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「今日は色々と教えてもらいありがとうございました」
「いえ、また何かわからないことがあったら気軽にお聞きください」
結局どういった経緯があって俺が姫様に忠誠を誓うことになったのかは聞けなかったな。質問の順番を間違えた……
もっとも万が一にも姫様の耳に入ってしまうとショックを受けるだろうからこれで良かったのかも?
だって、ねぇ…………例えるなら周りに親友だと言いまくっているのに人伝いに『おまえとは友達ですらないってよ』って聞かされるようなもんだもの。俺だったら耐えられん!!
「明日は朝にバルーカに戻られる伯爵閣下とロイター様を見送った後でお風呂作りに取り掛かりましょう!」
自分から言い出したことだしな、どうせ作ることになるのだし腹を括るか!
「そうですね。皆さんの士気にも関わるでしょうし」
言うても魔法で指示された通りに作るだけだし、案外簡単に終わるかもしれん。
「それではまた明日、おやすみなさい」
「ナナイさんおやすみなさい」
一人になった個室でベッドに横になる。
今日は色々なことがあって本当に疲れたが、体のある一部は凄く元気だ。
疲れ何とかという奴だろうか? それともさっきまでここにいたナナイさんやレイシス姫の残り香に反応してるとか?
ロザリナには3日間は帰らないと言ってしまっているし、我慢、我慢…………
----------------------------------------------------------------
-南方砦の将官用個室にて-
「………………………………以上が先程までツトムさんと話した内容でございます」
「ふむ…………
君はそのニホンという国に心当りは?」
「全くありません。大陸北西の小国家群の中の一つなのでは?」
「小国家群なら王国はともかくとしても帝国すら知らないなんてあり得ないだろう。
過去に武力介入してきた帝国に対して、それまで敵対していた国同士で手を組んで退けたことすらある地域だからね」
「とすると帝国の北方に広がる辺境領域でしょうか?
帝国北部を東西に走るアララト連峰の北側、冬は雪で閉ざされる広大な未開の土地に、表向き帝国から自治を許された……実態としては独立国と化している民族・部族が多数存在すると聞き及んでおります」
「そちらの可能性が高いだろうね。
それならツトム君が帝国や南部三国のことをロクに知らないのも頷けるし……」
北方に広がる辺境領域とは帝国が『外交で征服した』と言われている地域だ。
実際はアララト連峰のせいで補給路の構築が困難で遠征軍を派遣できなかったのと、辺境に住む民族や部族の国家形成が不十分で他国に従属することに抵抗が少なかったこと、不足しがちな食糧や嗜好品を手に入れる為の交易相手として帝国は最適だったことなどの理由が噛み合った結果である。
「ニホンという国名もその民族や部族独自の呼称で外には知られてなかったり、それ以前に帝国に従属してない外交上の接点がない部族ということもあり得る。
北方領域は建前上は帝国領になってはいるが、帝国が外交で従属させたのはそれまでの帝国領と接する領域外周部とそこから仲介された部族だけで、領域奥地には接触すらしていない部族が多数存在するらしいからね」
「ツトムさん自身もどの部族か、どこに住んでいたのかという認識はないようですし、身元調査はここまででしょうか?」
「そうだね。通常であればそうなんだが…………」
「何か気になる点でもありますか?」
「うむ…………
辺境の恐らくは奥地という大自然の中で育ったにしては細腕で華奢な体格なのが気になってね…………」
「そう言えばツトムさんの手は凄く綺麗です。
狩りや野良仕事をしていたとはとても思えません」
「うん、街での生活に順応している様や彼の理解力・話しぶりからそれなりの規模の街に住んで高度な教育を受けていたと推測される。
貴族や商家の子息だとしても違和感はないだろう。
帝国と南部三国を知らないことを除けば…………
いや、見知らぬ地という状況下においても我らと対等に話してることこそが高度な教育を受けていることを証明しているとさえ言える」
「はい…………」
「この帝国と南部三国を知らないという事項だけが邪魔なんだ。
