ヒガンバナの箱庭

ツジウチミサト

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 昼のうちに母屋に呼ばれたが、指定されたのは奥座敷に当たる葉月の自室だった。
 揃ってあずさを抱くことの多い兄弟だが、霜月はここ数日、山向こうの集落に出かけていて留守である。

「脱げ」

 濡れ縁でいつものように平伏したあずさに、葉月は簡潔に命じる。はい、と立ち上がって紐帯を解き、衣を足下に落とした。
 一糸纏わぬ白い肌を、葉月は冷たい視線で舐め回す。
 あずさは肌が期待で粟立つのを感じた。性急に求めてくる霜月より、焦らすように無言を挟む葉月の方が残酷だ。まだ触れられてすらいないのに、早くも中心が熱を帯び始めている。

「脚を広げて、私に見せろ」

 強要されたのはあられもない姿だった。しかしあずさは諾々と従い、襁褓を当てられる赤子のような姿勢で、葉月の眼前に自ら秘部を晒す。
 見られている、という恥じらいと、それを上回る淫らな興奮で、尻孔が勝手にヒクヒク蠢いてしまう。
 頬を染めながら思い浮かべるのは、逞しい男根がみっしりと押し入ってくる息苦しさ。無理矢理拡げられる焼けつく痛みに慣れることはないが、肉壁をゴリゴリこすられる猛烈な快感は、最早あずさにとって自ら望むものとなっていた。

(はやく、欲しい……)

 葉月が脚の間に陣取る。供された媚肉の壺を見つめる瞳に、昏い情欲の炎が灯っていく。
 来たるべき圧迫感を予想して、あずさはきゅっと目を閉じた。

「ヒッ……!」

 だが、悲鳴とともにその目はすぐ見開かれる。
 先の夜のように葉月が股間に顔を寄せ、尻孔の縁を舐めたからだ。
 そのまま窄まりを舌先でこじ開けられそうになり、あずさは真剣にうろたえた。

「は、葉月様! おやめください、それは、あっ……!」

 あずさの制止に、葉月があの恐ろしい笑みを浮かべる。
 葉月は強ばった尻肉を強引に左右へ押し開くと、剥き出しになった薄桃色の肉の襞へ、唾液で湿らせた舌をヒタリと押し当てた。

「あぁ、あっ、くぅ……っ!」

 熱い肉の具合を確かめるように、葉月はじっくりと舌を這わせていく。
 敏感なところを生温かいもので探られる恐怖と嫌悪感が背筋を駆け上がってくるのに、脳髄を痺れさせるのは、柔らかな愛撫が呼び起こす快感である。
 葉月の舌で丹念に弄られて、あずさは床から浮くほどに背をしならせる。恥ずかしいのに、耐え難いのに、あまりにも気持ちがいい。

「んんぅ……っ」

 やがて尖らせた先端が襞の中へと潜り込み、じゅるっ、と唾液を注ぎ込む音が聞こえた。
 じゅうっ、じゅちゅっ、と唾液を襞の中へ塗り込まれる甘い責め苦は、焦れったいほど長く続き、腰から下をどろどろに蕩かしてしまう。恥じれば恥じるほど快感が膨れ上がっていくようで、あずさの声は次第に自制を失っていった。

「はっ、あうっ、あっ……あぁーっ!」

 一際高く鳴いた時、あずさの耳が人の話し声を捉えた。
 遠くで誰かが会話している声、そして男が廊下を歩く板の軋む重い音。

「…………っ!」

 あずさは愕然として、慌てて掌で口を覆う。
 そうだ、まだ陽は高くここは母屋だ。使用人達がそこかしこで働いている。自分が兄弟にどう扱われているか周知のこととはいえ、情事の現場を見られるのは耐えられない。

「聞かれたくないのか?」

 声を押し殺したまま、それだけは勘弁してほしいと何度も頷く。


『ならば余計に、他の者にも見せてやらねばな』
『ちょうど今度客が来る。嬉しく思えよ。なあ、あずさ?』

(え……?)

