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43.レリック様の手

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 エド団長の個室から、レリック様の個室へと手を引かれて移動している時でした。

「明日の予定だが、セシルは一日休みだ。疲れているだろうから、ゆっくり休むと良い。私は事後処理で騎士棟へ行くが、夕食までには戻る。大事な話があるから待っていてくれ。」

 レリック様に大事な話と言われて、胸が締め付けられる思いがしました。
 レリック様が戻る明日の夕方まで、モヤモヤするのも嫌ですから、思い切って口を開きました。

「大事な話とは、婚約破棄についてでしょうか?」

 個室に入室しようと、ドアノブを握って立ち止まったレリック様が、私に顔を向けました。
 一瞬、目を見開かれた気が……。
 やはり、そうなのでしょうか?

「……いや、違う。」

 違うようです。
 ひとまずホッとしました。

「では、任務が終わったご褒美のお話ですか?」
「それも違う。話せば長くなるから明日、話す。」

 レリック様は個室の扉を開けて、私が入室したのを確認すると、扉を閉めて転移陣の中心へと手を繋いだまま歩き始めました。
 転移陣は、もう私一人でも転移出来ます。
 それなのにレリック様は習慣なのか、一緒に転移するのが当然だと思っているようです。

 私の手を引いて、陣の中心へ行くと、反対の手を私の背中に回します。
 初めて一緒に転移した時、私が驚いて離れようとしたので、それを阻止する為に取った行動が、未だに続いているようです。
 いつもはただ、背中に手を添えるだけですが、今回は違いました。

「!?」

 勢いよく引き寄せ、いえ、これはもう、抱き寄せられたと言うべきでしょう。
 近いとか、そういう問題ではありません。
 埋まりそうです。

 任務と割り切っている内は、多少近くても、冷静さを保てていました。
 しかし、今は任務も終わって気が抜けていますし、何より、前代未聞の密着具合です。
 流石に恥ずかし過ぎて、動揺してしまいます。

「あの――」

 声をかけようとした時、床を二回ノックする音が聞こえて、レリック様の部屋に転移しました。

「ふーっ……。」

 耳元辺りから、レリック様の大きな溜め息が聞こえて来ました。
 かなりお疲れのようです。
 考えてみれば当然です。
 レリック様は指示を出したり、エド団長を取り押さえたりしながら、私に対して常に気を配って助けて下さいました。

 もしかして、疲れすぎて力の加減を間違えてしまったのかもしれません。
 手を緩めて貰おうと声をかけようとしましたが、お疲れのところ、声をかけるのも悪い気がします。
 きっと直ぐに手を放してくださるでしょう。
 ドキドキしながらも、黙って身を任せて待ちました。

「…………?」

 おかしいです。
 レリック様の手が緩まる気配がありません。
 恥ずかし過ぎて、全身が熱くなってきました。
 いつまでこのままなのでしょう?
 もしかして、疲れすぎて立ったまま眠ってしまったのでしょうか?

「あの、起きてますか?」

 レリック様の背中に片手を回して、ポンポンと触れます。

「ああ。」

 どうやら起きていたようです。
 レリック様が、ようやく手を放して下さいました。

「お疲れみたいですから、もう休みましょう。」
「セシルこそ疲れただろう。」

 レリック様が、顔にかかっている私の髪を、そっと横に流して下さいます。
 とても労られている感じが、気恥ずかしいです。
 レリック様が入室許可のベルを鳴らしてから、大部屋へ行くと、侍女長のシーナと侍女のラナが待機していました。
 シーナはレリック様の部屋に入室して、ラナは私の部屋へ来てくれました。

「では、お手伝いさせて頂きますね。」

 素早く騎士服を脱がされると、湯に浸けて絞った温かいタオルで、サッと全身を拭かれました。
 髪も拭き、綺麗に鋤いてくれます。
 素早くナイトドレスを着せられて、あっという間に眠る準備が完了しました。
 お手伝いと言われましたが、されるがままでした。

「さあ、お疲れでしょう。お休み下さいませ。」

 ラナの言う通り、思った以上に疲れていたみたいです。
 欠伸が出てしまいました。

 自室から扉を通って寝室へと入室しました。
 既にレリック様が横になって、目を閉じています。
 もう眠ってしまわれたのでしょう。

 そっと腕輪を枕元に置いて、ベッドに入りました。
 レリック様の手が、こちらに伸びています。
 手を繋ぐ習慣から、自然とこうなっているのかもしれません。

 今日は……いえ、いつもレリック様の手……いいえ、レリック様には、助けられて守られていました。
 レリック様の大きな手は、常にポカポカと温かくて心地好いのに、ドキドキもします。

 他の男性だって私よりも手は大きいでしょう。
 もしかしたらレリック様同様、温かいかもしれません。
 異性というだけで、手を繋げば、ドキドキもする筈です。

 でも、恥ずかしいにも関わらず、手を繋いでいたいと思ったり、離れると若干淋しいと感じるのは、レリック様だけです。
 そっとレリック様の手に触れて、手を繋ぎました。

「お疲れ様です。お休みなさい。」

 起こさないように囁いて、目を閉じました。
 取り敢えず婚約破棄されない安堵感や、慣れない事をして普通に疲れていたせいもあって、直ぐに眠りについたようです。

 繋いでいるレリック様の手が、いつ離れたのか、いつもながら、全く気付きませんでした。
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