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「クリス兄様は、どの色がフォルに似合うと思います!?」
アナスタシアや侍女たちが仕立て屋と共にどの色がいいとかどんなデザインがいいなどのやり取りを他人事のように穏やかに見つめていたら、同じように彼女たちのやり取りを見ていたクラウスの手を引き広げられた布を示しながらアナスタシアは興奮気味に問いかけた。
その言葉にフォルティナは驚きに表情を固める。
「ひ、姫?私は舞踏会には参加しませんよ?」
クラウスにフォルティナのドレスの色を問うアナスタシアにそう伝えれば彼女はきょとんとしてフォルティナ見上げる。
「?フォルも私と一緒に夜会に出るのよね?」
「はい。ですがそれは護衛としてですので。当日は近衛騎士の正装でお側に控える予定です」
会場に行きはするがそれはあくまでも護衛としてだと伝えれば、アナスタシアは首をかしげる。
「だったらドレスでもいいと思わない?私、フォルのドレス姿が見たくて昨夜お父様とお兄様にお願いしたのよ」
褒めて、と言わんばかりににっこりとアナスタシアはそう言った。その言葉にフォルティナの方は嫌な予感を覚える。
「お二人にフォルのドレス姿が見たいってお願いしたら、私のドレスを作るときにフォルのドレスも作って良いっておっしゃったの!だから、今日は私とフォルの衣装の打ち合わせなのよ」
「で、ですが、私にはエスコートしてくれる方がおりませんから。父は母と出席しますし、兄も先日やっと婚約が決まりましたら頼むわけにもまいりませんし・・・」
遠回しに暗に出たくないと伝えたつもりだったが、アナスタシアはそんなこと、と笑った。
「大丈夫よ。フォルはクリス兄様にエスコートしていただけばいいわ。私はお兄様にエスコートしていただけることになったから」
それともやっぱり迷惑だったかしら?と、しゅんとなって言われてしまってはフォルティナとしてはそれ以上断ることが出来ない、と渋々頷く他無かった。
そんな主従のやり取りを見ながらクラウスは小さく声を漏らして笑った。
「可愛いお姫様には誰も勝てないみたいだね」
「はぁ、そのようですね」
クラウスの言葉にフォルティナは諦めたように同意した。
「それで、小さなお嬢さん当初予定では君のエスコートは、私だったはずだけど、舞踏会では私と踊ってくれないのかな?」
「そんなことないわ!私もダンスに誘ってくださいね?」
クラウスのからかうような言葉にアナスタシアは慌てて言い募り、小首を傾げておねだりをしていた。
「フォルも私と踊ってね?私、今度の舞踏会の為に頑張って練習したんだから!」
「アナスタシア様、その日私はドレスを着るんですよね?」
「そうよ!でも、良いじゃない!フォルは男性パートも踊れるんでしょう?もうデビューを済ませているお友達が言っていたわ。フォルと踊るのはとても楽しいって!私、皆さまが羨ましくって仕方なかったの!」
「それでしたら、私は騎士服の方がよろしいのでは?」
「嫌よ!フォルが強いだけじゃなくて美人なんだってことも皆に自慢したいんだもの!皆、フォルのこと男装の麗人なんて言ってるけど、フォルは男装してなくたって綺麗だし、普段の恰好じゃわからないけど、スタイルだっ・・・」
「姫様!それよりもフォル様のドレスの色を選びましょう!」
フォルティナの体型にまで言及しようとしたアナスタシアの言葉を彼女の侍女が慌てて遮る。フォルティナとしても仕立て屋はともかく、男性であるクラウスの前でそのような話はされたくなかったので、侍女の言葉に乗ることにした。
クラウスはそんなやり取りにまた笑いを堪えているのだろう。その肩が小刻みに動いていることをフォルティナは見逃さなかった。
その後、アナスタシアのドレスの色はデビュタントに相応しいようにと光の加減で淡い薄紅に見える白に。フォルティナの方は彼女の瞳に合わせて紫がかった青に決まった。その他にもアナスタシアは夜会の前に行われる王妃主催のお茶会用のアフタヌーンドレス用などにも選んでいた。フォルティナの分も作ると言い張るアナスタシアを宥めすかし、なんとか夜会用のドレスだけで落ち着くと、今度はデザインと採寸だとなり、フォルティナをここへ呼びに来たクラウスは早々に部屋から追い出されていった。
「では、フォルティナ、夜会を楽しみにしているよ」
そう言って、夜会では近衛騎士の正装で済むクラウスは部屋を出て行った。
その後、フォルティナは着ていた服を剥かれ、侍女とデザイナーが自分の肌を見て一瞬息を飲むのを見て内心うんざりした。
「ですから、ドレスを着ないのですよ」
周りが何か言う前にフォルティナは気にしていないとばかりに、さらりと言った。
「何をおっしゃいます。これくらいいくらでも隠すことは出来ますよ」
フォルティナの言葉にデザイナーの老婦人は語気を強くして言いきった。どうやら彼女の職人魂に火が付いてしまったようだ。
「それにその傷は先の戦のモノでございましょう?この国を守るために付いたものですもの。誇りこそすれ恥ずべきモノではございませんわ」
「ええ、そうですね。この傷は私の騎士としての誇りです」
