161 / 380
158
しおりを挟む
グリードさんが戻って来た。
「皆すまない、引き分けに持ち込むのがやっとだった」
「素晴らしい試合でしたよ」
「よくやったと思うぜ!」
「後は安心して任せな…………と言えたらいいのだけど、対戦相手にあのグラハムがいてはねぇ」
なんて声を掛ければいいのかわからん!
部外者且つ下の等級で年下でしかも俺は勝っているというこのかなり微妙な立ち位置での発言は極めて難しい。
「恐らく五分の対戦成績ということで3等級への昇格自体は間違いないはずだ。
ナタリアもツトムも延長決定戦は気楽に戦って欲しい」
「わかりました」「胸を借りるぐらいの気持ちでやるかねぇ」
3等級パーティーと互角に戦ったのだから昇格は確実だろう。
審査するのはメルクのギルドだけど、他所のギルドのパーティーが絡む以上は変な審査はしないはずだ。
つまり指名依頼と当初の目的であるグリードさんパーティーの3等級昇格は達成されたのでこれから行う試合は負けても何も問題ない…………のだが、個人的に負けられない事情があるのだ。
なにせバルーカに戻ってあの2人に負けたなんて報告した日には、
『やはり日頃の鍛錬が足りないのです。明日から……いえ、今日から毎日血反吐を吐いてもらいましょう』
『そうねぇ。負け犬にはせいぜい足でも舐めてもらおうかしら』
なんて言われるに決まっている!!(※注意! あくまでも個人の主観によるものです)
俺の平穏な日常を守る為にも絶対に負ける訳にはいかないのだ!!
なのだが……
『これより延長決定戦第一試合を行います!
第一試合はツトム対グラハム!!』
そう。対戦相手は巨漢盾職のグラハムなのだ。
はっきり言って難敵である。
『ツトムは先ほどの試合で攻撃に回復にとかなりの魔力を消費していますから厳しい戦いになるでしょう。この短時間では回復は難しいでしょうから』
俺の魔力はまだまだ余裕があるのでラック氏の見立ては外れてはいる。
ただ問題なのは魔法攻撃が果たして通じるのかってことだ。
決め技に使っていた風槌アッパーは通用しない。
なぜなら、グラハムの厚い胸板とその上に重厚な鎧を着込んでいるせいでアゴが出ていないのだ。
横から狙おうにも肩の装備が邪魔してまともにヒットしないだろう。
一応奥の手を用意してはいるが、果たしてそれで倒し切れるかどうか……
「ツトム、気楽にな!」
「俺の仇を取ってくれ!!」
「私の生活費が懸かっていますよ!!」
「ツトムが勝ってくれれば私達の勝ちよ!」
ギャンブル親父なモイヤーさんのセリフはとりあえず無視するとして。
次の第二試合はアタッカー相手という事でナタリアさんが有利だ。だけど、俺が負けると1勝1敗となり勝者同士の決定戦でグラハムと戦うことになる。男女差・体格差・技術差どれも劣っているナタリアさんに勝機はない。
中央に出てグラハムと対峙する。
こうして対峙してみると改めてその大きさを再認識させられる。
俺が今まで出会った中での一番の巨漢はオーク集落討伐の際に壊滅してしまった瞬烈のガルクだが、グラハムはガルクに勝るとも劣らないほどの巨体だ。
見てる人達からすれば一般人より"ほんの少しだけ"身長の低い俺との対比でより大きく感じているはずだ。チキショー!!
「少し早いが3等級昇格おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
審判の開始の合図を待っていたら意外にもグラハムから声を掛けられた。
「初戦の勝利も見事だったよ。これが模擬戦ではなく実戦だったら私に勝つ目はなかったかもしれないな」
つまりこの試合の勝ちは確信しているという訳か。
模擬戦での巨漢盾職の絶対的な有利さを前提とするのなら正しい見方なんだろうが、
「申し訳ありませんがこの試合、負けるつもりはありませんよ?」
極めて個人的な事情から負けられないのだ!!
「ほぉ……」
それまで穏やかな表情をしていたグラハムが一気に獰猛な顔付きに……
「なら君の実力を見せてもらおうか!」
「はじめ!!」
俺達の会話を聞いてた審判がいいタイミングだとばかりに開始の合図を出す。
俺は突然の開始に慌ててバックステップして魔法を発動させる。
あれだけの巨体なら少々威力を強くしてもケガすることはあるまい。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! …………
威力を強くした風槌を間断なく撃ち出していく。
グラハムはその場を動こうとせずその巨体に合わせて作られたのであろう大きな盾を持つ左手も動かさずに、木刀を持った右手で顔をガードしたのみだった。
「この程度かね?」
まるで効いてないかのようにその場に立つグラハム。
実際効いてないのであろう。
こうなると致し方ない。
ケガしないことを祈って最大出力で撃つしかない。
まぁ例えケガしたとしても回復させればいいのだが、審判が規定違反を宣告してくるかもしれないのだ。
こちらに向かって来ようとするグラハムに対して最大威力の風槌を放つ。
ズドン! … ズドン! … ズドン! … ズドン! … ズドン! …
慎重にやや間隔を空けて撃ち出した。
「ぐっ」
初弾を無防備に受けたグラハムは次弾からは左手に持つ大きな盾を掲げて防御した。
「素晴らしい威力のウインドハンマーだ。
ここまでの魔法はこれまで受けた事も見た事も無い、その年齢で大したものだ」
「どうも……」
「だが! この試合は終わりにさせてもらう!」
盾を構えて突っ込んで来た!
風槌を放つが当然の如く盾で防御されて足止めすらできない。
そのままタックルされて飛ばされる。
慌てて回復魔法を掛けて立ち上がったところに再びグラハムがタックルしてくる。
今度は腰をしっかり落として受け止める。
俺のステータスなら可能なはずだ!
ガシッッ!!
少し押し込まれるもののなんとか受け止める。
「やるではないか!」
そのまま近接格闘戦に移行した。
俺はもはや返事する余裕もなく手足を動かし剣を振るう。
グラハムは大きな盾を攻撃に防御にと巧みに使い分けて戦うスタイルだ。
盾捌きだけなら以前5等級昇格試験で戦ったホッジスのほうが数段上手い。
剣術もなんとか上級者枠に入れるか?ぐらいの3等級にしては微妙な剣腕だ。
だがパワーが凄い。
剣や盾での攻撃を受ける度にこちらの動きを寸断させられてしまう。
そして……
わかっていたことではあるが……
俺の拳法剣はまったくグラハムに通用しなかった……
「皆すまない、引き分けに持ち込むのがやっとだった」
「素晴らしい試合でしたよ」
「よくやったと思うぜ!」
「後は安心して任せな…………と言えたらいいのだけど、対戦相手にあのグラハムがいてはねぇ」
なんて声を掛ければいいのかわからん!
部外者且つ下の等級で年下でしかも俺は勝っているというこのかなり微妙な立ち位置での発言は極めて難しい。
「恐らく五分の対戦成績ということで3等級への昇格自体は間違いないはずだ。
ナタリアもツトムも延長決定戦は気楽に戦って欲しい」
「わかりました」「胸を借りるぐらいの気持ちでやるかねぇ」
3等級パーティーと互角に戦ったのだから昇格は確実だろう。
審査するのはメルクのギルドだけど、他所のギルドのパーティーが絡む以上は変な審査はしないはずだ。
つまり指名依頼と当初の目的であるグリードさんパーティーの3等級昇格は達成されたのでこれから行う試合は負けても何も問題ない…………のだが、個人的に負けられない事情があるのだ。
なにせバルーカに戻ってあの2人に負けたなんて報告した日には、
『やはり日頃の鍛錬が足りないのです。明日から……いえ、今日から毎日血反吐を吐いてもらいましょう』
『そうねぇ。負け犬にはせいぜい足でも舐めてもらおうかしら』
なんて言われるに決まっている!!(※注意! あくまでも個人の主観によるものです)
俺の平穏な日常を守る為にも絶対に負ける訳にはいかないのだ!!
なのだが……
『これより延長決定戦第一試合を行います!
