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168-第8章 南方砦奪還編

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「ただいま」

 ルルカの実家のあるコートダールのワナークからバルーカまで特に寄り道もせずに一気に帰って来た。
 1人なので全速飛行だったのと2回目の道程ということもあって思ったよりも短時間で帰ることができた。

「ツトム様、おかえりなさいませ」

 台所からロザリナが出てきたが、彼女にしては珍しいエプロン姿だ。

「夕飯の準備をしてくれているのか?」

「はい。ルルカさんみたいに上手にはできませんが」

「ルルカは主婦でいたことのほうが長かったからそこは仕方ないさ。
 それにしても、その格好も良く似合っているぞ」

 頬に傷のある女剣士のエプロン姿にドキッとしてしまう。
 普段料理するルルカを手伝う時もエプロンはしていなかったしな。

「あ、ありがとうございます」

「留守中何か変わったことはあったか?」

「一昨日の午後にお姫様の使いが参りまして、ツトム様に登城するよう言付かりました」

「姫様がか……」

 出陣前に何だろう?

「俺が今日帰って来ることは……」

「お伝えました」

「急ぎな感じはしないし明日城に行くことにするよ」

「わかりました。
 料理のほうはもう少し掛かりますのでしばらくお待ちください」




……

…………


 ロザリナの料理の味は今一つだった。
 不味い訳ではないが普通には届かないそんな味だ。
 まぁギャグ漫画みたいに黒焦げの物体や塩と砂糖を間違えた料理が出てこなかっただけでも良しとするしかない。もっともこの世界では砂糖は激高なので特別な容器に入れられているから間違えることはないだろうけど。
 ずっと冒険者だったロザリナは男性が作るような豪快な料理が得意なのだろう。いくら普段ルルカを手伝っていたと言ってもまだひと月ちょっとの期間でしかないので、それで主婦向けの本格料理へのチャレンジは早過ぎたのだ。

 料理の不出来を謝罪して意気消沈しているロザリナを見かねて、庭でカリーク(=漁村で購入した魚でブリに近い味と食感)を焼いて食べることにした。
 塩を振って焼くだけでいいのは俺達に丁度良く、ロザリナも楽しそうに焼いている。

 この世界の魚を食べるのは一昨日に続いて2回目なのだが、こうやってかぶりついて食べるばかりではなくそろそろ箸を使って食べたくなってきた。
 当然ながらこの世界に箸文化はないので商品として流通しておらず自分で作らないといけない。
 まずは箸に向いた材木探しからだな。手っ取り早いのが今魚を焼いている薪で作ることなのだがそれはできない……というかやりたくない。なぜなら、この薪はオークが使っていた棍棒を風刃で切ったモノだからだ。



 食後にロザリナと風呂に入る。

「こうしてロザリナと2人きりで風呂に入るのは初めてだな」

「はい……」

 風呂もそうだが2人きりで1夜を過ごすこと自体が初めてなのだ。

 湯の中で密着しながらゆっくりとロザリナの体を撫でる。

「んっ…………あの……」

「どうした?」

「明後日からの依頼期間中のことなのですが、妹は2階の私の部屋で寝させます。私は普段通りツトム様のお部屋で寝ますので……」

 せっかく妹が泊まりに来るのだし夜も自分の部屋で2人で過ごせばいいのに、どうしてわざわざ?

「お辛くなりましたら…………その、……夜間に来て頂ければ……お慰め致しますので……」

 おぉ! なるほどなぁ。何も律儀に24時間砦にいる必要はないんだ。
 密かに抜け出すとかだとマズイだろうが、ナナイさんの了解を得た上でなら3時間ぐらいの外出は可能だろう。軍の指揮下に入るとはいえ俺は軍人ではないしな。
 10日間も我慢しなければいけないのが憂鬱だったが、とてもナイスな案を出してくれた。

 だけどここは敢えて……

「確かに軍の中で俺一人冒険者で孤立するのだから辛いことはたくさんあるだろうなぁ。でも10日間の我慢だし頑張って来るよ!」

 俺こんなこと言うキャラじゃねぇ………

「そうではなく、……あの……ツトム様のココが……」

 ロザリナは後ろに手を回して俺のに触る。

「お辛くなりましたら…………私が……」

 ロザリナをこちらに向かせてその目をジッと見る。

「……ご、ご奉仕致しますので…………」

「そうなったら2階にいる妹さんに聞かれると思うけどいいのか?」

「妹には……サリアにはツトム様にご奉仕していることも話してありますので大丈夫です」

「いくら事前にそのように聞かされていても実際に姉のしてる際中の声を聞かされるのは嫌なんじゃないか?」

 俺だったら兄弟や姉妹のしてる際中の声なんて絶対聞きたくないけどな。

「妹はツトム様の御厚意でこの家に宿泊できる立場ですので文句は言わせません」

 立場的にはそうなんだろうが……

「じゃあロザリナ的にはどうなんだ? 姉としたら妹に聞かれるのは嫌だろう?」

「私は既に身も心もツトム様に捧げておりますので誰に聞かれようとも一向に構いません」

「ロザリナ!!」

「あっ……」

 ロザリナを思いっきり抱き締めた。
 ここまで言われてしまったらたくさん可愛がらないといけなくなるじゃないか!!



 寝る前も起きた後もロザリナとたっぷり楽しんだ。
 ルルカともそうなんだが、たまには2人だけでイチャイチャするのも変化があって非常によろしい。
 ましてロザリナの場合は俺が負傷療養してた時にルルカと交代で2人きりになった程度で、こんなにも長時間2人だけで過ごしたことがなかったので反応や仕草の一つ一つがとても新鮮に感じた。

 今晩は外で食べようとロザリナに伝えて家を出る。
 さすがに2日連続で微妙な味の料理は食べたくないしロザリナ自身も勘弁して欲しいと思っているだろう。
 特に急ぐ訳ではないので飛行魔法ではなく歩いて城に行く。
 北門で入城料300ルクを支払い内城へ向かう途中、プリンとアイスクリームを販売しているノーグル商会の系列店のところで足を止める。
 以前見た時は人だかりが発生していたが、その時から2週間以上が経過して物珍しさが薄れたのか客足はまばらだ。

 その時唐突に気付いてしまった。なぜルルカの実家へプリンとアイスクリームを持参しなかったのかと。
 おばさんをはじめ女性陣に喜んでもらえただろうし、ひょっとしたらルミカちゃんの態度も変わったかも…………さすがにそれはないか。
 それにしても土産物=ある程度高価な品という固定観念に囚われ過ぎていた。
 自分の中ではスーパーで売っている大量生産品のほうが美味しいというイメージだったからなぁ。姫様にも召し上がって頂いたというのに。
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