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「あと君に頼みたいことがある」
「なんでしょう?」
「以前話してくれた手足を繋げる回復魔法、それを用いての治療を頼みたい」
「それは構いませんが……
何か大きな戦闘でもありましたか?」
アルタナ王国に行ってる間に何かあったのだろうか。
「そんな大したことでもないのだけどね。
5日前に南砦の偵察隊が魔物の小集団と鉢合わせてしまって戦闘になったんだ。
その魔物の中に、前に君が報告してくれたオークリーダークラスの技オークがいてね、そいつに腕を斬り落とされた者がいる。
結局その戦闘では他に2名の戦死者が出てしまった」
「亡くなられた方が2人も……」
『技オーク』とは、南東の森で遭遇した高い戦闘技能を持った装備の充実したオークのことだ。
その死体は未だ収納に入ったままだけど、俺が倒したのはただのオークだった。
オークリーダーの技量型だとすると果たしてどれほどの強さか。
「他にもう1人、従騎士が真剣を使っての訓練中に事故を起こしてね、手の指が数本……」
指を繋げるのは初めてだな。まぁ問題ないだろうけど。
「毎年訓練中の事故は起こるものなんだが、今回は運悪く大事故に発展してしまった」
「前にも話しましたが、斬り落とされた腕と指は収納魔法で保存してますか?」
「もちろんだ」
「でしたら問題ありません」
「既に2人とも別室で待機させている。案内しよう」
ロイター子爵と共に執務室を出た。
「2人には君のことがわからないように目隠しをしている」
「配慮して頂きありがとうございます」
「なに、こちらとしても教会にバレて面倒事に発展するのを避けたいのは同じだ。
っと、ここだ」
執務室からほど近い部屋に入る。
椅子に20代と10代と思わしき男性が座っており、2人とも頭からゴザ袋みたいなものを被せられている。
2人の前の机にはそれぞれ斬り落とされた腕と指3本が置かれていた。
見ようによっては拷問真っ最中な感じに見えなくもない。
「傷口を開かせるために斬りますので痛いですよ?」
まずは20代男性の腕を繋げる。
俺の姿は見えなくとも、声とかでバレないだろうか?
録音器具とかはないのだしそこまで気にすることはないかもしれないが……
「おぉ! う、動く! ありがとう! 誰だかわからないけど本当にありがとう!」
男性はありがとうを連呼しながら部屋を出て行った。
ロイター子爵自ら部屋の外まで男性を誘導していたのには少し驚いた。
もちろん俺の存在を秘匿する方針の一環なのだろうけど。
次は10代の従騎士の男性というか少年だ。
俺と近い年齢だろう。外からでも緊張している様子が伺える。
少年の右手は小指・薬指・中指の3本が切断されていた。
また斬るから痛いよと言おうとしてあることに気付く。
薬指と中指、どちらがどっちかよくわからないのだ……
一目でわかる小指はともかく、薬指と中指は第2関節付近を斜めに斬られているのが災いして、どちらの指を宛がっても中指が長くなってしまう状態にある。
医学的に何か判別するポイントがあるのかもしれないが、そんなの素人の俺にわかるはずもない。
部屋にある衝立の裏で子爵に事情を説明する。
子爵も自ら見に行くが、
「(困ったな、私にもわからないね)」
「(どうしましょう?)」
「(う~~ん…………)」
もし間違って繋げてしまった場合、それぞれの指は上手く機能するのだろうか?
血管や神経がピッタリ繋がらないとヤバいような……
「(よし! 本人に決めてもらおう。
自分の指なんだし、彼自身に責任を負ってもらう)」
「(わかりました)」
子爵が少年にゴザ袋を外させ、自分で決断するよう求めている。
時間が掛かっていることから必死に考えているのだろう。
まだ若いのにこんな決断をさせてしまって申し訳なく思ったが、そもそも軍人というのは自分のことはもとより、他人の命すら左右するような職業だ。
この経験も彼の軍人としての今後の糧にしてもらう他ない。
子爵からの合図があり、治療を再開する。
「傷口を斬りますので痛いですよ?」
「は、はい!」
緊張故か甲高い返事をする少年。
机には彼自身が決断した順で左から中指、薬指と並んでいた。
…
……
…………
「これが今回の報酬だ」
執務室に戻ってすぐ報酬の話となり、大金貨4枚40万ルクが提示された。
「こんなに…………よろしいのですか?」
なにせ治療には30分もかかってないのだ。
しかも、多少アクシデントがあった上での治療時間である。
「もちろんだ。
あのまま四肢の欠損者として軍が抱えることになれば、今回の治療費などとは桁違いの金額が消し飛ぶことになる。
教会に治療を依頼したとしても法外な治療費を請求されるだろうし、そもそもが教会に頼んでも手足を繋げることはできないとの噂もある」
「そのような噂は本当でしょうか?」
仮にもトップクラスの治癒術師を多く揃えているのに?
