上 下
237 / 360

234

しおりを挟む
 破壊した黒オーガのトンファーブレードの刃が付いてる棒の部分は俺が貰えることになった。
 グリードさんに『そんなのいらね』的な感じで譲られたので、特別な素材が使われてるわけでもなさそうだ。
 思えば先ほどの戦闘で黒オーガの斬撃を受け流したグリードさんの大剣は無事だったのだ。
 剣が真っ二つに斬られたのは、俺の使った剣のほうに問題があったと見るべきか。
 買ったのか拾ったのかすら忘れてる剣だったしな。



「ツ、ツトム様! 大丈夫ですか?」
「ツトム様!」

 元の配置に戻るとロザリナとサリアさんが俺のボロボロの革鎧と服を見て慌てて声を掛けてきた。

「かなり手強い敵と戦ってな」

 ロザリナはペタペタと俺の体中を触っている。
 どうやらケガしてないか確認しているようだ。

「ロザリナ、ケガはしてないから大丈夫だぞ」

「ツトム様がここまで苦戦なされるとは……
 どのような相手だったのですか?」

「それは…………ちょっと待っててくれ。
 ミリスさん!」

 ワグディルパーティーと話していたミリスさんを呼んだ。

「ツトムさん、その姿は……」

 そんなにボロボロなのか。
 帰りに替えの服を買って着替えたほうがいいな。

「グリ…………、東の3等級パーティーを襲ったのは黒オ…………、特殊個体でした。
 なんとか撃退しましたのでもう安全です」

 黒オーガが自ら退いてくれただけなのに撃退したと功を誇ってしまっていいのだろうか?
 この手の戦況報告は客観に徹して誇張することなく正確に伝えないといけない、とどこぞの金髪の侯爵閣下も言っていたが……

「わかりました。
 そうしましたらオークの死体の収納と集落の捜索を始めてください」

 結構な数のオークの死体があるから収納するのも大変そうだ。
 もっとも俺以外にも収納持ちがいるからその点は気が楽だけど。

「そうそう。
 ワグディルさんに私がツトムさんに支援するようお願いした、ときちんと伝えておきましたから。
 これで変な分配比率を言ってくるようでしたら私がガツンと言ってやりますよ!」

 両手をグーに握って可愛らしく"ふんぬっ"とポーズを取るミリスさん。
 自分の年齢を考えろと激しく突っ込みたいがここは我慢する。

「出発前に取り決めた通り、彼らの主張をそのまま通して構いませんよ。
 自分はミリスさんにお願いされたからここにいるのであって、お金を稼ぐためにこの討伐に参加したのではありませんから」

 言外に"この借りはきちんと返すように"とのメッセージを込める。

「私のために…………、ツトムさんありがとうございます!」

 "相応のお礼はしますよ"ということだと思う…………たぶん。



 せっせとオークの死体を収納していく。
 もう慣れた作業ではあるのだが、単調な時間が続くのはかなりキツイ。

「ツトム様、オークの棍棒は収納されないのですか?」

「まだ収納の中に山ほどあるんだよ」

 オークの棍棒は風刃で切り刻んで家で薪として使っている。
 表面は浄化魔法で綺麗にするのだが、その棍棒によって撲殺された獲物の血や脂が染み込んでいてよく燃えるのだ。

「ツトム様、姉さん、こちらに来てください」

 サリアさんに連れられ集落のとある一角にある大きなボロテントの中に入る。

「うっ……」

 酷い悪臭がこもる中に遺体だったモノと遺品らしき物が散乱していた。
 浄化魔法でテント内を綺麗にしてミリスさんを呼ぶ。
 テントに入ってきたミリスさんは散乱している遺品の中から数枚のギルドカードを見つけて確認している。
 俺が持っている5等級のより少しだけ小さいギルドカードだ。

「ウチに所属していたパーティーですね。
 普段から7等級と実力が足りない6等級パーティーには森に行かないよう指導していたのですが……」

 7等級パーティーということは10代の若者だったことは間違いない。
 もし俺がまともにギルドに顔を出していたら話す機会もあったのだろうか?
 そうしたら森への無謀な挑戦もヨハンの時のように止めれたのかもしれない。
 結果は全て自己責任なのが冒険者の常ではあるが。

 ミリスさんが手持ちのバッグに遺体(の一部)と遺品を回収していく。
 前回討伐時にも持っていたマジックバッグのようだ。

 しかし、あんな遺体の状態でも回収するのか……
 どの部分が誰々のなのかまずわからない状態だ。
 この大陸の主要4ヵ国(南部3国と帝国)が火葬ではなく土葬であることが理由なのかもしれないが。



 いつの間にやら収納作業をしているのは俺1人になった。
 ヨハンがいるパーティーの魔術士2人とワグディルパーティーの魔術士はリタイヤしたようだ。


「俺達の報酬の為に回収作業ご苦労だな! ツトム!!」

 集落内での回収が終わり最後に東側のグリードさん達の戦果を回収するところで茶々が入る。

「これまで何体回収した?」

「もう 400体は超えてますね」

 グリードさんパーティーは近接戦闘職しかいないので、オークの死体が割と近場に固まっていて回収し易い。

「たった1日でいい稼ぎになったな! 今夜パアァーと飲みにでも行くか!」

 ガハハハハッ!! と豪快に高笑いしているグリードさん。
 正直ちょっとだけイラっとしたけど、

「すまないねぇ、ツトム。
 グリードは強敵と戦った後はいつもちょっとおかしくなるんだよ。
 まして今日の敵はとんでもなかったからねぇ」

 ナタリアさんに謝られてしまった。

「いえ、グリードさんには今日助けて頂きましたし……」

 事実危ないところを助けてもらった。
 俺1人で対峙していたら殺されていただろうことは間違いない。

「後ろで見ていて何度ダメかと思ったことか。
 それにさっきのグリードへの回復魔法……」

 なんだ?
 ナタリアさんがモイヤーさんを見て頷き合っている?!

「ツトム君、先ほどの切断された腕を繋げた回復魔法のことを知っている人は他にもいますか?」

「ええ、それなりに……」

 ロイターのおっさんには言ってあるし、アルタナでは大勢の前で使ってるし……あっ! でもあれは変装してやったんだっけ。結局レイシス姫にはバレちゃったけど。

「でしたら教会の動きには注意してください。
 ツトム君の存在が彼らの耳に入ればどんな手段を用いてでも取り込もうとするでしょう」

 教会(=聖トルスト教)の悪い噂は定期的に聞こえてくるけど……

「私の時ですら冒険者ギルドと教会の間で色々と揉めたみたいです。
 ましてツトム君のような使い手ですと……」

「当時私とモイヤーは北部の街で活動していたのだけど、そこは教会の勢力が強いとこでね。
 大人になってから回復魔法を習得した要因を調べればもっと回復術士が増やせるという名目で、教会側は強引にギルドにモイヤーを引き渡すように迫ったんだ」

「その時のギルドマスターの計らいで王都のギルド本部に一時避難しまして事なきを得ました。
 その後グリード達とパーティーを組んでバルーカに来たのが10ヵ月ほど前のことになります」

「しかし自分は大人になってからというわけではありませんし……」

「むしろ彼らからすれば、ツトム君の若さで極めて高度な回復魔法を使いこなせる理由を是非とも知りたいと考えるのではないでしょうか?」

 思った以上に俺にとっては危険な話だった!?
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...