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「その…………、ツトムさんのように魔術士が積極的に近接戦闘を仕掛けることはほとんどありませんので」

 まぁ俺は新しいタイプの近接型魔術士だからな。
 俺以外では…………5等級昇格試験の時に審判をしていた1等級冒険者のケルトファーが魔法剣士だったか。

「我が国はウインドランスを積極的に取り入れて他国より優位に…………しかし魔術士に近接戦をさせる訳には…………やはり他国並まで魔術士を強化することを優先させるべきかしら?」

 顎に手を添え何やらブツブツと呟いているレイシス姫。
 鎧を自室で脱いで来たのだろう、動き易い普段着的な格好(もちろん高級品ではあるのだろうけど)をしていて長い金髪を先のほうでまとめている。ドレス姿もいいけどこの服装も露出が少ない分秘められたエロさというか、服を押し上げる胸の膨らみがまた…………
 あ、あれ? 今朝話していた時点ではレイシス姫に対してそういう欲求はなかったはずなんだけど…………
 まだ初日なのにもう既に欲求不満になってるのだろうか? あるいは狭い空間に女性二人といることでムラムラセンサーが刺激されてたり?
 もっともどうせムフフな展開にはならないのはわかっているので、それならいっそとっとと帰ってくれないものかなぁ。

「…………ウインドランスのことはわかりました。
 でもツムリーソ、なぜ九つなのですか?」

「ほへ?」

 そんなところに疑問を持つの??

「いくら人より魔物の体躯が大きいからと言って九つも放つ必然性がないでしょう。
 三つか四つで十分なのでは?」

 確かに九頭風閃は見た目が超派手な割には殺傷能力は低いよ?
 三つか四つで十分だろうという意見もわかる。そうした方が魔力消費も抑えられるし、技をスリムにするというか小型化する分使い勝手も良くなる。
 でもさ…………、

 数を減らしたら"九"頭風閃にならないでしょうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 ハァハァハァハァ………………これだからロマンを理解しない女共というのは度し難いな!

「「????????」」

 もう他国の姫だろうが素敵なおみ足だろうが真実をぶち撒けてやる!!

 あっ。もちろん隠すべきところをきちんと隠した形でだけど…………

「私が生まれ育った国には最強と目される剣術の(架空の)流派があり、その流派の奥義を会得する過程で覚える一つの技があります」

「ツトムさんが生まれた国…………」

唐竹からたけ!
 袈裟斬りけさぎり!
 逆袈裟さかげさ!
 左薙ひだりなぎ!
 右薙みぎなぎ!
 左斬上ひだりきりあげ!
 右斬上みぎきりあげ!
 逆風さかかぜ!
 そして刺突つき!

 どの流派のいかなる技でも斬撃そのものはこの九つ以外には無く防御もその九つに対応する形になっています。
 その技はこれらの斬撃を同時に撃ち込む故に防御回避共に不可能」

 収納から木刀を出して軽く振りながら説明する。

「防御も回避も…………」

「そして師の放つこの技を撃ち破ることで奥義を習得できるのです!」

「なんと…………」

 ふふん。恐れおののいているな。

「もちろん私には剣術の才能などありません。
 ならば!! と魔法で再現したのが私が使った魔法なのです。
 ですので数を減らしてしまうと何の意味もなくなるのです」

 まぁ魔法で再現した……だから何なんだ? と突っ込まれると何も反論できないけどな!!

「ではオークジェネラルを倒した魔法はその奥義とやらなのですか?」

「い、いえ、全然違います。
 ジェネラルを倒したのは単に強い魔法というだけでして…………」

 でも案外風槍・零式を奥義と認定してもいいかもしれない。
 戦果は上げている訳だし風槍(回転)を圧縮するのはそれなりに難しいし…………そうなんだよなぁ。あくまでもそれなりの難しさでしかない。奥義と聞いてイメージするような艱難辛苦かんなんしんくの果てに手に入れる奇跡のわざ的な要素はないのだ。
 他国はともかくバルーカでは土属性ではない魔術士は風槍を練習していたから(というか俺が練習させた訳だが)、いずれは圧縮に成功する者も出てくるだろう。
 別に他の人が使えるようになったとしても奥義のままでいいと…………いや、ダメだな。やはり奥義というからには俺でしか使えない魔法じゃないと!!

「ではその魔法を見せてみなさい」

「冒険者として切り札はそう易々と他の人には見せない…………」

「見せなさい」

「…………ハイ」

 俺は右手に魔力を集中し始めた。
 いっそこのままレイシス姫に風槍・零式をぶち当ててやろうかと考えながら…………




……

…………


 もちろん品行方正な俺がそのようなことをするはずもなく、レイシス姫は風槍・零式を見て満足したのか帰って行った。
 『またツムリーソが戦ったら聞きに来ますからね』と言い残して…………

 なぜかレイシス姫と一緒に帰らなかったナナイさんと二人で部屋に残る。
 場が気まずい空気に支配される。
 ナナイさんの格好は部屋で着替えてないようで女性用の兵士姿なままだ。
 いつまでも魅惑のおみ足を拝見できないのを残念がっている訳にはいかないので、こちらから話し掛けてみる。

「冒険者は合流しないのでしょうか?」

「冒険者は明日から合流して砦の守備の一翼を担うことになります。
 明日の朝伯爵閣下とロイター様がバルーカに戻られますので、冒険者はそれと入れ替わる形になるかと」

 伯爵とロイターのおっさんはたった一日で帰るのか。
 まぁ二人とも前線で戦う感じではないから、バルーカで政務なり軍務に勤しむ方が上手く回るのだろう。

「あの、先ほど話されたツトムさんがお生まれになった国というのは?」

 さっきも気にしてたみたいだったけどやはり聞いてきたか!

「自分が生まれた国は日本という国なのですが、この国で何と呼ばれているのかはわかりません」

「ニホン…………そのような国名は私も覚えが…………」

 当然だ。知ってるとか言われたらこっちが驚くわ!

「二ヵ月前に魔法的もしくは超常的な謎の現象に巻き込まれて気付いたらバルーカの南にいたのです」

 ルルカ達にしたのと同じ説明をした。
 人によって説明を変えては紛らわしかったり面倒だったりするからなのはもちろんだが、嘘を吐かずに本当のことを"肝心なことは隠しながら"話さないといけない。
 なぜなら今日この砦で使われた転移現象を起こすような魔道具があるのなら、本当か嘘かを判断する魔道具があってもおかしくないと思ったからだ。
 確か奴隷商が使っている奴隷紋を施す特殊な魔道具は国から貸与されているということだった。ならば王家や大貴族なんかが他に特殊な魔道具を所持していたとしても何ら不思議な事ではないだろう。
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