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第二章 テニス部と女子
42話 エレノアの話
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エレノアとともに、才徳学園の食堂に来た。
高校時代はよくこの場所で才徳テニス部のチームメンバーたちとともに食事をしたものだった。内装は当時と変わらず、白を基調とした壁と全面ガラス張りフロア。ナチュラルウッドのガーデンテラスから望める中庭のうつくしさも、十年という月日をわすれるほどに変わらない。
メニュー変わっとる、と興奮する伊織。
エレノアは「好きなの食べなはれ」とメニューを手渡し、にこにこわらって着席した。
「エリーにはかなわんな」
とは、食事をひととおり平らげた伊織から開口一番出たことば。
本心であった。
ルックス、性格、気遣い、テニス──いずれをとってもエレノアに敵う要素が自分には見つからない。広島での婚約破棄話を聞き、怒って広島行きの飛行機をさがしはじめたときはこの女と結婚したいとおもったほど。
つまりこの尊敬の念は、日本人特有の謙遜ではなく素直に彼女を評価してこその感想だった。
エレノアはおどけたように肩をすくめる。
「エリー、そんなにご飯食べるムリだヨ。イオリの胃袋にはかないません」
「これでもずいぶん少食になってんけどなぁ」
「No way...」
「なあエリー」伊織は身をのり出す。
「どうしてそない実力があって、プロに行かへんかってん。もったいないやん」
「...Look who's talking.」
「あ、いや」
「テニスは好き。でも人生は永くないですね。エリー、ほかに夢ありました。日本に住んでteacherなりたかった。好きなもの、好きなだけ見る、聞く、したかったですヨ。それに──」
と、エレノアは物憂い気に視線を伏せた。
それに? と伊織が復唱する。
「トレーニング嫌い! プロは厳しいデショ?」
「なはははッ、せやな。うん、わかるわ」
「エリーは根性ありません」
「そんなことないやろ。根性なかったらさっきの試合、タイブレークまで行かんくない?」
「ゲームは別。トレーニングは嫌い、でも負けるのは、もっと嫌い」
と、茶目っ気たっぷりにわらった。
つられてはにかんだ伊織に、今度はエレノアが身をのり出す番だった。
「イオリ──ケンゴのことスキ?」
「えっ」
言いよどむ。
エリーは、その手を包み込むように握ってささやいた。
「Tell me the truth.」
「…………」
うまくことばが出てこない。
理由はわかっている。エレノアの気持ちを推し量りかねているからである。先ほどの試合からこっち、伊織はすっかり彼女のことが好きになった。しかし、もしエレノアが大神に対して想いがあるというのならば、伊織はこれから先いったいどういう気持ちで彼女と接するべきかわからない──。
と、悩む伊織の心情を理解したのだろう。
ダメ、とエレノアは眉をつりあげた。
「余計なことかんがえてるネ。エリー、ただイオリの気持ち知りたいだけ。コイバナ!」
「こ、恋バナ」
「ケンゴに恋、してるネ?」
「……う、うん」
うなずいた耳が熱くなる。
おもえば、大神のことが好きだとだれかに言明したのは初めてかもしれない。羞恥心から机に突っ伏すと、エレノアからの反応がない。あれっとおもい顔をあげると彼女は両手で頬を挟んだまま固まっていた。
「え、エリー。恥ずかしいやん、なんか言うてや」
「What a cute baby you are,it's like a raw girl...」
「ちょ、人のこと子ども扱いしよってから──」
「チガウ、そうじゃないのゴメンネ。あんまりピュアだからビックリしたんだヨ」
「アラサーにピュアとかやめや恥ずかしい!」
「イオリ、すぐ恥ずかしくなるネ。ホンマにかわいい」
「ま、ほ、ほんなら──エリーは⁈」
「What?」
「大神のこと、好きなんちゃうの」
尻すぼみになる声。
聞いた瞬間、エレノアははじけるようにわらった。その笑い声はがらんどうの食堂中にひびきわたり、キッチンルームから「何ごとだ」とシェフたちが顔を覗かせるほど。
なぜそんなに笑われたのかがわからず、伊織は目を白黒させた。
「そ、そないおもろかった?」
「おもろい。おもろいワ。イオリ関西人さすがネー」
「いやいまの関西人関係あらへんやろ!」
「でも、うん。イオリにはケンゴとエリーの話、聞いてほしい」
といってエレノアは、自分たちについて英語を交えながら詳細に語った。
──出会いはエレノアが十一歳、大神が八歳のころ。
キッズ大会女子の部で優勝したエレノアのもとに、大神が「試合をして」と声をかけてきたのがはじまりだった。当時の彼はそれほどからだが大きくなく、同学年の選手にくらべるとパワーもスタミナも劣っていた。
ゆえにキッズ大会男子の部では準々決勝にて敗退。
エレノアのもとに来たときの大神は、齢八つながらその目に悔しさをにじませていたという。
「ゲームしてあげた。もちろんエリー勝ちましたヨ、だけどケンゴはぜったいおもろいテニスプレイヤーになるおもったから、友だちになったの」
さいわいに住む場所が近かったこともあり、家族ぐるみでの交遊がスタート。
毎日、スクールから帰宅後に陽が落ちる間際まで、ふたりは飽きもせずテニスに熱中した。大神がエレノアを負かすのは稀だったけれど、彼が成長するにつれて勝負は互角にもつれこむことも多くなった。
彼は見違えるほどに強くなった──とエレノアは回顧する。
「すっかりエリーにも勝てるようなった。ケンゴとってもストイック」
「つまり、いまの大神はエリーが育てたようなもんやな」
「Exactly」
エレノアはすこし得意げにわらった。
「ティーンになるころには、テニス以外のこともたくさん教えたヨ。ケンゴがイイ男に見える、それつまりエリーのおかげネ」
「テニス以外って」
「モチロン、恋の仕方も、女の子の扱い方も──ネ」
と、含み笑いをする。
伊織はハッと息を呑んだ。恋の仕方ということは、やはりふたりのあいだにはかつて恋愛に似た関係模様があったということか。ざわつく胸をおさえるように、伊織は胸の前で腕組みをした。
エレノアが、いたずらっ子のような笑みをうかべた。
「The mole on Kengo's right thigh is sexy,isn't it?」
「!」
──ケンゴの右太ももにあるほくろ、セクシーよね。
(ひとの恋心を確認しておいて、そういうこと言うんかい!)
喧嘩を売っているのか、はたまた冗談か。
伊織の顔がこわばる。
しかしエレノアは「ゴメン」とすなおに頭を下げた。
「イオリと仲良くしたい。でもイオリとってもカワイイから、からかいたくなっちゃうのヨ。ゴメンね?」
「……か、……かわいくないわい」
「聞いて。『若気の至り』デシタ。ケンゴのvirginは食べたけど、おかげでケンゴからこわがられました。肉食系の女、苦手みたいネ」
「ブフッ──こ、こわがられた?」
「それに、イオリにひとつ教えてあげる」
「え?」
「ケンゴみたいな男、向こうではあまりモテない」
「…………」
「エリーもおんなじ。ケンゴ、タイプじゃないヨ。男ならもっとやさしい人が好きネー」
という彼女を前に、伊織は変な顔をした。
大神謙吾という男ほどやさしいヤツもおるまいか、と。彼のしてやりたがりな性格は、かかわったすべての人間を満足させる。なによりさっきだって、エレノアの願いを渋々聞き届けたではないか──。
それを問うと、彼女は顔をゆがめて首を振る。
「あれはやさしさチガウでしょ。ケンゴの自己満足。ただやりたいだけだヨ。典型的な末っ子ね」
「おお……」
「でも、イオリにはもしかするとホントのやさしさ、見せてるかもしれないネ」
「え?」
「ケンゴ、Junior high schoolのころまではテニスの話しかしなかった。でも──Stanfordで再会した彼はずっと、イオリの話ばっかりしてた。連絡とりたいのにとれない、何度も日本に帰りたがって、でもプロで結果出すまでは会わないように我慢して、なんて。あんまり別人だったからエリーびっくりしたヨ」
