12 / 114
12.騎士棟へ
しおりを挟む
午後からは騎士棟へ行く予定になっています。
「クローゼットに騎士服が入っているから、先ずはそれに着替えて、この大部屋に戻って来てくれ。レミ、頼む。」
「畏まりました。ではセシル様、お着替え致しましょう。」
大部屋の入口から見て、左手の扉は、私専用の部屋になっています。
因みに殿下の部屋は右手の扉です。
部屋に入ると私専用のクローゼットがあるので、侍女のレミが騎士服を出してくれました。
騎士服は上下黒色で、上は黒い上着、下は黒いズボンスタイル。
靴は脛まである編み上げのブーツでした。
ズボンはドレスと違って、お尻の形が強調されるので、少し恥ずかしいですが、上着が少し長めなのが救いです。
黒いベルトにはポーチが着けられる仕様になっていますが、ポーチの中には何も入っていません。
「あと、こちらの腕輪も左手に装着してください。私達はこれが何かは教わっておりませんので、直接殿下に聞いて下さいませ。」
レミに言われるがまま、渡された腕輪を左手首に通して、ピッタリと合うように調節しました。
腕輪には、赤、黒、青、白、緑の丸いボタンが付いています。
ボタンには、何かのマークが描かれています。
一体何でしょう。
「今日はポニーテールにしましょう。赤いリボンをつければ、きっとお似合いですよ。」
レミに髪を整えて貰って、姿見で確認しました。
王国騎士団の騎士服は白のみだと思っていましたが、黒もあったのですね。
白も素敵ですが、黒の騎士服も格好良いではないですか。
大変気に入りました。
ちょっと強くなった気がしてしまいます。
騎士服に着替えて大部屋へ戻ると、既に騎士服に着替えた殿下が待っていました。
白でも黒でもない、ボルドー色の騎士服です。
服のデザインは同じなのに、これはこれでとても素敵です。
見目麗しく、スタイルの良い殿下が着こなすから、更に素敵さが強調されている気がします。
令嬢が歓喜して悶え叫ぶのも納得です。
勿論、私も殿下の素敵さに目を奪われはしましたが、任務の事を考えると緊張で、それどころではありません。
「随分とまた、印象が変わったな。これはどうしたものか。」
殿下が顎に片手を当てて、顔をしかめています。
「どこかおかしな所がありますか?」
侍女のレミにも見て貰いましたし、私は大変気に入ったのですが、何か間違えたのでしょうか?
首を傾げて殿下を見上げると、一瞬、目を見開かれて動きが止まった気がしました。
でも、感情は読み取れません。
「セシル、その、あまり、じっと顔を見るものではない。」
ハッとしました。
殿下が気さくに振る舞って下さるので、つい、気が抜けていました。
「申し訳ございません、不敬でした。」
サッと距離を取ってお辞儀をしようとして、ドレスではないと気がつきました。
「あの、殿下。この格好では、どうすれば宜しいでしょうか?」
ズボンの両布を摘まんだまま殿下を見上げると、ハタと目が合いました。
いけません。
サッと視線を反らします。
「誤解を与えたようで済まない。セシルは私の婚約者だ。目を反らしたり、不敬だと気にしなくても良い。」
肩に手をポンと置かれました。
殿下が手を置くのに、私の肩は丁度良い高さなのかもしれません。
「ですが、殿下は不快だったのではないですか?」
チラリと顔を窺うと、ゆっくり首を横に振られました。
「いや、それは無い。それだけは言える。で、お辞儀だったな。ただ、手を体に沿わせて、腰を軽く折るだけで良い。」
何だか有耶無耶にされてしまいましたが、不快ではないようで、安堵致しました。
「では行こうか。先ずは私の部屋へ。」
言われるがまま、殿下の個室に入室すると、正面奥に執務机があって、執務机の左側の壁際には本棚があります。
本棚よりずっと手前に、部屋の中央を向くように三人掛けのソファーと、ローテーブルが設置されていました。
殿下は本棚まで行くと、その前にしゃがんで、本棚の下にある隙間に手を入れました。
何をしているのでしょう。
落とし物を探しているようでもありません。
カチッと音がして、殿下は立ち上がると、本棚の左にある突起を持って手前に引きました。
すると、本棚は右を支点に弧を描くように動いて、本棚が接していた壁に扉が現れました。
