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94.メリーク殿下
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「このドレスは、マンセン王妃殿下が選んで下さいましたし、陛下からは、魔溜まり任務の後、褒賞として、希望を叶えて頂き、金貨も八千枚頂きました。王家の皆様は家族のように接して下さいますし、こんなに贅沢をして大丈夫かと不安になるくらい、生活は至れり尽くせりです。騎士団の皆様も素敵な方ばかりで、レリック様とも、ずっと一緒に―――――」
「分かりました、分かりましたから。」
メリーク殿下が苦笑いしています。
幸せな話ならば、幾らでも出てきますが、ちょっと喋りすぎたようです。
「セシル嬢が、幸せそうなのは伝わりました。それに、王家もセシル嬢を冷遇していないようだとも。協会は勇者の意思を尊重するのが仕事ですから、ご安心下さい。ただ、一応、三日は最低調査すると決まっていますので、あと二日は共に行動させて頂きます。」
「そうですか。早く帰国したいでしょうに、大変ですね。」
王子なら、婚約者がいるでしょう。
既に、結婚されているかもしれません。
見目麗しい方なので、誰かしら帰りを待っているでしょう。
「それ程でもないですよ。他国へ行くのは慣れていますから。それで、セシル嬢。この箱を開けて見せて欲しいのですが。」
メリーク殿下が、ローテーブルに置いてあった魔を吸引する箱を、トントンと人差し指で触れました。
「分かりました。開けますね。」
鍵穴付近に指先で触れると、カチャッと小さな解錠音がしたので、箱の上蓋を大きく開きました。
「我が国の実力者が何をしても駄目だったのに、こんなに簡単に開くとは。やはり、アイテムに選ばれた勇者は、別格ですね。」
メリーク殿下が独り言のように呟きながら箱を手に取ると、くるくる回して様々な角度から箱を眺めています。
暫くすると、箱の上蓋が閉まって、カチャッと鍵のかかる音がしました。
「今、自然に閉まりましたよね。」
メリーク殿下が目を丸くして私を見ましたので、頷きました。
「理由は分かりませんが、その箱は、私が持っていないと、自然に閉まる仕組みのようです。」
「なるほど……。アイテムは、基本的に勇者しか扱えないのですが、これ程とは思いませんでした。箱だけを持ち帰っても、意味がなさそうですね……。これは、セシル嬢にお返しします。」
メリーク殿下は、私に箱を手渡すと、ふぅ……と息を吐きました。
「我々は、再び現れるかもしれない魔王に備えて、新たなアイテムを作りたいと考えています。その為に、その箱を持ち帰り研究したかったのですが、それにはセシル嬢の協力が必要だと分かりました。」
「そう、なのですね。」
メリーク殿下が何を言おうとしているのか、次の言葉が予想出来てしまいました。
どうしましょう、新たな任務の予感がします。
「セシル嬢、我が国に移住しませんか?」
「え?」
協力の要請は予想していましたが、まさか移住まで求められるとは思いませんでした。
「私はレリック様と結婚する予定ですから、それは出来ません。協力でしたら、可能かも知れませんが。」
「厄介なことに、ガリア王国と同様、我が国も自国の技術について秘匿しておきたいのです。他国の者に技術を見せるなんて、有り得ません。」
「つまり、協力するにしても、私が他国の人間だと問題がある。だから移住して、ホワーズ魔法王国の国民になるよう求めている。で合っていますか?」
「その通りです。冷遇されていれば、保護出来て都合が良かったのですが、宛が外れてしまいました。勿論、冷遇されていない方が良いですよ。」
メリーク殿下は、にっこりと微笑みました。
なんでしょう、嘘っぽいと思ってしまいました。
「移住は出来ません。私はレリック様と結婚する方が大切ですから。」
メリーク殿下は、私の方に体を向けたまま、じっと見つめて来ます。
「王族との結婚が望みならば、私と結婚しますか?私も第二王子ですし、幸い独身ですから大歓迎です。」
「ご冗談を。」
