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「と申しましてもそれほど打ち合わせる内容はないのですが……
とりあえず私は本隊の中央のやや後ろにいますので城を出た後で合流して頂ければ」
「出陣式から城内の行進は結構時間掛かりそうですか? 結構長い列になりますよね?」
ロイター子爵率いる領軍とゲルテス男爵率いる第2騎士団に物資を運ぶ荷駄隊が加わるのでかなりの人数となる。
正確な兵数は不明だ。軍議の時点ではバルーカの守りに領軍をいかほど残すかで司令部内での意見を調整しているとのことだった。
「領民へアピールする思惑もあるので城内はゆっくり行進しますがそれほど時間は掛かりませんよ。
領軍も第2騎士団も指揮官クラス以外は希望者のみ参加しますので」
「もっと半強制的に参加しなければいけない催しとばかり思っていたので意外ですね」
漠然と運動会や何かの大会の開会式、お祭りの時の神輿やパレードみたいなイメージだったのだ。
「バルーカ出身者と家族を呼んでいる者や見送りがいる者以外は参加したところで大して意味はありませんから」
「荷駄隊の方達も不参加なのですか?」
「はい。
今回荷駄隊は攻城兵器の運搬も行いますので第2騎士団の一部を護衛として本体より先に進発します」
「攻城兵器ですか?」
「名前の響き程には大したモノではありませんよ。
魔物が砦に籠城した場合に備えて砦の防壁より高所から弓や魔法で攻撃する為の移動可能な足場というだけですから。
ちなみに砦奪還後には砦の防壁の内側に設置して防御機構として転用する予定です」
これまで魔物が人族側の拠点を制圧占拠した場合の防衛体制は人族からの攻撃に対して常に迎撃一辺倒だった。
以前砦の風上でゴブリン焼きした時に門を開けて向かって来た感じだ。
※今思えばあの時魔物はゴブリンを焼いた匂いに釣られて出撃して来たのではなく、匂いを攻撃を受けたと誤解して迎撃して来たのではないだろうか?
よって人族側の戦術としては拠点から離れたところに防御陣地を構築して、そこに出撃して来た魔物を誘引して殲滅した後に拠点を制圧するという手法が用いられてきた。
今回の砦奪還作戦ではまずは従来通りの方法を試した後で攻城兵器の出番となるのだろう。
「……それで現地に到着しましたら指揮所の近くで待機して頂くことになります」
到着が14時頃で15時に攻撃開始である。
普通1時間では陣地構築などできないが、魔法があるこの世界ではそれが可能だ。
きっと軍には陣地構築のスペシャリストみたいな土魔術士がいるのだろう。
「以前にお話ししましたが、重傷者が出た場合に治療を手伝って頂くかもしれませんが、基本的にはずっと待機する感じになるかと思います」
声が掛からない時は軽傷か死者かのどちらかしかいない訳か……
やっぱり、
「皆さんには内緒で明け方にでも砦に飛んで行って魔物を減らしておくのはダメですか?」
戦いである以上犠牲者が出るのは当然だ。
まして軍隊同士でぶつかり合うからには死者が出るのは織り込み済みでもある。いや、魔物側は"軍隊"と呼んでいいのかよくわかってないけど……
それはわかってはいるのだが何とかできるのなら犠牲者を減らしたいと思うのが人情だ。
「ダメです。絶対にお止めください」
くっ……
「明日の作戦には新たに即位される新国王エリッツ陛下の威信が懸かっております。軍のみでの砦の奪還は至上命令なのです。
失礼を承知で申しますが、得体の知れない冒険者の関与が発覚すれば後々まで王国の武威に傷が残りますし冒険者ギルドとの関係にも溝が出来てしまうでしょう。
お気持ちはわかりますが自重してください」
「……わかりました」
何でもかんでも自分が動きさえすればと考えてしまうのは傲慢なのかもしれない。
それでも……と思ってしまうのは10代に若返った影響だろうか?
