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 大小の討伐隊が編成されて、2~3日置きに大森林へと出発していく。
 この間引き作戦の利点は現場の指揮官が容易に退却を決断できるという点に尽きる。なぜなら、依頼成功の基準がかなり低く設定されており、最低限の報酬で構わないのであれば敢えて魔物の集落に近付かなくても達成できるからだ。

 私も10回を超す参加歴があり、そのいずれもが犠牲者を出さずに成功していた。
 今回も当然のように成功すると思い込んでいたのだが……

 3つのパーティーに個人での参加者と指揮官であるギルド職員を加えて総勢22名の集団で、バルーカに向かう街道の中間地点まで馬車で移動して、そこから徒歩で南下していく。

 異変は早い段階から起こっていた。
 西から断続的に襲撃を受けたのだ。
 襲撃自体は1~3体によるものだったので問題なく撃退できたのだけど、討伐隊は少なからず消耗した。

 昼休憩時にギルド職員と各パーティーのリーダー含めた数人で今後の話し合いが行われた。

 赤毛の女性パーティーのリーダーは、

「何も問題ないわね! このままオーク共を駆逐してやるわよ!!」

 と、高いテンションで言い、

「これ以上作戦を続行するのは危険だ。
 この討伐隊には魔術士が少ないということもあるが、先ほどまでの戦いで弓士の矢の消耗も激しい。
 このままで大きな敵集団とかち合えば火力不足で押される結果になるぞ」

 討伐隊の魔術士は私を含めて2人だけなので火力という点で弱いのは否めない。
 この撤退案に対し、

「西に大きく回り込む形で帰還するべきだろう。
 どうして西から魔物が襲ってくるのか調べる必要があるし、その過程で最低限の討伐数はクリアできるはずだ」

 斥候職の女性が別案を提示する。

 決を取った結果、結局予定通りに進む案に賛同者が集まった。
 撤退して依頼失敗になるのは嫌だし、斥候職の案も必ずしも魔物と遭遇するとは限らないからだろう。




……

…………


 魔力が底を尽いてしまった。
 攻撃魔法1発分の最後の魔力があるにはあるけど、これを消費してしまうと魔力切れで倒れてしまうだろう。
 もう1人の魔術士はさきほど魔力を切らして後ろで負傷者の手当てをしている。
 頼みの綱は……
 前衛の後ろから慎重に攻撃をしている弓士達に目を向けた。
 矢の残り本数を気にしてか、間断なく射ることができてないみたいだ。
 次は弓士の為に予備の矢を収納に入れておこう。無事に帰れたらだけど。

 オーク集落の警戒網に引っ掛かってしまったのか、それとも西側からやってくる敵との戦闘音を聞き付けられたのか、こちらの想定以上のオークの攻勢を招いてしまい一進一退の攻防が続いている。

「リタ下がれ!」

「私もまだ戦えます!」

 落ちている穂先が折れた槍を拾ってオークを突く。
 こんな槍ではまともなダメージは与えられないけど、1体でも私に引き付けておけば味方がその分だけ楽になる。

 本来であれば指揮に専念するギルド職員でさえ剣を振るう中、ほんのわずかだけどこちらが押し始めた。
 もう10体も倒せば形勢が完全にこちらに傾く、そんな時だった。

「に、西から魔物が!! 目視で200体以上!!」

「なっ!?」「そんな……」「くそぉぉ」

 西側を見ると木々の間を縫うようにこちらへと迫って来る大集団が……

「退却だ! 総員退却するんだ!!」

 ダメだ。槍を振り回している時に軽く足を捻ってしまったせいでまともに走れない。
 後ろで手当てを受けていた負傷者も前に出てきた。せめて最期に1体でも多く道連れにするつもりなのだろう。
 何人かは逃げれたのだろうか?

 ギルド職員が落ちていた剣を拾って二刀で構える。
 その隣に斥候職の女性が立った。

「どうした? ケガしてないならとっとと逃げろ」

「これでも足の速さには自信があってね。せいぜい奴らを引き回してやるさ」

 赤毛の女性剣士も剣を構えた。

「おまえもか……」

「私はまだまだ戦えるわ!!」

「とっとと下がれ! その若さで死に急ぐことはあるまい」

「余計なお世話よ!!」

 この人達はとっくに覚悟を決めて……
 特に女性は捕まれば酷い目に遭わされるのに。

 懐の短剣に手を伸ばす。
 最後に魔法を撃って、それから……
 お父さんお母さんごめんなさい。

「来るぞ!!」

 迫りくるオークを無視してなるべく敵の密度の高い場所に範囲魔法を撃ち込もうとした時、

 ドドドドォォォォゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォォォン!!!!

 凄まじい音と共に大量の土煙が舞った。

「な、なんだ?!」「何が起こった?」

 ザシュッ! ドサ! ザシュッ! ドサ! ザシュッ! ドサ! ザシュッ! ドサ! ザシュッ! ドサ! ザシュッ! ドサ! 

 私に迫るオークの首が飛んで倒れる。

 な、なに? なにが起きているの?

 土煙の中でもオークが倒れているようだ。
 徐々に土煙が収まっていく。

 そこには魔物の集団に向けて魔法を放っている魔術士の姿があった。

「少年!!」

 終始冷静だった斥候職の女性が興奮気味に叫ぶ。

「ヌーベルさん! ご無事ですか?」

「ああ、おかげでな!」

「ツトム!! いいタイミングで来てくれたわ!!」

「げぇぇ!? フライヤさんもいる……」

「どうしてヌーベルの時とそんなに反応が違うのよっ!!」

「気のせいデスヨー」

 え? な、なに? この一瞬にしてユルユルな雰囲気は??
 私さっきまで自ら死のうと……

「「「ツトム様ぁ~♪」」」

 赤毛の女性剣士のパーティーメンバーが魔術士に黄色い歓声を送っている。

「皆さんの安全を確保しますね!!」

「出るのね! ツトムタワー!」

「みんな伏せろぉ!!」

 ゴォ! ゴゴォ! ゴゴォ! ゴゴゴゴォ! ゴゴゴゴォ! ゴゴゴゴォ! ゴゴゴゴォ! ゴゴゴゴゴゴォ!

 じ、地面が、動いて!?

「た、高い」

 揺れが収まり下を覗くと魔物とツトムと呼ばれた魔術士が遥か下に小さく見える。

 これタワーどころか地形そのものを変えてしまってるんじゃ……

「そうか。彼が昇格試験の時の例の魔術士か」

「そうだ。もっとも私は試験そのものは見れなかったが……
 よせ、やめるんだ!! もう攻撃はしなくていい!!」

 弓士が援護しようとしたところを斥候職の女性が止めた。

「しかしたった1人で戦っているのに?!」

「こちらからの攻撃は却って少年の足を引っ張ることになる。
 大丈夫だ。すぐに片付けてくれる」

「そんな……彼は何者なんです?」

「彼の名前はツトムよ!! いずれ私のパーティーに入る魔術士ね!!」

「そんな事実は一切ないが「なんでよっ!!」、あの少年はバルーカの5等級冒険者ツトム。
 ギルドで噂になっている3等級昇格試験の魔術士と言えばわかるだろう?」

「武烈のロイドとグラハムに勝ったというあの…………」
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