 突然、頭の中に、聞いたことのない声が響いた。
 脳裏に、現実とは異なる光景が幻のように展開する。

 覗き込む逆光の人影、入れ替わり立ち替わり自分を犯す男達。
 よがり狂う自分に注がれる下卑た笑いの輪唱。

 自分を貪る男達の顔は見えない、誰だか解らない。
 なのに彼らを知っていると、直感的に悟った。
 葉月と霜月。そう、あれは自分の主たる兄弟だ。
 
 だが何故だろう。その声は、今目の前にいる「葉月」のものではない。

(これは……何だ……?)


 混乱するあずさの意識を、尻孔への刺激が現実に引き戻した。

「あうっ……!」

 油ほどではないにせよ潤されたそこに、指が数本押し込まれる。
 狭い肉壁の間を拡げる指がイイところを掠めるたび、あずさの腰は堪えようもなくビクビク跳ねた。声を抑える息苦しさとナカを探られる刺激に頬は紅潮し、淫らにのたうつ全身も、扇情的な朱に染まっていく。

 やがて、指を抜き去った葉月が、股間から雄を取り出した。それは既に硬く猛っており、あずさに見せつけるように切っ先を軽く扱く。

「他の者に聞かれたら、おまえは壊れるのか?」

 うん、うん、とあずさは涙混じりに頷いて懇願する。

「……ならば、屋敷中に聞こえるほど大声で喘いで……今一度、壊れてしまえ」

 一瞬、葉月の顔が歪んだ気がした。
 だがそれを確かめる間もなく、尻孔にあてがわれた怒張が、ずぶずぶと襞を分け入った。

「あっ! ……っ! んふっ、うぅ……!」

 あずさは両手で必死に声を抑えようとする。しかしその枷を外そうとするかのように、葉月は激しい抽挿を繰り返した。

 背中が床板にこすれる痛みなど気にならなくなるくらい、葉月の太くて熱い楔を打ち込まれるのが気持ちいい。
 乱暴に腰を振る霜月の強引さとは違い、葉月は冷静にあずさの弱いところを抉ってくるので、余計に翻弄されてしまう。

「ふっ……! うっ……!」

 聞かれたくない、他の誰かに見られたくない。
 ────いつかみたいに、他の男達の見世物にされたくない。

「どかせ。……私に隠すな」
「や……やめて、だめ、いやっ!」

 両手が捕まえられ、顔の横に縫い止められる。
 歯を食いしばって堪えようとしたが、揺さぶられているうちにその戒めはみるみる解けてしまう。

「ああんっ、あうっ、いや、あ、あー……っ!」

 混乱と羞恥で泣き叫ぶあずさの目に、葉月の顔が映った。
 それは初めて見る表情だった。
 自分を蹂躙する酷薄さでも、嘲る恐ろしい笑みとも違う。言葉を喉に押し止めているようなもどかしさと、痛みを堪えるような哀切さの入り混じった顔。

(……なんで、そんな顔を……?)

 一瞬、あずさはその不思議な表情に見惚れた。
 だが、最奥に達した葉月が精をぶちまけると、その衝撃に背を弓なりに大きく反らす。

「ああんっ、あ、はあっ……!」


 同時に達しながら、あずさは誰かの気配を感じた。
 鳥の囀りが聞こえ、風が木々を揺らす音に混じって、嘲笑う声が聞こえてくる。

『おまえの……呼んでおいた。……聞こえていただろうな』
『……を見てみろ。……じゃないか』
『……にも、おまえの……味わわせてやれ』
『これからは……“女”だな、アハハハハ』

 誰かが自分を見ている。知らない声なのに知っている。
 怖い、いやだ、辛い、許して。
 湧き上がる感情は全てどす黒く、あずさの心をかき乱す。
 奈落の底に堕ちていくような絶望が全身を包み、あずさの瞳から光がかき消えた。


「……それだけは、やめてくださいと……言ったのに」

 荒い息を整えていた葉月は、ハッと耳をそばだてた。

「……すまない、こんな兄で……。おまえ達に合わす顔など……私にはもう、ないんだ……」

 呆然と呟くあずさの眦から、一筋涙が頬を滑り落ちる。
 その瞳は焦点を失い、この世の何物も──目の前の葉月さえも映していないようだった。

「……っ!」

 葉月の顔が烈しく歪む。
 自身にしか聞こえない小声で何かを口走ると、むしゃぶりつくようにあずさの唇を求めた。
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