『郷に入っては郷に従え』ということわざがある。
ベルガーナ王国に住む以上はこの国の方針や風習には従うべきだ。
逆に言えばこの国から出て行くつもりなら滅茶苦茶やっちゃってもいい訳なんだが…………まだたった2ヶ月間とはいえ大分住み慣れてきた土地を離れる決断は簡単にはできない。
それにしてもナナイさんが『得体の知れない冒険者』と言った時には少しドキッとした。
もちろん冒険者全体に対しての『得体の知れない』なんだろうけど、見ようによっては俺個人を『得体の知れない』人間だと疑っているとも受け取ることができるからな。
「他に何かありますか?」
「砦の奪還後なんですが、夜に外出することは可能ですか?」
「外出……ですか?」
「はい。毎日でなくても構いませんので2~3日に1度、2刻(ほぼ4時間)ほどの間なのですが……」
「事前に仰って頂ければ可能だと思います…………けど、それにしても一体どちらへ?」
「家でゆったりと一風呂浴びてこようかと思いまして……」
まさかイチャイチャする為なんて言えないからなぁ。
!?!?
殺気??
「それは……私含めた女性兵士全員を敵に回すつもりと捉えてもよろしいでしょうか?」
「い、いや、別にそういうつもりじゃ……
もしかして砦には風呂が……」
「もちろんありません。
お湯で体を拭くぐらいしかできません。
お家でお風呂に入られて砦に帰られた際には私が体を拭く様子をお見せしましょう。
さぞや優越感に浸れて気持ち良くお眠り頂けるでしょうから」
うつむきながら話すナナイさんがちょっと怖い……
つかたかが風呂ぐらいで敵対するなよ!!
「その翌朝無惨なお姿のツトムさんを見るのが偲びありませんが……」
ちょっとどころか物理的に怖いってことかよ!!
別にロザリナとイチャイチャするだけなら風呂に入る必要はないが……既に風呂には入らないから外出させてと言ったところで許可が下りるような雰囲気ではなくなってしまっている。
それに当然、『ならどうして外出するのか?』という疑問を抱くだろう。
風呂に入るなんて言わずに家の様子が心配だからとかの理由にしておけば良かった。
後の祭りではあるが、この状況をどうにかしないと依頼中のイチャイチャを諦めなければならなくなる。
色々な案を考えるがやはりオーソドックスな方法に落ち着く。すなわち、
「あの……砦に風呂作ります?」
「是非!!」
ガバッと身を乗り出して超接近して俺の手を両手で握るナナイさん。
とりあえず私は本隊の中央のやや後ろにいますので城を出た後で合流して頂ければ」
「出陣式から城内の行進は結構時間掛かりそうですか? 結構長い列になりますよね?」
ロイター子爵率いる領軍とゲルテス男爵率いる第2騎士団に物資を運ぶ荷駄隊が加わるのでかなりの人数となる。
正確な兵数は不明だ。軍議の時点ではバルーカの守りに領軍をいかほど残すかで司令部内での意見を調整しているとのことだった。
「領民へアピールする思惑もあるので城内はゆっくり行進しますがそれほど時間は掛かりませんよ。
領軍も第2騎士団も指揮官クラス以外は希望者のみ参加しますので」
「もっと半強制的に参加しなければいけない催しとばかり思っていたので意外ですね」
漠然と運動会や何かの大会の開会式、お祭りの時の神輿やパレードみたいなイメージだったのだ。
「バルーカ出身者と家族を呼んでいる者や見送りがいる者以外は参加したところで大して意味はありませんから」
「荷駄隊の方達も不参加なのですか?」
「はい。
今回荷駄隊は攻城兵器の運搬も行いますので第2騎士団の一部を護衛として本体より先に進発します」
「攻城兵器ですか?」
「名前の響き程には大したモノではありませんよ。
魔物が砦に籠城した場合に備えて砦の防壁より高所から弓や魔法で攻撃する為の移動可能な足場というだけですから。
ちなみに砦奪還後には砦の防壁の内側に設置して防御機構として転用する予定です」
これまで魔物が人族側の拠点を制圧占拠した場合の防衛体制は人族からの攻撃に対して常に迎撃一辺倒だった。
以前砦の風上でゴブリン焼きした時に門を開けて向かって来た感じだ。
※今思えばあの時魔物はゴブリンを焼いた匂いに釣られて出撃して来たのではなく、匂いを攻撃を受けたと誤解して迎撃して来たのではないだろうか?