なんでこの大地の主要国家を知らな…………」
ま、まさか…………
私の脳裏に、ある古い記憶が浮かんで来た。
あれは確か27か28の時だったか。
家の所用で王都に赴いた際に久しぶりに会った…………
「子爵様?」
「…………君は30年近く前に帝国で遠洋航海を目的とした巨大大型船の建造計画があったのを知っているかい?」
「私が子供の頃に伝わっていた噂話程度でしたら。
確か完成後の試験航海中に座礁して乗組員退去後に大型船は沈んでしまったとか」
「私も当時はそのような噂話程度しか知らなかったのだが、後年外務官の道に進んだ騎士学校時代の旧友と王都で飲む機会があってね、その時に真実の欠片とやらを話してくれたのを思い出していたんだ」
「真実の欠片、ですか?」
「ああ。
その旧友曰く、当時巨大大型船は試験航海とは名ばかりで実際のところはかなり遠洋まで航行したらしいんだ。
その後帰港途中で座礁→沈没という流れは一緒だが、旧友は座礁そのものがわざとで自沈したのだ、と」
「自沈?! どうしてです?」
「それはわからない。
ただ旧友はそれらの事象と近年帝国内で急速に拡大している過激派との関連を疑っている様子だった」
「過激派との関連…………
私には今のお話とツトムさんの出自がまったく繋がらないのですが…………」
「もし彼がこの大地の外から飛ばされてきたのだとしたら? と考えてね。
それならば街に住んでいて高度な教育を受けていたにも関わらずこの地の主要国家のことを知らないのにも筋が通ることになる。
もちろんニホンという国を誰も知らないのも当たり前の話だ」
「大地の外…………
海の向こうの新大地ですか…………
つまり子爵様が仰りたいのは、もしツトムさんの存在が新大地があることを証明するものであるのなら、帝国は昔の巨大大型船の試験航海時に新大地側と接触した可能性があり、そのことが帝国内における過激派の台頭に繋がっている…………と?」
「そうなんだけど、どうして旧友が巨大大型船と過激派との関連を疑っていたのかがわからなくてね。
私は将来的にバルーカで要職に就くことは決まっていたものの、その時はまだ一部隊指揮官でしかなかったから職責外の他国のことなんてさして興味なかったんだよ」
「その御友人に詳しいお話しを聞かれてはいかがでしょう?」
「残念ながら旧友は8年前に病没しているんだ。まだ37歳の若さだったんだけどね」
「いえ、また何かわからないことがあったら気軽にお聞きください」
結局どういった経緯があって俺が姫様に忠誠を誓うことになったのかは聞けなかったな。質問の順番を間違えた……
もっとも万が一にも姫様の耳に入ってしまうとショックを受けるだろうからこれで良かったのかも?
だって、ねぇ…………例えるなら周りに親友だと言いまくっているのに人伝いに『おまえとは友達ですらないってよ』って聞かされるようなもんだもの。俺だったら耐えられん!!
「明日は朝にバルーカに戻られる伯爵閣下とロイター様を見送った後でお風呂作りに取り掛かりましょう!」
自分から言い出したことだしな、どうせ作ることになるのだし腹を括るか!
「そうですね。皆さんの士気にも関わるでしょうし」
言うても魔法で指示された通りに作るだけだし、案外簡単に終わるかもしれん。
「それではまた明日、おやすみなさい」
「ナナイさんおやすみなさい」
一人になった個室でベッドに横になる。
今日は色々なことがあって本当に疲れたが、体のある一部は凄く元気だ。
疲れ何とかという奴だろうか? それともさっきまでここにいたナナイさんやレイシス姫の残り香に反応してるとか?
ロザリナには3日間は帰らないと言ってしまっているし、我慢、我慢…………
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-南方砦の将官用個室にて-
「………………………………以上が先程までツトムさんと話した内容でございます」
「ふむ…………
君はそのニホンという国に心当りは?」
「全くありません。大陸北西の小国家群の中の一つなのでは?」
「小国家群なら王国はともかくとしても帝国すら知らないなんてあり得ないだろう。
過去に武力介入してきた帝国に対して、それまで敵対していた国同士で手を組んで退けたことすらある地域だからね」
「とすると帝国の北方に広がる辺境領域でしょうか?
