異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
上 下
235 / 374

232

しおりを挟む
「ツトム! 助かった!!
 あいつが特殊個体か?」

「はい。自分は黒オーガと呼んでいますけど」

 二本角の黒オーガは両手に武器を持っている。

 あれはなんだろう?
 持ち方からするとトンファーなんだが、長い棒部分の先に刃が付いている。
 トンファーソード? いや、トンファーブレードってとこか。

 黒オーガは腰を落としやや前傾姿勢でトンファーブレードを構える。

「くるぞっ!!」

「グリードさん以外は下がって!」

 この相手はナタリアさん達では荷が重い。

「グリードさんは防御主体で! 奴の肌に刃は通りません!」

「あいつと戦ったことがあるのか?」

「違う個体とならば1度。
 この二本角とは初めてです」

 ないよりマシだろうと収納から剣を出す。
 もちろん剣で戦うつもりなどは毛頭なく、あくまで防御用なので鞘に入れたままである。

 黒オーガと目が合う。
 その瞬間、一気に斬り掛かってきた!

 (こっちかよっ!)

 魔盾に剣を添えてガードする。
 黒オーガの右手のトンファーブレードによる斬撃は魔盾を斬り裂くが、ここまでは想定済みだ。
 右手に風槍を圧縮していく……

 が!!

 受け止める予定だった剣を鞘ごと真っ二つに切断してそのまま肩口から腹部に掛けて斬撃が走った!

 グリードさんが俺を斬った体勢の黒オーガに突きを放つ。

 俺は出血に構わず回復魔法を使い傷を塞ぐ。

 黒オーガは突きを無視して左手のトンファーブレードでグリードさんに斬り掛かる。

 回復魔法がまだ終わってないので魔盾を出せない。
 刃は通らないって言ったのに!!

 しかしグリードさんは斬られる直前に2メートルほど後方に飛んで回避した。

 なんだ?
 なにかのスキルか?

 再び風槍を圧縮する時間はないと見て風槍(回転)を放つ。

 黒オーガも自ら後方に跳んで回避し距離を取った。

「ツトム! 大丈夫か?」

「え、ええ、なんとか……」

 ひょっとしたら今までで1番危なかったかもしれない。
 もうほんのちょっと踏み込んで斬られていれば俺の胴体は斜めに分かれていただろう。

 血で濡れた鎧と衣服を浄化魔法で綺麗にする。

 それにしても……
 剣を鞘ごと斬るなんて、あのトンファーブレードは一体何で出来ているんだ?
 まさかオリハルコンやヒヒイロカネみたいな伝説的な素材で作られた武器じゃないだろうな。
 そんな激レアな素材で趣味全開な武器を作るなと強く抗議したい!

 黒オーガは俺のことを不思議そうに見ている。
 確かに斬ったはずなのにどういうことだ? ってところだろうか。

「グリードさん、奴を倒すための奥の手とか切り札とか必殺技的な何かはないのですか?」

「そんなのある訳ないだろ!
 次に回避できる自信すらねーよ!!」

「(この3等級使えねぇー)」

「何か言ったか?」

「いいえ、何も」

「大体そういうのは魔術士の領分だろ!
 そもそも魔術士なのに前に出てくるなよ!
 昇格試験と同じ感覚で戦うなら死ぬぞ!!」

「わかってますが仕方ないんですよ!
 奴を倒せそうな魔法が超至近で発動するタイプなのでどうしても懐に飛び込まないと……」

「魔術士が距離の利を捨ててどうすんだよ……
 それで当てられそうなのか?」

「無理ですよ」

 オークジェネラル高技量型の時は大剣1本だったのに当てられず、最終的には腕を斬り落とされてようやく倒したのだ。
 黒オーガは左右それぞれに凄まじく斬れるトンファーブレードを装備して、一撃一撃がとんでもない破壊力だ。しかも早い!
 迂闊に奴の間合いに入ったら斬り刻まれることは間違いないだろう。