「実際治療を断られたという事例は数多く存在する。
中には君が気に掛けていた、切断した手足の保存状態が悪かった者も含まれていたり、当然法外な額の治療費を支払えないから断られたケースも多数存在する。
そして手足を繋げたという事実は噂レベルでしか聞こえてこない。
実際莫大な治療費を支払えるのは上流階級の者達だから、一般にまで情報が伝わらないのはある意味当然なんだが……」
「実は自分も懸念していたことがあります。
教会に限らず軍も冒険者ギルドも治癒術師を大事にし過ぎではないでしょうか?
こんな箱入り娘の如く扱って実戦にも出さずでは、せっかくの魔法の技能や持ち合わせた才能も宝の持ち腐れかと」
前々から感じていたことを言ってみる。
「痛いところを突いて来るね。
最前線で戦っている君からすれば歯がゆい限りなんだろうけど、軍もギルドも今は治癒術師の確保が最優先だからね。
だけどずっとこのままということはないし、次の段階に進む時は必ず来ると思う」
ロイター子爵に責任があることではないし、子爵1人ではどうにもならないことだ。
「最後に1つ、君に言わなければならないことがある」
「なんでしょうか?」
「君が不在の間、王都から調査官がバルーカにやって来た」
ついに来たか?!
「こちらから提出した南砦奪還の報告書や、その他の戦闘に関する報告に対する調査で、当然そこには君に関することも含まれていた」
「これで中央政府に目を付けられてしまったのでしょうか?」
「それは何とも言えないね。
調査自体は正当なものだったし、特に君のことを狙い撃ちしてのことではなかった。
あとは軍務卿あたりが調査官の報告をどのように受け止めるかだが……」
面倒なことにならなければいいけど。
「なんでしょう?」
「以前話してくれた手足を繋げる回復魔法、それを用いての治療を頼みたい」
「それは構いませんが……
何か大きな戦闘でもありましたか?」
アルタナ王国に行ってる間に何かあったのだろうか。
「そんな大したことでもないのだけどね。
5日前に南砦の偵察隊が魔物の小集団と鉢合わせてしまって戦闘になったんだ。
その魔物の中に、前に君が報告してくれたオークリーダークラスの技オークがいてね、そいつに腕を斬り落とされた者がいる。
結局その戦闘では他に2名の戦死者が出てしまった」
「亡くなられた方が2人も……」
『技オーク』とは、南東の森で遭遇した高い戦闘技能を持った装備の充実したオークのことだ。
その死体は未だ収納に入ったままだけど、俺が倒したのはただのオークだった。
オークリーダーの技量型だとすると果たしてどれほどの強さか。
「他にもう1人、従騎士が真剣を使っての訓練中に事故を起こしてね、手の指が数本……」
指を繋げるのは初めてだな。まぁ問題ないだろうけど。
「毎年訓練中の事故は起こるものなんだが、今回は運悪く大事故に発展してしまった」
「前にも話しましたが、斬り落とされた腕と指は収納魔法で保存してますか?」
「もちろんだ」
「でしたら問題ありません」
「既に2人とも別室で待機させている。案内しよう」
ロイター子爵と共に執務室を出た。
「2人には君のことがわからないように目隠しをしている」
「配慮して頂きありがとうございます」
「なに、こちらとしても教会にバレて面倒事に発展するのを避けたいのは同じだ。
っと、ここだ」
執務室からほど近い部屋に入る。
椅子に20代と10代と思わしき男性が座っており、2人とも頭からゴザ袋みたいなものを被せられている。
2人の前の机にはそれぞれ斬り落とされた腕と指3本が置かれていた。
見ようによっては拷問真っ最中な感じに見えなくもない。
「傷口を開かせるために斬りますので痛いですよ?」
まずは20代男性の腕を繋げる。
俺の姿は見えなくとも、声とかでバレないだろうか?
