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第三章 関東大会観戦
75話 余談:高宮兄弟の受難④
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夕食を終えると、蓮は帰りますと言った。
泊まっていけばいいのにと伊織は引き止めたが、彼はテニス用具一式は家にあるからという理由らしい。
「それにおれは家に帰りたくないわけじゃないし」
「ま、それもそうだ」
雅久はククッとわらう。
送っていくと言ったらそれも断ったので、大神は「つつましい男だ」と感慨深くつぶやいた。
「はーおもしろかった」
ぱたり、と倒れる凛久。
リビングダイニングのテレビで、雅久と対戦ゲームにいそしんで二時間。すっかり大神家を堪能した双子は、順番を決めて風呂タイムに入った。いまは雅久が入浴中だ。
これコーチのですか、と凛久がゲーム機を持ち上げる。昔懐かしいニンテンドースイッチ。まさか大神プロがテレビゲームをするとはおもえない、という偏見からの問いかけだったが、意外にも伊織は首を横に振った。
「大神の」
「へえ~っ。大神さんもゲームとかするんだ」
「なに言うてん。大神めっちゃスマブラうまいで」
「マジすか!」
「ほかにもRPGで魔王が倒せへんときは、だいたい大神にコントローラー渡しとった。なあ」
と、陽気な伊織はキッチンへ目を向ける。彼はいま、台所のシンク掃除をおこなっている。ふたりのあいだに結ばれたコントラクトが雇用契約から婚約に変わったときから、家事はふたりで分担すると決めたからだ。
まったく、と大神は呆れ声でつぶやいた。
「部活が休みのたび、姫川を先頭にコイツらが押しかけてきたっけな。夜通しひとりでレベル上げしてやったのもいい思い出だぜ──」
「大神さんがレベ上げしたんすか!?」
「ちゃうねん。あれな、『ニューゲームから始まってラスボス倒すまで帰れま10』って企画をやってん。ほんで大神の部屋でやってたんやけど、どうしてもボスが倒せへんで、みんな不貞寝してもうて翌朝までぐっすりやったんよ」
「みんなって──あの、才徳黄金世代?」
「せや。そしたら、みんな朝起きてきてんのにコイツひとりだけ起きて来おへん。まあええわ~いうて朝からゲーム起動したらな、ラスボス倒せるくらいにレベル上がっとってんやんか。あとで聞いたら、夜通し大神がひとりでちまちまレベ上げしてくれてたんやて! あんときは全国決勝の試合並みに感動したなー」
「う、うわ~」
「フ。孤独な戦いで──メンタル強化にはいいトレーニングだった」
と言って、大神はシンク掃除を終えたのかさっさと自室へともどってゆく。そのうしろ姿を眺めながら凛久はひっそりと問いかける。
「それでも大神さんっておこらないんスか?」
「あー、そのあと大神が寝てるあいだにボス倒してエンディング見たときは、さすがに怒った」
「才徳黄金世代がエグすぎる……」
「ま、それも最終的には『しょーがねえなあ』で終わりや。もはや優しいを通り越してちょっとアホやねん」
「…………」
凛久は感嘆のため息をついた。
まもなく、雅久が濡れ髪のままリビングへ戻ってきたので、入れ違いで凛久が風呂に入っていった。タオルで髪を拭きながら、雅久はソファに座る伊織のとなりへ腰かける。
いつもはオールバックにあげてキメている彼も、髪の毛を下ろしたら年相応の高校男子。よりいっそう凛久に似ている気がして、伊織はフフフとわらいながらタオルで髪を拭いてやった。
なんだよ、と照れ隠しに身をよじる雅久。しかし伊織は気にしない。
「いやー、やっぱり双子やなあ思て」
「似てるってこと?」
「うん。髪下ろしとるとさらに似るね」
「…………」
雅久の動きが止まった。
そのまま髪を拭いてやっていると、彼らしからぬか細い声で「そうだよ」とつぶやいた。
