12 / 23
12
しおりを挟む
「・・・それで、どうなりましたの?」
屋敷の応接間、今日の訓練場での話を聞いていた令嬢は、その場にいて3人に忠告したけれど聞き入れられなかったどころか、巻き込まれ事故に合いそうになった兄に続きを促した。
兄としては、公爵であるクラウスに妹を売り込もう思っていたようだが、フォルティナの件が気になって様子を見に行っていたらしい。
だが、令嬢からしたら、クラウスに興味はない。なのに、兄だけでなく父までどうにかして自分を彼に売り込もうとしていたらしいと知って、それをどうやって回避するか頭を悩ませていたのだ。
その為、クラウスがフォルティナに熱を上げているらしい、と言う噂はまさに渡りに船、フォルティナ様々だった。
お話を聞いているとリモニウム令嬢ってなんだか面白そうな方な気がするわ。お友達になったり出来ないかしら?
兄の話に耳を傾けつつ、手慰みに編んでいたレースを何とは無しに眺めながら令嬢は話の主役であるフォルティナに思考を飛ばす。
「結局、空気も読めずに嬉々として名乗った彼らは新人の見習いであるにも関わらず、騎士団を除名。家と本人たちには厳重注意、で終わったそうだよ。むしろ、あの場で殴られたりしなかったことが不思議なくらいだけどね」
兄はその時のクラウスの様子を思い出したのか、ぶるりと身体を震わせた。
「まぁ、この件で、当分リモニウム令嬢に突っかかっていく馬鹿な奴らは減るんじゃないかな?夜会の時はまたどうなってるか分からないけどね」
兄の言葉に令嬢はとりあえず頷く。殿方はそうかもしれないけれど、他のご令嬢方はどうなのかしら?と内心首を傾げはしたけれど。
彼女たちも馬鹿ではないだろうからきっと人目につくようなところで行動を起こすことはないだろう。
しかし、騎士団に所属している女性に普通の令嬢が勝てることなど、何もないのでは?と、言うのが令嬢の思いではあったが。
「そうそう、それと、お前をデルフィニウス公爵に、というのもできなくなった。すまないな」
「別に構いませんわ。私は最初から公爵様に興味はございません、と申し上げていたではありませんか」
謝ってきた兄に令嬢は肩の荷が下りたと言わんばかりに晴れやかに返した。
「本当に興味なかったのか?」
令嬢のその表情に兄は驚いたように聞いた。イヤよ、イヤよ、も・・・ではないが、近衛騎士団のハロルドと並び結婚適齢期の令嬢だけでなく、幅広い年齢の女性から秋波を送られるクラウスに対してここまではっきりと興味がないと言い切る妹に逆に一抹の不安を覚えなくもない。
「ありませんわ。別に好いている方がいるわけではありませんけれど・・・。政略的に婚姻を結んでまで繋がりを作る必要はないとお父様は言っておりましたし、お母様も好きになった方と添い遂げるのが一番だと・・・。ですから、私は出来るなら自分が好ましいと思える方と一緒になりたいのです」
だから、結婚したくないわけではないのだと、心配そうに自分を見てきた兄を安心させるように令嬢はそう伝えた。
「ですから、もっと出会いがあればとは思いますけれど、心に決めた方が居られる方に言い寄りたいとは思いませんの。それよりも、リモニウム令嬢とお友達になりたいですわ」
クラウスのことよりもフォルティナの名を出したときの方が瞳を輝かせて言う妹に兄は少々引いているようだった。
「お兄様はリモニウム令嬢とお話なさいましたの?出来たら、私を彼女に紹介して欲しいのですけれど・・・」
興奮しているのか少し頬を上気させて言う妹に、兄は申し訳なさそうに眉を下げた。
「い、いや。期待を裏切るようで悪いんだが、俺は彼女と話してはいないんだよ。あのあと、デルフィニウス公爵が戻ってきたリモニウム令嬢をすぐに連れて行ってしまったからね」
その答えに令嬢はあからさまに落胆してみせた。
「だ、だが、王宮に行けば会えるんじゃないのか?彼女は近衛としてアナシタシア姫の側についていることが多いとはいえ、四六時中一緒にいるわけでもないし。訓練場に行けば会えるかもしれないぞ」
兄のその言葉に令嬢は顔を上げる。
「そうだわ!でしたらいっそ私を王宮に侍女か女官として仕出させてくださいませ!」
名案だとばかりに顔を輝かせて言ってくる妹に兄は顔を引き攣らせる。普通、行儀見習いとして貴族令嬢を王宮に上げることは珍しいことではない。だか、彼女の兄は妹をあまり王宮には上げたくないようだった。
兄の表情に令嬢は気を落としたように、溜息を吐いた。
「・・・仕出は諦めますわ。その代わり訓練場に行くのはよろしいんですわよね?」
令嬢の確認するような言葉に兄は頷いた。この時、彼はきちんと条件をつけなかったことを後々後悔することになる。
『行くのは構わないが、日参はしないように』と。
屋敷の応接間、今日の訓練場での話を聞いていた令嬢は、その場にいて3人に忠告したけれど聞き入れられなかったどころか、巻き込まれ事故に合いそうになった兄に続きを促した。
兄としては、公爵であるクラウスに妹を売り込もう思っていたようだが、フォルティナの件が気になって様子を見に行っていたらしい。
だが、令嬢からしたら、クラウスに興味はない。なのに、兄だけでなく父までどうにかして自分を彼に売り込もうとしていたらしいと知って、それをどうやって回避するか頭を悩ませていたのだ。
その為、クラウスがフォルティナに熱を上げているらしい、と言う噂はまさに渡りに船、フォルティナ様々だった。
お話を聞いているとリモニウム令嬢ってなんだか面白そうな方な気がするわ。お友達になったり出来ないかしら?