録音器具とかはないのだしそこまで気にすることはないかもしれないが……
「おぉ! う、動く! ありがとう! 誰だかわからないけど本当にありがとう!」
男性はありがとうを連呼しながら部屋を出て行った。
ロイター子爵自ら部屋の外まで男性を誘導していたのには少し驚いた。
もちろん俺の存在を秘匿する方針の一環なのだろうけど。
次は10代の従騎士の男性というか少年だ。
俺と近い年齢だろう。外からでも緊張している様子が伺える。
少年の右手は小指・薬指・中指の3本が切断されていた。
また斬るから痛いよと言おうとしてあることに気付く。
薬指と中指、どちらがどっちかよくわからないのだ……
一目でわかる小指はともかく、薬指と中指は第2関節付近を斜めに斬られているのが災いして、どちらの指を宛がっても中指が長くなってしまう状態にある。
医学的に何か判別するポイントがあるのかもしれないが、そんなの素人の俺にわかるはずもない。
部屋にある衝立の裏で子爵に事情を説明する。
子爵も自ら見に行くが、
「(困ったな、私にもわからないね)」
「(どうしましょう?)」
「(う~~ん…………)」
もし間違って繋げてしまった場合、それぞれの指は上手く機能するのだろうか?
血管や神経がピッタリ繋がらないとヤバいような……
「(よし! 本人に決めてもらおう。
自分の指なんだし、彼自身に責任を負ってもらう)」
「(わかりました)」
子爵が少年にゴザ袋を外させ、自分で決断するよう求めている。
時間が掛かっていることから必死に考えているのだろう。
まだ若いのにこんな決断をさせてしまって申し訳なく思ったが、そもそも軍人というのは自分のことはもとより、他人の命すら左右するような職業だ。
この経験も彼の軍人としての今後の糧にしてもらう他ない。
子爵からの合図があり、治療を再開する。
「傷口を斬りますので痛いですよ?」
「は、はい!」
緊張故か甲高い返事をする少年。
机には彼自身が決断した順で左から中指、薬指と並んでいた。
…
……
…………
「これが今回の報酬だ」
執務室に戻ってすぐ報酬の話となり、大金貨4枚40万ルクが提示された。
「こんなに…………よろしいのですか?」
なにせ治療には30分もかかってないのだ。
しかも、多少アクシデントがあった上での治療時間である。
「もちろんだ。
あのまま四肢の欠損者として軍が抱えることになれば、今回の治療費などとは桁違いの金額が消し飛ぶことになる。
教会に治療を依頼したとしても法外な治療費を請求されるだろうし、そもそもが教会に頼んでも手足を繋げることはできないとの噂もある」
「そのような噂は本当でしょうか?」
仮にもトップクラスの治癒術師を多く揃えているのに?
「実際治療を断られたという事例は数多く存在する。
中には君が気に掛けていた、切断した手足の保存状態が悪かった者も含まれていたり、当然法外な額の治療費を支払えないから断られたケースも多数存在する。
そして手足を繋げたという事実は噂レベルでしか聞こえてこない。
実際莫大な治療費を支払えるのは上流階級の者達だから、一般にまで情報が伝わらないのはある意味当然なんだが……」
「実は自分も懸念していたことがあります。
教会に限らず軍も冒険者ギルドも治癒術師を大事にし過ぎではないでしょうか?
こんな箱入り娘の如く扱って実戦にも出さずでは、せっかくの魔法の技能や持ち合わせた才能も宝の持ち腐れかと」
前々から感じていたことを言ってみる。
「痛いところを突いて来るね。
最前線で戦っている君からすれば歯がゆい限りなんだろうけど、軍もギルドも今は治癒術師の確保が最優先だからね。
だけどずっとこのままということはないし、次の段階に進む時は必ず来ると思う」
ロイター子爵に責任があることではないし、子爵1人ではどうにもならないことだ。
「最後に1つ、君に言わなければならないことがある」
「なんでしょうか?」
「君が不在の間、王都から調査官がバルーカにやって来た」
ついに来たか?!
「こちらから提出した南砦奪還の報告書や、その他の戦闘に関する報告に対する調査で、当然そこには君に関することも含まれていた」
「これで中央政府に目を付けられてしまったのでしょうか?」
「それは何とも言えないね。
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