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 ルミナス大要塞へと続く道に構築中の防御陣の先では北上してくる魔物との戦闘が行われている。

 あそこで魔物を防ぐつもりか……
 しかしあの位置だとアルタナ王都を攻めに行った連中が戻ってきたら挟撃されてしまうのではないだろうか?
 状況にもよるが後で王都の様子も見に行くべきだろうか?
 目立たないように周囲の魔物の死体を収納しながら観察する。

 今回はロクに収納する時間がなかったので死体の回収率は酷く低い。
 さらに走りながら収納したせいで中身がほぼオークとオーガだけである。
 収納魔法が触れた物を収納するという性質上どうしても手の届きやすいサイズが大きいモノが優先となる。
 サイズの小さい魔物はほぼ価値がないので不要といえばそれまでだが。

 遠くからではあるが街の南で行われている防衛戦闘を観察した結果、短時間で突破されるようなことはないだろうと結論を出して、東側で回収作業をしている住人に混ざって街に入ることにした。
 住人たちは荷車の上に魔物の死体を乗せて街に運び込んでいる。

「手伝うよ」

「ボウズ、悪いな!」

 重そうに荷車を引っ張っていたおっちゃんに声を掛けて後ろから押してやる。
 そのまま街の中に入ると、想像以上の人混みでごった返していてビックリした。
 何かのイベントか? というぐらいの人混みである。
 特徴的なのは手に見た瞬間にわかるような安物の槍を握っている人が多くいることだ。
 男女問わずである。
 いくら魔物に包囲されていたからってあんなので素人が戦うつもりだったのだろうか?
 無謀もいいとこだ。
 仮に3人でオーク1体を囲んだとしても倒すまでに1人か2人は殺されてしまうだろう。


「ボウズ、ここまででいいぞ。あっちで炊き出しをってるからボウズも食べに来いよな!」

「わかったよ!」

 おっちゃんが指差したほうを見ると多くの人がオークの解体やら調理をしていた。

「オークの肉はいくらでもあるから好きなだけ食べてくれー!!
 もちろん無料だよー!!」

 ほとんど俺が倒したオークのはずなんだが……

「ほら、ボウズ、オークの串肉だ」

「あ、ありがとう」

 ま、まぁ俺ではなく街の守備隊が倒したオークかもしれないし……

「たくさん食べて大きくならなきゃな!」

 余計なお世話だ!!

 くそっ。
 どいつもこいつも俺をガキ扱いしやがって!!
 大体このオークの串肉も繊細な味付けがされていてやたらと旨いのも腹が立つし!!

 やたら大量に持たされたオークの串肉を周囲に配りながら話を聞くと、どうやら住民総出で東門から脱出する予定だったそうだ。
 どおりで人で溢れてる訳だ。
 激しい攻撃に晒されていた南か西の防壁が破られたら決行する手はずだったらしい。
 駆け付けるのが遅れていたら本格的にヤバかったみたいだ。
 住民の表情も脱出が取り止めになってホッとしてる人もいれば、まだ予断を許さない情勢なので厳しい表情をしている人もいる。
 現に軍の関係者らしき人が子供と妊婦は東門で待機してある馬車に乗るよう大声でアナウンスしている。
 街を囲んでいた魔物を撃退した今のうちに森の中にある村に避難させるみたいだ。
 上空から見た村を思い起こすとあんな無防備なとこに避難するより街に留まったほうが良さそうに思えるが、大丈夫なのだろうか? ちゃんと警護は付けるのだろうけど。
 そんな中でも状況を理解してない子供が遊んでいたり、泣いてる赤ちゃんをあやしている母親を見ると守らないとという想いが実感として沸いてくる。


 街の中心部に行くと大きな広場があり、そこには負傷した兵士がたくさん座り込んでいた。
 広場の南西にある石造りの大きな建物が防衛司令部で人の出入りが激しく重傷者もそこに収容されてるとのこと。
 当然レイシス姫も司令部にいるのだろう。
 残りの串肉を配り終えて情報収集を終えると広場全体を範囲回復する。
 この魔法使うのは結構久しぶりだ。緊急招集の時以来だろうか。

「え?」「き、傷が……」「治ってるぞ!!」

「折れた骨が……」「ど、どうして??」

「動く! 動くわ!!」

「おぉぉぉ、神よ!!」

 久しぶりでもちゃんと効果はあったようだ。
 次に作戦本部の建物にも範囲回復を施す。
 建物越しでも効果はあるのだろうか?
 隅のほうの目立たないところで建物を観察していると、白い鎧を身に纏った金髪美女が慌てて建物から出て来て辺りをキョロキョロと見回している。
 あれがレイシス姫かな?
 鎧のせいでスタイルが良くわからないのは非常に残念だが、あの様子なら建物越しでも回復効果はあったのだろう。
 不審に思われる前にその場を離れた。
 


「今戦闘奴隷は軍に徴発されちゃってここには1人もいないよ」

 住人に場所を聞いて訪れた奴隷商だったが戦闘奴隷はいないみたいだ。

「緊急時の軍への協力は法で決められていてねぇ。しかもこんな状況だし一般奴隷の若い男も徴発されてるよ。
 仕方ないとは思うけどせめてレンタル料ぐらいは払って欲しいよ。死傷した場合は補償されるけどそれでも大半は赤字なんだぜ」

 奴隷商人は大層不満そうだ。

「ちなみに女の戦闘奴隷で1番腕の良いのはどの程度の実力なんだ?」

「元4等級の冒険者が1番の使い手かな」

 元4等級なら中々の実力者だな。
 いくらか払って予約しておくべきか。

「ムキムキで力でも男に引けを取らないぞ」

 うん。
 ちょっと好みからは外れてしまうかな。
 スルー確定で。

「いないのなら仕方ないな。また街が落ち着いたら見に来るよ」

「おう。そん時はよろしくな!」


 奴隷商を出て人目の付かない路地裏に行き飛行魔法で飛び立った。
 目指すはアルタナ王都である。
 魔力消費を抑える為に標準速度での飛行だったが10分ほどで王都が見えてきた。

 王都もこちら(南側)からは見えない北側を除き3方向いずれも魔物に攻められていた。
 南側に敵が溢れているのはレグの街と一緒だが、アルタナの王都は東西に壁外区がある。
 さすがに城内に避難はしていると思うが、遠距離では様子がわからない。
 レグの街から王都へ至る道も途中から魔物で一杯だった。
 その最後尾(最南部)に降りて魔物を撃破していく。
 今度はゆっくりと確実に死体を回収していく。
 小さい魔物(ゴブリン・コボルト)は剣と槍で倒した。
 少しでも魔力を温存する為の努力である。

 順調に魔物を倒しつつ北上していくと、行く手を遮る大きな影が……

「キングかっ!!」

 オークキングが迫って来た!!
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