「私は真剣です。今まで、セシル嬢は魔王討伐の為、レリック殿に必要とされていたでしょう。ですが、魔王はもういません。今後、国の為に生きる王族に、セシル嬢は何をもたらせますか?王子は他国の王女と結婚する方が、他国の恩恵を受けられて国益になる。それ位は御存知ですよね。」
「それは……存じ上げております。」
国益の為、王族は他国の王族と政略結婚をする。
それが世界の常識とされている。
ただ、ガリア王国の王族が、他国の王族と結婚した事例は無い。
そのように習いました。
メリーク殿下の言う通り、私の価値は、吸引の箱を開けられる解錠の加護だけだと理解しています。
魔王討伐には有効でしたが、今後、国の為に大きく貢献出来るほど、お役に立てるかと言えば、そんな事はあまり無くて、利用されないように守られる方が多いでしょう。
私が他国へ行けば、レリック様は、私を一生守る必要も無くなります。
他国の王女と結婚した方が、国の為に生きる覚悟をしているレリック様には、良いのかもしれません。
ですが、私は嫌なのです。
「私は王族と結婚したいのではありません。レリック様だから結婚したいのです。それに、王子が他国の王女と結婚するのが国益になるのならば、メリーク殿下も伯爵家の私ではなく、他国の王女と結婚するべきではないでしょうか。」
淑女らしく、毅然とした態度を貫きます。
「それはそうですね。ですが、魔王討伐協会の責任者として、セシル嬢が何よりも国益になると判断しました。アイテムを研究して解明し、新たなアイテムを作るのは、我が国の悲願ですから。」
「では、悲願が達成された場合、メリーク殿下は、用済みの私と婚約破棄して、他国の王女と新たに結婚するのでしょうね。」
笑顔で皮肉たっぷりに言ってやりました。
こんな事を言う自分がいたなんて、意外です。
「これは手厳しいですね。でも、ご心配には及びません。私は婚約なんて回りくどい事はしません。セシル嬢が共に来てくれるなら、即、結婚します。それが誠意というものです。勿論、国を捨てて来て貰うからには、一生大事にしますよ。」
メリーク殿下が胸に手を当てて、にっこりと妖艶に微笑みました。
多くの令嬢は、その笑顔に胸を撃ち抜かれるでしょう。
ですが、それが本心からの笑顔なのか疑ってしまいます。
王族は、表の顔と裏の顔を使い分けるのが上手い生き物だと、レリック様で学びましたから。
「昨日今日会ったばかりですのに、随分と簡単に言うのですね。」
モテる男性は、決断が早いのでしょうか。
それとも王族は皆さん、そうなのでしょうか。
初めて出会った時のレリック様も、強引さでは、メリーク殿下に匹敵する気がします。
「私にとっては簡単な話です。結婚しているなら話は別ですが、婚約段階ならば、金を積んで、我が国の王女を代わりに勧めれば、簡単に婚約破棄は成立するでしょう。」
お金で簡単に婚約破棄ですって!?
胸がズキリと傷みました。
私はまた同じやり方で、私の意思とは関係無く、婚約破棄させられるのでしょうか。
レリック様は、メリーク殿下の考えを御存知なのでしょうか。
今すぐレリック様に会って、気持ちを聞きたい。
今にも泣いてしまいそうですが、深呼吸をして気持ちを落ち着けました。
「この国を離れるつもりはありません。それが私の意思です。協会は私の意思を尊重してくださるのですよね。」
メリーク殿下を真っ直ぐ見つめると、フッと微笑まれました。
「ええ、無理強いは出来ません。冷遇されていない場合、ゆっくり勧誘するつもりでいましたが、急ぎ過ぎてしまいましたね。調査はあと二日ありますので、ゆっくりお考え下さい。」
「そうさせて頂きます。」
全く考え直すつもりはありませんが、波風を立てても良くありません。
にっこりと余裕の笑みを作って、冷めた紅茶を口にしたところで、扉をノックする音がしました。
「お時間になりましたので、お迎えに上がりました。」
扉が開いて、護衛騎士のアルパとルペーイが入室して来ました。
後ろにはメリーク殿下の護衛の姿も見えます。
やっと、聞き取り調査が終わるお昼の時間になりました。
「ではメリーク殿下、お先に失礼させていただきます。」
