異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

文字の大きさ
上 下
135 / 374

132

しおりを挟む
「ロザリナはどうして王都に行くのが嫌なの?」

「………………」

 そんなに嫌なことがあったのかしら?
 無理に話す必要はないと口に出そうとしたけどロザリナが話し始めるのが一瞬早かった。

「父の戦死後に母は個人商店を営む男性と再婚したんです。
 私達姉妹は母の再婚に反対だったということもあり新しく義父となった男性との折り合いも悪く……」

 家庭の事情が理由のようね。

「気まずい状態が続いていたそんなある日、義父が妹に悪戯しようとしていたのを目撃してしまったのです。
 慌てて妹を引き離してそのまま母のところに行き冒険者になりたいからと言って妹と共に家を出ました。
 母には凄く反対されましたが、義父のしたことを言うこともできずにケンカ別れのような形になってしまいました」

「ロザリナ達が家を出る際お母さんは援助とかしてくれなかったの?」

「いえ、母は父が戦死した際に王国から支給された弔慰金のほとんどを持たせてくれました。
 当時私は若かったので感情的にそのお金を受け取り難かったのですが、そのお金が無ければ妹と2人で路頭に迷っていたでしょうから今では感謝しています」

「その後お母さんとは連絡は取っているの?」

「家を出て以降連絡は途絶えたままです。もう10年以上になります」

 想像以上に厳しい事情だわ。

「加えて王都には騎士学校時代の友人知人が多くおりますので、未だ結婚もできず冒険者としても半端な自分は非常に再会しづらいと言いますか気まずいですので……」

 こちらの理由はよくある話ね。
 まして今は奴隷落ちしているのだし。
 1番問題なのはやっぱり母親のことよね。

「同じ娘を持つ母親の立場から言わせてもらえれば、お母さんはあなた達姉妹のことを相当心配していらっしゃるはずよ」

「………………私も当時の母の年齢に近付くにつれ再婚した母の気持ちが少しだけわかるようになりました。
 相手が義父という点はまったくの別問題ですが。
 ただ、妹の意向も確認しないといけませんし、何より今の私は奴隷ですので……」

 これは困ったわねぇ。
 ツトムがこのことを知れば絶対に姉妹と母親を再会させようとするはず。
 私が(ロザリナの家庭事情を)ツトムに話したことがばれるのが確定しているのなら、後でわかるより先回りして予め言っておいたほうが(私にとっては)得策よね。
 
「実はあなたに王都のことを聞いたのはツトムさんに頼まれたからなのよ」

「ツトム様が…………そうですか」

「厄介な貴族にでも目を付けられているのではないかと心配されていたのよ」

「私のような女にそのような心配は無用ですのに……」

 ロザリナは少し自己評価を低くし過ぎではないかしら。
 謙遜でならわかるけど本気でそう思ってるみたい。
 頬に傷があるとはいえキリッとした美人だしスタイルも抜群だし控えめな性格だし……冒険者時代は粗暴な口調をしてたらしいけど、さすがにそれは演技よね?
 女はどうしても30過ぎると男性からの評価は低くなるけど、幸いにも私達の主であるツトムは30過ぎた年上の女性へのこだわりがあるみたいだし。

「ロザリナの事情を知ったらきっと何とかしようと動かれると思うわよ?」

「ツトム様は奴隷如きの家庭事情を気になさるでしょうか?」

「その奴隷如きを実家に帰らせる為に大陸を飛び回る人なのよ?」

「そうですね……ツトム様は少し変わったお方ですから」

 『あのエロ小僧はかなりおかしいわよ』という言葉が口から出掛かったけどなんとか自重した。
 その代わりにツトムが今日オークを大量に売却すると聞いた時から密かに考えていたことをロザリナに話してみる。

「ところで話はガラリと変わるのだけど、ツトムさんの行程が順調なら今晩にでも2人で『〇〇〇〇〇』と提案してみない?」

「良い案かと思います。賛成です」

 澄ました感じでいるが嬉しそうなのがバレバレだ。

「ただ私は構わないのですが、ルルカさんは体力的にキツくありませんか?」

「大丈夫よ、あなたが来るまで私は1人でツトムさんの相手をしていたのよ」

「そうでしたね、では夕食時にでもお話に……」

「いえ、ここは夜ベッドで話すわ!」

「えぇぇ?!」

「いつもよくわからないこと言われて言いくるめられているから、ベッドで私達の有利な状況に持って行くのよ!!」

「えっと……このお話に有利も不利もないかと思いますが……」

 夜が待ち遠しいわね!

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ギルドから20分ほど歩いたところに解体場と訓練場があった。
 街の中心地から離れたところにあるだけあってどちらも中々大きな施設で、訓練場では多くの冒険者が汗を流していた。
 そんな訓練の様子を横目で見ながら解体場の受付らしきところにいる男性職員に声を掛ける。

「あの~オークを売りたいのですが……」

「見ない顔だな、まずは冒険者カードを見せてくれ」

 5等級の冒険者カードを見せる。

「バルーカ? 壁外区? 聞かない名称だがどこのギルドなんだ?」

 冒険者カードの所属欄に書かれている『バルーカギルド壁外区域出張所』という名称に戸惑っているようだ。

「ベルガーナ王国の南にあるバルーカの壁外ギルドです」

「そりゃあまた随分と僻地からやって来たな!!」

 僻地……帝都にいる人達からすればバルーカは辺境扱いなのか。
 実際バルーカで暮らしている身としては複雑な想いがあるが、帝都を中心とする見方をすればそのような扱いもやむを得ないのかねぇ。

「まぁオークの買い取りなら帝都が1番だからな。何体あるんだ?」

「逆に何体までなら買い取ってくれます?」

「特に上限は設けてないが…………そんなにあるのか?」

「1136体です」

「は?」

「だから1136体です」

 男性職員は呆けたような感じで俺を見ていたが、

「とりあえずそこに並べてくれるか?」

 と解体作業をしている横のスペースを指差した。
 300体も置け無さそうな場所だがとりあえずオークの死体を並べていく。

「マ、マジかよ……とりあえずここには200体ピッタリ置いてくれ。
 後はすぐに他の場所を用意するからそこに出してもらう」

「わかりました」

「オイ! すぐに非番の連中に声を掛けてくれ!
 それと卸業者を回って解体前のオークを仕入れたいか聞いてこい! それとこちらに回せる解体要員がいないかも併せて聞くのを忘れるなよ!」

「「行ってきます!!」」

 一気に解体場全体がハチの巣をつついたような騒ぎとなった。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

処理中です...