上 下
223 / 364

220

しおりを挟む
 約1ヵ月ぶりに帝都ラスティヒルに訪れた。
 帝都の奴隷商は複数の商人が集まって奴隷市を形成している。
 コの字型に並んでいる建物の中央スペースで奴隷が売られているが、前回来た時よりも展示されている奴隷の数が多いように思える。
 そこを突っ切って正面奥にある大きな建物に入った。

「店内で扱ってる奴隷を見たいのだが」

 前回来店時の預かり証書を受付に渡す。

「しばらくお待ちください」

 奥へと引っ込んだ受付が見知らぬ若い男性と共に戻ってきた。

「お待たせしました。
 只今担当者が仕入れに出ておりまして、代わりに私が案内させて頂きます」

 あの中年の奴隷商人はいないのか。
 仕入れってつまりは人買いってことだろ?
 生々しい場面を想像してしまうがそれは今は関係ないとして、仕入れ前に来てしまったということは店内は品薄なのだろう。こればかりは事前に知りようがないので仕方ないのだけど……

「本日はどのような奴隷をお求めでしょう?」

「30代前半の女性の戦闘奴隷が見たい」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 階段を上がり3階へ。


「こちらの部屋は魔術士、32歳でございます」

 おぉ!
 茶髪ロングの美人でスタイルもいい。
 お山は…………普通ぐらい?

「価格は320万クルツとなっております」

 さすがに魔術士は高いな。
 しかし! 今の俺はクルツだけでも 900万弱所持しているから買えるのだ!

 だけど……
 一応護衛役として新たな奴隷を購入することになっている以上、魔術士だと厳しいか? せめて、

「マジックシールドは使えるか? 探しているのは護衛役なのでな」

「し、しばらくお待ちください」

 案内人は部屋に入り茶髪ロングと話している。
 つかこの茶髪ロングは個室を与えられている。それだけ腕が良いってことか?
 隣の部屋にいるのも魔術士だと思うが、10代~20代の3人の女性がいる。

「お待たせしました。
 マジックシールドは使えず、人を護衛した経験もないとのこと」

「そうか……仕方ない。次案内してくれ」

「かしこまりました」

 せっかくの美人だったけど護衛する手段がなければどうしようもない。
 まさか街中で魔法をぶっ放す訳にもいかないし。

「先ほどの魔術士は腕が良いのか?」

「魔法の腕前まではわかり兼ねますが、飛行魔法と収納魔法が使えますのでその分お高くなっております」

「ほぉ……」

 飛行と収納の2つの魔法が使えるなら稼ぎ放題だろう。
  300万クルツ以上で購入しても2年以内には買い値以上の額を稼ぎ出すはずだ。
 もっとも飛行魔法と収納魔法に通常以上の性能があれば、の話だけど。

「こちらの区画は近接戦闘職となっております」

 案内人が両開きの大きな扉を開けると、大部屋の中央に通路があり、両側に奴隷達が待機している。
 奴隷は30人以上いるようで、各々座っていたり筋トレしたりで自由にしてる感じだ。
 俺以外にも客がいて案内人の説明を受けながら奴隷を触ったりしている。

「気になる奴隷がおりましたらお声掛けください」

 じっくりと見ていくが、やはり近接戦闘職だけあってパワータイプが多い。筋骨隆々のマッスルボディはその手のフェチには垂涎の的なのだろうが、俺はちょっと遠慮したい。
 スピードタイプや剣術を極めるタイプはいないだろうか?
 俺が視線を向けるときちんとお辞儀する者、我関せずで無視を決め込む者、筋肉をアピールしてくる者、ボディビルダーみたいに決めポーズをする者など様々だ。
 なぜか俺の姿を見ながら舌舐めずりしている巨漢戦士には悪寒が走ったけど。
 普通の体型をしている奴隷も2人いたが、1人は部屋の隅で丸くなっていてスタイルがわからず、もう1人はひんぬーさんだった。

「他も見たい」

「かしこまりました」

「坊主、買っておくれよ~」「サービスするよっ!」「気持ち良くしてあげるからさぁ」

 部屋を出る際に声が掛かるが……
 行儀正しい人もいたので買ってあげたいと思わないでもないけど、いきなり2人追加とかはマズイよなぁ。
 でもいい女性が2人見つかれば……
 2人同時購入もアリか!
 彼女らの主人は俺なのだ。何名増やすかの決定権は俺にある!!

「ところで、先ほどの奴隷達は特に拘束されたりもせずに部屋の中で自由にしていたが、いくら武器がなくとも逃亡や反乱といった恐れはないのか?」

「それは大丈夫です。
 彼女達は私共に買われる際に保証人を用意しております」

「保証人?」

「はい。
 お客様に買われるまでの間、奴隷商に不利益な行動をした際にはその保証人が責任を負うことになるのです。
 保証人は奴隷の家族か一定の地位にいる者に限られます」

 ふむ……
 ロザリナの時の保証人はおそらく妹であるサリアさんだろう。
 ではルルカの時は?
 ルルカが奴隷落ちした際は家族はワナークに移動済みだったはずだ。
 債権奴隷だったからか? 債権者は一定の地位にいる者ばかりだろうし。

「保証人を用意できない者は買い取りしないのか?」

「いえ、その場合ですと価格を下げて買い取り致します。
 さらにその場での支払いはせずに奴隷が売れた際に支払う形となります」

 支払う際にさらに手数料でも徴収しているのだろう。
 奴隷を売る際は保証人を用意したほうがお得ってことか。

「こちらが弓職と斥候職の展示場となっております」

 どちらの職も護衛には向いてそうにない。
 斥候職ならその特性を生かして危険を事前に回避できたり……そんな都合よくはいかないか。

 中をザッと見たもののほとんどが20代で論外だった。

「これで全てなのか?」

 せっかく帝都まで来たのに収穫なしはキツイな。

「他に高額な奴隷も扱っておりますが……」

 お!?
 とっておきがまだあるのか!

「見せてくれ」

「その、大変申し上げにくいのですが、冷やかし防止の為にご購入される用意があることを提示して頂きませんと……」

「所持金を見せればいいのか?」

 収納から帝国白金貨を出して見せた。

「こちらへどうぞ」

 文字通りの現金なことだ。



 案内された場所は今までの雑居タイプではなく、1人1部屋の個室タイプだ。
 もちろん通路側から中は丸見えで、最初の部屋には貴婦人が椅子に座って本を読んでいる。

「元伯爵家側室で36歳。家が取り潰された際に奴隷落ちしました」

 俺達の声は聞こえているはずだがガン無視して読書している。
 顔が見える位置に移動してみると、全体像からも察せられたが美人さんだ。
 上流階級系統の顔立ちで姫様やレイシス姫の雰囲気に通ずるものがある。
 お山も大きそうで大変よろしい。
 36歳というルルカよりも年上なのが引っ掛かるけど……

「(キィッ!!)」

 に、睨まれた?!
 まさか年齢に引っ掛かっていたのがバレたか?

 それにしても……

「彼女は戦えるのか?」

「いえ、元貴族ということでお高くなっております」

 護衛役を探しているって言ったよね?!
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生したらドラゴンに拾われた

hiro
ファンタジー
トラックに轢かれ、気がついたら白い空間にいた優斗。そこで美しい声を聞いたと思ったら再び意識を失う。次に目が覚めると、目の前に恐ろしいほどに顔の整った男がいた。そして自分は赤ん坊になっているようだ! これは前世の記憶を持ったまま異世界に転生した男の子が、前世では得られなかった愛情を浴びるほど注がれながら成長していく物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...