隠し扉です。
「ここから騎士棟へ向かう。」
壁の扉を開けると踊場があって、下へと続く階段が見えます。
部屋から踊場へ歩を進めると、殿下は本棚の後ろにある取っ手を引っ張って本棚を元の位置に戻してから、扉を閉めました。
等間隔にランプがあるので、暗くはありませんでした。
階段を下まで降りると、地下道が続きます。
地下道は所々で分岐していますが、今のところ、常に道なりに進んでいますので、これなら一人でも迷いません。
もう暫く歩くようなので、気になった事を質問してみましょう。
「殿下、騎士服は白だけではないのですか?」
「ああ、王国騎士団は白、黒、赤、青の四つの騎士団に別れている。任務では各々の騎士服で活動するが、任務でも、王宮内や公式の場で着る騎士服は白と決まっているし、特に黒は存在自体隠しているから、白以外の騎士服を目にする機会はほぼ無いだろう。」
「そんなルールがあったのですね。てっきり王国騎士団は全員白服だと思っていました。では皆さん、どうやって部署を見分けるのですか?」
「襟に付けている紋章バッジの背景色が部署毎に違う。」
「そんな違いがあったなんて……。」
隠されているので、知らなくて当然ですね。
「よく見る白騎士団は、王宮や王族、要人の護衛、警護を担当している。私の所属は赤騎士団だ。主に戦闘に特化している。青騎士団は魔道具を作ったり運用している。黒騎士団は隠密部隊で情報収集に特化している。」
どうやら騎士服の色は、そのまま騎士団の部署名に直結しているようです。
殿下はボルドーだから赤騎士団、私の騎士服は黒です。
何となく予想がついてしまいました。
「セシルは黒騎士団に所属して貰う。」
やっぱりです。
極秘任務に関わるとは言われましたが、隠密部隊に所属とは思いませんでした。
私はどこまで王国の秘密を知る羽目になるのでしょうか。
任務が終わった後、婚約破棄されて、暗殺されないか心配です。
「クローゼットに騎士服が入っているから、先ずはそれに着替えて、この大部屋に戻って来てくれ。レミ、頼む。」
「畏まりました。ではセシル様、お着替え致しましょう。」
大部屋の入口から見て、左手の扉は、私専用の部屋になっています。
因みに殿下の部屋は右手の扉です。
部屋に入ると私専用のクローゼットがあるので、侍女のレミが騎士服を出してくれました。
騎士服は上下黒色で、上は黒い上着、下は黒いズボンスタイル。
靴は脛まである編み上げのブーツでした。
ズボンはドレスと違って、お尻の形が強調されるので、少し恥ずかしいですが、上着が少し長めなのが救いです。
黒いベルトにはポーチが着けられる仕様になっていますが、ポーチの中には何も入っていません。
「あと、こちらの腕輪も左手に装着してください。私達はこれが何かは教わっておりませんので、直接殿下に聞いて下さいませ。」
レミに言われるがまま、渡された腕輪を左手首に通して、ピッタリと合うように調節しました。
腕輪には、赤、黒、青、白、緑の丸いボタンが付いています。
ボタンには、何かのマークが描かれています。
一体何でしょう。
「今日はポニーテールにしましょう。赤いリボンをつければ、きっとお似合いですよ。」
レミに髪を整えて貰って、姿見で確認しました。
王国騎士団の騎士服は白のみだと思っていましたが、黒もあったのですね。
白も素敵ですが、黒の騎士服も格好良いではないですか。
大変気に入りました。
ちょっと強くなった気がしてしまいます。
騎士服に着替えて大部屋へ戻ると、既に騎士服に着替えた殿下が待っていました。
白でも黒でもない、ボルドー色の騎士服です。
服のデザインは同じなのに、これはこれでとても素敵です。
見目麗しく、スタイルの良い殿下が着こなすから、更に素敵さが強調されている気がします。
令嬢が歓喜して悶え叫ぶのも納得です。
勿論、私も殿下の素敵さに目を奪われはしましたが、任務の事を考えると緊張で、それどころではありません。
「随分とまた、印象が変わったな。これはどうしたものか。」
殿下が顎に片手を当てて、顔をしかめています。
「どこかおかしな所がありますか?」
侍女のレミにも見て貰いましたし、私は大変気に入ったのですが、何か間違えたのでしょうか?
