異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
上 下
296 / 380

293

しおりを挟む
「そろそろ食事にしましょう」

 盛り上がってきたところルルカの一言で中断させられてしまった。
 梯子を外された感があるが、このまま玄関で始めてしまったら夕飯がかなり遅くなってしまう。ディアなどは我慢できないだろう。

 しかしあれだけ帰りが遅くなったら先に食べるよう言ったのに……
 まぁ今日は4等級に昇格した記念すべき日だ。あまりうるさいことは言わないでおこう。




……

…………


「…………というわけで、明後日3人(ロザリナ・サリア・ゼアータ)を連れて王都に行くことになった」

「ロザリナ、良かったわね」

「ルルカさん、ありがとうございます」

 今の2人のやり取りからすると、ロザリナは普段からサリアさんの身を案じていて、そのことをルルカに話していたことが伺える。
 俺ももう少し気に掛けるべきだっただろうか?
 しかしいくら同じ等級とはいえ、サリアさんとゼアータさんは俺なんかよりもずっと冒険者としてのキャリアが長いからなぁ。2人からしたら余計なお世話だろうし。
 もっとも気に掛けたところで具体的にはどうするんだって話ではあるけど……

「……それで、王都行きのついでに受けられた依頼というのはどのような?」

「ギルドで余っているオークを王都で売るよう頼まれた。
 実はミリスさんが……」

 ミリスさんの事情も話しておく。
 どうせギルドで指導しているロザリナから情報は漏れるのだ。
 であるなら、先んじて俺の口から話しておけば要らぬ誤解が生まれるようなこともなくなる。
 何もやましいことなどないのだ。
 なので、俺が担当は外見が好みなミリスさんを望んでいることが動機なのは当然秘匿する。

「…………なので、今後はたまにギルドの依頼を受けるようになるだろう」

「(じぃーーーーーー)」

 こちらの説明には何も不手際はないはずなのだが、ルルカは何かを感じ取ったのか俺に無言のプレッシャーをかけてくる。

「……モグモグ…………ンンッ…………オークの買い取り額が下がっているのか?」

 今まで食べることに専念して黙って聞いていたディアが口を開いた。
 つか食べ物の話題だから喰い付いてきただけとか?

「ああ。南の砦に駐留する軍が新たにバルーカに供給してるようだ」

「昼にルルカさんと買い物した時はオーク肉の値段は下がってなかったぞ」

 元主婦で買い物スキルが高いから売り物の値段を覚えているのか、あるいは食いしん坊だから食品関連のチェックは万全なのか…………どっちなんだ?

「ディア、今お店で売られているのは価格が下がる前に仕入れたモノよ。
 店側が値段を下げてくるのはもうしばらく後かしら」

「そうか……」

 元商人のルルカの見立てに、なぜか気落ちするディア。
 待てよ…………もしかして…………、

「ディア、ひょっとしてもっと肉が食べたいんじゃないか?」

「そ、そんなことはないぞ!!
 ただ、値段が下がればその分だけ買う量を増やせると思って……」

 それもう、もっと食べたいって言ってるようなものだろ。

「角付き肉があるが食べるか?」

「食べる!! あっ…………」

 案の定ってやつだな。
 でもディアにはちょっと可哀そうなことをした。
 この家で1番に小さいのは俺だし、ルルカもロザリナも俺より大きいというだけで女性としては一般的な体格だ。まぁロザリナの背が少し高いぐらいか。
 なので普通に食べてるつもりでも一般的には少ない食事量となる。
 ルルカもディアには多めに配分して料理してるのだが、基準となる元の食事量が少ないのでディアからすればそれでも少ないのだろう。


 角付き肉の塊は定期的に食べてるので買った当初よりかなり小さくなっている。
 もっともまだ手付かずの大きな塊が3つも収納にあるけど……

 ディアは角付き肉を自分で料理して、収納から追加で出したパンと共に勢いよく食べている。

「ルルカ、これからディアの食事は2人分を想定して作ってくれ」

「かしこまりました。
 ディアも足りなかったら遠慮しないで言ってね」

「はぁむふぁむ…モグ…ハムふぁむ!?」

 おそらく『私はそんなに大喰らいではないぞ!?』的なことを言ってるのだろうが説得力は皆無だ。

「それで話を戻すが、明後日王都に行くとして明日は城に4等級に昇格したことを報告しに行こうと思う」

「ツトム様、明日はギルドに行ってもよろしいでしょうか?」

 剣の指導か。
 担当した6等級パーティーが指導を受けに壁外ギルド来るのだっけ。

「もちろん構わないぞ」

「ありがとうございます」

「そうだな……
 明日は城に行く前にディアのベッドや鏡付きの化粧台なんかを買い揃えよう」

「ツ、ツトム、私にそんな物は必要ないぞ!?」

「いいや、こういう物はきちんと揃えないとダメだ」

 むしろディアの家具を買うのが遅すぎたぐらいだ。
 ロザリナの時はもっと早く買ったのだし。
 武闘大会出場のためにアルタナ王国に滞在したり、4等級への昇格試験(に代わる特殊依頼)があったりでやむを得ない状況ではあったが。

「ルルカも明日はディアの買い物を手伝ってくれるか?」

「もちろんです」

 どの道ロザリナがギルドに行っていないのなら、警護の都合上ルルカはディアと一緒に行動してもらわないと困るわけだけど……

 ルルカとロザリナとはディア……というより3人目の女性を買う際に、2人と仲良くできる女性という条件を守ることを約束している。
 2人にはディアについて聞くことは特にしてないが、大丈夫だよな? 仲良く過ごしてるとは思うが……
 でもこればかりは男性視点では計り知れない領域だからなぁ。
 念のために2人に聞く機会を作るか。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...