と、エレノアは心底うれしそうにわらった。
そんな話は初耳だった。伊織の心中でいろんな感情が複雑に絡まって、上手に相槌のひとつも打てなかった。ただ、放心した顔でエレノアを見つめるばかり。
エレノアは白い手で伊織の肩をやさしく撫でおろす。
「イオリ、ヒロシマでは辛かった。男のヒト信じられなくなったかもしれないヨネ」
「…………」
「ケンゴのことも、信じられナイ? scared?」
「────!」
ドキリと胸が跳ねた。
図星だった。広島の一件、桜爛コーチへの就任や大神との同居にあたってすっかり記憶の彼方に消えたと自身でもおもっていたが、そんなことはなかったのである。
大神に愛されるたび、それは風邪のようにぶり返した。どれだけ愛情表現を受けようと、ベッドではげしく求められようと──いや、されればされるほどその本心はべつにあるのではないかという疑心が湧き上がる。信じたいのに、愛を返したいのにいつか裏切られるのではないかと一歩が踏み出せず、足踏みばかりする。
大神のことが大好きだからこそ、伊織はそんなじぶんが苦しくもあった。
視界がにじむ。エリーは「Oh...」とつぶやいて立ちあがり、テーブルをまわって伊織を抱きしめた。そのぬくもりがあんまりやさしくて、伊織はとうとう肩をふるわせる。
「ダイジョブ。だいじょうぶ」
「う、──っひぐ、」
「イオリ、おねがい。これはエリーからのおねがい。聞いて」
エリーは両手で伊織の頬をはさむ。
瞳を覗き込んで、にっこりとほほえみ、言った。
「Believe in him.」
「…………」
彼女の、みじかくも強いそのひと言に、胸がふるえた。
(彼を信じて。──)
伊織はたまらずエリーに抱きついて、何度も何度も、うなずいた。
高校時代はよくこの場所で才徳テニス部のチームメンバーたちとともに食事をしたものだった。内装は当時と変わらず、白を基調とした壁と全面ガラス張りフロア。ナチュラルウッドのガーデンテラスから望める中庭のうつくしさも、十年という月日をわすれるほどに変わらない。
メニュー変わっとる、と興奮する伊織。
エレノアは「好きなの食べなはれ」とメニューを手渡し、にこにこわらって着席した。
「エリーにはかなわんな」
とは、食事をひととおり平らげた伊織から開口一番出たことば。
本心であった。
ルックス、性格、気遣い、テニス──いずれをとってもエレノアに敵う要素が自分には見つからない。広島での婚約破棄話を聞き、怒って広島行きの飛行機をさがしはじめたときはこの女と結婚したいとおもったほど。
つまりこの尊敬の念は、日本人特有の謙遜ではなく素直に彼女を評価してこその感想だった。
エレノアはおどけたように肩をすくめる。
「エリー、そんなにご飯食べるムリだヨ。イオリの胃袋にはかないません」
「これでもずいぶん少食になってんけどなぁ」
「No way...」
「なあエリー」伊織は身をのり出す。
「どうしてそない実力があって、プロに行かへんかってん。もったいないやん」
「...Look who's talking.」
「あ、いや」
「テニスは好き。でも人生は永くないですね。エリー、ほかに夢ありました。日本に住んでteacherなりたかった。好きなもの、好きなだけ見る、聞く、したかったですヨ。それに──」
と、エレノアは物憂い気に視線を伏せた。
それに? と伊織が復唱する。
「トレーニング嫌い! プロは厳しいデショ?」
「なはははッ、せやな。うん、わかるわ」
「エリーは根性ありません」
「そんなことないやろ。根性なかったらさっきの試合、タイブレークまで行かんくない?」
「ゲームは別。トレーニングは嫌い、でも負けるのは、もっと嫌い」
と、茶目っ気たっぷりにわらった。
つられてはにかんだ伊織に、今度はエレノアが身をのり出す番だった。
「イオリ──ケンゴのことスキ?」
「えっ」
言いよどむ。
エリーは、その手を包み込むように握ってささやいた。
「Tell me the truth.」
「…………」
うまくことばが出てこない。
理由はわかっている。エレノアの気持ちを推し量りかねているからである。先ほどの試合からこっち、伊織はすっかり彼女のことが好きになった。しかし、もしエレノアが大神に対して想いがあるというのならば、伊織はこれから先いったいどういう気持ちで彼女と接するべきかわからない──。
と、悩む伊織の心情を理解したのだろう。
ダメ、とエレノアは眉をつりあげた。
「余計なことかんがえてるネ。エリー、ただイオリの気持ち知りたいだけ。コイバナ!」
「こ、恋バナ」
「ケンゴに恋、してるネ?」
「……う、うん」
うなずいた耳が熱くなる。
おもえば、大神のことが好きだとだれかに言明したのは初めてかもしれない。羞恥心から机に突っ伏すと、エレノアからの反応がない。あれっとおもい顔をあげると彼女は両手で頬を挟んだまま固まっていた。
「え、エリー。恥ずかしいやん、なんか言うてや」
「What a cute baby you are,it's like a raw girl...」
「ちょ、人のこと子ども扱いしよってから──」
「チガウ、そうじゃないのゴメンネ。あんまりピュアだからビックリしたんだヨ」
「アラサーにピュアとかやめや恥ずかしい!」
「イオリ、すぐ恥ずかしくなるネ。ホンマにかわいい」
「ま、ほ、ほんなら──エリーは⁈」
「What?」
「大神のこと、好きなんちゃうの」
尻すぼみになる声。
聞いた瞬間、エレノアははじけるようにわらった。その笑い声はがらんどうの食堂中にひびきわたり、キッチンルームから「何ごとだ」とシェフたちが顔を覗かせるほど。
なぜそんなに笑われたのかがわからず、伊織は目を白黒させた。
「そ、そないおもろかった?」
「おもろい。おもろいワ。イオリ関西人さすがネー」
「いやいまの関西人関係あらへんやろ!」
「でも、うん。イオリにはケンゴとエリーの話、聞いてほしい」
といってエレノアは、自分たちについて英語を交えながら詳細に語った。
──出会いはエレノアが十一歳、大神が八歳のころ。
キッズ大会女子の部で優勝したエレノアのもとに、大神が「試合をして」と声をかけてきたのがはじまりだった。当時の彼はそれほどからだが大きくなく、同学年の選手にくらべるとパワーもスタミナも劣っていた。
ゆえにキッズ大会男子の部では準々決勝にて敗退。
エレノアのもとに来たときの大神は、齢八つながらその目に悔しさをにじませていたという。
「ゲームしてあげた。もちろんエリー勝ちましたヨ、だけどケンゴはぜったいおもろいテニスプレイヤーになるおもったから、友だちになったの」
さいわいに住む場所が近かったこともあり、家族ぐるみでの交遊がスタート。
毎日、スクールから帰宅後に陽が落ちる間際まで、ふたりは飽きもせずテニスに熱中した。大神がエレノアを負かすのは稀だったけれど、彼が成長するにつれて勝負は互角にもつれこむことも多くなった。
彼は見違えるほどに強くなった──とエレノアは回顧する。
「すっかりエリーにも勝てるようなった。ケンゴとってもストイック」
「つまり、いまの大神はエリーが育てたようなもんやな」
「Exactly」
エレノアはすこし得意げにわらった。
「ティーンになるころには、テニス以外のこともたくさん教えたヨ。ケンゴがイイ男に見える、それつまりエリーのおかげネ」
「テニス以外って」
「モチロン、恋の仕方も、女の子の扱い方も──ネ」
と、含み笑いをする。
伊織はハッと息を呑んだ。恋の仕方ということは、やはりふたりのあいだにはかつて恋愛に似た関係模様があったということか。ざわつく胸をおさえるように、伊織は胸の前で腕組みをした。
エレノアが、いたずらっ子のような笑みをうかべた。
「The mole on Kengo's right thigh is sexy,isn't it?」
「!」
──ケンゴの右太ももにあるほくろ、セクシーよね。
(ひとの恋心を確認しておいて、そういうこと言うんかい!)
喧嘩を売っているのか、はたまた冗談か。
伊織の顔がこわばる。
しかしエレノアは「ゴメン」とすなおに頭を下げた。
「イオリと仲良くしたい。でもイオリとってもカワイイから、からかいたくなっちゃうのヨ。ゴメンね?」
「……か、……かわいくないわい」
「聞いて。『若気の至り』デシタ。ケンゴのvirginは食べたけど、おかげでケンゴからこわがられました。肉食系の女、苦手みたいネ」
「ブフッ──こ、こわがられた?」
「それに、イオリにひとつ教えてあげる」
「え?」
「ケンゴみたいな男、向こうではあまりモテない」
「…………」
「エリーもおんなじ。ケンゴ、タイプじゃないヨ。男ならもっとやさしい人が好きネー」
という彼女を前に、伊織は変な顔をした。
大神謙吾という男ほどやさしいヤツもおるまいか、と。彼のしてやりたがりな性格は、かかわったすべての人間を満足させる。なによりさっきだって、エレノアの願いを渋々聞き届けたではないか──。
それを問うと、彼女は顔をゆがめて首を振る。
「あれはやさしさチガウでしょ。ケンゴの自己満足。ただやりたいだけだヨ。典型的な末っ子ね」
「おお……」
「でも、イオリにはもしかするとホントのやさしさ、見せてるかもしれないネ」
「え?」
「ケンゴ、Junior high schoolのころまではテニスの話しかしなかった。でも──Stanfordで再会した彼はずっと、イオリの話ばっかりしてた。連絡とりたいのにとれない、何度も日本に帰りたがって、でもプロで結果出すまでは会わないように我慢して、なんて。あんまり別人だったからエリーびっくりしたヨ」
と、エレノアは心底うれしそうにわらった。
そんな話は初耳だった。伊織の心中でいろんな感情が複雑に絡まって、上手に相槌のひとつも打てなかった。ただ、放心した顔でエレノアを見つめるばかり。
エレノアは白い手で伊織の肩をやさしく撫でおろす。
「イオリ、ヒロシマでは辛かった。男のヒト信じられなくなったかもしれないヨネ」
「…………」
「ケンゴのことも、信じられナイ? scared?」
「────!」
ドキリと胸が跳ねた。
図星だった。広島の一件、桜爛コーチへの就任や大神との同居にあたってすっかり記憶の彼方に消えたと自身でもおもっていたが、そんなことはなかったのである。
大神に愛されるたび、それは風邪のようにぶり返した。どれだけ愛情表現を受けようと、ベッドではげしく求められようと──いや、されればされるほどその本心はべつにあるのではないかという疑心が湧き上がる。信じたいのに、愛を返したいのにいつか裏切られるのではないかと一歩が踏み出せず、足踏みばかりする。
大神のことが大好きだからこそ、伊織はそんなじぶんが苦しくもあった。
視界がにじむ。エリーは「Oh...」とつぶやいて立ちあがり、テーブルをまわって伊織を抱きしめた。そのぬくもりがあんまりやさしくて、伊織はとうとう肩をふるわせる。
「ダイジョブ。だいじょうぶ」
「う、──っひぐ、」
「イオリ、おねがい。これはエリーからのおねがい。聞いて」
エリーは両手で伊織の頬をはさむ。
瞳を覗き込んで、にっこりとほほえみ、言った。
「Believe in him.」
「…………」
彼女の、みじかくも強いそのひと言に、胸がふるえた。
(彼を信じて。──)
伊織はたまらずエリーに抱きついて、何度も何度も、うなずいた。
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