上 下
98 / 360

095

しおりを挟む
「よし! ツムリーソ、これをレグの指揮官に、こちらは陛下にお届けするように」

「かしこまりました!」

「頼むぞ」

「行ってまいります!」

 要塞司令官の部屋を出て階段を下りていく。

 やっぱりこの2通の書状は届けないとマズいよなぁ。
 まぁレグの街は最後に無事なのを確認するのはアリか。
 レイシス姫にも近くで会える口実にもなるしな。
 その後の王都行きは気が進まないが、王城で適当な誰かに書状を託せばいいか。
 王様に直接渡すなんて冗談じゃないしな。


 おっと、本来の目的を忘れてはいけない。
 3階まで降りて様子を見る。
 看護婦さんが行ったり来たり忙しそうにしている。
 このまま話すと身バレしてしまうよなぁ。
 そうだ!
 隅に置いてある包帯を失敬して……人のいないところに行き、首から目の下あたりまで包帯でぐるぐる巻きにする。
 却って目立つか?
 包帯のイメージが強くて全体の印象が薄くなるだろう……と思いたい。

 あの看護婦さんに聞こう。

「ちょっといいですか?」

 なぜならナイスバディだからだ!!

「なんでしょう?」

 俺の包帯で覆った顔を見て怪訝な表情をしてるな。

「この中に手足を切断されたケガ人はいますか?」

「何名かおりますが……」

「その中で切断された手足がまだある人はいますか?」

「1人だけいますけど……」

「案内してください」

「こちらへ」

 案内されたベッドには足を膝下から斬られた男性兵士が寝ていた。
 まだ20歳ぐらいの若さだ。

「包帯取るぞ、切断された足は?」

「こちらに」

「な、なんなんだおまえは!?」

 斬られた足は氷とかでちゃんと保存してないけど大丈夫だろうか?
 まぁ俺は医者じゃないし元通りくっついたら儲けものと思ってくれ。
 傷口を合わせて……

「痛てぇ! なんなんだよ!」

「黙ってじっとしていろ」

 骨や血管や神経が繋がるようにイメージしながら回復魔法を施す。

「ウソ……」

「え?」

「足の指を動かしてみろ」

「う、動くぞ! ちゃんと動く!!」

「他にはもういませんか?」

「は、はい。この階には、ひょっとしたら2階にいるかも……」

 ナイスバディな看護婦さんは興奮気味に答えてくれた。
 胸が上下に揺れるのが服の上からでもわかってエロい……

 なんとか色仕掛けの誘惑に耐えて2階に行きそこの看護婦さんに同じ質問をするが、2階にはいなかった。
 仕上げとして範囲回復を発動してルミナス大要塞を後にする。



 レグの街は防御陣地での戦闘が続いているようだ。

 まずは街に降りて重傷者が運びこまれている商館に行く。
 そこの看護婦さんに要塞の時と同じ質問をすると、切断された手足がまだある患者は2人いるという。
 最初の患者のところに案内してもらう。
 20代半ばの女性兵士だ。両足が膝の上から切断されている。
 斬り離された両足の状態が悪い。とりあえず回復魔法を掛ける。
 続いて体の方の包帯を取るが、傷が塞がってしまっていた。

「えっと、今から脚を切って傷口を広げますので痛いですよ?」

 女性兵士はうつろな目をして反応がない。
 剣を取り出し浄化魔法を掛ける。

「な、なにを」

 看護婦さんが慌てて止めようとするが、構わずに足を切った。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 傷口に足を繋げて回復魔法を施す。

「やめてぇぇぇぇぇぇ」

 もう片方の脚にも同じ処置をする。

「足の指を動かしてみろ」

 泣き叫んでいた女性兵士の頬を叩き厳しめに言う。弱気は禁物だ。

「う、動くわ! 私の足が……」

「ゆっくりでいいから指を動かし続けておけ、あとマッサージもしておけよ」

 血行を良くすればなんとかなるんじゃね? 的なアドバイスだ。
 適当極まりないが医者ではないのでギリギリセーフなのだ。

 次に案内された患者は中年の男性兵士で手首から斬られていた。
 特に問題なくサクっと繋げる。

 治療が終わって商館を出て行こうとする時に看護婦さんから、

「あなた様のお名前は?」

 と聞かれて焦ってしまった。包帯男とでも名乗ろうか?

「医者に名前は必要ない。そこに患者がいるかどうかだ」

 自分でも訳わからないことを言って、範囲回復を発動する。

「おお……」

「またも奇跡が……」

「神様ぁ!」

 看護婦さんが周囲に気を取られている間にすぐさま商館を出て路地裏に隠れた。


 顔に巻かれた包帯を解いていく。
 治療をする時は包帯男で、伝令時は素顔で使い分けることにしよう。
 2人いたと思わせるほうが混乱するだろうし、何より包帯男の伝令なんて怪しまれるからな。

 街の中央にある防衛司令部に赴く。
 いよいよレイシス姫とのご対面である。ちょっとドキドキするな!

 司令部の入り口に立っている歩哨に話し掛ける。

「こちらにこの街の指揮官殿はいらっしゃいますか?」

 俺はルミナス大要塞から来たのだから、この街の指揮官がレイシス姫であることは知らない体で話さないといけない。

「おられるが、何の用だ?」

「ルミナス要塞からの伝令で参りました。指揮官殿にお取次ぎ願いますか?」

「おおそうか。閣下は入って突き当りを右に行って一番奥の部屋だ」

「どうもッス」

 中に入っていくと廊下はバリケードが作られていて人1人分しか通れるスペースしか空いてない。
 魔物が街に侵入していたらここでも防ぐつもりだったようだ。
 昨日ここに来るのが遅れていればそうなっていた可能性があるのか。
 アルタナの様子を見に行くことになったのは昨日ロイター子爵のとこでナナイさんと話してた時だったか。
 いや、姫様に会う前に待合室で商人の爺さんと話して様子を見に行くことにしたんだった。
 あの時爺さんの隣に座らなかったらかなり歴史が変わることになるな。
 レグの街は落とされ王都に魔物が殺到していただろう。
 帝国と王国からの援軍を待って3ヵ国連合軍による決戦が挑まれることになる流れだろうけど、俺が倒したオークキングや黒オーガが参戦するならかなり厳しくないか?
 決戦に敗れて王都が陥落して……なんて最悪なパターンもあり得る訳か……

 俺個人の行動如何でこの世界の歴史が変わってしまう。
 シャレにならないぐらいのプレッシャーだぞ、これは。
 昨日もし朝普通に2人とイチャイチャして少し狩りする程度で1日を終えていたら、数千いや万単位での死者がアルタナで出ていた訳だ。
 姫様への献上品イベントを早めに終わらせたい気持ちがあったからその可能性は低かったとはいえ、本当にシャレにならんぞ。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...