ソファーから立ち上がって淑女の礼をしてから、ローテブルに置いている箱を手にして、退室しました。
あと二日もメリーク殿下と二人きりで過ごさなければならないなんて、憂鬱で仕方がありません。
レリック様に会いたくて、私室へ向かう足取りが無意識に早くなってしまいました。
「分かりました、分かりましたから。」
メリーク殿下が苦笑いしています。
幸せな話ならば、幾らでも出てきますが、ちょっと喋りすぎたようです。
「セシル嬢が、幸せそうなのは伝わりました。それに、王家もセシル嬢を冷遇していないようだとも。協会は勇者の意思を尊重するのが仕事ですから、ご安心下さい。ただ、一応、三日は最低調査すると決まっていますので、あと二日は共に行動させて頂きます。」
「そうですか。早く帰国したいでしょうに、大変ですね。」
王子なら、婚約者がいるでしょう。
既に、結婚されているかもしれません。
見目麗しい方なので、誰かしら帰りを待っているでしょう。
「それ程でもないですよ。他国へ行くのは慣れていますから。それで、セシル嬢。この箱を開けて見せて欲しいのですが。」
メリーク殿下が、ローテーブルに置いてあった魔を吸引する箱を、トントンと人差し指で触れました。
「分かりました。開けますね。」
鍵穴付近に指先で触れると、カチャッと小さな解錠音がしたので、箱の上蓋を大きく開きました。
「我が国の実力者が何をしても駄目だったのに、こんなに簡単に開くとは。やはり、アイテムに選ばれた勇者は、別格ですね。」
メリーク殿下が独り言のように呟きながら箱を手に取ると、くるくる回して様々な角度から箱を眺めています。
暫くすると、箱の上蓋が閉まって、カチャッと鍵のかかる音がしました。
「今、自然に閉まりましたよね。」
メリーク殿下が目を丸くして私を見ましたので、頷きました。
「理由は分かりませんが、その箱は、私が持っていないと、自然に閉まる仕組みのようです。」
「なるほど……。アイテムは、基本的に勇者しか扱えないのですが、これ程とは思いませんでした。箱だけを持ち帰っても、意味がなさそうですね……。これは、セシル嬢にお返しします。」
メリーク殿下は、私に箱を手渡すと、ふぅ……と息を吐きました。
「我々は、再び現れるかもしれない魔王に備えて、新たなアイテムを作りたいと考えています。その為に、その箱を持ち帰り研究したかったのですが、それにはセシル嬢の協力が必要だと分かりました。」
「そう、なのですね。」
メリーク殿下が何を言おうとしているのか、次の言葉が予想出来てしまいました。
どうしましょう、新たな任務の予感がします。
「セシル嬢、我が国に移住しませんか?」
「え?」
協力の要請は予想していましたが、まさか移住まで求められるとは思いませんでした。
「私はレリック様と結婚する予定ですから、それは出来ません。協力でしたら、可能かも知れませんが。」
「厄介なことに、ガリア王国と同様、我が国も自国の技術について秘匿しておきたいのです。他国の者に技術を見せるなんて、有り得ません。」
「つまり、協力するにしても、私が他国の人間だと問題がある。だから移住して、ホワーズ魔法王国の国民になるよう求めている。で合っていますか?」
「その通りです。冷遇されていれば、保護出来て都合が良かったのですが、宛が外れてしまいました。勿論、冷遇されていない方が良いですよ。」
メリーク殿下は、にっこりと微笑みました。
なんでしょう、嘘っぽいと思ってしまいました。
「移住は出来ません。私はレリック様と結婚する方が大切ですから。」
メリーク殿下は、私の方に体を向けたまま、じっと見つめて来ます。
「王族との結婚が望みならば、私と結婚しますか?私も第二王子ですし、幸い独身ですから大歓迎です。」
「ご冗談を。」
「私は真剣です。今まで、セシル嬢は魔王討伐の為、レリック殿に必要とされていたでしょう。ですが、魔王はもういません。今後、国の為に生きる王族に、セシル嬢は何をもたらせますか?王子は他国の王女と結婚する方が、他国の恩恵を受けられて国益になる。それ位は御存知ですよね。」
「それは……存じ上げております。」
国益の為、王族は他国の王族と政略結婚をする。
