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 軍隊と冒険者ギルドは教会とは回復術士を取り合うライバルだ。
 教会側に意図的に俺の情報を流すなんてことはないだろう。
 もっとも普通の回復魔法に関しては昇格試験他色々なところで使ってることもあり隠すことは無理だけど。


 収納作業が終わり、最後の仕上げに集落を燃やす。
 オークが作った大半はボロテントの集落とはいえ、燃やすのには若干の抵抗が……
 もちろんそのような感情でサボるわけにはいかないので、ファイアボールで燃やし尽くした。

「さあ、帰還しましょう!」

 帰還するにあたってワグディルパーティーとヨハンのいるパーティーともにケガ人がいたので治療を名乗り出たが、ミリスさんに断られてしまった。

「ここでツトムさんが治療してしまうと、ギルドが抱えている回復術士から仕事を奪う形になってしまいます。
 それに冒険者からケガを負うという状況を奪うことにもなりますね。
 負傷して帰還する大変さ、高額な治療費、これらは強さを求める動機に繋がりますので」

 それはスパルタ過ぎないかなぁ。

 チラリとケガしてる人を見る。
 現在ギルドの馬車が待機している街道目指して森の中を歩いているが、パーティーメンバーの肩を借りて歩く姿は見ていて痛々しい。
 回復魔法ができないのならせめてケガ人抱えて馬車のとこまで飛ぶ方法もあるけど、大変な思いをして帰る経験のほうが重要ということか。

「もちろん命に関わるようなケガなら話は別ですが、現状ですと現場(街の外)で回復魔法を受けれる機会などまずありません。
 今回のように回復魔法の使い手が2人もいることのほうが極めて特殊なのです」

「それだと治療費を捻出できなくてケガが悪化したり、そのまま冒険者を引退みたいなケースも増えてしまうのでは?」

「その点はギルド側で適切なサポートをしています。
 通常ですとギルドが治療費を肩代わりして、その後冒険者に分割で支払って頂く形でしょうか」

 確かコートダールでは回復魔法を頼むのに10万ルクが必要だったっけ。
 あちらは依頼料が高いとしてもこっちでも7~8万ルクは掛かりそうだ。
 見習いや7等級あたりではかなり厳しい金額だろう。
 それに、

「分割での支払い中にまたケガしてしまったら……
 特に低い等級の人達は報酬も低いでしょうし辛くありませんか?」

「7等級まではギルド側が提示する比較的安全な依頼を強制的に受けさせます。
 どの道依頼数をこなさないと昇格できませんからね」

 うわぁ……
 引き受け手のいない美味しくない依頼をやらせるんだろうなぁ……
 どちらにせよ辛い状況なのは変わらないわけだ。

「6等級からはそのパーティーの強さや性格などを職員が判断して街の外での狩りを許可します」

 俺のように浄化魔法や収納・飛行魔法が使えないと街中の依頼で稼ぐのは難しいだろう。
 狩りで稼げる強さがあるならそのほうが早く返済できる。
 ん?

「ひょっとしてケガしてしまうとパーティー全体での連帯責任ですか?」

「ギルドが肩代わりするのはあくまでもケガした冒険者個人に対してです。
 ですがメンバー全員で協力して早く返済したり、あくまで自己責任として個人で負担する、もっと徹底するパーティーではメンバーから外したりしますよ」

 その辺はリーダーの方針だったりメンバーにも依るのだろうな。
 俺のパーティーではどんなケガや病気でも無料で治すのだから、他の冒険者がうらやむ環境なのではなかろうか?

「壁外ギルドに回復術士はいるのですか?」

「いませんよ…………(ツトムさんの他には)」

「でしたら重傷者に限り自分が治療しましょう」

「よろしいのですか?!
 先日ツトムさんは指名依頼の全てを受け付けないと仰っていましたが」

「特別、ということで。
 ついでに手足の切断にも対応しますので、切断した手足をお持ちの方は繋げます。
 自分が不在の場合は手足は収納に入れておくことをお薦めします」

「わ、わかりました。
 今後はそのようにさせて頂きます!」

「このことは城内ギルドのマスターレドリッチにもミリスさんの名で伝えてください」

「ど、どうして私の名前で……」

「ミリスさんが自分の担当なんですよね?
 それとも他のどなたかに代わります?」

「わかりましたよっ! 全て私がきちんとやりますので!」

「よろしくお願いしますね」

 助けられるのであれば助けたいという気持ちは当然ある。
 その上で、どうせこの先教会と対峙する可能性が高いのであれば、思いっきり冒険者ギルドを巻き込んだ方が良いだろうと考えた。
 苦手なレドリッチに伝えるように言ったのもその為である。
 教会と相対するのであれば城内ギルドをこそ味方に付けないと意味がないのだ。



 行きよりも時間が掛かりながらもバルーカとメルクを結ぶ街道に到着した。
 途中遅めの昼休憩をしたとはいえ、負傷者をそのまま連れて来たのが時間を要した原因だ。

 すっかり苦手になってしまった馬車の揺れに耐えて壁外ギルドに帰還した。
 前回と違ってまずは解体場で収納した獲物を換金するよう指示を受けた。
 解体場には卸売業者の荷馬車が数台待機している。
 買い取り価格が普段より少し安くなるのは前回と同じで集落を討伐した際の恒例なのだろう。

 解体場にオークを並べていくが、ヨハンがいるパーティーのこちらを見る目が怪しい。
 換金を終えてギルド2階の朝と同じ部屋に集まると、案の定ヨハンのパーティーリーダーが発言してきた。
 
「我々は回収物の均等での分配を要望する!」

 うわぁぁ……
 今朝は自分で均等分配が不満だからと分配方法を変えたのに、帰ったら元に戻せって……

「そいつがあんな大量に収納できるなんて事前に知らなかった!
 これは当然の権利だ!!」

「事前の取り決めを変更することはありません。
 これ以上不当な申し出をするようでしたら当ギルドはあなた達の評価を下げざるを得ませんが?」

「く、くそっ……」

 ミリスさんの断固とした言い方に渋々といった感じで報酬を受け取りヨハン達は退室していく。
 俺のことを睨みながら……

 自業自得なのになぁ。

「次は3等級パーティーの方々」

 対照的に満足気に報酬を受け取るグリードさん達。

「良い稼ぎになったな!」
「ツトム君、お先に!」
「ツトム、またね!」
「あの! 今度食事でも一緒に……」
「フンッ!!」

「お疲れさまでしたぁ」

 どさくさ紛れにサリアさんに声を掛けて撃沈した大剣遣いが意気消沈といった感じで退室する。
 脈はなさそうだけどグリードさんガンバレ!
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