兄の話に耳を傾けつつ、手慰みに編んでいたレースを何とは無しに眺めながら令嬢は話の主役であるフォルティナに思考を飛ばす。
「結局、空気も読めずに嬉々として名乗った彼らは新人の見習いであるにも関わらず、騎士団を除名。家と本人たちには厳重注意、で終わったそうだよ。むしろ、あの場で殴られたりしなかったことが不思議なくらいだけどね」
兄はその時のクラウスの様子を思い出したのか、ぶるりと身体を震わせた。
「まぁ、この件で、当分リモニウム令嬢に突っかかっていく馬鹿な奴らは減るんじゃないかな?夜会の時はまたどうなってるか分からないけどね」
兄の言葉に令嬢はとりあえず頷く。殿方はそうかもしれないけれど、他のご令嬢方はどうなのかしら?と内心首を傾げはしたけれど。
彼女たちも馬鹿ではないだろうからきっと人目につくようなところで行動を起こすことはないだろう。
しかし、騎士団に所属している女性に普通の令嬢が勝てることなど、何もないのでは?と、言うのが令嬢の思いではあったが。
「そうそう、それと、お前をデルフィニウス公爵に、というのもできなくなった。すまないな」
「別に構いませんわ。私は最初から公爵様に興味はございません、と申し上げていたではありませんか」
謝ってきた兄に令嬢は肩の荷が下りたと言わんばかりに晴れやかに返した。
「本当に興味なかったのか?」
令嬢のその表情に兄は驚いたように聞いた。イヤよ、イヤよ、も・・・ではないが、近衛騎士団のハロルドと並び結婚適齢期の令嬢だけでなく、幅広い年齢の女性から秋波を送られるクラウスに対してここまではっきりと興味がないと言い切る妹に逆に一抹の不安を覚えなくもない。
「ありませんわ。別に好いている方がいるわけではありませんけれど・・・。政略的に婚姻を結んでまで繋がりを作る必要はないとお父様は言っておりましたし、お母様も好きになった方と添い遂げるのが一番だと・・・。ですから、私は出来るなら自分が好ましいと思える方と一緒になりたいのです」
だから、結婚したくないわけではないのだと、心配そうに自分を見てきた兄を安心させるように令嬢はそう伝えた。
「ですから、もっと出会いがあればとは思いますけれど、心に決めた方が居られる方に言い寄りたいとは思いませんの。それよりも、リモニウム令嬢とお友達になりたいですわ」
クラウスのことよりもフォルティナの名を出したときの方が瞳を輝かせて言う妹に兄は少々引いているようだった。
「お兄様はリモニウム令嬢とお話なさいましたの?出来たら、私を彼女に紹介して欲しいのですけれど・・・」
興奮しているのか少し頬を上気させて言う妹に、兄は申し訳なさそうに眉を下げた。
「い、いや。期待を裏切るようで悪いんだが、俺は彼女と話してはいないんだよ。あのあと、デルフィニウス公爵が戻ってきたリモニウム令嬢をすぐに連れて行ってしまったからね」
その答えに令嬢はあからさまに落胆してみせた。
「だ、だが、王宮に行けば会えるんじゃないのか?彼女は近衛としてアナシタシア姫の側についていることが多いとはいえ、四六時中一緒にいるわけでもないし。訓練場に行けば会えるかもしれないぞ」
兄のその言葉に令嬢は顔を上げる。
「そうだわ!でしたらいっそ私を王宮に侍女か女官として仕出させてくださいませ!」
名案だとばかりに顔を輝かせて言ってくる妹に兄は顔を引き攣らせる。普通、行儀見習いとして貴族令嬢を王宮に上げることは珍しいことではない。だか、彼女の兄は妹をあまり王宮には上げたくないようだった。
兄の表情に令嬢は気を落としたように、溜息を吐いた。
「・・・仕出は諦めますわ。その代わり訓練場に行くのはよろしいんですわよね?」
令嬢の確認するような言葉に兄は頷いた。この時、彼はきちんと条件をつけなかったことを後々後悔することになる。
『行くのは構わないが、日参はしないように』と。
0
お気に入りに追加
194
あなたにおすすめの小説
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?
水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。
学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。
「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」
「え……?」
いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。
「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」
尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。
「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」
デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。
「虐め……!? 私はそんなことしていません!」
「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」
おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。
イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。
誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。
イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。
「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」
冤罪だった。
しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。
シエスタは理解した。
イザベルに冤罪を着せられたのだと……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる