異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
上 下
349 / 380

346

しおりを挟む
投稿時間を過ぎてしまい申し訳ありません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 翌日はゆっくりと起きた…………いや、正直に言うと寝坊した。
 現在は午前9時過ぎ。
 夜早く寝て日の出前には起きるのが普通なこの世界では大遅刻だ。
 これも昨日の午後にレグザール砦の宿舎で爆睡してしまったので、明け方まで寝付けなかったのが原因だ。移動の疲労等の仕方ない事情なので自分自身に恥じるところはないのだが、問題はそんなことを知らない他人がどう思うのかだ。
 特に俺の担当補佐官(らしい?)のレイチェルさんがどう思うのかが…………



「ツトム殿、おはようございます。ゆっくりお休みになられましたか?」

 むっ?! 開口一番で寝過ごしたことに対する皮肉だろうか。
 意訳すると、
 『他国者よそものがウチのベッドでグ~スカ寝よってからに、皆ここに泊まり込みで働いてるのにええご身分じゃのォ~』
 ということなのだろう。

「おかげさまで。やはり昨日の特殊個体との激闘の影響が残っていたようでして…………」

 無論そんな影響などは微塵もないが、『俺はアンタらの国のために強敵と戦って討ち取ったのだぞ』と言外にアピールしてみる。

「どこかお怪我でも? ツトム殿の回復魔法で治せないとなると相当深い傷なのでは?」

 むむっ?! これも意訳すると、
 『オドレが回復魔法を使うのは、マルっとお見通しなんじゃっ!』
 ということか。

「傷のほうは問題ないのですが、回復魔法では気力体力を癒すことができないので…………」

「そうですか。
 ツトム殿の此度の働きに対し、閣下(=クリュネガー軍司令)からくれぐれもお礼を申すように言付かっております」

 『ワレも良い働きじゃったのぅ。褒めて遣わすぞよ』って、これは意訳の必要はなかったか。

「自分は援軍として来ているのですから、貴国のために尽力するのは当然のことです」

「閣下も直接ツトム殿にお礼を述べたい意向でしたが、あいにく今朝から軍事統括官との会合のために中央に出向いておりまして…………」

「軍事統括官?」

「あぁ。他国ですと軍務卿に該当する役職ですね。軍事部門のトップになります。
 我が国には国王も貴族もおりませんので」

 ここでレイチェル先生の商業国家コートダールに関しての授業が始まった。
 要約すると、


 コートダールはその昔、いくつかの都市国家が合併して成立した国家なのだそうだ。
 最初はそれぞれの都市国家の長たちが集まって国政を執り行っていたのだが、すぐに各長たちの利害が対立するようになり、それが原因で半ば内乱へと発展してしまう。
 そのような状態が長期間続いて国内が荒れてしまい、当然ながら各都市国家も衰退していくことになる。
 各々の都市国家の軍事力を背景にしていた各長たちも力を失っていき、それに代わり台頭してきたのがこの内乱で商売を伸ばしてきた複数の商会だった。

 商会もそれぞれの都市国家を代表するという意味では各長たちと同じなのだが、ここで彼らが賢かったのは権力を掌握するに際して、比較的被害の少なかった現在の商都に全ての商会が拠点を移したことである。
 国の中枢ちゅうすうと各都市の軍事力が分離したことにより、国内が急速に安定化していった。
 反抗する勢力がいても国内の物資の大半を掌握している商会連合には抗することができず、ここに商売を基軸とした商業国家コートダールが成立することになる…………


 なるほどねぇ。
 コートダールが軍事力が弱いというのも、国家の成立からして軍事力を切り離した状態だったからか。
 それにしても思わぬ形でレイチェル先生の講義を受けることになったが、中々良かったな。
 強いて言うならエロさが不足してたことぐらいか。
 胸元を大胆に開けたスーツ姿だったら完璧だったのだけど…………

「ツトム殿の本業は冒険者をされているとか。
 そこでいかがでしょう? 我が国に拠点を移されては?
 我が国は冒険者稼業に力を入れてますので報酬も他国と比べて高いですし、ツトム殿を特別に待遇するよう軍部から冒険者ギルドに要請することもできますよ?」

「ありがたいお誘いなのですが、自分はイリス殿下に仕えてる身ですのでバルーカを離れることができません」

「そのような事情でしたら仕方ありませんね」

 姫様バリアは優秀だな。楽に断ることができる。
 まぁコートダール単体なら色々条件良さそうだし、ついでにルルカの実家も近くなるしで悪くはないのだけど、帝国(=グラバラス帝国)が色々な意味で近いのが不確定要素なんだよなぁ。

 しかし、言葉の刃が飛び交ったり授業が始まったり勧誘を受けたりで、中々にプレッシャーのかかる状況が続いている。
 これが外交交渉って奴なんだろう。
 かと言って出撃するには何か適当な理由でもないと…………そうだっ!

「ところで戦況はどうなってますか?」

「特に急報が届いたという話は聞きませんので、どこの防衛も問題ないはずです。
 とはいえ昨日もツトム殿にそのように言っておきながら、レグザール砦は大変なことになってしまっていたので、堂々と言える資格はないのですが…………」

 昨日は砦の飛行魔術士の戦死という不運があってのことなので、別にレイチェル先生に落ち度があったわけではない。

「そういうことでしたら自分はこれから前線の様子を見に行ってきます。昨日は結局レグザール砦だけしか行けてませんので」

「わかりましたわ。
 どうぞお気をつけて」

「それではレイチェル先生! 行ってきます!!」

「せ、先生???」
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...