338 / 380
335
しおりを挟む砦内では多くの兵士が破壊された建物の残骸の撤去作業を行っている。
よく見ると砦の西側の防壁には、ヒビが入ったり一部崩れてる箇所がある。
ここから見えるのは防壁の裏側なので、攻撃を受けたであろう表側はもっと損傷しているだろう。
商都の司令部でレイチェルさんに聞いた話では未明の魔物からの攻撃は撃退したとのことだったけど、砦全体を覆うどんよりとした雰囲気はとても勝った軍隊のモノではない。
東門の近くに着地して門番に聞いてみた。
「何かあったんですか?」
「1刻(=約2時間)ほど前に2度目の攻撃がありまして、砦内に外から大岩が何個も飛んできて犠牲者が何人も……」
オーガによる投石攻撃か。
戦闘が終わっているということは撃退したのだろうか?
すぐにここの指揮官に詳しい状況を聞いたほうがいいな。
東門から砦内に入ろうとすると、
「あっ!? 先の戦闘で指揮所が大岩の直撃を受けてしまいまして、現在の指揮所は砦中央の広場に仮に設営されてますよ!」
どうやらこの門番は、飛んできた俺のことを伝令か何かと勘違いしたみたいだ。
そうでなければ俺の背格好では止められるのが普通だろう…………いや、冒険者ならば受け入れるのは当然か?
ともかく礼を言って砦内に入って行った。
砦の中央広場の一角に天幕が設置されていた。
以前南砦奪還作戦の際に使用された司令部用の大きな天幕よりも二回りほど小さい。大分年季の入ったものらしく、所々に修繕された跡が残っている。
「ベルガーナ王国から援軍として来た者なのですが、指揮官にお取次ぎ願いませんか?
……こちらを」
怪訝な表情を浮かべる兵士にコートダール軍司令の命令書を渡す。
「ちょっと待て?!…………しばらくお待ちください」
兵士は言い直すと天幕内へと入って行った。
まぁ見た目冒険者の少年に援軍と言われて戸惑うのは当然だ。
こんなやり取りを行く先々で繰り返すことになるのか……商都の司令部で暇してる人を連れてこれば良かったかな? そんな暇人がいるのかは知らんが。
「どうぞ、中へ」
天幕の中へと入る。
「貴公が?」
「バルーカから参りましたツトムと申します」
「レグザール砦守備隊の副隊長をしているジェラードだ。
現在は隊長代理を務めている」
ジェラードと名乗った男性は見た目20代後半で長身の普通体型。顔に大きな刀傷がある。
重要拠点を守る副隊長にしては若いな。それほど優秀なのだろうか?
隊長代理ということは指揮所への大岩の直撃で隊長が負傷もしくは死亡したか?
「状況を教えて頂けますか?」
「深夜の第1波攻撃は難なく撃退したのだが、先ほどの第2波攻撃でオーガによる投石が運悪く指揮所を直撃して隊長以下7名が戦死。
私はたまたま第1波攻撃の際に負傷した部下を見舞っていて難を逃れたのだが、投石は砦内にも及んでいて死傷者が多数出ている」
「第1波攻撃の際にはオーガはいなかったのですか?」
「いや、オーガ種はいたが投石攻撃はなかった」
第1波はさしずめ威力偵察といったところか。
「現在戦闘が終わっているのは?」
「魔物側が退却したのだ。
おそらく投石攻撃に使う大岩を補充するためと思われる。
本来なら出撃して殲滅すべきだったのだが、指揮官と幹部を失った状況では断念せざるを得なかった」
ということは時間を置かずして第3波攻撃が来る可能性があるわけか。
「さて、このクリュネガー閣下からの書状には君を部隊として扱い行動の制限をしないようにと書かれているが……」
軍司令の命令書を返してもらった。
しかしあの軍司令も無茶ぶりな……
「自分は回復魔法が使えますので、まずは負傷者の治療をしましょう」
「それは助かる!
さっそく救護所へと案内しよう」
ジェラードが天幕を出ていき慌ててそれに続く。
代理とはいえ指揮官自らが案内するのかよ!
もっとも現状で俺はバルーカはおろかベルガーナ王国を代表する存在とも言えるわけで、軍司令からの指示もあり粗略には扱えないと判断したのかもな。
丁度いいのでついでに聞きたいことを聞いてしまおう。
「商都には援軍を要請してるので?」
「ああ。既に伝令を出してある。
ただ待機していた飛行魔術士も指揮所で戦死しているので、代わりの伝令を騎馬でワナークに行かせているから時間がかかるだろう」
商都まではワナークで待機している飛行魔術士が引き継ぐわけか。
このレグザール砦までの道は途中森の木々に覆われて上空からは見えなくなるので、ここに来るまでに騎行している伝令とすれ違ったのだろう。
俺が商都まで飛んで行くのが一番手っ取り早いが、次の攻撃がいつ始まるのか予断を許さない状況ではこの砦を離れるわけにはいかない。
「援軍がここに到着するのはいつぐらいになるのでしょう?」
「商都には夜までには報せが届くだろうから、即出発して夜通し行軍したとしても到着は明日の午後。
実際には部隊の編成に時間がかかるだろうし行軍時に仮眠ぐらいは必要だから、どんなに急いだとしても明日の夜遅くになるだろう」
つまり明日の夜まで俺がこの砦を守らないといけないということだ。
86
お気に入りに追加
1,592
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。



転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

たとえば勇者パーティを追放された少年が宿屋の未亡人達に恋するような物語
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
リクエスト作品です。
今回は他作品もありますので亀更新になるかも知れません。
※ つい調子にのって4作同時に書き始めてしまいました。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる