異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

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 風槍・零式は現状俺の切り札だが、そこまで秘匿してるわけでもない。
 他に人がいる状況でも使用しているし、レイシス姫やナナイさんに見せてもいる。
 ただ指導するとなると……

「本格的に指導するのではなく、軽くやり方を教える程度であれば構いませんよ」

「そうか。報酬はどうするかね?」

 報酬かぁ……
 どうするかな……

「報酬は実際に習得できた者が出てからでいいですか?
 ひょっとしたら誰も習得できない可能性もありますので」

「君がそう言うのであればそれでいい。
 ウチの魔法担当の指導員に教えてもらう。
 その指導員は元2等級の魔術士なので習得できないということはないだろう」

 だといいけどな。
 チェイスという実例があるので2等級と言えどピンキリなのは間違いない。
 その指導員がキリではないといいが……

「では訓練場に行こうか」

 今からかよっ!?



 屋外にある訓練場はかつて5等級への昇格試験を戦った会場だ。
 塀側には横幅の長い階段のようなモノがあり、模擬戦においては客がそこに直接座って観戦していた。
 試合会場と見物スペースを分けていたロープも今はなく、この時間帯は指導も行われていないようで数人の冒険者が汗を流しているだけだ。


「彼が魔法を指導しているヨロムーグだ」

 レドリッチが40歳ぐらいの中背の男性を紹介した。

「よろしく」

「よろしくお願いします」

「そう言えば君はヨロムーグの指導を受けたことはないのかね?
 城外ギルドにも魔法を指導しに出向いてるが」

「私が指導した中には彼はいませんね」

「えっと……、自分の場合はどうしても技量未熟な剣術などの指導を優先して受けねばならず……」

 なんだろう? この教師にちゃんと授業出なさいと怒られているかのような感覚は?!

「君は魔術士なのだろう?
 どうして剣術を修める必要がある?」

 まぁ城外ギルドの剣術指導も1~2回ぐらいしか参加したことはないが……
 だが! ここからは俺のターンだ!!

「近接戦闘に対応できないような魔術士が戦場でどれほどの役に立つとでも?
 まして強者相手の戦闘には参加する資格すらないと断言できますね」

「むっ?!」
「ふ~ん……」

 言ってやった! 言ってやったぞ!!

 別に俺は単に言い返したかったというだけでこんなことを言ったわけではない。
 俺がこれから教える魔法は風槍・零式。ゼロ距離射程の魔法だ。
 近接戦闘ができることが大前提の魔法なのだ。

「君のことは色々と聞いているよ。
 昇格試験で5人抜きしたり、
 格上の3等級相手にも勝ったり、
 武闘大会でも本選進出という結果を残し、
 このギルド建物に大穴を空けた……規格外の魔術士ということをね」

 最後のはいるか? 事実だけどさ。

「しかし! 上には上の存在がいるということを思い知ってもらおう!!」

 そう言って何やら構えるヨロムーグ。

「……今から自分が魔法を教えるのでは?」

 すぐにでも模擬戦を始めるかのような雰囲気を出してるが……

「そ、そうだったね。
 なにせ魔法の指導を受けるなんて久しぶりでつい、ね」

「そろそろ始めてもらおうか」

「わかりました」

 自分とヨロムーグとレドリッチがいる周囲を土壁で囲む。

「ん? どうしてこんなことを?」

「この魔法は一定の技量がある魔術士にのみ教えて欲しいのです。
 基礎的な修練が必要な駆け出しには見せないほうがいいでしょう」

「君も十分駆け出しなのだが……」

 とりあえずレドリッチのツッコミは無視する。

「ヨロムーグさんは風や……ウインドランスは知っていますか?」

「ああ、近頃新しく開発された魔法だな」

 開発したなんて大層なモノでもないのだが……

 的用に普段使ってるのを作る。

「えっ?!」

 何かに驚いてる様子のヨロムーグ。

「ウインドランスを回転させて破壊力を高めたのがこれです」

 ズドドドドォォォォォォ!!

 風槍(回転)を放ってちょっとした家ぐらいの大きさの的を粉砕する。

「ええっ?!」

 そして再び的を作り、

「次のが特殊個体を倒した魔法です。
 先ほどのウインドランスを回転させながら超圧縮していき……」

 通常よりも時間をかけて圧縮していく過程を見せる。

「……拳の先に凝縮させて……」

 的にブチ当てた!

 先ほどとは違って的の中央当たりに拳大ほどの穴が穿たれる。

「…………?!」

「以上ですね」

 幾ばくかの無言の時間が過ぎて、最初に口を開いたのは意外にもレドリッチだった。

「ウインドランスとやらも射程が短いと思ったが、それは相手に直接当てるのかね?」

「そうですね。
 この魔法(=風槍・零式)は射程も効果範囲や発動速度も全て捨てて、単体相手への威力に特化してますから」

「君が近接戦闘を修めようとしてるのもこの魔法を使うためかね?」

「その通りです、と言えますし違うとも言えます。
 強者との戦闘では防御でも回避でもいいのですが、如何にして攻撃を凌ぐかが最も重要なのです。
 いくら強力な攻撃手段があってもやられてしまっては意味がありません」

「そうか……
 君がこの魔法を習得できないと言ったのも正確には、近接戦闘の心得がない魔術士が習得しても意味がないということなんだな?」

「まぁそういった意味もありますが……」

「……イヤ待ちたまえ!! それは君がソロだからだろう?
 パーティー単位での戦闘ならば攻撃は盾持ちが防いでくれる。
 その隙に…………あっ!?」

「そうです。
 パーティーメンバーが攻撃を防いだとしても、最終的には魔術士が拳の届く距離で対峙しなくてはなりません」

 もっとも俺の近接戦闘の技量も素人に毛が生えた程度だ。
 魔盾と回復魔法、この2つが俺の近接戦闘を支えていると言っても過言ではない。

「ふむ……
 誰に習得させるべきか、近接戦闘の件も含めて今後の課題になるか……」
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