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内城の受付にてナナイさんへの面会手続きをする。
待たされることなく即呼ばれたが、案内されたのは補佐官の事務室ではなくロイター子爵の執務室だった。
「やぁ! わざわざ呼び出して悪いね」
「いえ……」
部屋の中にはロイター子爵と従卒らしき男性だけでナナイさんの姿はなかった。残念!
「4等級に昇格したんだって? おめでとう」
「ありがとうございます」
手で促されたのでソファに座った。従卒らしき男性がすぐに香り水を出してきた。
香り水とは紅茶やハーブティなど多種多様な茶葉を混ぜたような飲み物で、葉っぱの匂いの濃い味はあまり美味しくない。
「まだ冒険者になって3ヵ月ほどだろう。最速記録じゃないかい?」
「ギルドからは何も言われてませんので、過去にもっと短期間で昇格した人がいるのではないかと」
「そう言えば軍を退役した者が冒険者になる際は、見習い期間が免除されたはずだから君よりも早く昇格できるかもしれないな」
へぇ、そんな制度があるのか。
「確か軍歴が5年だったか3年だったかが条件だったはず……」
「軍を辞めて冒険者に転向する人は結構いるのですか?」
「冒険者のほうが稼げるからそこそこいるね。
軍での生活が合う合わないもあるだろうし、腕に自信があって若くて独身なら冒険者として一旗揚げようと考えるのも自然じゃないかな」
「意外ですね」
「ん? 何がだい?」
「いえ、指揮なさるお立場でしたら麾下の兵が冒険者に転向されたらお困りになると思ったので」
「そこそこいると言っても問題になるほどの人数ではないからね。
当然リスクのあることだし。その辺りは実際冒険者として活動している君のほうが詳しいと思うが」
いくら腕に自信があっても、見習い期間をスキップできても、魔物相手に命を失うリスクは常に付きまとう。
「それに転向しても軍に復帰する者も多い。
それなりに稼いだから、結婚して家庭を持ったから、などの理由で復帰して来るんだよ。
やはり保障や安定は軍のほうが格段に上だからね」
自己責任な冒険者とは全然違うよな。
戦闘が発生しなくても給料は貰えるのだし。
警備任務なんかはそれはそれで大変なんだろうけど。
「前置きが長くなったね。
今日、君を呼んだ理由なんだが……」
「はい」
「アルタナ王国のルミナス大要塞から南の、前に前進拠点があった場所からさらに南下した魔族の勢力圏に近いところに魔物が集結中らしい」
「それってまたアルタナ王国に侵攻してくるってことでしょうか?」
「おそらくは、ね」
ルミナス大要塞……アルタナ王国の最南部に築かれた、山と山の間にダムのようにそびえ立つ巨大要塞だ。
南から侵攻して来る魔物を防ぐ最重要防衛拠点になっている。
アルタナ王国は2ヶ月前に魔物の侵攻を受け、ルミナス大要塞を突破されて王都まで魔物の軍勢に迫られた。
「前回の轍を踏まないよう、予めルミナス大要塞に赴けということでしょうか?」
「いや、それには及ばない。
君も南砦奪還の際の軍議に出てたから知ってると思うけど、今回の報告を受けて(ベルガーナ)王国から派遣されている第3騎士団のアルタナ王国駐屯延長が決定された」
南砦奪還作戦には本来第3騎士団も参加する予定だった。
侵攻を受けたアルタナ王国に援軍として派遣され、そろそろ帰国して南砦の防衛に加わるはずだったのだが……、派遣期間が延長されたのか。
「帝国軍も動きを見せているし、今回は軍のみで対処するつもりだ」
今回はって、前回の時もロイター子爵を除いた各国は俺のことなんか当てにしてなかったはず。
「となると自分は…………?」
「君には不測の事態に備えて待機してもらいたい。
具体的には遠出をしないこと、出掛ける際には家人に目的地を告げることを徹底して欲しい」
「わかりました」
丁度しばらくの間休みにしたばかりだし、待機することに何も問題はない。
「不測の事態というのはひょっとして特殊個体絡みですか?」
「それもあるけどね。
君がナナイ君に語ったように、特殊個体が侵攻に加わる可能性は低いのだろう。
今こちらが懸念しているのは、オーガによる投石や集団転移のような魔族側が新たな戦法を仕掛けてくることなんだ」
アルタナ王国の武闘大会の最中に現れた異形の魔族…………アイツが魔物を指揮してるのだろうか?
あの時捕らえることができていれば……
ランテスがいた、近衛兵もいた、あの絶対有利な状況で取り逃がしたのはかなり痛い。
「そうであるなら、自分はルミナス大要塞に赴いてあちらで待機したほうが良くありませんか?
魔族側が何か仕掛けてきても現地で即対応可能ですし」
ロイター子爵は即答せずに目を閉じた。
椅子の肘掛けの部分を人差し指でトントントントンと叩いている。
香り水を飲んでみるが、案の定美味しくはない。
しばらくしてロイター子爵は肘掛けを叩くのを止め俺のほうを向いた。
「…………君は初見の攻撃に対応できるのかい?
最初の集団転移による襲撃の時に、いきなり矢が刺さって死にかけたのを忘れたのかな?」
「いえ、確かにあの時は驚きました」
あれは完璧な奇襲だったからなぁ。
矢が身体を貫いたことは認識できても頭が理解できなかったとでも言うか……
その時のことを教訓として街中でも常に地図(強化型)スキルを表示するようにしたし、そのおかげで異形の魔族の発見に繋がりもした。
「最初の攻撃は軍が受け止める。
状況が判明して必要ならば君に対処を求める。
この順序を変えるつもりはないよ」
「……わかりました」
できれば被害が出る前に対処するのが理想だけど、現実はそう思い通りにはいかないらしい。
待たされることなく即呼ばれたが、案内されたのは補佐官の事務室ではなくロイター子爵の執務室だった。
「やぁ! わざわざ呼び出して悪いね」
「いえ……」
部屋の中にはロイター子爵と従卒らしき男性だけでナナイさんの姿はなかった。残念!
