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 露天風呂で土魔法で作ったミニチュア船が浮くかどうか色々と試したものの、浮かばずに沈んでしまう結果となった。
 湯に浸けても崩れることはなかったが重いみたいだ。まぁ土だしな。
 姫様に関しても妙案は思い浮かばず、"もう少しお近づきになった後で"という無難な方向に落ち着いた。
 ただ、イリス姫に深く関わることが俺にとって良い事なのかがよくわからない。王位継承争いに敗れたとはいえ、勝者の次代国王である弟君とは良好な関係らしいのだが……
 仲が良かったのに敵味方に分かれて……なんてことはどの世界の歴史でも割とある話なので注意しないと。



 翌日出発してまだ朝の内に漁村に到着した。
 ルルカはずっと海を見ている。
 上空から遠くの方に海が小さく見えてしまうと興醒めなので、できるだけ低空を飛んで海岸線を目指した。
 最後は目隠しまでして初めて見る海を演出したのだが、絵画と実物との差に中々の満足度のようだ。

 漁村にて魚を分けてもらえないか交渉する。
 ルルカの進言で予めバルーカで交換用の野菜や家具を買い込んできているのだ。
 こういった辺境の村々では貨幣は行商人との取引に使用されるのがほとんどで、個人間では物々交換のほうがスムーズに取引ができると教えてくれた。

 この季節の水揚げはカリークと呼ばれる大きな魚で、異世界だからと姿形がファンタジーということはなく普通な見た目の魚だ。
 炊き出し用に煮られているのを味見させてもらったが、味も食感もブリに近い感じで凄く美味しい。もっとも魚自体約2ヶ月ぶりなので何であろうと美味しかったと思うが。
 他にチグルスという小さ目な魚も見かけるがこれはレアモノらしく、卸し先は貴族や大商会に限定しているそうだ。

 野菜・家具・余っている角付き肉と引き換えに大量のカリークをゲットした。
 先ほど味見だけで物足りなかったので早速焼いて食べることにする。
 村人に捌き方を教わりながら串棒を刺して塩を振り丸々1匹サバイバル風に焼く。
 焼き上がるのに結構時間掛かるんだよな。
 香ばしい匂いが立ち込める頃、かじりついてハフハフしながら食べる。ウマイ!!
 ルルカも上品さを醸し出しながら同様に食べている。

 これで今後も魚を食べられるようになり感無量だ。
 ルルカが調理の仕方を聞き込んでいる間に海上を飛んでみることにした。
 漁師の話では沖の方でも割と安全で、よほど遠くに行かなければ海の魔物は出ないとのこと。
 ただし潮の流れにもよるので絶対という訳でもなく、逆に南方の海は沿岸部でも危険地帯のようだ。
 実際海上をかなり沖まで飛んでも敵感知に反応は無く、ようやく反応があっても深く潜ってるようで空からは海の魔物の姿を拝むことはできなかった。



 漁村での用を済ました後はコートダールの商都近郊まで戻り野営した。

 翌日は商都の観光である。
 もっとも観光スポットなどないので、やることと言えばもっぱらルルカと商店巡りである。
 商業都市なだけあって商品の品揃えは実に豊富でルルカは目を輝かせながらあれやこれやと物色しまくっているが、俺は先日も買い物に付き合ったばかりなので若干食傷気味だ。

「ロザリナの分も買うようにな」

「はい。お任せ下さい」

 しかしここは我慢である。
 明日ルルカを実家に帰らせたら12日間ほど離れ離れになるのだ。

 この日は夕方まで買い物に付き合いヘトヘトになったので近くの良さげな宿に泊まることにした。

「今日はありがとうございました」

「商都なんて滅多に来れないのだから気にするな」

「お疲れでしょう。
 ツトムさんはそのままで」

 ルルカが覆い被さって来る。
 ご褒美ということなのだろうか?
 今夜はいつも以上に奉仕してくれた。



 今日はいよいよルルカの実家に行く日である。
 あまり……というかまず歓迎されないだろうから起きてからイチャイチャしながらも憂鬱だ。

 朝食後に宿を出て、商都の南にあるワナークにはすぐ着いてしまった。
 街の入り口手前に降りてギルドに貼られているであろう街の地図を見る為に冒険者ギルドを探そうとしたら、

「ツトムさん、こちらです」

 と街の入り口広場の隅にある田舎のバス停留所のような所に連れて行かれた。
 屋根付きのスペースは人で混み合っており、壁にはこの街の大きな地図と地区の清掃活動がどうとか市の開催日が何とかといった役所からのお知らせが掲示されていた。

 こういう所に街の地図やお知らせがあるのかと感心していたら、地図を見終わったらしくルルカが戻って来て、

「家の場所がわかりました。行きましょう」

 俺の手を取り歩いて行く。
 何気に外でルルカと手を繋いで歩くのは初めてなので、猛烈な気恥ずかしさを感じつつも素直について行く。
 この世界の住所は一軒一軒を区分するようなものではなく、街の区画毎にひとまとまりで区分けされている。
 言わば番地表示がなくその前の〇丁目までなのだ。
 なのである程度までは絞ることができるのだがそこからは地力で探さないといけない。
 まぁ現代みたいに人間関係が希薄になっている訳ではないので、その区画の人に聞けば普通に答えが返って来るのだけど……

「見つけました」

 はやっ!?
 ルルカは何軒か先にある小さな雑貨屋を指差している。
 普通の戸建ての玄関のところを店舗に改築したようなこの世界で割と見るタイプの家族経営型小店舗だ。

「どうしてすぐわかったんだ?
 ルルカも実家に来るのは初めてなんだろう?」

「はい。
 ですが店の看板が両親がロクダーリアで営んでいた雑貨店と同じ物ですので」

「なるほどな……
 !!!!
 ま、待て、ちょっと待て!
 いいからちょっと落ち着け!」

 すぐ行こうとするルルカを必死に押し止める。
 お前が落ち着けと言わんばかりにこちらを見るルルカ。

「場所はわかったのだし俺はここで失礼する。
 いまから収納にあるお土産を渡すから……」

 ルルカの家族と会わなければ気まずい思いをしなくても済む。
 どの道迎えに来る際は会わないといけなくなるのだが、そこは所謂問題の先送りというヤツである。

「何を仰っているのですか。
 きちんと挨拶して頂かないと困ります」

「現在進行形で非常に困っているのは俺のほう……」

 大体なんで奴隷の家族への挨拶とかそんな罰ゲームみたいなことをしなければならないのか?
 強引に俺の手を引き実家に連れて行こうとするルルカと必死に抵抗を試みる俺。
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