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 勢いで王城まで来てみたが、レイシス姫にだって予定というものがある。
 そんなこちらに都合良く会えやしない。
 と思ったが、

「こちらへどうぞ」

 意外にも謁見の手続きをするとすぐに案内された。



 バルーカ城でイリス姫と会う時と同じような豪華な部屋に通される。
 その部屋の床が1段高くなっているところにレイシス姫が座っていた。
 中々にセクシーなドレス姿だ。
 俺はやや離れた低い位置で片膝をつき、

「本日は拝謁の栄誉を賜り恐悦至極に存じ奉ります」

「そのような堅苦しい挨拶などよい。
 それで火急な用件とは?」

「は。この王都に魔物が侵入しておりますので、街中における交戦許可を頂きたく……」

「なっ!?」

 レイシス姫は大層驚いている。当たり前か。

「王都の中に魔物がいるのなら大騒ぎになっているか既に退治されているだろう。
 のんびり交戦許可を求めてくるのはおかしくないか?」

 レイシス姫の後ろに控えている女性の発言だ。補佐官だろうか?
 一応、"魔族に協力する人間"である可能性は言わないでおく。スキルのことを言わずに上手く説明できる自信がないからだ。

「ある程度接近して確認しましたところ、大柄ではありましたが人の姿形をしておりました。
 ですが、魔物には間違いありません!」

「人の姿形をしているならば人ではないか!
 なぜ魔物と言い張る……」

 補佐官の発言をレイシス姫が手を挙げて止めた。

「ツムリーソ、その者がどうして魔物だとわかるのです?」

「えっと……、魔物の邪悪なる気配がするのでわかるのです。
 証拠を提示できないのが心苦しいのですが、これまで魔族側の強者と戦ってきた経験から間違いありません」

「…………」

 レイシス姫は何やら思案しておられる。
 やはりこの説明だと苦しいか?

 現場の宿屋はこの王城からでも索敵可能だ。
 魔物であることを指し示す赤い点は今もはっきりと表示されている。

「魔物についてはひとまず置きましょう。
 しかし残念ながらツムリーソ、わたくしではそなたの望みを叶えることはできません」

「えっ?」

「この王都における権限は全て私の父であるアルタナ王に集約されています。
 ほぼ王位継承が内定している長兄のベルゴールなら父の名代みょうだいとして命令を下すことも可能ですが、私では1人の兵士とて動かすことができません」

 まいったなぁ。
 レイシス姫が頼みの綱だったんだが…………

 他の方法だと……標的が王都を出るまで張り込むか?
 張り込み自体は地図(強化型)スキルがあるから楽ではある。
 標的は宿屋に宿泊しているのだからずっと王都に滞在するとも考え辛いし………

「ですので私自ら現場に赴きましょう!」

「「ええぇぇぇぇ!?」」

 思わず補佐官の女性と同じように声を上げてしまった。

「私が動けば身辺警護として近衛も随伴します。近衛にも捕縛する権限はありますので対応は可能でしょう。
 もっとも警護としての範囲内での権限ではありますが、この際やむを得ません」

「ひ、姫様! このような下賤な者の願いを聞くなどアルタナ王家に連なる御身分であられながら……」
「口を慎みなさい!」

「ひ、姫様!?」

「ツムリーソは私が敬愛するイリスお姉様の臣であり、私自身もこの者に借りがあります。
 粗略に扱うのは許しませんよ?」

「くっ…………、かしこまりました」

 補佐官さんは随分と悔しそうだ。

「ツムリーソ、何をしているのです? 急ぐのでしょう?
 着替えますので共にこちらに来なさい」

 ん?
 俺は今何を言われたんだ?

 『着替えますので共にこちらに来なさい』

 ひょっとしてレイシス姫の生着替えを目撃できるのか?
 ドキドキしながらついて行くと……




……

…………


 ですよねぇ……

 謁見の間に隣接している衣装部屋のようなところに入ると、侍女達が衝立で俺の視界を遮った。

「ところでツムリーソ、そなたはどうしてアルタナにいるのですか?」

 衝立の向こうからレイシス姫が話し掛けてくる。

「武闘大会に参加する為に数日前から滞在しております」

 目の前の衝立の向こう側にレイシス姫の裸体が……
 もっとも今更女性の裸程度で興奮はしない…………んな訳あるか! ロイヤルボディだぞ!! バッチリ見たいわ!!

「ほぉ。して結果は? まさか早々に敗退したなんてことは……」

「一応予選は勝ち抜きまして、明日からの本選に出ることになっています」

「それは重畳ちょうじょう。後ほど本選の冊子を買いに行かせましょう」

 不穏な感じから一転、機嫌が大層良くなるレイシス姫。
 模擬戦や大会で負けるぐらい許容して欲しいのだけど……

「それにしても予め知らせてくれれば観戦することもできましたが……」

 レイシス姫が客席にいた日には大騒ぎになるだろうな。
 ああ、でも王族には貴賓席が用意されるか。

「ツムリーソ、次回からはアルタナに来た際には必ず会いに来なさい。わかりましたね?」

「かしこまりました」

 この武闘大会が終わってしまえばこの国に来る用事もないはずだ。
 別にレイシス姫に会いたくないという訳ではないのだが。

「そなたの奴隷達はバルーカですか?」

「いえ、こちらに連れてきております」

「ならば1度彼女達とゆっくり話す機会を設けましょうか」

 えっ?!
 ええぇぇぇぇ!
 いきなり何を言いだすんだ、このお姫様は!?

「お、恐れながら、アルタナの姫君ともあろうお方が奴隷とお会いするのはいかがなものかと」

「特に私に意見した奴隷……ルルカだったかしら。
 彼女とは特にもう1度話してみたいわ」

 ルルカよ、レイシス姫にロックオンされてるぞ。

「ツムリーソ、きちんと手配するのですよ」

「自分はレイシス様が奴隷達とお会いするのには反対なのですが……」

 衝立が動かされて軍服姿のレイシス姫が顕現される。

「わかりましたね?」

「…………ハ、ハイ」

 大変なことになってきたぞ!?
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