帝国北部を東西に走るアララト連峰の北側、冬は雪で閉ざされる広大な未開の土地に、表向き帝国から自治を許された……実態としては独立国と化している民族・部族が多数存在すると聞き及んでおります」
「そちらの可能性が高いだろうね。
それならツトム君が帝国や南部三国のことをロクに知らないのも頷けるし……」
北方に広がる辺境領域とは帝国が『外交で征服した』と言われている地域だ。
実際はアララト連峰のせいで補給路の構築が困難で遠征軍を派遣できなかったのと、辺境に住む民族や部族の国家形成が不十分で他国に従属することに抵抗が少なかったこと、不足しがちな食糧や嗜好品を手に入れる為の交易相手として帝国は最適だったことなどの理由が噛み合った結果である。
「ニホンという国名もその民族や部族独自の呼称で外には知られてなかったり、それ以前に帝国に従属してない外交上の接点がない部族ということもあり得る。
北方領域は建前上は帝国領になってはいるが、帝国が外交で従属させたのはそれまでの帝国領と接する領域外周部とそこから仲介された部族だけで、領域奥地には接触すらしていない部族が多数存在するらしいからね」
「ツトムさん自身もどの部族か、どこに住んでいたのかという認識はないようですし、身元調査はここまででしょうか?」
「そうだね。通常であればそうなんだが…………」
「何か気になる点でもありますか?」
「うむ…………
辺境の恐らくは奥地という大自然の中で育ったにしては細腕で華奢な体格なのが気になってね…………」
「そう言えばツトムさんの手は凄く綺麗です。
狩りや野良仕事をしていたとはとても思えません」
「うん、街での生活に順応している様や彼の理解力・話しぶりからそれなりの規模の街に住んで高度な教育を受けていたと推測される。
貴族や商家の子息だとしても違和感はないだろう。
帝国と南部三国を知らないことを除けば…………
いや、見知らぬ地という状況下においても我らと対等に話してることこそが高度な教育を受けていることを証明しているとさえ言える」
「はい…………」
「この帝国と南部三国を知らないという事項だけが邪魔なんだ。
なんでこの大地の主要国家を知らな…………」
ま、まさか…………
私の脳裏に、ある古い記憶が浮かんで来た。
あれは確か27か28の時だったか。
家の所用で王都に赴いた際に久しぶりに会った…………
「子爵様?」
「…………君は30年近く前に帝国で遠洋航海を目的とした巨大大型船の建造計画があったのを知っているかい?」
「私が子供の頃に伝わっていた噂話程度でしたら。
確か完成後の試験航海中に座礁して乗組員退去後に大型船は沈んでしまったとか」
「私も当時はそのような噂話程度しか知らなかったのだが、後年外務官の道に進んだ騎士学校時代の旧友と王都で飲む機会があってね、その時に真実の欠片とやらを話してくれたのを思い出していたんだ」
「真実の欠片、ですか?」
「ああ。
その旧友曰く、当時巨大大型船は試験航海とは名ばかりで実際のところはかなり遠洋まで航行したらしいんだ。
その後帰港途中で座礁→沈没という流れは一緒だが、旧友は座礁そのものがわざとで自沈したのだ、と」
「自沈?! どうしてです?」
「それはわからない。
ただ旧友はそれらの事象と近年帝国内で急速に拡大している過激派との関連を疑っている様子だった」
「過激派との関連…………
私には今のお話とツトムさんの出自がまったく繋がらないのですが…………」
「もし彼がこの大地の外から飛ばされてきたのだとしたら? と考えてね。
それならば街に住んでいて高度な教育を受けていたにも関わらずこの地の主要国家のことを知らないのにも筋が通ることになる。
もちろんニホンという国を誰も知らないのも当たり前の話だ」
「大地の外…………
海の向こうの新大地ですか…………
つまり子爵様が仰りたいのは、もしツトムさんの存在が新大地があることを証明するものであるのなら、帝国は昔の巨大大型船の試験航海時に新大地側と接触した可能性があり、そのことが帝国内における過激派の台頭に繋がっている…………と?」
「そうなんだけど、どうして旧友が巨大大型船と過激派との関連を疑っていたのかがわからなくてね。
私は将来的にバルーカで要職に就くことは決まっていたものの、その時はまだ一部隊指揮官でしかなかったから職責外の他国のことなんてさして興味なかったんだよ」
「その御友人に詳しいお話しを聞かれてはいかがでしょう?」
「残念ながら旧友は8年前に病没しているんだ。まだ37歳の若さだったんだけどね」
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