「4等級に昇格したんだって? おめでとう」
「ありがとうございます」
手で促されたのでソファに座った。従卒らしき男性がすぐに香り水を出してきた。
香り水とは紅茶やハーブティなど多種多様な茶葉を混ぜたような飲み物で、葉っぱの匂いの濃い味はあまり美味しくない。
「まだ冒険者になって3ヵ月ほどだろう。最速記録じゃないかい?」
「ギルドからは何も言われてませんので、過去にもっと短期間で昇格した人がいるのではないかと」
「そう言えば軍を退役した者が冒険者になる際は、見習い期間が免除されたはずだから君よりも早く昇格できるかもしれないな」
へぇ、そんな制度があるのか。
「確か軍歴が5年だったか3年だったかが条件だったはず……」
「軍を辞めて冒険者に転向する人は結構いるのですか?」
「冒険者のほうが稼げるからそこそこいるね。
軍での生活が合う合わないもあるだろうし、腕に自信があって若くて独身なら冒険者として一旗揚げようと考えるのも自然じゃないかな」
「意外ですね」
「ん? 何がだい?」
「いえ、指揮なさるお立場でしたら麾下の兵が冒険者に転向されたらお困りになると思ったので」
「そこそこいると言っても問題になるほどの人数ではないからね。
当然リスクのあることだし。その辺りは実際冒険者として活動している君のほうが詳しいと思うが」
いくら腕に自信があっても、見習い期間をスキップできても、魔物相手に命を失うリスクは常に付きまとう。
「それに転向しても軍に復帰する者も多い。
それなりに稼いだから、結婚して家庭を持ったから、などの理由で復帰して来るんだよ。
やはり保障や安定は軍のほうが格段に上だからね」
自己責任な冒険者とは全然違うよな。
戦闘が発生しなくても給料は貰えるのだし。
警備任務なんかはそれはそれで大変なんだろうけど。
「前置きが長くなったね。
今日、君を呼んだ理由なんだが……」
「はい」
「アルタナ王国のルミナス大要塞から南の、前に前進拠点があった場所からさらに南下した魔族の勢力圏に近いところに魔物が集結中らしい」
「それってまたアルタナ王国に侵攻してくるってことでしょうか?」
「おそらくは、ね」
ルミナス大要塞……アルタナ王国の最南部に築かれた、山と山の間にダムのようにそびえ立つ巨大要塞だ。
南から侵攻して来る魔物を防ぐ最重要防衛拠点になっている。
アルタナ王国は2ヶ月前に魔物の侵攻を受け、ルミナス大要塞を突破されて王都まで魔物の軍勢に迫られた。
「前回の轍を踏まないよう、予めルミナス大要塞に赴けということでしょうか?」
「いや、それには及ばない。
君も南砦奪還の際の軍議に出てたから知ってると思うけど、今回の報告を受けて(ベルガーナ)王国から派遣されている第3騎士団のアルタナ王国駐屯延長が決定された」
南砦奪還作戦には本来第3騎士団も参加する予定だった。
侵攻を受けたアルタナ王国に援軍として派遣され、そろそろ帰国して南砦の防衛に加わるはずだったのだが……、派遣期間が延長されたのか。
「帝国軍も動きを見せているし、今回は軍のみで対処するつもりだ」
今回はって、前回の時もロイター子爵を除いた各国は俺のことなんか当てにしてなかったはず。
「となると自分は…………?」
「君には不測の事態に備えて待機してもらいたい。
具体的には遠出をしないこと、出掛ける際には家人に目的地を告げることを徹底して欲しい」
「わかりました」
丁度しばらくの間休みにしたばかりだし、待機することに何も問題はない。
「不測の事態というのはひょっとして特殊個体絡みですか?」
「それもあるけどね。
君がナナイ君に語ったように、特殊個体が侵攻に加わる可能性は低いのだろう。
今こちらが懸念しているのは、オーガによる投石や集団転移のような魔族側が新たな戦法を仕掛けてくることなんだ」
アルタナ王国の武闘大会の最中に現れた異形の魔族…………アイツが魔物を指揮してるのだろうか?
あの時捕らえることができていれば……
ランテスがいた、近衛兵もいた、あの絶対有利な状況で取り逃がしたのはかなり痛い。
「そうであるなら、自分はルミナス大要塞に赴いてあちらで待機したほうが良くありませんか?
魔族側が何か仕掛けてきても現地で即対応可能ですし」
ロイター子爵は即答せずに目を閉じた。
椅子の肘掛けの部分を人差し指でトントントントンと叩いている。
香り水を飲んでみるが、案の定美味しくはない。
しばらくしてロイター子爵は肘掛けを叩くのを止め俺のほうを向いた。
「…………君は初見の攻撃に対応できるのかい?
最初の集団転移による襲撃の時に、いきなり矢が刺さって死にかけたのを忘れたのかな?」
「いえ、確かにあの時は驚きました」
あれは完璧な奇襲だったからなぁ。
矢が身体を貫いたことは認識できても頭が理解できなかったとでも言うか……
その時のことを教訓として街中でも常に地図(強化型)スキルを表示するようにしたし、そのおかげで異形の魔族の発見に繋がりもした。
「最初の攻撃は軍が受け止める。
状況が判明して必要ならば君に対処を求める。
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