上 下
102 / 360

099

しおりを挟む
「宮仕えは自分の気性には合わないと思います」

 せっかく異世界に来たのに真面目に働くなんて絶対嫌だ。
 特に朝のイチャイチャタイムは絶対に死守せねば。
 これまで何の為にパーティーも組まずにソロで頑張って来たと思っているんだ。
 もっとも求められるのは有事の際の戦力としてだから真面目に働く必要はないのかもしれないけど。

「だろうね。軍務卿直属ともなると名前を隠すというのも無理があるし」

「あの~、例えば仮面か何かを付けて正体を隠すのはいかがでしょうか?」

 今まで黙って話を聞いていたナナイさんが提案してきた。
 変身ヒーロー的な感じだろうか?
 上手くやればこの世界初のヒーローモノとして爆発的な人気を得られるかもしれない。
 キャラクターグッズを商品化して大儲けなんてことも夢じゃないかも。

「一時凌ぎにはなってもずっとは無理だろう。
 却って目立つことになるし余計なトラブルも招き易くなるだろうね」

「そうですか……」

 ナナイさんはシュンとしてしまった!
 まぁ、『あの仮面魔術士の正体は誰だ!?』と騒ぎになるのは目に見えているからなぁ。

「一番良いのは魔物の侵攻を許さず自分の出番がないことだと思うのですが、1等級冒険者や金級・銀級冒険者に前線に住んでもらっていざという時に守ってもらうことはできないのでしょうか?」

 ここで今日レイシス姫に会う前に疑問に思ったことを聞いてみた。

「う~~ん……、これは中央や軍の中枢で噂されていることなんだが、金級・銀級・1等級冒険者は実はいないのではないかということが言われてるんだよ」

「いない????」

 どういうことだ?
 例え活動自体はしてなくてもきちんといるはずなんだが……

「君も知っているだろうけど1等級冒険者への昇格は数年に1人、銀級への昇格に至っては10年以上いない。
 これはどういうことかと言うと、新しく昇格した1人を除けば全盛期から10年以上経過した者ばかりが集まる老兵集団ということになる。言い方は悪いけどね」

「つまり実績はともかく戦力や能力的には1等級に相応しくない者ばかりということなのでしょうか?」

「鍛錬を続けていれば技量を維持したり向上させることは可能だし対人戦や模擬戦では相応の強さを発揮できるだろう。
 しかしながら我々に必要というか期待したいのは魔物を殲滅する強さだからね。
 身体能力の劣化した彼らは1等級だの銀級金級と持ち上げて特別視するような存在ではなくなっているのだよ」

 加齢による能力の劣化か……
 キツイ問題が出てきたな。
 しかし……

「ロイター様が仰られたのは近接戦闘職についてですよね?
 魔術士はどうなんです?
 魔術士であれば加齢による影響も少なく実戦で等級相応の実力を発揮できると思うのですが……」

「確かにそうなんだけどね、本来魔術士というのは数を揃えて火力で制圧するのが従来の運用法で君が教えてくれた新魔法を会得してもそれは変わらない。
 1等級以上の魔術士が戦列に加われば戦力アップにはなるものの戦局を左右するような存在ではないんだ。
 君だって自分が特異な存在だと思うからこそ権力機構や危ない組織から狙われるのを危惧している訳なんだろう? 君と同等以上の働きが1等級以上の魔術士にできるのなら名前を隠す必要はないだろうからね」

 薄々そうなんじゃないかとは思っていたが、魔法に関しては人類最強クラスということらしい。
 もちろん経験が必要な技術的な部分では俺より優秀な魔術士はいくらでもいるだろうが、威力や魔力量で総合的には上回ってしまうのだろう。

「わかりました。今後どこかが危機の際はお知らせください。
 なるべく正体がバレないように魔物を撃退しますので」

「そこなんだがね……
 ツトム君。貴族になることを真剣に考えてみたらどうかな?」

「それは最初にお会いした時に話されたロイター様の臣下にということでしょうか?」

 この人の下なら真面目に勤務しなくても大丈夫だろうし、色々融通も効かせてくれるだろう。
 あっ、でも冒険者は辞めないといけなくなるな。
 稼ぎ的には厳しくなるし年上ハーレム計画も頓挫してしまう。
 いや、例え冒険者を辞めてもどこかの商会に直接オークを売れるなら稼ぎとしては問題ないのではないか?
 狩りなんて貴族の嗜みみたいなもんだろうし、俺の場合は獲物の量がちょっとだけ多いってだけだ。

「そういえばそんなこともあったねぇ。
 あれからまだ一月も経ってないのに随分昔のことのように感じるよ。
 それはそうと結論から言うと、私に仕えるという形ではなく君自身が新たに家を興すということだ」

「自分が……ですか……」

「貴族になれば国からの庇護が受けられるし、よほどの理由でもない限りは手を出そうと考えることすらなくなる。
 最初はせいぜい村1つだろうけどそこから領地が増えれば君の同居人だったかな? を守る戦力も増えることになる。
 私の臣下では政治的には守れても直接的に守るのは難しくなるからね。普通は家臣が主君を守るのであってこれが逆になると家内の統制的にもマズイ事態となってしまう」

「しかし自分に貴族が務まるでしょうか?
 権謀術数が渦巻く魑魅魍魎|《ちみもうりょう》の世界と聞き及びますが……」

「そのイメージはどうなんだと思うけどね。
 確かに中央の貴族にはそのような傾向があることは否定しないけど私が言ってるのはここバルーカで貴族にならないかということなんだ。地方貴族ということだね。
 デメリットとしては男爵より上に出世するのが困難なことなんだけど爵位を上げたい訳ではないのだから問題はないだろう。
 領主であるグレドール伯爵は中央から派遣された方だけど公明正大な人柄だし伯爵を除けばバルーカでの貴族のトップはかく言う私だから悪いことにはならないと思うよ」

 確かに貴族というだけでチョッカイかけてくる人なり勢力や組織は激減するだろう。貴族バリアとでも言うべきだろうか。
 いずれ与えられた領地で兵馬を養えるようになるなら防御力としても完璧だ。
 現状のようにロザリナを常にルルカに張り付けておく必要もなくなるかもしれない。

「いずれにせよ砦を奪還するまでは伯爵も私も手が空かないからね。
 君を貴族にするにしてもその後ということになる。
 それまでよく考えて結論を出して欲しい」

「承知しました。
 前向きに検討させて頂きます」
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...