それが世界の常識とされている。
ただ、ガリア王国の王族が、他国の王族と結婚した事例は無い。
そのように習いました。
メリーク殿下の言う通り、私の価値は、吸引の箱を開けられる解錠の加護だけだと理解しています。
魔王討伐には有効でしたが、今後、国の為に大きく貢献出来るほど、お役に立てるかと言えば、そんな事はあまり無くて、利用されないように守られる方が多いでしょう。
私が他国へ行けば、レリック様は、私を一生守る必要も無くなります。
他国の王女と結婚した方が、国の為に生きる覚悟をしているレリック様には、良いのかもしれません。
ですが、私は嫌なのです。
「私は王族と結婚したいのではありません。レリック様だから結婚したいのです。それに、王子が他国の王女と結婚するのが国益になるのならば、メリーク殿下も伯爵家の私ではなく、他国の王女と結婚するべきではないでしょうか。」
淑女らしく、毅然とした態度を貫きます。
「それはそうですね。ですが、魔王討伐協会の責任者として、セシル嬢が何よりも国益になると判断しました。アイテムを研究して解明し、新たなアイテムを作るのは、我が国の悲願ですから。」
「では、悲願が達成された場合、メリーク殿下は、用済みの私と婚約破棄して、他国の王女と新たに結婚するのでしょうね。」
笑顔で皮肉たっぷりに言ってやりました。
こんな事を言う自分がいたなんて、意外です。
「これは手厳しいですね。でも、ご心配には及びません。私は婚約なんて回りくどい事はしません。セシル嬢が共に来てくれるなら、即、結婚します。それが誠意というものです。勿論、国を捨てて来て貰うからには、一生大事にしますよ。」
メリーク殿下が胸に手を当てて、にっこりと妖艶に微笑みました。
多くの令嬢は、その笑顔に胸を撃ち抜かれるでしょう。
ですが、それが本心からの笑顔なのか疑ってしまいます。
王族は、表の顔と裏の顔を使い分けるのが上手い生き物だと、レリック様で学びましたから。
「昨日今日会ったばかりですのに、随分と簡単に言うのですね。」
モテる男性は、決断が早いのでしょうか。
それとも王族は皆さん、そうなのでしょうか。
初めて出会った時のレリック様も、強引さでは、メリーク殿下に匹敵する気がします。
「私にとっては簡単な話です。結婚しているなら話は別ですが、婚約段階ならば、金を積んで、我が国の王女を代わりに勧めれば、簡単に婚約破棄は成立するでしょう。」
お金で簡単に婚約破棄ですって!?
胸がズキリと傷みました。
私はまた同じやり方で、私の意思とは関係無く、婚約破棄させられるのでしょうか。
レリック様は、メリーク殿下の考えを御存知なのでしょうか。
今すぐレリック様に会って、気持ちを聞きたい。
今にも泣いてしまいそうですが、深呼吸をして気持ちを落ち着けました。
「この国を離れるつもりはありません。それが私の意思です。協会は私の意思を尊重してくださるのですよね。」
メリーク殿下を真っ直ぐ見つめると、フッと微笑まれました。
「ええ、無理強いは出来ません。冷遇されていない場合、ゆっくり勧誘するつもりでいましたが、急ぎ過ぎてしまいましたね。調査はあと二日ありますので、ゆっくりお考え下さい。」
「そうさせて頂きます。」
全く考え直すつもりはありませんが、波風を立てても良くありません。
にっこりと余裕の笑みを作って、冷めた紅茶を口にしたところで、扉をノックする音がしました。
「お時間になりましたので、お迎えに上がりました。」
扉が開いて、護衛騎士のアルパとルペーイが入室して来ました。
後ろにはメリーク殿下の護衛の姿も見えます。
やっと、聞き取り調査が終わるお昼の時間になりました。
「ではメリーク殿下、お先に失礼させていただきます。」
ソファーから立ち上がって淑女の礼をしてから、ローテブルに置いている箱を手にして、退室しました。
あと二日もメリーク殿下と二人きりで過ごさなければならないなんて、憂鬱で仕方がありません。
レリック様に会いたくて、私室へ向かう足取りが無意識に早くなってしまいました。
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