老婦人の言葉にフォルティナは誇らしげに返した。
アナスタシアや侍女たちが仕立て屋と共にどの色がいいとかどんなデザインがいいなどのやり取りを他人事のように穏やかに見つめていたら、同じように彼女たちのやり取りを見ていたクラウスの手を引き広げられた布を示しながらアナスタシアは興奮気味に問いかけた。
その言葉にフォルティナは驚きに表情を固める。
「ひ、姫?私は舞踏会には参加しませんよ?」
クラウスにフォルティナのドレスの色を問うアナスタシアにそう伝えれば彼女はきょとんとしてフォルティナ見上げる。
「?フォルも私と一緒に夜会に出るのよね?」
「はい。ですがそれは護衛としてですので。当日は近衛騎士の正装でお側に控える予定です」
会場に行きはするがそれはあくまでも護衛としてだと伝えれば、アナスタシアは首をかしげる。
「だったらドレスでもいいと思わない?私、フォルのドレス姿が見たくて昨夜お父様とお兄様にお願いしたのよ」
褒めて、と言わんばかりににっこりとアナスタシアはそう言った。その言葉にフォルティナの方は嫌な予感を覚える。
「お二人にフォルのドレス姿が見たいってお願いしたら、私のドレスを作るときにフォルのドレスも作って良いっておっしゃったの!だから、今日は私とフォルの衣装の打ち合わせなのよ」
「で、ですが、私にはエスコートしてくれる方がおりませんから。父は母と出席しますし、兄も先日やっと婚約が決まりましたら頼むわけにもまいりませんし・・・」
遠回しに暗に出たくないと伝えたつもりだったが、アナスタシアはそんなこと、と笑った。
「大丈夫よ。フォルはクリス兄様にエスコートしていただけばいいわ。私はお兄様にエスコートしていただけることになったから」
それともやっぱり迷惑だったかしら?と、しゅんとなって言われてしまってはフォルティナとしてはそれ以上断ることが出来ない、と渋々頷く他無かった。
そんな主従のやり取りを見ながらクラウスは小さく声を漏らして笑った。
「可愛いお姫様には誰も勝てないみたいだね」
「はぁ、そのようですね」
クラウスの言葉にフォルティナは諦めたように同意した。
「それで、小さなお嬢さん当初予定では君のエスコートは、私だったはずだけど、舞踏会では私と踊ってくれないのかな?」
「そんなことないわ!私もダンスに誘ってくださいね?」
クラウスのからかうような言葉にアナスタシアは慌てて言い募り、小首を傾げておねだりをしていた。
「フォルも私と踊ってね?私、今度の舞踏会の為に頑張って練習したんだから!」
「アナスタシア様、その日私はドレスを着るんですよね?」
「そうよ!でも、良いじゃない!フォルは男性パートも踊れるんでしょう?もうデビューを済ませているお友達が言っていたわ。フォルと踊るのはとても楽しいって!私、皆さまが羨ましくって仕方なかったの!」
「それでしたら、私は騎士服の方がよろしいのでは?」
「嫌よ!フォルが強いだけじゃなくて美人なんだってことも皆に自慢したいんだもの!皆、フォルのこと男装の麗人なんて言ってるけど、フォルは男装してなくたって綺麗だし、普段の恰好じゃわからないけど、スタイルだっ・・・」
「姫様!それよりもフォル様のドレスの色を選びましょう!」
フォルティナの体型にまで言及しようとしたアナスタシアの言葉を彼女の侍女が慌てて遮る。フォルティナとしても仕立て屋はともかく、男性であるクラウスの前でそのような話はされたくなかったので、侍女の言葉に乗ることにした。
クラウスはそんなやり取りにまた笑いを堪えているのだろう。その肩が小刻みに動いていることをフォルティナは見逃さなかった。
その後、アナスタシアのドレスの色はデビュタントに相応しいようにと光の加減で淡い薄紅に見える白に。フォルティナの方は彼女の瞳に合わせて紫がかった青に決まった。その他にもアナスタシアは夜会の前に行われる王妃主催のお茶会用のアフタヌーンドレス用などにも選んでいた。フォルティナの分も作ると言い張るアナスタシアを宥めすかし、なんとか夜会用のドレスだけで落ち着くと、今度はデザインと採寸だとなり、フォルティナをここへ呼びに来たクラウスは早々に部屋から追い出されていった。
「では、フォルティナ、夜会を楽しみにしているよ」
そう言って、夜会では近衛騎士の正装で済むクラウスは部屋を出て行った。
その後、フォルティナは着ていた服を剥かれ、侍女とデザイナーが自分の肌を見て一瞬息を飲むのを見て内心うんざりした。
「ですから、ドレスを着ないのですよ」
周りが何か言う前にフォルティナは気にしていないとばかりに、さらりと言った。
「何をおっしゃいます。これくらいいくらでも隠すことは出来ますよ」
フォルティナの言葉にデザイナーの老婦人は語気を強くして言いきった。どうやら彼女の職人魂に火が付いてしまったようだ。
「それにその傷は先の戦のモノでございましょう?この国を守るために付いたものですもの。誇りこそすれ恥ずべきモノではございませんわ」
「ええ、そうですね。この傷は私の騎士としての誇りです」
老婦人の言葉にフォルティナは誇らしげに返した。
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