よって人族側の戦術としては拠点から離れたところに防御陣地を構築して、そこに出撃して来た魔物を誘引して殲滅した後に拠点を制圧するという手法が用いられてきた。
今回の砦奪還作戦ではまずは従来通りの方法を試した後で攻城兵器の出番となるのだろう。
「……それで現地に到着しましたら指揮所の近くで待機して頂くことになります」
到着が14時頃で15時に攻撃開始である。
普通1時間では陣地構築などできないが、魔法があるこの世界ではそれが可能だ。
きっと軍には陣地構築のスペシャリストみたいな土魔術士がいるのだろう。
「以前にお話ししましたが、重傷者が出た場合に治療を手伝って頂くかもしれませんが、基本的にはずっと待機する感じになるかと思います」
声が掛からない時は軽傷か死者かのどちらかしかいない訳か……
やっぱり、
「皆さんには内緒で明け方にでも砦に飛んで行って魔物を減らしておくのはダメですか?」
戦いである以上犠牲者が出るのは当然だ。
まして軍隊同士でぶつかり合うからには死者が出るのは織り込み済みでもある。いや、魔物側は"軍隊"と呼んでいいのかよくわかってないけど……
それはわかってはいるのだが何とかできるのなら犠牲者を減らしたいと思うのが人情だ。
「ダメです。絶対にお止めください」
くっ……
「明日の作戦には新たに即位される新国王エリッツ陛下の威信が懸かっております。軍のみでの砦の奪還は至上命令なのです。
失礼を承知で申しますが、得体の知れない冒険者の関与が発覚すれば後々まで王国の武威に傷が残りますし冒険者ギルドとの関係にも溝が出来てしまうでしょう。
お気持ちはわかりますが自重してください」
「……わかりました」
何でもかんでも自分が動きさえすればと考えてしまうのは傲慢なのかもしれない。
それでも……と思ってしまうのは10代に若返った影響だろうか?
『郷に入っては郷に従え』ということわざがある。
ベルガーナ王国に住む以上はこの国の方針や風習には従うべきだ。
逆に言えばこの国から出て行くつもりなら滅茶苦茶やっちゃってもいい訳なんだが…………まだたった2ヶ月間とはいえ大分住み慣れてきた土地を離れる決断は簡単にはできない。
それにしてもナナイさんが『得体の知れない冒険者』と言った時には少しドキッとした。
もちろん冒険者全体に対しての『得体の知れない』なんだろうけど、見ようによっては俺個人を『得体の知れない』人間だと疑っているとも受け取ることができるからな。
「他に何かありますか?」
「砦の奪還後なんですが、夜に外出することは可能ですか?」
「外出……ですか?」
「はい。毎日でなくても構いませんので2~3日に1度、2刻(ほぼ4時間)ほどの間なのですが……」
「事前に仰って頂ければ可能だと思います…………けど、それにしても一体どちらへ?」
「家でゆったりと一風呂浴びてこようかと思いまして……」
まさかイチャイチャする為なんて言えないからなぁ。
!?!?
殺気??
「それは……私含めた女性兵士全員を敵に回すつもりと捉えてもよろしいでしょうか?」
「い、いや、別にそういうつもりじゃ……
もしかして砦には風呂が……」
「もちろんありません。
お湯で体を拭くぐらいしかできません。
お家でお風呂に入られて砦に帰られた際には私が体を拭く様子をお見せしましょう。
さぞや優越感に浸れて気持ち良くお眠り頂けるでしょうから」
うつむきながら話すナナイさんがちょっと怖い……
つかたかが風呂ぐらいで敵対するなよ!!
「その翌朝無惨なお姿のツトムさんを見るのが偲びありませんが……」
ちょっとどころか物理的に怖いってことかよ!!
別にロザリナとイチャイチャするだけなら風呂に入る必要はないが……既に風呂には入らないから外出させてと言ったところで許可が下りるような雰囲気ではなくなってしまっている。
それに当然、『ならどうして外出するのか?』という疑問を抱くだろう。
風呂に入るなんて言わずに家の様子が心配だからとかの理由にしておけば良かった。
後の祭りではあるが、この状況をどうにかしないと依頼中のイチャイチャを諦めなければならなくなる。
色々な案を考えるがやはりオーソドックスな方法に落ち着く。すなわち、
「あの……砦に風呂作ります?」
「是非!!」
ガバッと身を乗り出して超接近して俺の手を両手で握るナナイさん。
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