上 下
255 / 360

252

しおりを挟む
 テント型の個室に戻って休んでいると、

「ツトム! いるか!?」

 グリードさんがテントに入ってくる。
 決勝戦を戦った後のようだ。
 見たところどこもケガしてる様子がないので、

「勝たれたみたいですね。おめでとうござ……」
「いんや、負けた!」

 はぃ?

「傷ひとつなさそうに見えるのですが」

「変な言い方だが、こっちがケガするようなまともな戦いにすらならなかった。
 ありゃあバケモンだわ」

 そんなに強い相手だったのか……

「それですぐバルーカに帰るから挨拶だけでもと思ってな」

「この後すぐ? 明後日の本選はご覧にならないので?」

「パーティー全員で来ていればそうしたんだがな。
 リーダー1人だけアルタナ観光するわけにもいかないさ」

 ナタリアさん達は一緒じゃなかったのか。
 そうだ!

「この後の自分の試合だけでも見ませんか?
 試合後にバルーカまで運びますから」

「ツトムは飛行魔法が使えるのだったな。だったら…………
 いや、やっぱり止めておこう。
 緊急時とかならともかく、何が悲しくて男2人で抱き合って飛ばないといけないんだ?」

「それもそうですね」

 例え女性を抱いて飛んでも、魔法行使中は下半身的な興奮は一切沸かないのだけどな。
 まぁ男を抱えて飛ぶのと女性を抱いて飛ぶのとでは気持ちの上で大差があるのは事実だ。

「それじゃあツトム、頑張れよ」

「グリードさんも道中お気を付けて」


 グリードさんが去って割とすぐ運営員が呼びに来た。
 準決勝の時と違って明らかに進行スピードが早くなっており、決勝戦になって第1シードが本気を見せ始めてきた感じだ。
 俺の決勝戦の相手は、

 チャルグット・38歳・男性・人種・グラバラス帝国・騎士・元軍人・前々回大会ベスト16・戦闘ランク172

 元ではあるが軍人と対戦するのは初めて…………か?
 ひょっとしたら予備予選で戦った中にいたかもしれない。受付の列で並んでいた時に話したおっさんのように。
 どうして軍を辞めたのかとか、帝国軍のこととか、金髪ねーちゃんは知ってるかとか色々と聞きたかったけど話しかける暇もなく舞台へ移動となった。

 チャルグットは漆黒の鎧に身を包んだ偉丈夫で、この大会ではほとんどの出場者がスピード重視で軽装備な中で一際異彩を放っている。
 そして手に持つ武器は騎乗用のランスだ。もちろん先端はカットされていて丸められている。

「はじめっ!!」

 とにかく先手必勝!
 火鳥風撃!!

 チャルグットは体の前でランスを高速回転させて完璧に防ぐ。

 炎の鳥はともかく、風槌の弾幕をあんな方法で防御するなんて……
 何発か回転するランスの隙間をすり抜けてヒットしてもよさそうなんだが。

「さっきの準決勝は見させてもらったよ。
 その魔法は私には通用しない」

 その重厚な見た目とは裏腹にやや甲高い声だ。

「今度はこちらからいくぞ!」

 こちらも重そうなランスを軽々と振り回して攻撃してくる。
 反射的に剣で合わせてしまうが、

 ゴキッ!?

「ぐっ!?」

 剣で防いだ意味もなく、そのまま押し切られて肩に直撃してしまい、骨に大ダメージを負ってしまう。
 もちろん即回復させるが、

「大したモノだ。通常であれば今ので私の勝ちなのだが……」

 あのランス……
 もはや槍というより鈍器だ。

「ならばこれならどうだ!!」

 チャルグットはランスを小脇に抱えるように持ち、突進して来た!
 本来ならば騎乗しての攻撃なのだろう。ランスチャージってやつだ。
 魔盾で防御するが、魔盾を突き破りそのまま俺の体ごと突き進んでいく。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 最後にランスを突き出して円形の舞台の外、場外へと俺を突き飛ばした。
 このまま場外へと落ちてしまうと当然負けてしまうので、飛行魔法で舞台中央へと戻る。

 ワァー!! ウォーー! ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー!

「飛行魔法まで使えるのか……多彩だな」

 一連の攻防に観客は大盛り上がりだが、防戦一方な俺はそれどころではない。

 とにかく攻撃だ。
 こちらから仕掛けてなんとかペースを握らないと、相手の流れのまま攻撃を受け続けてはこちらに勝機はない。

 火弾を射出していく。
 今大会初使用で実戦でも久しぶりに使うが、チャルグットの鎧なら大したダメージにはならないと踏んでの攻撃だ。

「ぬっ!?」

 またもやランスを高速回転させて防がれてしまう。
 しかし狙いはここからだ!
 こちらの攻撃を防いだ後に攻撃へと移行するタイミングを狙って、

 風槌アッパー!

 単発ではなく次々と撃ち込む!!

 しかし、ランスを横向きに盾代わりに使われてことごとく防がれてしまう。

「そろそろ手札は尽きたか?
 ならばこの試合、勝たせてもらおう!」

 チャルグットが猛攻を仕掛けてきた!

 どうしてそんな鎧を着込んで素早く動けるのかは謎だが、急所だけはなんとか防御しつつ、ダメージを負ったら即回復魔法を使い、回復魔法の合間を縫って魔盾でも防いでいく。
 ランスの柄の部分すら武器として使う凄まじい連続攻撃に反撃する隙間がまったくない。

 どのぐらいの時間が経ったのだろうか?
 勝機の見えない出口のない防御戦が続くことに心が折れそうになる。
 だが……
 観客席ではルルカ達が見ているのだ!
 ここで為す術もなく負けてしまえば彼女達は主に失望するだろう。
 そんなものなのかと。
 普段偉そうにしてるのにその程度かと!

 防御一辺倒だったがなんとか耐えていると、若干ではあるがチャルグットの動きが落ちてきたのに気付いた。
 そうだよ!
 チャルグットの年齢は38歳。肉体的なピークは既に過ぎている。

「いい加減……諦めろ!」

 大振り!!
 ランスを振りかざそうする脇が少し空いたのを俺は見逃さなかった。
 魔盾でいなしてようやく訪れた僅かな間に、

「俺が諦めるのを…………諦めろ!!」

 火鳥風撃!

「その魔法は通用しないと言ったはずだ!」

 チャルグットは3度ランスを高速回転させる。

 だが…………

 ゴンッ!!

 ドサッ!!

 後頭部への攻撃にチャルグットは昏倒した。

「1、……2、……」

 最後の一撃は模擬戦用に先を丸くした土刺しで、後ろからチャルグットの後頭部をどついたのだ。
 疲労と焦りで集中力を欠いていたのだろう、万全の状態なら回避されたはずの攻撃だ。

「……9! ……10! 勝者ツトム!!」

 ワァー!! ワァー!! ワァーワァー! ワァーワァー!

 観客席に手を振って帰ろうとすると、

「君は勝ったのだからこっちだよ」

 これまでとは反対側の建物を指差された。

「あとコレ、元に戻してね」

 舞台から斜めに伸びている土刺しの棒をコンコンと叩きながら審判が言う。
 自分で直さないとダメなのね……
 舞台を直し、ついでに倒れているチャルグットに回復魔法を、攻撃した場所が場所だけに慎重にかけた。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...