「ん?」
「生まれたときは──ぜんぶおなじだったはずなのに。いつからこんななっちまったんだか」
「────」
「見たろ。ありえねーよ、あの話ももう何べんも聞かされてきた。自分は学歴やら能力やらにコンプレックスがあって、金も能力も有能な男と結婚したって。それでも自分が無能だったことでずいぶん苦労したとか。自分は女だったから無能でも良かったけど、俺らは男だから無能じゃ一生苦労するとか。……そんな、無能とか有能とか、なにをもって測ってんのかもわかんねえのに」
と、息もつかぬいきおいで吐き捨てる。
伊織はタオルで拭く手はそのままに、口をひらいた。
「でも意外やった。雅久のことやから、お母さんのこと一発くらい殴るんちゃうか思てた」
「殴れるもんなら殴ってやりてーよ。何度も殴ってやろうとおもったし。でもそれは。……」
「それでええねん。殴って解決する方法しか知らん人間にはなるもんやないで」
「…………前に一度、凛久に言ったことがある」
「ん?」
「いっそころすか、って」
「お母さんを?」
「うん。…………」
雅久は力なくうなだれる。
タオルに隠れて見えないが、きっとよほど情けない顔をしていることだろう。肩がわずかにふるえているのがわかるくらいだから。
でも、と雅久はつづけた。
「凛久が顔面真っ青にして『そりゃダメだ、落ち着け』って言うから、やめたけど」
「凛久はやさしいなあ。あんな扱いされて、それでもまだ母親のこと大事に思てんねや」
「──アイツはアイツで、親の期待を一身に押し付けられてる俺の方が大変だっておもってるみてーだから。……」
一瞬閉口する。
バスルームからはかすかにシャワーを浴びる音が聞こえる。雅久はふたたび口をひらいた。
「たまに分からなくなる。俺らがわるいのか、母親がおかしいのか──でもこれだけは分かる。凛久は俺なんかよりよっぽど、スゲー奴だ」
「俺なんかとか言わんの。うちから見たら、ふたりとも唯一無二。どっちのがスゴいとか有能とかそんなん無いねんて」
「…………」
雅久の肩がいっそうふるえる。
ホンマにな、と伊織はタオル越しに彼の頭を抱き寄せた。
「──子どもの人生、親の二週目やないっちゅーねんな」
「…………ッ」
「あしたの練習試合、頑張ろな。雅久も凛久も、お母さんがそない心配せんでもしっかり楽しくやっとるってとこ、ぎょうさん見せたろ」
「……、…………」
雅久はタオルの下で何度もうなずいた。
まもなく時刻は二十二時をまわる。明日の練習試合は朝九時からだから、そろそろ寝た方がよいだろう。
伊織はいまいちど雅久の背中をポンポンとあやすように叩いてから、ゆっくりとタオルをとった。雅久の目は熱を帯びて紅い。
「さ、はよ髪乾かして寝んさい。あしたは大事な一戦なんやから!」
──という会話を、廊下で聞く大神。
風呂上がりの凛久は脱衣場から出てきておどろいた。正面の壁に寄りかかって、リビングのほうへ意識を向けた家主がいたのだから。
何してるんですか、と恐々問うと、彼はゆっくり視線を凛久に移してうっそりほほ笑む。
「凛久、お前らは奥の──俺の部屋で寝ろ」
「え。や、そんな。リビングのソファで十分ッスよ、ふかふかだったし!」
「それで腹冷やしたらどうする。明日はとくに大事な試合になるんだろ、いいから俺のベッドに並んで寝ろ。キングサイズだからふたりでも十分広い」
と言って、大神がリビングを覗く。
あっ、と伊織が立ち上がった。ちょうど彼らの寝る場所をどうするか、大神へ尋ねるところだったらしい。しかしその前に凛久が雅久のもとへ駆けよった。
「雅久、オレたち大神さんのベッド使っていいって!」
「…………」
雅久の目線がキロリと大神に向けられる。目が合う。ふたりのあいだに一瞬バチッと火花が散った──気がした。
気づかぬ伊織はエーッとおどろいた顔をする。
「うちの部屋空けたってもええのに。大神もソファは寒いやろ~」
「おまえの部屋で寝るに決まってんだろ」
「は?」
と、硬直したのは伊織だけではない。
いろいろ察した高宮兄弟も、口を真一文字に結んで大神を見つめる。一同の視線の意味を察したか、大神ははん、と鼻でわらった。
「心配すんな。ガキがとなりにいちゃ、さすがの俺も手は出さねーよ」
「なッ、ど、ドアホがァ!」
「オラ、テメーらもぼうっとしてねえでさっさと寝ろ。明日は七時までには起きてこいよ」
と。
それから双子は大神に、半ばむりやりマスターベッドルームへ押し込まれた。おやすみなさいと上機嫌に頭を下げる凛久とは対照的に、閉まりかけたドアの隙間から大神をねめつける雅久。
大神は去り際、
「あげねーよ」
といたずらっぽくわらって言った。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。
雅久はごろりとキングサイズのベッドにころがった。となりでは凛久もころがり、寝心地よいマットレスを堪能している。
「やっぱあのふたりって、そういうカンケイだったんだな……雅久」
「いっしょに住んでるって時点でお察しだろ」
「そうだけど──七浦コーチってふだんあんまりそういうの匂わせてこねーからさぁ! でもそっか、付き合ってんのかやっぱ」
「……はやく別れりゃいーのに」
「エッ」
「凛久。俺、将来プロんなるわ」
「エッ!?」
「プロんなって、あの人──あの人にぜってー勝ちてえ。いや勝つ」
「あの人って、大神プロ?」
と聞く凛久。
当たり前だろ、と雅久はわずかに声を荒げた。
「なんかいろいろ出来すぎで気に食わねえんだよ。クソ、ぜってーあの人よりいい男になってやらぁ。……んだこのマットレス。即寝不可避じゃねーか──」
などなど。
兄にしてはめずらしく、多方面へやる気に満ち溢れている。とはいえなにか変なものでも食ったのか──とも聞けぬ。
結局凛久が言えたのは、
「雅久なら出来るよ」
という、ありきたりなエールだけだった。
泊まっていけばいいのにと伊織は引き止めたが、彼はテニス用具一式は家にあるからという理由らしい。
「それにおれは家に帰りたくないわけじゃないし」
「ま、それもそうだ」
雅久はククッとわらう。
送っていくと言ったらそれも断ったので、大神は「つつましい男だ」と感慨深くつぶやいた。
「はーおもしろかった」
ぱたり、と倒れる凛久。
リビングダイニングのテレビで、雅久と対戦ゲームにいそしんで二時間。すっかり大神家を堪能した双子は、順番を決めて風呂タイムに入った。いまは雅久が入浴中だ。
これコーチのですか、と凛久がゲーム機を持ち上げる。昔懐かしいニンテンドースイッチ。まさか大神プロがテレビゲームをするとはおもえない、という偏見からの問いかけだったが、意外にも伊織は首を横に振った。
「大神の」
「へえ~っ。大神さんもゲームとかするんだ」
「なに言うてん。大神めっちゃスマブラうまいで」
「マジすか!」
「ほかにもRPGで魔王が倒せへんときは、だいたい大神にコントローラー渡しとった。なあ」
と、陽気な伊織はキッチンへ目を向ける。彼はいま、台所のシンク掃除をおこなっている。ふたりのあいだに結ばれたコントラクトが雇用契約から婚約に変わったときから、家事はふたりで分担すると決めたからだ。
まったく、と大神は呆れ声でつぶやいた。
「部活が休みのたび、姫川を先頭にコイツらが押しかけてきたっけな。夜通しひとりでレベル上げしてやったのもいい思い出だぜ──」
「大神さんがレベ上げしたんすか!?」
「ちゃうねん。あれな、『ニューゲームから始まってラスボス倒すまで帰れま10』って企画をやってん。ほんで大神の部屋でやってたんやけど、どうしてもボスが倒せへんで、みんな不貞寝してもうて翌朝までぐっすりやったんよ」
