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 ロザリナは徐々に押され始めた。
 例え僅かでも剣技で劣っているのは影響が大きいみたいだ。
 まだダメージは負ってないものの攻め手に回る回数が明らかに少なくなっている。
 スピードで上回っていると言っても軽鎧を装備しているので、そこまでのアドバンテージにはなっていない。

「ロザリナ……」

 ルルカが心配そうに舞台上を見てる。

「オイ、そろそろ決着がつくぞ」

「わかるのか?」

「ああ。
 ロザリナはダメージを受ける前に一か八か勝負に出るだろう」

「このまま戦っても勝機はないか?」

「ないな。
 剣の腕が相手のほうが上なのもあるが、なによりも経験の差が大きい」

 対戦相手はロザリナよりかなり年上なのか。

 ディアの解説通りロザリナの動きが変化した。
 これまで相手と剣を合わせながら左右に動いてたのが後ろにステップして……
 下がった反動を利用してロザリナは相手へと一気に突進して激突した。

「あっ!」

 相手の攻撃がロザリナの腹部を捉えている。
 しかしロザリナの剣は相手男性の首筋に添えられていた。
 ロザリナの勝ちだ!

 ワァー! ワァー! ワァーー!! ワァーー!!

「や、やったぁ…………コ、コホン。ロザリナが勝ちましたね」

「別に素直に喜んでいい場面だと思うけど……」

「何か仰いましたか?」

「い、いや…………
 あ、ほら、ロザリナが手を振ってるぞ」

 舞台上で歓声に応えるついでにこちらにも手を振っている。
 片手で攻撃を受けた腹部を抑えている。痛むのだろう。
 ルルカは遠慮がちに手を振り返している。

「ところでディアは何してるんだ?」

 ディアは頭の上で手をグルグルと回していた。

「ヘクツゥーム族ではこうやって激闘後の勝者を称えるんだ」

「なるほど。では俺も」

 ディアと同じく頭の上で手をグルグルと回した。

「ちょっとロザリナの様子を見てくるな」



 待機所がある区画は当然ながら部外者立ち入り禁止なのだが、カードを見せて忘れ物を取りに行くと言ってやや強引に入った。
 待機所の外から合図を送って……

「ツトム様、どうしてこちらに?」

「さっきの試合でケガしただろ? 治そうと思ってな」

「ありがとうございます。助かります」

 腹部を念入りに回復する。

「素晴らしい試合だったぞ。よく頑張ったな」

「いえ、運良く勝てたようなものですから……」

「何を言うんだ!
 最後で勝てたのは運だったかもしれないが、そこまで持ち込めたのはロザリナの実力あってこそじゃないか!」

「ツトム様……」

「この2ヶ月でロザリナは随分と強くなったな。
 俺と戦った頃とは比べ物にならないぐらいだ」

「あ、あの頃のことは忘れてくださいっ!
 妹のケガとか奴隷落ちしたとかパーティーのこととか色々あって不安定だったんです!」

「姉御口調のロザリナをもう一度見たいのだけどなぁ」

「ツトム様っ!!」

 少しぐらい演じてくれてもいいのに。
 ちょっ!?
 剣に手を掛けるな!
 大体お前は俺を攻撃できないだろうに!

「うぅ…………」

「こほん。えっと、次の対戦相手は第2シードの……」

 無理矢理話題変換しようと冊子を取り出しページをめくる。

「3等級の獣人ですね」

 さすがにその程度は覚えているか。

 ジャッドール・23歳・男性・獣人・アルタナ王国・剣士・3等級冒険者・大会初出場・戦闘ランク128

 戦闘ランクが128かぁ……
 さっき俺が戦った同じ第2シードで3等級のノルレインが戦闘ランク105、グリードさんの戦闘ランクが112、初出場の戦闘ランクは参考にならないらしいがそれでも2人より上なのは気になる。

「無理しなくていいんだぞ。
 ここまで勝ち上がれただけでも立派なんだ」

「…………ツトム様は当然勝たれたのですよね?」

「あ、ああ……
 いや、俺は不意打ち上等な戦い方だし、こういう大会は初対戦で初見が多いから不意打ち有利というか……」

「…………」

「魔術士的に工夫する余地が大きいというか……」

「ツトム様のような戦い方をする魔術士なんて聞いたことがありません」

 数を揃えて火力勝負が一般的な魔術士らしいからなぁ。

「私はこの大会、全力を尽くすと覚悟を決めて臨んでおります。
 しかし…………ツトム様のご命令とあれば……」

「わかったよ。くれぐれも無理はするなよ?」

「はいっ!」

 これだけ決意が固ければ何を言ったところで無駄だろう。




……

…………


「ロザリナはどうでした?」

「やる気十分だったよ。ケガも治したし」

 客席に戻ると丁度試合が終わったところだった。
 準々決勝第1試合は第2シードの選手が勝ったようだ。
 次が準々決勝第2試合、ロザリナ対第2シードのジャッドールである。

 ワァー! ワァー! ワァー! ワァー! ワァー!! ワァー!!

 劇的な勝ち方をしたからだろうか?
 さっきの試合よりもロザリナに対する歓声が大きい。
 対戦相手のジャッドールは憮然としてる感じだ。

 試合が開始するとロザリナは歓声を背に猛然と仕掛けていった。
 見るからに全力で攻撃している。後のことは考えてないようだ。
 しかし……
 そんなロザリナの全身全霊を振り絞った攻撃をジャッドールは冷静にさばいている。

「オ、オイ! マズイぞ! 相手のほうが数段上だ!」

 ディアに指摘されるまでもなく剣術初心者の俺でも2人の力量差ははっきりとわかった。
 案の定ジャッドールが攻撃を仕掛けていくとロザリナは防戦一方になっていった。

 このジャッドールという獣人は剣技がランテスに近いレベルにある。
 実質2等級クラスか?
 戦闘ランクも128なんかじゃなくてもっと高いかもしれない。

 ロザリナが徐々にダメージを受けていく。
 まだ大きいダメージは受けてはないが、このままでは時間の問題なのは明らかだ。

「ロ、ロザリナ……」

 ルルカが心配そうに見つめている。

「前の試合みたいに一か八かで仕掛けることはできないのか?」

「無理だ。
 ロザリナも幾度か仕掛けようと試みているが、全て先に潰されている。
 これだけ剣の腕と身体能力に差があってはど…………」

 『どうにもならない』と言おうとして飲み込んだか。

 試合会場を包んでいた大きな歓声も今や静まり返っている。

 !?

 ジャッドールの強烈な一撃がロザリナの左腕を捉えた!
 籠手が破損する鈍い音が……最悪腕の骨が折れたかも……

 あっ!! カウンター!?
 ロザリナは左腕に構わずに右手の剣を一閃!
 狙っていた?
 最初から左腕を捨てること前提にこの一撃に全てを賭けたかっ!!
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