第一試合はツトム対グラハム!!』
そう。対戦相手は巨漢盾職のグラハムなのだ。
はっきり言って難敵である。
『ツトムは先ほどの試合で攻撃に回復にとかなりの魔力を消費していますから厳しい戦いになるでしょう。この短時間では回復は難しいでしょうから』
俺の魔力はまだまだ余裕があるのでラック氏の見立ては外れてはいる。
ただ問題なのは魔法攻撃が果たして通じるのかってことだ。
決め技に使っていた風槌アッパーは通用しない。
なぜなら、グラハムの厚い胸板とその上に重厚な鎧を着込んでいるせいでアゴが出ていないのだ。
横から狙おうにも肩の装備が邪魔してまともにヒットしないだろう。
一応奥の手を用意してはいるが、果たしてそれで倒し切れるかどうか……
「ツトム、気楽にな!」
「俺の仇を取ってくれ!!」
「私の生活費が懸かっていますよ!!」
「ツトムが勝ってくれれば私達の勝ちよ!」
ギャンブル親父なモイヤーさんのセリフはとりあえず無視するとして。
次の第二試合はアタッカー相手という事でナタリアさんが有利だ。だけど、俺が負けると1勝1敗となり勝者同士の決定戦でグラハムと戦うことになる。男女差・体格差・技術差どれも劣っているナタリアさんに勝機はない。
中央に出てグラハムと対峙する。
こうして対峙してみると改めてその大きさを再認識させられる。
俺が今まで出会った中での一番の巨漢はオーク集落討伐の際に壊滅してしまった瞬烈のガルクだが、グラハムはガルクに勝るとも劣らないほどの巨体だ。
見てる人達からすれば一般人より"ほんの少しだけ"身長の低い俺との対比でより大きく感じているはずだ。チキショー!!
「少し早いが3等級昇格おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
審判の開始の合図を待っていたら意外にもグラハムから声を掛けられた。
「初戦の勝利も見事だったよ。これが模擬戦ではなく実戦だったら私に勝つ目はなかったかもしれないな」
つまりこの試合の勝ちは確信しているという訳か。
模擬戦での巨漢盾職の絶対的な有利さを前提とするのなら正しい見方なんだろうが、
「申し訳ありませんがこの試合、負けるつもりはありませんよ?」
極めて個人的な事情から負けられないのだ!!
「ほぉ……」
それまで穏やかな表情をしていたグラハムが一気に獰猛な顔付きに……
「なら君の実力を見せてもらおうか!」
「はじめ!!」
俺達の会話を聞いてた審判がいいタイミングだとばかりに開始の合図を出す。
俺は突然の開始に慌ててバックステップして魔法を発動させる。
あれだけの巨体なら少々威力を強くしてもケガすることはあるまい。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! …………
威力を強くした風槌を間断なく撃ち出していく。
グラハムはその場を動こうとせずその巨体に合わせて作られたのであろう大きな盾を持つ左手も動かさずに、木刀を持った右手で顔をガードしたのみだった。
「この程度かね?」
まるで効いてないかのようにその場に立つグラハム。
実際効いてないのであろう。
こうなると致し方ない。
ケガしないことを祈って最大出力で撃つしかない。
まぁ例えケガしたとしても回復させればいいのだが、審判が規定違反を宣告してくるかもしれないのだ。
こちらに向かって来ようとするグラハムに対して最大威力の風槌を放つ。
ズドン! … ズドン! … ズドン! … ズドン! … ズドン! …
慎重にやや間隔を空けて撃ち出した。
「ぐっ」
初弾を無防備に受けたグラハムは次弾からは左手に持つ大きな盾を掲げて防御した。
「素晴らしい威力のウインドハンマーだ。
ここまでの魔法はこれまで受けた事も見た事も無い、その年齢で大したものだ」
「どうも……」
「だが! この試合は終わりにさせてもらう!」
盾を構えて突っ込んで来た!
風槌を放つが当然の如く盾で防御されて足止めすらできない。
そのままタックルされて飛ばされる。
慌てて回復魔法を掛けて立ち上がったところに再びグラハムがタックルしてくる。
今度は腰をしっかり落として受け止める。
俺のステータスなら可能なはずだ!
ガシッッ!!
少し押し込まれるもののなんとか受け止める。
「やるではないか!」
そのまま近接格闘戦に移行した。
俺はもはや返事する余裕もなく手足を動かし剣を振るう。
グラハムは大きな盾を攻撃に防御にと巧みに使い分けて戦うスタイルだ。
盾捌きだけなら以前5等級昇格試験で戦ったホッジスのほうが数段上手い。
剣術もなんとか上級者枠に入れるか?ぐらいの3等級にしては微妙な剣腕だ。
だがパワーが凄い。
剣や盾での攻撃を受ける度にこちらの動きを寸断させられてしまう。
そして……
わかっていたことではあるが……
俺の拳法剣はまったくグラハムに通用しなかった……
22
お気に入りに追加
1,592
あなたにおすすめの小説



劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの
つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。
隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる