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『か、勝ったのはツトム! 5等級のツトムです!!
 ラックさん、最後の魔法は一体……』

『私も初めて見る魔法です。
 あれだけあらゆる角度からウインドハンマーを撃ち込まれては防御するのは難しいでしょう。
 あのような魔法の使い方が他の魔術士にもできるものなのか大変興味深いですね』


「まさか負けるとは思わなかった。凄い魔法があるのだな」

「手も足も出ませんでしたので切り札を出すしかありませんでした」

 グラハムが手を差し出して来る。

「次は共に戦いたいな」

「機会があれば是非とも」

 差し出された大きな手をガッチリ握った。

 今回ハーフレンジ弾幕魔法を初めて人に向けて使った訳だが、改良すべき点がまだまだある感じだ。
 防御の堅いグラハムだから無事だったが他の人だったらヤバかったかもしれん。
 もっとも後はロザリナ達と4等級の昇格試験を受けるぐらいで模擬戦をする機会なんてもう……
 いや、今回のことでギルドや他のパーティーがまた昇格試験の手伝いを依頼して来るかもしれない。
 事前に対策しておいたほうが良さそうだな。


 皆の元に戻ると、

「よくやったぞ!!」

「すげぇな!!」

「さすがですね!」

「こりゃあ私も気合入れないとダメだねぇ」

「皆さんありがとうございます。後はナタリアさんにお任せします!」

 さすがに3試合目はないだろう。次の試合で決めてくれるはず……

「うっ……、が、頑張るよ……」

「有利な組み合わせなんだし大丈夫さ!!」

「楽勝だろっ!」

「そう言われると逆にプレッシャーが……」




……

…………


 特に波乱などは起きず順当にナタリアさんが勝ったことで俺達の勝利が確定した。
 喜ぶグリードさん達4人。
 試験会場の雰囲気は意外にも祝福ムードだ。
 同じギルドに所属しているパーティーを応援するものの、俺達にそれほど敵対心を抱いているという訳ではないってことらしい。

「皆さんおめでとうございます」

「ツトムのおかげで昇格できたよ。ありがとう」

「試合の勝敗はともかく、皆さんでしたら審査で昇格できていたと思いますよ?」

「2勝もしたくせに謙遜するなっ!」

「そうですよ。結局ツトム君とナタリアしか勝ってないのですから」

「3等級になれるのだから何でもいいよ」

「まぁこの後美味いモノでも喰ってそのまま祝勝会で騒ごうぜ!」

「そうだな! ツトムも来るだろ?」

「すいません、自分はこの後バルーカに戻らないといけないのです。依頼の手続きもしなければいけませんし」

「そうか、残念だなぁ」

「今度奢ればいいでしょっ!」

「そうですね、その時は御馳走になります」

 かけ札を換金してメルクのギルドを後にした。
 結局ヌーベルさんには会えなかったな。



 バルーカに戻り城内ギルドに入る。
 1階にはそれなりの人がおり、先ほどまで行われていたであろう賭け事の余韻は感じられない。
 隅のほうで業者がかけ札の換金に応じているのが見られるぐらいだ。

 まずはルルカ達を探すと…………いた!
 併設されている食堂の端のほうのテーブルに2人で座っており、周囲の男達がチラチラと視線を送っている。
 2人の恰好は普通の外出着(古着)だが、その普段着姿からも強調されるお山の存在感が男共の視線を捉えて離さないようだ。
 女性は男性の視線に敏感と言うが、街中での買い物とかならともかくこういう場所で男の視線に晒され続けることは苦痛なのではないだろうか?
 冒険者として活動していたロザリナは慣れているのかもしれないが、ルルカの場合は元商人と言っても旦那が亡くなってからでそれまでは普通の主婦だったのだ。
 今度聞いてみることにしよう。


「御勝利おめでとうございます」

「おめでとうございます」

 2人の下に行くと揃って今日の勝利を祝われた。
 周囲からは注目の的である。

「ああ、ありがとう。
 楽勝という訳ではなかったが、そこまで祝うようなもんでもないからな」

「何を仰いますか!
 2等級上の3等級相手に立て続けの勝利!
 ツトム様の奮戦ぶりを是非ともロザリナにお聞かせください!!」

「あ、ああ……」

 ロザリナには珍しく随分と興奮しているな。
 速報聞くうちに盛り上がってしまったのだろうか?

「ロザリナ、少し落ち着きなさい。
 ツトムさん、この後すぐお食事でよろしいですか?」

「そのつもりだがもうしばらく待っててくれ。
 依頼の手続きとギルドマスターに話がある」

「わかりました」

 こういう時のルルカは落ち着いていて頼りになるな!



 受付で今回の依頼の報酬である2万ルクと成功報酬の4万ルク、併せて6万ルクを受け取る。
 成功報酬のうち3等級昇格達成についてはグリードさん達がバルーカに戻って3等級になった時点で依頼達成だと思うのだが、今の段階でもらってもいいのだろうか?
 そのことについて聞こうとした時である。

「おめでとうございます!!
 3等級相手に2勝もするなんて凄いです!!」

 横から急に手を取られた。
 昨日依頼を受ける際に対応してくれた茶髪受付嬢だ。
 つか近い! 近い!

「あ、ありがとうございます。何とか勝てました。
 言われた通り勝ちましたので……、ちょっと離れて……」

「速報が来る度にドキドキしてしまいました!
 延長戦にまでもつれて、でも最後にツトムくんが勝ってくれて私もう感動しちゃって……」

 離れてと言っているのに思いっきり抱き付いて来る。
 お山の感触が大変素晴らしいのだが……ツトムくんって……

「最後に勝ったのはナタリアさんで……一旦離れて……」

 やや強引に茶髪受付嬢を離す。

「ツトムくんが負けていたら今月お昼抜きになるところでした!!」

「それは良かったですね。
 自分はこれからギルドマスターと話があるので失礼しますね」

 逃げるようにその場を離れる。
 不穏な視線を感じるがそちらを見る勇気は俺にはなかった……



「戻ったか! 良い結果を出してくれて感謝するよ!」

 最上階(3階)にある執務室に入るとレドリッチが上機嫌に出迎えてくれた。

「困難な依頼でしたが我が魔力にかかればこんなものですよ!!」

「本当に良くやってくれた。
 これでバルーカに再び3等級冒険者が所属することになった訳だ。
 いやぁめでたい!」

 レドリッチの機嫌が良い内にとっととこちらの要求を通したほうがいいだろうな。

「それで約束の件は覚えていますか?」

「もちろんだ。確か1人勝つ毎に貸し1つだったな。
 現在私は君に借りが2つあるということになる」

「早速1つ使わせてください」

「良かろう。君の望みを言い給え。
 あくまでも私ができる範囲内で叶えようじゃないか」
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