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 取材が終わった時にはもう今日行われる予定の試合は全て終了していた。
 ライオネル商会の冊子は明日の昼頃から王都の各所で販売されるとのことで、明日買いに行こう。
 宿に帰って……っとその前に、本選の観戦チケットを買わないと。
 王都の南地区にある闘技場へと飛んで…………以前から許可もないのに普通に王都内を飛んでいるけど大丈夫だろうか?
 衛兵に聞きに行ってもいいけど藪蛇になっても困るしなぁ。
 大会本選の運営員にでもそれとなく聞いてみるか。


 闘技場のチケット売り場で4人分の指定席券を購入する。
 今日の反省も踏まえて自分の分の観戦チケットもしっかり確保した。
 値段は一般券が1万ルク、指定席券が25,000ルクで本予選よりもさらに値上がったが、本選用の価格設定といったところか。

 とりあえず目的は果たしたので宿に帰る。
 あっ!? かけ札を換金するのを忘れていた。
 下馬評の低さから結構な倍率になると思うのだが……
 まぁ換金は明日でいいか。どうせ休みなんだし。



「「「おかえりなさいませ」」っ」

「ただいま!」

「そして本選ご出場、「「おめでとうございます!」」」

「ありがとう。
 負けてもよかったんだが会場の雰囲気に流されてつい…………な」

 宿の部屋のドアを開けたらまたも3人揃って出迎えられた。
 密かに練習でもしてるのだろうか? 挨拶の息もピッタリだ。若干ディアに不慣れさを感じるがウチに来てまだ10日足らずなので仕方ない。

「ツトム様は凄いです。本選にご出場なさるとは……」

「ロザリナの本予選ベスト8入りも十分凄いからな?」

 シード枠があったので正確にはベスト6入りなんだけどな。

「ルルカは今日の試合どうだった?」

 今日は昨日と違って見せる戦いをする余裕はなかったからなぁ。

「ロザリナとディアが解説してくれましたので楽しめました」

「そりゃあよかった」

「ツトム様、ルルカさんはツトム様の試合ではそれはもう……」
「ロザリナ! 余計なことは言わないでいいのよ?」

「クスクス。承知しました」

 なんだ?

「……ディアはどうだった?」

「あのランス持ちの騎士はかなりの使い手だった。よく勝てたな」

「防戦一方だった時はさすがにダメかと思ったけどな、相手の体力が落ちるほうが早かった」

「外から見てただけでは全然わからなかった。
 そうか、最後のほうは動きが落ちていたのか……」

「間近で見ていたわけではないのだからわからなくて当然だよ」

 ディアは自分から剣や弓の道に進んだのではないと言っていたが、他者への評価や試合の論評は結構真面目なんだよな。

「あとロザリナ、今朝会場入りした時、グリードさんの準決勝の試合は見れたか?」

「いえ、私達が会場入りしたのはツトム様の試合の2試合ほど前のことですので。
 決勝で負けた試合は見ましたが」

 あちゃ~、肝心のアピールどころを見逃していたかぁ。
 俺に責任は一切ないが、グリードさんとは強敵(=二本角の黒オーガ)相手に共闘した間柄だ。多少の援護はしておくべきだろう。

「グリードさんは準決勝の格上相手にボロボロになりながらも辛勝した。そのことをサリアさんに伝えておいてくれないか?」

「それは構いませんが、どうして妹に……??」

「それはなんと言うか…………武士の情けって奴だ」

「ぶ……し??」

 俺は魔術士だけどな!



 本選前日の休息日。
 ルルカ達は3人で王都観光だ。いや、観光というよりショッピングだな。
 3日前の時は剣の修練で参加できなかったロザリナをメインにして店を回るようだ。

 俺の予定は、闘技場で本選の組み合わせを見て、かけ札を換金し冊子を買うことだ。
 まずは組み合わせを見に闘技場に行くと、

「よぉ!」

「ランテスか! 1ヵ月とチョイ振りだな!」

「ここで待っていれば組み合わせを見に来ると思ってな」

「ということはランテスも本選に進んだのか?」

「あ・た・り・ま・え・だ!
 俺が予選なんかで負けるはずがないだろう」

 これまた凄い自信だな。

「あれから割とすぐ(ベルガーナ王国の)王都のギルドに行ったらもうアルタナ王国に向かったと聞かされたよ」

「元々この武闘大会には出るつもりだったからな、アルタナがピンチということで予定を繰り上げたんだ。
 もっともアルタナに着いた時には魔物は撃破されていたが」

 俺がやったことではあるがここは知らんぷりだ。
 ん?

「見て見て、アレ」
「確か第1シードの……」
「ランテスよ!」

 いつの間にやら野次馬が集まって来ていた。

「さすが第1シード、人気者だねぇ」

「チッ。場所を変えよう」


 人気の少ない場所に移動して、念の為に囲いを作って外から見えないようにする。

「さすがにこれは大げさじゃないか?」

「フフフ、見て驚け!
 ジャジャーン! 俺が倒した黒オーガだ! 三本角だけどな」

 収納から黒オーガ(の死体)を出す。
 ずっとランテスに見せびらかしたかったのだ。

「三本角なんているのか……」

「二本角もいるが、こいつらとは戦ったことはないのか?」

「俺が戦ったのは一本角だけだ。
 剣を持ってたら貸してくれ」

「オマエ帯剣してるのに一体どうして……」

 収納から剣を出して渡した。
 ホブゴブリンが使っていたモノだ。

 !!!!
 ランテスは俺から剣を受け取るといきなり黒オーガを斬り付けた!

「なっ!?」

 黒オーガの硬い肌が斬撃を弾き、ホブゴブリンの剣は折れてしまった!

「こんななまくらでは一本角との違いなんてわからんか……」

「酷い! 何してくれちゃってるんだよ!!」

「いいじゃないか、こんな安物の剣の1本や2本ぐらい」

「この剣はなぁ、俺がホブゴブリンと激闘を演じてゲットした思い出の剣なんだぞ」

「買ってすらないじゃないか!
 大体ホブゴブリンなんかと激闘って…………
 ま、まぁそれは今はいい。
 それにしてもコイツの硬い肌を抜いたのは凄いじゃないか! どんな魔法なんだ?」

 右手に魔力を集中する。

「これが俺が開発した風槍・零式だ。
 オマエを倒すためのとっておきだったんだがな」

「殺す気かよっ!?」

 もちろん冗談だけど。

「二本角の死体がないってことは勝てなかったのか?」

「あぁ。
 その場にいた3等級の剣士と一緒に戦ったんだが手傷を負わすのが精一杯だった」

「撃退しただけでも大したもんだと思うぞ」

 二本角のほうが勝手に退いただけで、撃退したなんて言えたような状況ではなかったけど。

 ん?

 それに気付いたのは本当に偶然だった。
 敢えて言うなら、バルーカの街中で矢を受けて以来、外に出る時は常にスキルを表示させていたからだろう。
 このアルタナ王都の只中で魔物の反応を示す赤い点が一つ、地図(強化型)スキルに表示されていた。
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