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「お父さん!!」

「ルルカ!!」

 母親の時と同様ルルカは父親に抱き付き…………、いや軽くハグする感じのようだ。

「元気だったかい? 辛くはなかったかい?」

「大丈夫、元気よ」

 ここでルルカの父親は急に辺りを見回し、俺のところで視線を止めた。どうやらロックオンされたようだ。

「君か! 娘を買った冒険者というのは!?」

「はい。初めまして冒険者をしておりますツトムと申します。お嬢さんには普段から大変お世話になっておりまして……」
「ツトムさんまたその呼び方……」
「い、いくらだ!!」

「はい?」「あなた?」「お父さん?」

「いくら払えば娘を解放するんだ?」

 解放って身代金要求している誘拐犯でもあるまいし……もちろん奴隷身分からの解放ということはわかっているけどさ。

「ロクダーリアの店を畳んだ際のお金がまだ残っているんだ! 一体いくらなんだ!?」

「申し訳ありません。例え白金貨を積まれたとしてもお嬢さんを解放するつもりはありません」

「ツトムさん……」

「な、なぜなんだ!? 君だって娘のようなおばさんよりも若い子を傍に置いたほうがいいだろうに!!」

 あちゃー、これは言ったらいけないことを言ってしまわれたようだ。
 見ろ。後ろに立つルルカの実の父親をまるでゴミでも見るかのような蔑んだ目を……

「お父さん、ちょっとこっちに……」

「な、なんだ?!」

「ツトムさん、少しお待ちくださいね」

「あ、ああ、程々にな……」

 ルルカが父親を隅に連れて行く。
 おばさんはニコニコ顔だ。

「(お父さん! 解放なんてしなくていいから!!)」

「(バカを言いなさい! 解放してもらってここで皆で住もう!)」

「(お父さんこそバカ言わないで! 手紙にも書いたでしょ、私今でも十分幸せなんだって!!)」

「(どうせあの少年に無理矢理言わされているに決まっている!!)」

「(そんな訳ないでしょ!!)」

 そう大きな部屋ではないので小声で話していても割と聞き取れる。
 おっと、ルルカが俺が聞き耳を立てていたのに気付いたようだ。
 父親を連れて部屋を出て行ってしまった。




……

…………


「ツトム君と言ったかな?
 先ほどはすまなかったねぇ。今後も娘のことをよろしく頼むよ」

「は、はい、もちろんです」

 父親は戻って来て言う事を180度変えて来た。
 とても説得に応じるような感じでもなかったのだが……
 部屋の外でどのような話があったのか気になるところだ。若干顔が引きつっているし。


 その後に帰宅した祖父母とも挨拶を交わして、3人に回復魔法を掛けた。
 外見からはとても曾孫がいるようなおじいちゃんおばあちゃんには見えなかったが、それも当たり前で年齢的にはまだ70代の前半なんだそうだ。これは成人年齢が15歳と早く10代での結婚・出産が当たり前の世界ならではだろう。

 回復魔法はこれまで体調の悪さを我慢していたらしい祖父母に一番喜ばれた。
 一応おばさんの時と同様に次来た時に経過報告をお願いしたのと、治ったのではなく一時的に痛みや不快感などが消えただけかもしれないことは念押ししておいた。ぬか喜びさせたら申し訳ないからね。特にご老人の場合は。

 残るはルルカの娘であるルミカちゃんだけなのだが……

「嫌よっ! 私はどこも悪くないし、例え悪くともこの人の治療は受けない!!」

 当然の如く断って来た。しかも嫌そうに。

「ルミカ!!」

 ルミカちゃんはそのまま2階(おそらく自室)に行ってしまった。

「あのにはキツく言い聞かせないと!!」

 ルルカも2階へ追いかけようとしたのを手で制す。

「ツトムさん?」

「今日初めて会ったばかりなんだ。
 娘さんは微妙な年代でもあるし仲良くなる為には時間が必要だろう。
 こういうことは家族が口を出すと却って拗れかねないのでそっとしてあげて欲しい」

「娘はツトムさんよりも1つ下なだけなのですが……」

「俺らの年代では例え1歳差でもかなり大きな差なんだ。
 ルルカだって身に覚えがあるだろう?」

 中学や高校に入学した時はたった1学年違うだけの上級生が随分と大人に感じたものだからなぁ。

「それはもちろんありますけど……」

「まして娘さんはまだ未成年じゃないか。
 相応の配慮があって然るべきだ」

 この場合あまりにルルカが厳しく言うと俺への感情を憎しみに変化させてしまう可能性がある。
 だったら現状の嫌われている程度のままのほうが無難だ。

「…………ふぅ、わかりました。厳しく言うのは止めることにします」

「そうして欲しい」

 いつもの流れで自然と抱き締めそうになる手を強引に押し止める。
 なぜならギャラリーが4人もいるからだ。
 その中でもニヤニヤしながら見ていたおばさんが、

「あら。私達に構わずに続きをどうぞ。
 何でしたら寝室を用意しましょうか?」

「お母さん!!」「勘弁してください……」「オイおまえ……」

 大変気まずい雰囲気がその場を支配した。
 こんな空気感になるのはわかっていただろうに、ホント勘弁して欲しい。
 ルミカちゃんがいなかったことがせめてもの幸いだ。

 この場から逃れたいので仕上げとして4人に範囲回復をする。
 当然2階にいるルミカちゃんにも効果を及ぼしてしまうが仕方ないのだ。
 これで用件は全て済ませたはずなので、

「ルルカちょっと……」

 とルルカを店の外に連れ出して腰に手を回し飛行魔法で上空まで一気に上がった。

「俺はこれでバルーカに帰ることにするよ」

「わかりました。迎えに来て頂けるのをお待ちしておりますね」

「これを……」

 予め収納から出しておいた大金貨3枚(=30万ルク)をルルカに渡す。

「そのままご家族に渡してもいいし、ご馳走したり何か買ってあげたりルルカの自由に使ってくれ」

 ルルカが強く抱き締めてきた。

「ありがとうございます。先ほど父に言って頂いたことも凄く嬉しかったです」

「以前言っただろ? 例え嫌がってもずっと側にいてもらうって」

「はい…………」

 空中で濃厚なキスを交わす。
 これ飛行魔法中じゃなかったら我慢できないぐらい興奮しただろうな。

「怪我とかしたらダメですからね」

「ケガしても回復魔法ですぐに治すから心配いらないぞ」

「それでもダメです!」

「わかったよ。今回(の依頼)は軍がメインで俺はあくまでお手伝いだから大丈夫だ」

 もっとも黒オーガみたいな強者が出てきたら再び死闘を演じなければならないだろう。
 あまり心配させたくないのでそのことは敢えて言わないけど……
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