336 / 360
333
しおりを挟む「閣下、それではこの者の独自行動をお認めになるので?」
「う~む…………」
コートダール軍司令クリュネガーは腕組みをして思案する。
非常に難しく厄介な問題だ。
ベルガーナ王国との繋がりを思えばあからさまに断ることはできない。かと言って好き勝手に動かれては帝国軍から不満の声が出てくるだろう。
グラバラス帝国から派遣されている戦力は、イズフール川沿いの防御線に配置されている全兵力の2割を優に超えている。
「思い出しましたよ、閣下!」
何やら若手の参謀が興奮気味に発言してきた。
「そのツトムなる者は、先の武闘大会で魔術士ながら本選まで勝ち進んでおります。
1回戦での敗退ながら本選進出した年少の魔術士として、冊子等で大きく取り上げられていました。
確か冒険者と記載されていたはずですが……」
「先ほど本人も本業は冒険者と言っていました」
「でしたら間違いないはずです!」
「つまりは相応の実力者を派遣して来た、というのは確定したわけだ。
だがいくら実力があるとしても、たった1人の魔術士が戦局に影響を及ぼすと思うか?」
「あり得ませんね。
案外独自行動というのも魔術士が年少者なのを慮って、いつでも帰還できるように配慮したのではありますまいか?」
それはそれで大問題だ。
勝手に撤退でもされたら味方の士気へ悪影響を与えるだろう。たった1人とは言えベルガーナ軍であることは紛れもない事実なのだ。
それに……
「それほど大事な人材ならどうして最前線に送ってくるんだ? しかも他国の最前線にだ」
「実戦経験を積ませるのが目的ではないでしょうか?」
「バカな?! 帝国ならともかく、ベルガーナはわざわざ他国に派遣しなくとも魔族との戦闘に事欠くことはあるまい」
「その者に閣下直筆の書状を持たせて最初に現場指揮官の了解を得る、という形式ならいかがでしょうか?
現場の指揮官が了承済みであれば兵達もそれほど不満には思わないかと」
「誰かを同行させるわけにはいかんか?」
「今後の戦局は予断を許しませんので、伝令に従事している飛行魔術士から人員を割く余裕はありません。
冒険者ギルドに依頼したとしても時間が掛かりますし、何よりギルドは今緊急招集でそれどころではないかと」
「…………わかった。書状を書いてこの者に会いに行くとしよう」
-商都の軍司令部・応接室にて-
「よく来て頂いた。
軍の指揮を拝命しているクリュネガーです」
「ツトムと申します。
微力ながら貴国の防衛をお手伝いしたく参上致しました」
目の前にいるのは本当にただの少年だった。さすがに成人はしているのだろうが。
「グレドール伯爵の要望は承りました。
私からの命令書を渡しますので、前線に着いたらまず現地の指揮官に見せてください」
「わかりました」
「それとこれはあくまでも"お願い"なのですが、現場ではなるべく指揮官の意向に沿うよう動いてもらますか?」
「もちろんです。自分も現地の指揮系統を乱すようなことをするつもりはありませんので」
「それは助かります」
随分と落ち着いた受け答えだ。
戦場に赴くにあたって怯えのようなものは一切感じられない。見た目と違って豪胆さを内包している感じさえ見受けられる。
……当然のことなのかもしれない。
バルーカはベルガーナ王国において対魔族最前線の要衝だ。
幾度か城内に特殊な方法で魔物の侵入を許したとの情報提供を受けてるし、南方に出兵して砦を奪還したとの戦勝報告もされている。
この者もそんな激戦をくぐり抜けてきたのかもしれない。
少なくともバルーカの領主であるグレドール伯がこの少年魔術士の戦闘力に絶大な信頼を置いていることだけは確かだ。
これだけ他国をも巻き込む事態にして結果役立たずでしたでは、ベルガーナ国内における伯爵の立場も危うくなるのだから。
「最新の戦況を教えて頂きたいのですが……」
「戦況はこちらのレイチェル補佐官に説明させましょう。
頼んだぞ」
「かしこまりましたわ」
状況説明は補佐官に丸投げして作戦室へと戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
応接室には戦況を説明するために補佐官の女性だけが残った。
レイチェルと呼ばれた女性はロザリナよりも背が高く、茶髪のショートカットでお胸は普通ぐらい、補佐官とのことだがナナイさんのような政治もできるマルチタイプではなく、キリッとした所作はモロ軍人って感じだ。
「失礼しますね」
レイチェルさんは向かいに座り、テーブルの上に地図を広げた。
「それでは最新の戦況をご説明させて頂きます」
「よろしくお願いします」
「昨日、イズフール川沿いの防御陣地に対して魔物による大攻勢が開始されました。防御ラインは激しい攻撃を受けていますが、現在のところどの陣地も防衛そのものは成功している状況です。
一方イズフール川上流の山すそにあるレグザール砦に本日未明、魔物の襲撃があり撃退したとの報告を受けています」
あれ?
これ、俺の出番はなくないか?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今回の投稿は明日加筆修正します
午前中に行う予定です
※話数のところに加筆予定であることを表記するようにしました
加筆完了後に表記は消します
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
追記)加筆修正済
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
77
お気に入りに追加
1,583
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした
赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】
『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました!
颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる