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12.騎士棟へ

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 午後からは騎士棟へ行く予定になっています。

「クローゼットに騎士服が入っているから、先ずはそれに着替えて、この大部屋に戻って来てくれ。レミ、頼む。」
「畏まりました。ではセシル様、お着替え致しましょう。」

 大部屋の入口から見て、左手の扉は、私専用の部屋になっています。
 因みに殿下の部屋は右手の扉です。

 部屋に入ると私専用のクローゼットがあるので、侍女のレミが騎士服を出してくれました。
 騎士服は上下黒色で、上は黒い上着、下は黒いズボンスタイル。
 靴は脛まである編み上げのブーツでした。

 ズボンはドレスと違って、お尻の形が強調されるので、少し恥ずかしいですが、上着が少し長めなのが救いです。

 黒いベルトにはポーチが着けられる仕様になっていますが、ポーチの中には何も入っていません。

「あと、こちらの腕輪も左手に装着してください。私達はこれが何かは教わっておりませんので、直接殿下に聞いて下さいませ。」

 レミに言われるがまま、渡された腕輪を左手首に通して、ピッタリと合うように調節しました。
 腕輪には、赤、黒、青、白、緑の丸いボタンが付いています。
 ボタンには、何かのマークが描かれています。

 一体何でしょう。

「今日はポニーテールにしましょう。赤いリボンをつければ、きっとお似合いですよ。」

 レミに髪を整えて貰って、姿見で確認しました。
 王国騎士団の騎士服は白のみだと思っていましたが、黒もあったのですね。

 白も素敵ですが、黒の騎士服も格好良いではないですか。
 大変気に入りました。
 ちょっと強くなった気がしてしまいます。

 騎士服に着替えて大部屋へ戻ると、既に騎士服に着替えた殿下が待っていました。
 白でも黒でもない、ボルドー色の騎士服です。
 服のデザインは同じなのに、これはこれでとても素敵です。

 見目麗しく、スタイルの良い殿下が着こなすから、更に素敵さが強調されている気がします。
 令嬢が歓喜して悶え叫ぶのも納得です。

 勿論、私も殿下の素敵さに目を奪われはしましたが、任務の事を考えると緊張で、それどころではありません。

「随分とまた、印象が変わったな。これはどうしたものか。」

 殿下が顎に片手を当てて、顔をしかめています。

「どこかおかしな所がありますか?」

 侍女のレミにも見て貰いましたし、私は大変気に入ったのですが、何か間違えたのでしょうか?

 首を傾げて殿下を見上げると、一瞬、目を見開かれて動きが止まった気がしました。
 でも、感情は読み取れません。

「セシル、その、あまり、じっと顔を見るものではない。」

 ハッとしました。
 殿下が気さくに振る舞って下さるので、つい、気が抜けていました。

「申し訳ございません、不敬でした。」

 サッと距離を取ってお辞儀をしようとして、ドレスではないと気がつきました。

「あの、殿下。この格好では、どうすれば宜しいでしょうか?」

 ズボンの両布を摘まんだまま殿下を見上げると、ハタと目が合いました。
 いけません。
 サッと視線を反らします。

「誤解を与えたようで済まない。セシルは私の婚約者だ。目を反らしたり、不敬だと気にしなくても良い。」

 肩に手をポンと置かれました。
 殿下が手を置くのに、私の肩は丁度良い高さなのかもしれません。

「ですが、殿下は不快だったのではないですか?」

 チラリと顔を窺うと、ゆっくり首を横に振られました。

「いや、それは無い。それだけは言える。で、お辞儀だったな。ただ、手を体に沿わせて、腰を軽く折るだけで良い。」

 何だか有耶無耶にされてしまいましたが、不快ではないようで、安堵致しました。

「では行こうか。先ずは私の部屋へ。」

 言われるがまま、殿下の個室に入室すると、正面奥に執務机があって、執務机の左側の壁際には本棚があります。
 本棚よりずっと手前に、部屋の中央を向くように三人掛けのソファーと、ローテーブルが設置されていました。

 殿下は本棚まで行くと、その前にしゃがんで、本棚の下にある隙間に手を入れました。

 何をしているのでしょう。
 落とし物を探しているようでもありません。

 カチッと音がして、殿下は立ち上がると、本棚の左にある突起を持って手前に引きました。
 すると、本棚は右を支点に弧を描くように動いて、本棚が接していた壁に扉が現れました。

 隠し扉です。

「ここから騎士棟へ向かう。」

 壁の扉を開けると踊場があって、下へと続く階段が見えます。
 部屋から踊場へ歩を進めると、殿下は本棚の後ろにある取っ手を引っ張って本棚を元の位置に戻してから、扉を閉めました。

 等間隔にランプがあるので、暗くはありませんでした。
 階段を下まで降りると、地下道が続きます。
 地下道は所々で分岐していますが、今のところ、常に道なりに進んでいますので、これなら一人でも迷いません。

 もう暫く歩くようなので、気になった事を質問してみましょう。

「殿下、騎士服は白だけではないのですか?」

「ああ、王国騎士団は白、黒、赤、青の四つの騎士団に別れている。任務では各々の騎士服で活動するが、任務でも、王宮内や公式の場で着る騎士服は白と決まっているし、特に黒は存在自体隠しているから、白以外の騎士服を目にする機会はほぼ無いだろう。」

「そんなルールがあったのですね。てっきり王国騎士団は全員白服だと思っていました。では皆さん、どうやって部署を見分けるのですか?」

「襟に付けている紋章バッジの背景色が部署毎に違う。」
「そんな違いがあったなんて……。」

 隠されているので、知らなくて当然ですね。

「よく見る白騎士団は、王宮や王族、要人の護衛、警護を担当している。私の所属は赤騎士団だ。主に戦闘に特化している。青騎士団は魔道具を作ったり運用している。黒騎士団は隠密部隊で情報収集に特化している。」

 どうやら騎士服の色は、そのまま騎士団の部署名に直結しているようです。
 殿下はボルドーだから赤騎士団、私の騎士服は黒です。
 何となく予想がついてしまいました。

「セシルは黒騎士団に所属して貰う。」

 やっぱりです。
 極秘任務に関わるとは言われましたが、隠密部隊に所属とは思いませんでした。

 私はどこまで王国の秘密を知る羽目になるのでしょうか。
 任務が終わった後、婚約破棄されて、暗殺されないか心配です。
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