「その魔法意味ねーだろ……」

 風槍・零式は立ちはだかる強敵・難敵を屠ってきた俺の必殺技なんだが……
 最近武器持ちの相手にどう当てるのかという根本的な面での課題が見つかってしまった…………つか最初から気付いとけという話ではあるが。

 対黒オーガ用の必殺技の開発は正直言って難航している。
 必殺技なんてものはそう簡単には開発できないし思い付かない、という大前提があるがそれに加えてどうしても"練習すれば解決できるかもしれない"直近の課題を優先してしまいがちだ。


 黒オーガが再び腰を落として攻撃体勢に入った。
 嫌な汗が背中を伝わるのがわかる。
 一つの判断、一つの行動をミスればそれが即、死に繋がる生と死が隣り合わせの戦闘だ。


 俺から視線を外さなかった黒オーガは一転、グリードさんに襲い掛かった!
 防御姿勢を取っていた俺は完全に意表を突かれ一歩出遅れるものの、なんとかグリードさんの前に魔盾を展開することができた。
 魔盾を斬り裂いて襲ってくる斬撃をグリードさんは受け流すことに成功!
 しかしすかさず左手による攻撃体勢に移行する黒オーガ。
 左右二刀のアドバンテージを最大限生かしてくる黒オーガに対し、グリードさんは初撃を全力で受け流した為に体勢不十分だ。

 魔盾でなんとか……

 しかし黒オーガは体を半回転させて俺へとターゲットを変えてきた!

 やはりメルクでの聞き込みから分析した通り、奴らが魔術士を強く意識してることは間違いない。
 今度は魔盾を2枚置きさらに後ろへと跳ぶ。

 その2枚をぶち抜いて斬撃を走らせてきたが、魔盾2枚を置いたことが功を奏したのか革鎧を斬られるだけで済んだ。

 それにしても魔盾2枚ですら止められないなんて……
 この魔盾は強化型で、以前の薄いタイプの数倍の魔力を消費をしている。

 (このまま守勢に回っていたらいずれはMPが尽きてしまう……)

 攻撃だ。
 奴を倒すか退かせるかしないとこの場を生き残れない!!

 追撃してくる黒オーガに土甲弾を放つ。

 ズドォォォォォォォォン!!!!

 黒オーガは慌てて防御姿勢を取った。
 結果を見届ける必要なんてない。
 着弾を確認することもなく第2弾を放つ。

 ズドォォォォォォォォン!!!!

 第3弾! 第4弾! …………

 ズドォォォォン!! ズドォォォォン!! ズドォォォォン!! ズドォォォォン!!

 視界一杯に広がる土煙の中を凄まじいスピードで飛び出してきた黒オーガが瞬時に背後に回り込む!

 ヤ、ヤバイ!!
 魔盾が間に合わな……!?

「?!」

 身体に衝撃を受けて地面に叩き付けられる。

 それまで俺が立っていた場所を一閃して黒オーガが疾風のごとく駆け抜けていった。

 どうやらグリードさんが俺を蹴って回避させてくれたようだ。さすが近接戦闘の本職だけはある。

「助かりました」

「お互い様だ!
 それにさすがの魔法攻撃だったぞ」

 グリードさんは褒めてくれるが……
 やはり土甲弾は通用せずか。
 それに……

「なんなんです? あのスピードは…………獣化移動?」

「確かに獣人の獣化移動とよく似てるが……」

「あんなスピードで動き回られたら防ぐことすら難しいですよ!」

 魔盾の発動すら上回って攻撃して来るならもうどうしようもないぞ!!

「落ち着け!
 今頃出してきたってことは最初から使えない理由がなにかあるんだ。
 例えば身体への負担が大きいとかな!」

 おぉ! さすが冷静だ。
 戦い始めてまだ3ヵ月未満の俺とは違い、10年近い戦歴は伊達ではないな!
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...