「みんなって──あの、才徳黄金世代?」
「せや。そしたら、みんな朝起きてきてんのにコイツひとりだけ起きて来おへん。まあええわ~いうて朝からゲーム起動したらな、ラスボス倒せるくらいにレベル上がっとってんやんか。あとで聞いたら、夜通し大神がひとりでちまちまレベ上げしてくれてたんやて! あんときは全国決勝の試合並みに感動したなー」
「う、うわ~」
「フ。孤独な戦いで──メンタル強化にはいいトレーニングだった」
と言って、大神はシンク掃除を終えたのかさっさと自室へともどってゆく。そのうしろ姿を眺めながら凛久はひっそりと問いかける。
「それでも大神さんっておこらないんスか?」
「あー、そのあと大神が寝てるあいだにボス倒してエンディング見たときは、さすがに怒った」
「才徳黄金世代がエグすぎる……」
「ま、それも最終的には『しょーがねえなあ』で終わりや。もはや優しいを通り越してちょっとアホやねん」
「…………」
凛久は感嘆のため息をついた。
まもなく、雅久が濡れ髪のままリビングへ戻ってきたので、入れ違いで凛久が風呂に入っていった。タオルで髪を拭きながら、雅久はソファに座る伊織のとなりへ腰かける。
いつもはオールバックにあげてキメている彼も、髪の毛を下ろしたら年相応の高校男子。よりいっそう凛久に似ている気がして、伊織はフフフとわらいながらタオルで髪を拭いてやった。
なんだよ、と照れ隠しに身をよじる雅久。しかし伊織は気にしない。
「いやー、やっぱり双子やなあ思て」
「似てるってこと?」
「うん。髪下ろしとるとさらに似るね」
「…………」
雅久の動きが止まった。
そのまま髪を拭いてやっていると、彼らしからぬか細い声で「そうだよ」とつぶやいた。
「ん?」
「生まれたときは──ぜんぶおなじだったはずなのに。いつからこんななっちまったんだか」
「────」
「見たろ。ありえねーよ、あの話ももう何べんも聞かされてきた。自分は学歴やら能力やらにコンプレックスがあって、金も能力も有能な男と結婚したって。それでも自分が無能だったことでずいぶん苦労したとか。自分は女だったから無能でも良かったけど、俺らは男だから無能じゃ一生苦労するとか。……そんな、無能とか有能とか、なにをもって測ってんのかもわかんねえのに」
と、息もつかぬいきおいで吐き捨てる。
伊織はタオルで拭く手はそのままに、口をひらいた。
「でも意外やった。雅久のことやから、お母さんのこと一発くらい殴るんちゃうか思てた」
「殴れるもんなら殴ってやりてーよ。何度も殴ってやろうとおもったし。でもそれは。……」
「それでええねん。殴って解決する方法しか知らん人間にはなるもんやないで」
「…………前に一度、凛久に言ったことがある」
「ん?」
「いっそころすか、って」
「お母さんを?」
「うん。…………」
雅久は力なくうなだれる。
タオルに隠れて見えないが、きっとよほど情けない顔をしていることだろう。肩がわずかにふるえているのがわかるくらいだから。
でも、と雅久はつづけた。
「凛久が顔面真っ青にして『そりゃダメだ、落ち着け』って言うから、やめたけど」
「凛久はやさしいなあ。あんな扱いされて、それでもまだ母親のこと大事に思てんねや」
「──アイツはアイツで、親の期待を一身に押し付けられてる俺の方が大変だっておもってるみてーだから。……」
一瞬閉口する。
バスルームからはかすかにシャワーを浴びる音が聞こえる。雅久はふたたび口をひらいた。
「たまに分からなくなる。俺らがわるいのか、母親がおかしいのか──でもこれだけは分かる。凛久は俺なんかよりよっぽど、スゲー奴だ」
「俺なんかとか言わんの。うちから見たら、ふたりとも唯一無二。どっちのがスゴいとか有能とかそんなん無いねんて」
「…………」
雅久の肩がいっそうふるえる。
ホンマにな、と伊織はタオル越しに彼の頭を抱き寄せた。
「──子どもの人生、親の二週目やないっちゅーねんな」
「…………ッ」
「あしたの練習試合、頑張ろな。雅久も凛久も、お母さんがそない心配せんでもしっかり楽しくやっとるってとこ、ぎょうさん見せたろ」
「……、…………」
雅久はタオルの下で何度もうなずいた。
まもなく時刻は二十二時をまわる。明日の練習試合は朝九時からだから、そろそろ寝た方がよいだろう。
伊織はいまいちど雅久の背中をポンポンとあやすように叩いてから、ゆっくりとタオルをとった。雅久の目は熱を帯びて紅い。
「さ、はよ髪乾かして寝んさい。あしたは大事な一戦なんやから!」
──という会話を、廊下で聞く大神。
風呂上がりの凛久は脱衣場から出てきておどろいた。正面の壁に寄りかかって、リビングのほうへ意識を向けた家主がいたのだから。
何してるんですか、と恐々問うと、彼はゆっくり視線を凛久に移してうっそりほほ笑む。
「凛久、お前らは奥の──俺の部屋で寝ろ」
「え。や、そんな。リビングのソファで十分ッスよ、ふかふかだったし!」
「それで腹冷やしたらどうする。明日はとくに大事な試合になるんだろ、いいから俺のベッドに並んで寝ろ。キングサイズだからふたりでも十分広い」
と言って、大神がリビングを覗く。
あっ、と伊織が立ち上がった。ちょうど彼らの寝る場所をどうするか、大神へ尋ねるところだったらしい。しかしその前に凛久が雅久のもとへ駆けよった。
「雅久、オレたち大神さんのベッド使っていいって!」
「…………」
雅久の目線がキロリと大神に向けられる。目が合う。ふたりのあいだに一瞬バチッと火花が散った──気がした。
気づかぬ伊織はエーッとおどろいた顔をする。
「うちの部屋空けたってもええのに。大神もソファは寒いやろ~」
「おまえの部屋で寝るに決まってんだろ」
「は?」
と、硬直したのは伊織だけではない。
いろいろ察した高宮兄弟も、口を真一文字に結んで大神を見つめる。一同の視線の意味を察したか、大神ははん、と鼻でわらった。
「心配すんな。ガキがとなりにいちゃ、さすがの俺も手は出さねーよ」
「なッ、ど、ドアホがァ!」
「オラ、テメーらもぼうっとしてねえでさっさと寝ろ。明日は七時までには起きてこいよ」
と。
それから双子は大神に、半ばむりやりマスターベッドルームへ押し込まれた。おやすみなさいと上機嫌に頭を下げる凛久とは対照的に、閉まりかけたドアの隙間から大神をねめつける雅久。
大神は去り際、
「あげねーよ」
といたずらっぽくわらって言った。
ムカつく。ムカつく。ムカつく。
雅久はごろりとキングサイズのベッドにころがった。となりでは凛久もころがり、寝心地よいマットレスを堪能している。
「やっぱあのふたりって、そういうカンケイだったんだな……雅久」
「いっしょに住んでるって時点でお察しだろ」
「そうだけど──七浦コーチってふだんあんまりそういうの匂わせてこねーからさぁ! でもそっか、付き合ってんのかやっぱ」
「……はやく別れりゃいーのに」
「エッ」
「凛久。俺、将来プロんなるわ」
「エッ!?」
「プロんなって、あの人──あの人にぜってー勝ちてえ。いや勝つ」
「あの人って、大神プロ?」
と聞く凛久。
当たり前だろ、と雅久はわずかに声を荒げた。
「なんかいろいろ出来すぎで気に食わねえんだよ。クソ、ぜってーあの人よりいい男になってやらぁ。……んだこのマットレス。即寝不可避じゃねーか──」
などなど。
兄にしてはめずらしく、多方面へやる気に満ち溢れている。とはいえなにか変なものでも食ったのか──とも聞けぬ。
結局凛久が言えたのは、
「雅久なら出来るよ」
という、ありきたりなエールだけだった。
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