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 確かに領地経営には男のロマンが詰まっていると言っていい。
 自分の城を持つというのもこれまた男のロマンである。
 城の中であれば今みたいにロザリナをルルカに張り付けるような警護もしなくていい訳だし。
 悪いイメージを捨てて先入観なく貴族というものを考えてみるべきなのかもしれない。
 ただ……

「自分はまだ冒険者になって2ヶ月も経っていません。今後の進路がいくつかあるにしても選ぶのはまだまだ先の話です」

「だといいわね。こういうことはまだまだ先と考えていると案外すぐに決断を迫られることになるものよ」

「中々に深いお言葉ですね」

 とてもさっきまで俺のモノをニギニギしていたとは思えないほど真面目なティリアさんだ。

「何も王国に拘る必要はないんじゃない? ツトムさんならどこの国に行ったって重宝がられると思うわ」

「ルルカ。それだと結局は同じことの繰り返しよ。むしろ王国を袖にして関係性が微妙になる分だけ余計な面倒を背負うことになりかねないわ」

「なんだかティリアはツトムさんにこの国で貴族になってもらいたい感じね」

「そうね。他国だと中々会えないから寂しくなるのもあるけど、ツトムさんにとっても悪い話ではないと思うわよ。ツトムさんはバルーカで既に一冒険者としての枠組みを超えた地盤を短期間で築いていると言えるわ。同じことを他国で再現しようとしても不可能ではないのかもしれないけど難しいはずよ」

 自分の強さや冒険者としての等級などまるっきり最初からという訳ではないが、今みたいにバルーカの上層部と繋がりができてるのは幸運に恵まれていたから……かな?

「でも領地経営なんてツトムさんにできるのかしら?」

 シミュレーションゲームは得意ですよ?
 民忠に気を付けながら開墾と商業やれば完璧でしょ。

「悪政を敷くとも思えないし、無難に統治する程度ならどうとでもなるわよ。誰か適当な人材を見つけて任せてもいいのだし」

「任せるとしてもその人物の見極めが重要になりそうね」

 なぜだかルルカが貴族になるみたいな流れになっているな。
 実に不思議だ……
 仮に俺が貴族になってもルルカのご機嫌を伺う人達が列を作って、ここが最後尾ですの看板を持って行列整理をしている自分の姿が思い浮かぶ。
 要は貴族になるといっても奴隷に実権を握られる程度でしかない、と言えるかもしれない。

「最初は村の1つとか2つからだから気にすることもないわ。ある程度の規模になると余所から勝手に有能な人材を売り込んで来るの。自分の息が掛かった者が他領の重要なポストに就けばその貴族にとっても利点が大きいもの」

「それにしても騎士爵って領地持ってる訳ではないのに色々詳しいのね?」

「領地持ちの奥様方から色々聞かされてきたから……ほとんど自慢話に付き合わされただけなんだけど思わぬ形でそれが役に立ったわ」


 その後昼食を挟んでルルカとティリアさんの対談は続いた。
 内容は貴族のことから商人や経済、果ては政治や軍事にまで及び、俺に対してエロいことを仕掛けてきた姿からはかけ離れたものだった。
 もっともこの間ずっと2人に密着されてナデナデされ続けていたのだが……


「それでは明日の昼過ぎに迎えに来ますので、それまでルルカのことをよろしくお願いします」

「任せてくださいね。ツトムさんも泊ってくださればいいのに」

「ご主人の許可を得られたらその時はお邪魔します」

「ツトムさん。私がいないからってエッチなお店に行ったらダメですよ」

「そんな店行かないって。俺が品行方正なのを知ってるだろ?」

 ジト目をされる前にルルカを抱き寄せてキスをした。


 14時過ぎにティリアさんの家を退去した。
 話の流れでルルカがティリアさんの家に泊まることになり、用事がある俺は1人で行動することにした。
 用事とは、ギルドで昨日売り切れなかった残りのオークを売ること。魔術研究所に行き死霊術の情報を得ること。それと前回王都に来た際にティリアさんに教えてもらったパン屋に行きまた大量注文すること。本当は奴隷商にも行きたかったのだが手持ちの資金では買えないので諦めた。



 西のギルド出張所に行き残りのオーク38体を売った。さすがに昨日あれだけ売ったので値段が下がっており1体7,000ルクだった。
 魔術研究所のことを受付で聞こうと思った時、

「貴様ぁ! ようやく姿を現したな!! 今までどこに隠れてやがった!!」

 いきなり獣人に詰め寄られた。
 あ。この人以前に指導してくれたランテスだ。

「どこも何も俺はバルーカを拠点にしてるからなぁ」

「む。バルーカか……」

 ちょうどいいか。

「この後時間あるか? メシ驕るよ」

「時間はあるが……、その前に勝負だ。あれからどれだけ腕を上げたか見てやろう」

 さすがは鬼の1人だ。脳筋め。

「ふん。そんな余裕でいられるのも今だけだぞ」

「ほう。おもしろいことを言うな」

 ランテスはニヤァと笑みを浮かべた。
 口元から覗かせている牙がキラリと光る。

 訓練場に行き互いに木刀を持ち対峙する。
 奴との戦いに勝つ為にはなんとか魔法の使用を認めさせなければならない。
 その為にはどうすべきか……

「おまえが王都でぬるま湯に浸かっている間に俺はバルーカの地にて数多の強敵ともと戦い大幅にパワーアップしたのだ。もはや貴様に後れを取ることはあるまい」

「ふふふふ……。フフハハハハハハハハ!! 俺にそんなことを言ったのはおまえが初めてだ。叩き潰してやる!!」

「安心しろ。こんなぬるま湯でもおまえのホームなんだ。前みたいに魔法を使わないで戦って花を持たせてやるよ」

「いらん気遣いしないで全力で来い! 貴様のへなちょこ魔法なんて勝敗には関係ない!!」

「言ったな? 後悔するなよ?」

 遂にこの鬼を超える時が来たか……
 ここ王都でボコボコにされてから1ヵ月、進化した俺を見せてやる!

「うおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 最初から剣+拳打+蹴りのコンビ剣術を繰り出していく。

 意表を突かれたのか最初受け身に回ったランテスだったが……

 くっ。この手数の攻撃を捌くだと!?

 有効打を与えられず、1撃、2撃と痛打を受ける。

「ぐっ」

 木刀なのにこの斬撃の重さ……
 ジェネラル並のパワーだぞ。
 少しでも回復魔法のタイミングが遅れれば意識を刈り取られそうだ。

 剣での防御に成功したと同時にバックステップで距離を取る。
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