執着の勇者と贖罪の魔王~赤い瞳は愛欲に燃える~

ツジウチミサト

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2「故郷」と「業火」

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「ねえ、僕を捨てたことを、一度でも後悔してくれた?」

 立ち上がったハヴェルは、場違いなほどに美しく微笑んでいた。
 顔は笑っているのに、瞳は何の感情も灯さず凍りついている。

 そんな目をするような人生を歩ませてしまったことを今後悔しているのだと、胸の内では本心を呟けても、唇は固く引き結んで答えない。
 ハヴェルも元より返事など望んでいなかったのだろう、問いかけはすぐに立ち消えた。

「それよりさ、僕、イルフィと遊びたいな」

 自然な手つきで腰を抱き寄せられ、耳にかかった銀髪を唇がかき分ける。
 潜めた低い声が、濃厚な性の香りをまとって囁いた。

「……口で、僕を可愛がってよ」

 ぞくり、と背筋を甘い痺れが駆け抜ける。

 抵抗しないのは罪滅ぼしのため。
 ――それは本当だが、同時に彼というオスから与えられる、メスとしての快楽に膝を屈しているのも否めない。
 激しいものの暴力ではない、過ぎてはいるが愛着表現でもある彼との性行為を、自分の体は確かに悦んでいる。
 それはあまりにも独りよがりな本心だ。だからハヴェルに気取られたくなくて、わざと素っ気ない態度を取っていた。

「口でねだるより、魔力で私を操ってみてはどうだ?」
「まさか。魔力を封じたとはいえ、ただの半魔である僕が『魔王』を操れるわけないでしょ」

 イルフィは内心ホッとした。もしそんなことが出来てしまったら、それこそハヴェルが境界を踏み越えるほどの魔力を得てしまったことを意味する。

「ならばわかるだろう。私はあの時魔物となったのだ。半魔の……人間のままでいるおまえとは決定的に違う。魔物の体に欲情するとは、おまえも大概趣味が悪い」

 心とは裏腹に悪態をつくのは、自分に飽きてくれればいいと思うからだ。今度は彼が自分を捨ててくれればいい。そうして人間の世界に戻って、今度こそ平穏な人生を送ってほしい。

 そう願うこともまた自分の罪悪感を拭い去りたいだけなのだと、イルフィは己の身勝手さを苦々しく噛み締める。

「確かに魔物の中には、人間とは似ても似つかない姿形の奴がたくさんいるけどね。僕もたくさんそいつらを斬ってきたけど。でもイルフィはこんなにきれいじゃない。……ほら、イルフィの裸を見てるだけで、こんなに興奮しちゃうんだから」

 尻肉に股間を押し当てられ、オスの熱がとぐろを巻き始めていることを否応なしに教えられる。

「ぁっ……」

 尻の割れ目に指を這わされると、それだけで孔の奥がキュウッと切なく疼いた。
 オスのもたらす淫猥な熱に煽られたイルフィは、顎を掴んで上向かせてくるハヴェルの手をもう、振り払えない。

「無駄なおしゃべりより、もっと楽しいことしようね?」
 


 再びベンチに腰掛けたハヴェルの脚の間に、イルフィは跪いた。

 寛げられた股間から取り出されたオスの証は、期待のためにか既に持ち上がりつつある。逞しいモノを鼻先に突きつけられ、はしたなくもイルフィはその饐えた匂いにすら胸が高鳴った。

「嬉しい……イルフィが舐めてくれるなんて」

 ぱっくりと開けた唾液まみれの口内に、彼の大きなモノを迎え入れる。
 まずは先端に吸い付いて、鈴口をチロチロと舌先で撫でさする。

 思い出すのは幼いハヴェルの頭を撫でてやったことだ。
 先の太いところを口の中でこすり上げるように舐めながら、泣き虫だったあの子を慰めているつもりでいる。

「イルフィ……いい、いいよ、イルフィ……」

 上目遣いに伺う彼の黒目がちな瞳は、興奮にか薄く涙の膜が張っている。

 辱めのように性戯を強いるオスのくせに、その振る舞いの端々に昔のあどけない彼を感じる。

 長い竿を喉の奥にまで飲み込んで、搾り取るように焦れったく顔を動かす。
 引いて、また戻して、どんどん太く硬くなっていく彼の男根を素直で可愛いとすら思った。

「ああ……イキそうだよ、イルフィ……」

 頬を上気させたハヴェルの手が伸び、顔に垂れかかった長い銀髪を耳の後ろに流さす。

 チラと見上げた自分に彼は幸福そうに微笑みかけるが、その瞳は相変わらず温度を失ったまま。顔と声は興奮を露わにしているのに、目だけはずっと漆黒に凍りついている。

「イルフィ。口の中じゃなくて、お腹の中に出させてよ」
「……断る」
「なんで? 昨日も、一昨日も、中に出したら悦んでくれたじゃない。お尻の孔から僕の白いのを掻き出してる間、イルフィは泣きながら指だけでイッちゃったし」
「さわるなっ!」

 耳の後ろをくすぐられたのを思わず振り払う。
 昨夜の己の痴態をまざまざと思い出させられ、イルフィは頬が朱に染まるのを感じた。

「……イルフィ、声だけで気持ちよくなっちゃってるでしょ」

 ハヴェルはそっぽを向いたイルフィの耳に顔を近づけ、低く掠れた声で耳朶に囁く。
 それだけでイルフィの腹の奥は脈打ち始めてしまい、すっかり受け入れることに慣らされた、あの太くて硬いオスで奥をこすられたくて仕方なくなる。

 もぞり、と内腿を無意識にこすりあわせたのを、ハヴェルがめざとく見つけて笑った。

「僕も我慢出来ないし、イルフィも満更でもないって顔だ」
「……っ!」

 耳朶を柔らかく食まれると体の力がすっかり抜けてしまう。
 イルフィはもう、快楽に抵抗する術をもたなかった。
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