女騎士の受難?

櫻霞 燐紅

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「・・・それで、どうなりましたの?」
 屋敷の応接間、今日の訓練場での話を聞いていた令嬢は、その場にいて3人に忠告したけれど聞き入れられなかったどころか、巻き込まれ事故に合いそうになった兄に続きを促した。
 兄としては、公爵であるクラウスに妹を売り込もう思っていたようだが、フォルティナの件が気になって様子を見に行っていたらしい。
 だが、令嬢からしたら、クラウスに興味はない。なのに、兄だけでなく父までどうにかして自分を彼に売り込もうとしていたらしいと知って、それをどうやって回避するか頭を悩ませていたのだ。
 その為、クラウスがフォルティナに熱を上げているらしい、と言う噂はまさに渡りに船、フォルティナ様々だった。
 お話を聞いているとリモニウム令嬢ってなんだか面白そうな方な気がするわ。お友達になったり出来ないかしら?
 兄の話に耳を傾けつつ、手慰みに編んでいたレースを何とは無しに眺めながら令嬢は話の主役であるフォルティナに思考を飛ばす。
「結局、空気も読めずに嬉々として名乗った彼らは新人の見習いであるにも関わらず、騎士団を除名。家と本人たちには厳重注意、で終わったそうだよ。むしろ、あの場で殴られたりしなかったことが不思議なくらいだけどね」
 兄はその時のクラウスの様子を思い出したのか、ぶるりと身体を震わせた。
「まぁ、この件で、当分リモニウム令嬢に突っかかっていく馬鹿な奴らは減るんじゃないかな?夜会の時はまたどうなってるか分からないけどね」
 兄の言葉に令嬢はとりあえず頷く。殿方はそうかもしれないけれど、他のご令嬢方はどうなのかしら?と内心首を傾げはしたけれど。
 彼女たちも馬鹿ではないだろうからきっと人目につくようなところで行動を起こすことはないだろう。
 しかし、騎士団に所属している女性に普通の令嬢が勝てることなど、何もないのでは?と、言うのが令嬢の思いではあったが。
「そうそう、それと、お前をデルフィニウス公爵に、というのもできなくなった。すまないな」
「別に構いませんわ。私は最初から公爵様に興味はございません、と申し上げていたではありませんか」
 謝ってきた兄に令嬢は肩の荷が下りたと言わんばかりに晴れやかに返した。
「本当に興味なかったのか?」
 令嬢のその表情に兄は驚いたように聞いた。イヤよ、イヤよ、も・・・ではないが、近衛騎士団のハロルドと並び結婚適齢期の令嬢だけでなく、幅広い年齢の女性から秋波を送られるクラウスに対してここまではっきりと興味がないと言い切る妹に逆に一抹の不安を覚えなくもない。
「ありませんわ。別に好いている方がいるわけではありませんけれど・・・。政略的に婚姻を結んでまで繋がりを作る必要はないとお父様は言っておりましたし、お母様も好きになった方と添い遂げるのが一番だと・・・。ですから、私は出来るなら自分が好ましいと思える方と一緒になりたいのです」
 だから、結婚したくないわけではないのだと、心配そうに自分を見てきた兄を安心させるように令嬢はそう伝えた。
「ですから、もっと出会いがあればとは思いますけれど、心に決めた方が居られる方に言い寄りたいとは思いませんの。それよりも、リモニウム令嬢とお友達になりたいですわ」
 クラウスのことよりもフォルティナの名を出したときの方が瞳を輝かせて言う妹に兄は少々引いているようだった。
「お兄様はリモニウム令嬢とお話なさいましたの?出来たら、私を彼女に紹介して欲しいのですけれど・・・」
 興奮しているのか少し頬を上気させて言う妹に、兄は申し訳なさそうに眉を下げた。
「い、いや。期待を裏切るようで悪いんだが、俺は彼女と話してはいないんだよ。あのあと、デルフィニウス公爵が戻ってきたリモニウム令嬢をすぐに連れて行ってしまったからね」
 その答えに令嬢はあからさまに落胆してみせた。
「だ、だが、王宮に行けば会えるんじゃないのか?彼女は近衛としてアナシタシア姫の側についていることが多いとはいえ、四六時中一緒にいるわけでもないし。訓練場に行けば会えるかもしれないぞ」
 兄のその言葉に令嬢は顔を上げる。
「そうだわ!でしたらいっそ私を王宮に侍女か女官として仕出させてくださいませ!」
 名案だとばかりに顔を輝かせて言ってくる妹に兄は顔を引き攣らせる。普通、行儀見習いとして貴族令嬢を王宮に上げることは珍しいことではない。だか、彼女の兄は妹をあまり王宮には上げたくないようだった。
 兄の表情に令嬢は気を落としたように、溜息を吐いた。
「・・・仕出は諦めますわ。その代わり訓練場に行くのはよろしいんですわよね?」
 令嬢の確認するような言葉に兄は頷いた。この時、彼はきちんと条件をつけなかったことを後々後悔することになる。

『行くのは構わないが、日参はしないように』と。
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