしょうか……」
スイッチが入った薫は未だに苦手なので、朱音にとっては恐怖でしかない。仕事熱心というより、何かに取り憑かれたよう、のほうが表現として正しい気がする。
「何かを極めるってことは、ああいうことなのかもしれないよ~」
「……100年前の方々も、そうでしたか?」
旧第5研究所の研究員たちはどうだったのか。朱音の問いに、柚子は何かを思い出すように淡く微笑んだ。
「今も昔も変わらないよ」
「……私のこともそう思ってます?」
「まだ違うかな~」
いずれは薫と同じカテゴリになるのか。その日が来るのが怖い。
「ひとまず、私がわかってることはここまでかな。朱音も、何か収穫があったら教えてね~」
「は、はい!」
今のところ何もないのが悔しい。何か報告したい、と朱音は再びページを捲り始めた。
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