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110.晩餐・舞踏会

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 馬車が王宮に到着して私室に戻ったら、休む間もなく晩餐会の準備です。

「さあ、お風呂の準備が出来ています。」
「また?」
「勿論です。」

 レミに笑顔で言われました。
 午前中より、お風呂とマッサージの時間は短いですが、着替えた後のメイクは、念入りです。

「今夜は、晩餐会の後に舞踏会があります。晩餐会が終わったら、直ぐにお着替えしますからね。」
「分かっているわ。」

 普段、王宮主催で晩餐・舞踏会が行われる場合、衣装替えはしません。
 しかし、結婚式直後の晩餐・舞踏会に限り、主役は衣装替えをするそうです。

 晩餐会の赤いドレスは、赤い衣裳を着るレリック様とお揃いになるよう、お母様が選んで下さいました。

 ハイウエストで切り返されたドレスは、スタイルが良く見えつつ、あまり締め付けないので、食事を楽しめそうです。
 流石お母様。

 レリック様は、赤騎士団をイメージしたボルドー色の上着に、黒いズボンとシックな装いで、大人の色気を放っています。

 服を着ているのに、色気が駄々漏れとはどういう事でしょうか。
 ドキドキして、心が休まりません。

「セシル、先ほどとは、また違って美しい。よく似合っている。」
「有り難うございます。レリック様こそ、素敵過ぎて、見惚れてしまいました。」
「セシルに見惚れて貰えたなら良かった。さあ、行こうか。」

 レリック様は満足そうに微笑むと、晩餐会が開かれる大広間へとエスコートして下さいました。

 結婚式後の晩餐会は、王家が信頼する限られた者にのみ招待状が送られます。
 貴族にとっては大変な名誉で、出世間違いなしと囁かれています。

 五時半頃。
 大広間に入場すると拍手で迎えられました。

 大広間に並べられた長テーブルには、既に主催者の王家や招待客が向かい合って着席していました。

 王家の親族である公爵家の当主とその婦人、私の家族は勿論、宮中で重要な政務を担当している宮中伯とその婦人も招かれているようです。

 招待されている宮中伯が少ない気がするのは、気のせいでしょうか。 
 もしかしたら、少数精鋭なのかもしれません。

 レリック様にエスコートされて席に着くと、晩餐会が始まりました。

「お昼から何も食べていなかったので、染み渡ります。」

 思わず、ほうっと幸せを噛みしめていると、向かい側に着席していたルルーシェ妃殿下に、クスクス笑われながら、頷かれました。

「私も挙式後の晩餐会で、そう思ったわ。」
「私もよ。」

 レリック様の隣に座っていた、マンセン王妃殿下も頷いています。

「今日のドレスは締め付けが少ないから、思う存分食べられるでしょう?」
「はい、お母様のお陰で、沢山食べられそうです。」

 私の隣に座っていたお母様が、にっこりと微笑んで、私も笑顔になりました。
 王宮のフルコースは、見た目は勿論、味も素晴らしく、量も配慮されていたので、デザートまで美味しく頂けました。

 八時頃。
 晩餐会が終了して、八時半から大ホールで舞踏会が開かれます。
 舞踏会は事前に申し込みさえしていれば、貴族なら誰でも参加出来ますので、かなり大規模になります。

 晩餐会の招待客は休憩室に移動して、舞踏会が始まるまで、お茶やお酒を飲みながら歓談して過ごします。
 その間、私とレリック様は、衣装替えです。

「別室に侍女が待機している。急ぐぞ。」

 大広間近くにある部屋へと、レリック様にエスコートされました。
 私はレミとラナが待機している部屋で、レリック様はシーナと隣室で、それぞれ着替えます。

「セシル様、急ぎますよ。」

 シックなイメージの赤いドレスから、デコルテや背中が大きく開いている、華やかな薄いブルーのドレスに着替えました。

 ドレスのイメージに合わせて、メイクと髪型も変えられます。
 最後に、レリック様の瞳と同じ色をした、サファイアのネックレスを着ければ完成です。

 侍女のレミが扉をノックして、隣で着替えをしていたレリック様を呼びました。

 レリック様の衣装は、青色です。
 やはり、金糸でふんだんに飾り付けがされて、豪華仕様です。
 襟飾りには、私の瞳をイメージさせる、クンツァイトのブローチが付いています。

 もしかして、本日の衣装は、各騎士団の色をイメージしているのでしょうか。

 結婚式の時は白、晩餐会は赤と黒でした。
 そして、これから始まる舞踏会は、青い衣装です。
 他の衣装とはまた違って、気品を感じさせる落ち着いた雰囲気が素敵です。

 勿論、レリック様は素敵ですが、デザイナーの腕も素晴らしいのでしょう。
 デザイナーの仕事振りに感心しつつ、レリック様に見惚れていると、レリック様が溜め息を吐いて呟きました。

「これは魅力的過ぎて、男達の視線を釘付けにしてしまう。出来れば誰にも見せたくないが、アピール任務だと思えば、仕方がないか。」

 アピール任務とは、王子が妻を溺愛していて、妻以外に興味が無く、付け入る隙が無いと示す事です。
 私が魅力的に見えれば、溺愛の説得力が増します。

 婚約披露パーティーでは、妃教育を受けてきた令嬢に、王子との結婚を諦めさせる目的がありました。

 今日の舞踏会では、正式な結婚の御披露目をして、王子との結婚を諦めた令嬢達に婚活を促す目的があります。

 『王子の挙式後に開かれる、縁起の良い舞踏会で婚活が成功すると、幸せになれる』というジンクスは、令嬢達の間で有名です。

 実はそのジククス。教育係のロイが言うには、王子に嫁ぐ令嬢への嫉妬や危害を避ける為に、先代の国王陛下が故意に流したものだそうです。

 余程、王子に嫁ぐ妃への風当たりが強かったのでしょう。
 幸い、私はそうでもないので有り難いです。

「アピール任務と言っても、私はセシルを愛しているから、演技する必要もないし、積極的に周りに見せつければ良いだけで、楽なものだ。」
「コホン!」

 シーナが咳払いをして、ジトリとレリック様を見ています。
 レリック様はハッとして、私の頬に触れようとしていた手を引っ込めました。

「これは案外、ストレスが溜まる。」
「舞踏会が終わったら、存分にセシル様に触れて頂いて結構ですから、もう少し我慢して下さいませ。」
「仕方ない。セシル、行こうか。」

 レリック様は盛大な溜め息を吐くと、大ホールへとエスコートして下さいました。

「セシル、これから本気で周りにアピールするぞ。」
「はい。」
「セシルは気楽にしていれば良い。」

 ホールに入場する直前、レリック様の表情がガラリと変わって、私に甘く微笑みかけて来ました。
 流石王族。切り替えの早さが凄いです。

 舞踏会では最初に王家全員でダンスを踊ります。
 レリック様にホールドされた時、耳元で甘く囁かれました。

「好きだよ。」

 ええ!?今、言うのですか?
 一番間違えてはいけない時に、ステップ間違えたらどうするのですか!
 王子妃に相応しくないなんて思われるではないですか!

「私も、です。」

 もう、顔が熱い。
 内心動揺しながらも、淑女らしく微笑みます。

「ああ、堪らなく可愛い。」

 レリック様は仕事人間です。
 アピール任務に取り組んでいるのは分かりますが、飛ばしすぎではないでしょうか?

 ただ、レリック様のリードは、とても安心感があって踊りやすいので、ダンスは普通に楽しめました。

 レリック様の次は国王陛下、ピューリッツ殿下、お父様、お兄様と順番にダンスをしたら、御披露目としての任務は終了です。

 後は、やたらと距離が近いレリック様と長椅子に座って、お祝いの挨拶に来て下さる方々と談笑するだけです。

 ダンスホールは、独身者がパートナーを変えながらダンスをする、婚活の場へと変わり、深夜二時まで続きますが、私達は夜十時頃には退席します。

 十時前。
 ルルーシェ妃殿下に声をかけられました。

「セシル、飲み物を飲みに行きましょう。レリック殿下、セシルを借りても良いかしら。」
「ええ、どうぞ。」

 ドリンクや軽食は別室の休憩室に用意されていました。
 ルルーシェ妃殿下とホールを出ると、護衛騎士の他に侍女のレミが待機しています。

「セシル様、お待ちしておりました。これから大事な準備がございますので、直ちに私室へお戻りくださいませ。」

「待ってレミ。急にそう言われても、私はルルーシェお義姉様と、飲み物を飲みに行くところなの。」

「良いのよ、セシル。私はレミと結託してセシルを連れ出したの。レリック殿下には戻ったら話しておくから、今のうちに。ね?」

 ルルーシェ妃殿下は意味ありげにウインクすると、レミを手伝うように、私の背中をやさしく押しました。
 退席をレリック様に気付かれない方が良いのでしょうか?

「さあ、セシル様、お急ぎ下さいませ。」
「分かったわレミ。ルルーシェお義姉様、後は宜しくお願い致します。」

 ホールの扉前に控えていた護衛二人に付き添われて、レミに促されるまま私室へ急ぎました。

 もう休むだけなのに、何を準備することが………あ!

 すっかり忘れていました。
 今夜が初夜だと言うことを!
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