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もうこうなったらロイター子爵を思いっきり巻き込もう。
「……その際に姫様が懇意にされているアルタナ王国のレイシス姫の御無事を確認する為に……」
あのおっさんからの要請でアルタナ王国に行った事は事実なんだし。(元々アルタナの様子を見に行くつもりだったとしてもだ)
「……それでアルタナ王国に向かったのですが、何分アルタナに行くのは初めてなのでルミナス要塞に迷い込んだところを見つかってしまい、要塞の指揮所に連行されました」
一応戦闘履歴を隠しつつ矛盾のないように経緯を説明するつもりなんだが…………大丈夫だろうか? 大丈夫だと思いたいけど……
「そこで要塞の司令官にレグの街と王都に書状を届けてくれたら要塞に侵入したことは不問にすると言われて伝令をすることに…………」
「我が軍(アルタナ王国軍)の軍服を着ていたのはその時に?」
「は、はい。一般の者が書状を持参したのでは不審に思われるだろうからと……」
要塞の司令官に確認したら一発で嘘がバレるだろうなぁ。
とっさにはこの言い訳しか思い付かなかったから仕方ないけど……
あの司令官があの時のことを忘れてくれているか、些事を気にしない器のデカさがあることに期待するしかないな。
「でしたら名前を偽ったのはどうしてですか?」
「偽ったのではなくお偉い方の前で緊張してしまって口ごもってしまったのを訂正することができずにそのまま……」
さすがに苦しいか?
「先ほどからおかしな言動をしているのも緊張しているからなのですか?」
「は、はい。高貴なお方の御前で話すことは万の軍勢と相対するよりも難しきことにて……」
そんなにおかしいのだろうか?
時代劇や歴史小説なんかだとこんな感じの話し方だと思うけど……
「つまりそなたは私の為にアルタナに赴き行き掛かり上伝令役を担ったと、そのように申すのですね?」
「は! 全ては姫様の御宸襟を安んじ奉らんが為」
「そうですか……」
姫様はじっと目を閉じている。
やがて意を決したようにレイシス姫のほうへと向き、
「レイシス……いえ、レイシス姫、この度は我が臣の不始末心から謝罪致します」
レイシス姫へ向けて頭を下げる姫様。
俺個人としては何も悪い事はしてないと思ってはいるが、国同士の関係においてはそうもいかないのだろう。
「お、お姉さま、顔をお上げください!!」
姫様に借りができてしまったような、貸しのほうが大きいのにそれは言えないので複雑な状況になってしまった。
「私このことを問題とするつもりはありません。もちろん他言も致しません」
「レイシス……ありがとう」
「お姉さま……」
互いに手を取り合うお二人。
そのまま抱き合ってくれればとても画になるのだが……
それにしても今も姫様は俺のことを『我が臣』と呼んだな。
当たり前のことだが俺は姫様の臣下ではない。
俺が姫様に忠誠を誓っても構わないと思ったのは姫様……イリス様の美とエロとロイヤルな属性に対してであってベルガーナ王家とはほとんど関係ないのだ。
もちろんこんなことは誰にも言えないので、表向きはベルガーナ王家の一員であるイリス様に忠誠を誓う体で一向に構わないのだが、問題なのは『我が臣』の意味するところだ。
王政や帝政の国では国民のことを臣民と呼称することがある。そういった意味での"臣"なら問題ないのだが、俺が知らない内にやらかしている可能性もある…………つか状況からして既にやらかしてしまっていると覚悟した方がいいかもしれない……
「ツムリーソ」
「できますればツトムとお呼び頂いたほうが……」
「私にそう名乗ったからには今後もそなたのことはツムリーソと呼ぶこととします。
良いですね?」
「ハ、ハイ……」
案外頑固だな。
まぁレイシス姫に関しては砦にいる間だけの辛抱だ。他ではまず会わないというか会えないお方だからな。
「それでツムリーソ、レグの街の指揮所で見聞きしたことは全て忘れなさい。よろしいですね?」
「かしこまりました」
既に話してしまったことについてはノーカンということで。
「大分話が逸れてしまいましたね。
そうそうツトム、そなたが所望した肖像画についてですが王都にて絵師の手配を済ませた旨の報告を受けました。
近日中にバルーカに来ることでしょう」
「画の中においても姫様の美しいお姿を拝見できる日を一日千秋の思いで待ち続けております」
「ほほほ、相変わらず大げさなことですね」
「お姉さま、ツムリーソに肖像画を下賜されるのですか?」
「ええ、ツトムたっての願いなのよ」
「そうですか……
ツムリーソ、私の肖像画もそなたに贈りましょう」
マ・ジ・で?
いや落ち着け……
落ち着くんだ……
俺は知っているぞ……これは罠だ!
俺が喰い付いたが最後、他の姫にも簡単になびく様子を目の当たりにしたイリス様が俺に失望するという構図を狙っているのだろう。そうはいくか!!
「この身に余る栄誉なことではございますがその件は辞退させて頂きたく……」
「どうしてですか?」
「肖像画に関してはイリス様から私の忠誠心に対する御褒美と捉えてまして、レイシス様からも頂いてしまうとイリス様に顔向けできなくなるからにございます」
「お姉さま?」
「レイシス、ツトムに何か贈りたいのなら肖像画以外になさい」
「わかりましたわ」
色々罠とか警戒しないといけないから他の贈り物も勘弁して欲しいのだけど……
何にせよ今現在のイリス様の穏やかな表情を見ると"断る"という選択肢は正解だったな。
もし受け取る選択をしていたらイリス様の機嫌を大きく損ねていたことだろう。気付けて本当に良かった。
姫様との謁見を終えて次にナナイさんに面会を申し込んだ。
特に待たされることもなく8畳ぐらいの面談室に案内される。
いつものロイター子爵の執務室でないのは子爵宛に面会希望者が長蛇の列をなしているからだろう。
「ツトムさん、前日にどうされましたか?」
「先ほどまで姫様に謁見しておりまして、受付の様子を見て明朝の慌ただしい時間帯に来るよりは今日中にナナイさんに会っておいたほうがいいと思いまして」
「そうですね。私のような若手はさほど忙しくないのですが、急に手伝いに駆り出されるようなことがよくありますので早めに打ち合わせを済ましてしまったほうが良いでしょう」
「……その際に姫様が懇意にされているアルタナ王国のレイシス姫の御無事を確認する為に……」
あのおっさんからの要請でアルタナ王国に行った事は事実なんだし。(元々アルタナの様子を見に行くつもりだったとしてもだ)
「……それでアルタナ王国に向かったのですが、何分アルタナに行くのは初めてなのでルミナス要塞に迷い込んだところを見つかってしまい、要塞の指揮所に連行されました」
一応戦闘履歴を隠しつつ矛盾のないように経緯を説明するつもりなんだが…………大丈夫だろうか? 大丈夫だと思いたいけど……
「そこで要塞の司令官にレグの街と王都に書状を届けてくれたら要塞に侵入したことは不問にすると言われて伝令をすることに…………」
「我が軍(アルタナ王国軍)の軍服を着ていたのはその時に?」
「は、はい。一般の者が書状を持参したのでは不審に思われるだろうからと……」
要塞の司令官に確認したら一発で嘘がバレるだろうなぁ。
とっさにはこの言い訳しか思い付かなかったから仕方ないけど……
あの司令官があの時のことを忘れてくれているか、些事を気にしない器のデカさがあることに期待するしかないな。
「でしたら名前を偽ったのはどうしてですか?」
「偽ったのではなくお偉い方の前で緊張してしまって口ごもってしまったのを訂正することができずにそのまま……」
さすがに苦しいか?
「先ほどからおかしな言動をしているのも緊張しているからなのですか?」
「は、はい。高貴なお方の御前で話すことは万の軍勢と相対するよりも難しきことにて……」
そんなにおかしいのだろうか?
時代劇や歴史小説なんかだとこんな感じの話し方だと思うけど……
「つまりそなたは私の為にアルタナに赴き行き掛かり上伝令役を担ったと、そのように申すのですね?」
「は! 全ては姫様の御宸襟を安んじ奉らんが為」
「そうですか……」
姫様はじっと目を閉じている。
やがて意を決したようにレイシス姫のほうへと向き、
「レイシス……いえ、レイシス姫、この度は我が臣の不始末心から謝罪致します」
レイシス姫へ向けて頭を下げる姫様。
俺個人としては何も悪い事はしてないと思ってはいるが、国同士の関係においてはそうもいかないのだろう。
「お、お姉さま、顔をお上げください!!」
姫様に借りができてしまったような、貸しのほうが大きいのにそれは言えないので複雑な状況になってしまった。
「私このことを問題とするつもりはありません。もちろん他言も致しません」
「レイシス……ありがとう」
「お姉さま……」
互いに手を取り合うお二人。
そのまま抱き合ってくれればとても画になるのだが……
それにしても今も姫様は俺のことを『我が臣』と呼んだな。
当たり前のことだが俺は姫様の臣下ではない。
俺が姫様に忠誠を誓っても構わないと思ったのは姫様……イリス様の美とエロとロイヤルな属性に対してであってベルガーナ王家とはほとんど関係ないのだ。
もちろんこんなことは誰にも言えないので、表向きはベルガーナ王家の一員であるイリス様に忠誠を誓う体で一向に構わないのだが、問題なのは『我が臣』の意味するところだ。
王政や帝政の国では国民のことを臣民と呼称することがある。そういった意味での"臣"なら問題ないのだが、俺が知らない内にやらかしている可能性もある…………つか状況からして既にやらかしてしまっていると覚悟した方がいいかもしれない……
「ツムリーソ」
「できますればツトムとお呼び頂いたほうが……」
「私にそう名乗ったからには今後もそなたのことはツムリーソと呼ぶこととします。
良いですね?」
「ハ、ハイ……」
案外頑固だな。
まぁレイシス姫に関しては砦にいる間だけの辛抱だ。他ではまず会わないというか会えないお方だからな。
「それでツムリーソ、レグの街の指揮所で見聞きしたことは全て忘れなさい。よろしいですね?」
「かしこまりました」
既に話してしまったことについてはノーカンということで。
「大分話が逸れてしまいましたね。
そうそうツトム、そなたが所望した肖像画についてですが王都にて絵師の手配を済ませた旨の報告を受けました。
近日中にバルーカに来ることでしょう」
「画の中においても姫様の美しいお姿を拝見できる日を一日千秋の思いで待ち続けております」
「ほほほ、相変わらず大げさなことですね」
「お姉さま、ツムリーソに肖像画を下賜されるのですか?」
「ええ、ツトムたっての願いなのよ」
「そうですか……
ツムリーソ、私の肖像画もそなたに贈りましょう」
マ・ジ・で?
いや落ち着け……
落ち着くんだ……
俺は知っているぞ……これは罠だ!
俺が喰い付いたが最後、他の姫にも簡単になびく様子を目の当たりにしたイリス様が俺に失望するという構図を狙っているのだろう。そうはいくか!!
「この身に余る栄誉なことではございますがその件は辞退させて頂きたく……」
「どうしてですか?」
「肖像画に関してはイリス様から私の忠誠心に対する御褒美と捉えてまして、レイシス様からも頂いてしまうとイリス様に顔向けできなくなるからにございます」
「お姉さま?」
「レイシス、ツトムに何か贈りたいのなら肖像画以外になさい」
「わかりましたわ」
色々罠とか警戒しないといけないから他の贈り物も勘弁して欲しいのだけど……
何にせよ今現在のイリス様の穏やかな表情を見ると"断る"という選択肢は正解だったな。
もし受け取る選択をしていたらイリス様の機嫌を大きく損ねていたことだろう。気付けて本当に良かった。
姫様との謁見を終えて次にナナイさんに面会を申し込んだ。
特に待たされることもなく8畳ぐらいの面談室に案内される。
いつものロイター子爵の執務室でないのは子爵宛に面会希望者が長蛇の列をなしているからだろう。
「ツトムさん、前日にどうされましたか?」
「先ほどまで姫様に謁見しておりまして、受付の様子を見て明朝の慌ただしい時間帯に来るよりは今日中にナナイさんに会っておいたほうがいいと思いまして」
「そうですね。私のような若手はさほど忙しくないのですが、急に手伝いに駆り出されるようなことがよくありますので早めに打ち合わせを済ましてしまったほうが良いでしょう」
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