首を傾げて殿下を見上げると、一瞬、目を見開かれて動きが止まった気がしました。
でも、感情は読み取れません。
「セシル、その、あまり、じっと顔を見るものではない。」
ハッとしました。
殿下が気さくに振る舞って下さるので、つい、気が抜けていました。
「申し訳ございません、不敬でした。」
サッと距離を取ってお辞儀をしようとして、ドレスではないと気がつきました。
「あの、殿下。この格好では、どうすれば宜しいでしょうか?」
ズボンの両布を摘まんだまま殿下を見上げると、ハタと目が合いました。
いけません。
サッと視線を反らします。
「誤解を与えたようで済まない。セシルは私の婚約者だ。目を反らしたり、不敬だと気にしなくても良い。」
肩に手をポンと置かれました。
殿下が手を置くのに、私の肩は丁度良い高さなのかもしれません。
「ですが、殿下は不快だったのではないですか?」
チラリと顔を窺うと、ゆっくり首を横に振られました。
「いや、それは無い。それだけは言える。で、お辞儀だったな。ただ、手を体に沿わせて、腰を軽く折るだけで良い。」
何だか有耶無耶にされてしまいましたが、不快ではないようで、安堵致しました。
「では行こうか。先ずは私の部屋へ。」
言われるがまま、殿下の個室に入室すると、正面奥に執務机があって、執務机の左側の壁際には本棚があります。
本棚よりずっと手前に、部屋の中央を向くように三人掛けのソファーと、ローテーブルが設置されていました。
殿下は本棚まで行くと、その前にしゃがんで、本棚の下にある隙間に手を入れました。
何をしているのでしょう。
落とし物を探しているようでもありません。
カチッと音がして、殿下は立ち上がると、本棚の左にある突起を持って手前に引きました。
すると、本棚は右を支点に弧を描くように動いて、本棚が接していた壁に扉が現れました。
隠し扉です。
「ここから騎士棟へ向かう。」
壁の扉を開けると踊場があって、下へと続く階段が見えます。
部屋から踊場へ歩を進めると、殿下は本棚の後ろにある取っ手を引っ張って本棚を元の位置に戻してから、扉を閉めました。
等間隔にランプがあるので、暗くはありませんでした。
階段を下まで降りると、地下道が続きます。
地下道は所々で分岐していますが、今のところ、常に道なりに進んでいますので、これなら一人でも迷いません。
もう暫く歩くようなので、気になった事を質問してみましょう。
「殿下、騎士服は白だけではないのですか?」
「ああ、王国騎士団は白、黒、赤、青の四つの騎士団に別れている。任務では各々の騎士服で活動するが、任務でも、王宮内や公式の場で着る騎士服は白と決まっているし、特に黒は存在自体隠しているから、白以外の騎士服を目にする機会はほぼ無いだろう。」
「そんなルールがあったのですね。てっきり王国騎士団は全員白服だと思っていました。では皆さん、どうやって部署を見分けるのですか?」
「襟に付けている紋章バッジの背景色が部署毎に違う。」
「そんな違いがあったなんて……。」
隠されているので、知らなくて当然ですね。
「よく見る白騎士団は、王宮や王族、要人の護衛、警護を担当している。私の所属は赤騎士団だ。主に戦闘に特化している。青騎士団は魔道具を作ったり運用している。黒騎士団は隠密部隊で情報収集に特化している。」
どうやら騎士服の色は、そのまま騎士団の部署名に直結しているようです。
殿下はボルドーだから赤騎士団、私の騎士服は黒です。
何となく予想がついてしまいました。
「セシルは黒騎士団に所属して貰う。」
やっぱりです。
極秘任務に関わるとは言われましたが、隠密部隊に所属とは思いませんでした。
私はどこまで王国の秘密を知る羽目になるのでしょうか。
任務が終わった後、婚約破棄されて、暗殺されないか心配です。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
なんでそんなに婚約者が嫌いなのかと問われた殿下が、婚約者である私にわざわざ理由を聞きに来たんですけど。
下菊みこと
恋愛
侍従くんの一言でさくっと全部解決に向かうお話。
ご都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる