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「質問してもよろしいですか?」

「なんだ?」

「その、奉仕に大変な修練が必要なのはわかりましたが、ならばなぜ私に娯楽を勧めたのでしょうか?」

 ロザリナは戦慄してるのにルルカは押し切れなかったか。

「1つには自分が心から楽しむことができない者に他人を楽しませることはできないということだ」

「2つ目は、娯楽を楽しむということは心の健康に繋がる。心の健康は即ち体の健康でもありそれは美容にも大きく関わってくることだ。わかるか?」

「はい。納得しました」

「そこで2人に聞く。自分が心から楽しいと思えることはなんだ? 複数でも構わないから言ってみてくれ。まずはルルカから」

 こうやって直接聞けばいいのだ。
 要は彼女達が日々を楽しく過ごしてくれた方が俺も楽しいし気が楽だってだけの話だからな。
 まぁ言ったことは大きい意味では嘘ではないし間違ってもいない。

「私は本を、物語を読んでる時が楽しいです」

 なんだ読書かよ。
 そうだよ、誰だよ狩りだ戦闘観戦だ言った野蛮人は!
 普通でいいんだ、普通で。

「じゃあ今日は本屋も追加だな。ロザリナはどうだ?」

「買い物と剣の稽古です」

「まず買い物は特定の何かか? それとも日常の食品とかでも楽しいのか?」

「服とか買ってる時が楽しいです」

「それなら今後いくらでも機会を作れるな。問題は次の剣の稽古だ。あれ楽しいか?」

 俺にはどうも痛みに耐えるイメージしか持てないが……

「子供の頃からしてきたことなので……」

 ロザリナは剣の腕があるから模擬戦も勝負としての楽しさがあるのかな?
 俺の場合は極稀に勝ててもあとはボコられるだけだから楽しさのタの字もないけど。

「問題なのは冒険者への復帰に待ったを掛けたことで指導に参加できないってことだな」

「俺が相手だと剣のみだとロザリナが圧倒するし魔法込みだと俺が圧倒してしまう。それ以前に奴隷紋があるから俺とはまともな対戦ができないのか……」

「あの、素振りだけでも十分ですから」

「いや、剣の腕を維持するということは警護任務にも大きく関わってくることだ。遠慮はしないように」

「この件に関しては時間をもらいたい。何らかの解決法を探したい」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 最悪冒険者に依頼することになるかな。
 そうだ! せっかくコネがあるのだからロイター子爵に頼んで軍の訓練に参加させてもらう……
 う~ん。さすがにそこまで大きな借りを作ってしまうのも怖いな。
 事情を話してギルドの指導に参加できないものかな?
 ロザリナの腕は壁外ギルドの中だけなら上級下位と言ったところだ。
 ギルドとしても腕の良い者が増えることは歓迎だろうし。
 今度聞いてみよう。

「そろそろ出かけるか」



 入城しロザリナの案内で家具屋に行く。
 さすがに壁外区の店より大きく倍はある感じだ。

 2人と別れて2階にある待機スペースで腰を下ろす。

 暇だが今日1日の我慢だ。

 あれ以来魔物の襲撃は1度もないようだ。
 転移魔法だとしたらおかしいので、やはり魔道具や施設なんかによる転送ではなかろうか。
 魔力やエネルギーの蓄積に時間を要するのであるなら次の襲撃までの間隔が空くのも頷ける。
 丁度軍が警備の人員を引き上げた頃に次の襲撃があるのかもしれない。
 嫌なタイミングになりそうだ。

「ツトム様」

 ロザリナが呼びに来た。意外に早かったな。



 次の化粧品店では中に入って待つ訳にはいかない。
 外でボーっと立ってる訳にもいかず、辺りを見回すと斜め向かいに食堂があった。
 飲み物だけで待たせて貰えないか事情を話したら快く承諾してくれた。
 表が見える食堂の入り口傍の席でゆっくり待つ。

 店から2人が大荷物を抱えて出てきた。
 手招きしてこちらに呼ぶ。
 追加で飲み物を3人分頼んで少し休憩してから食堂を出た。



 次は古着屋だが何店舗か回りたいらしい。
 もちろん了承する。
 古着屋は大きな通り沿いにはなく、大抵脇道に入ったところにある。
 店の外の邪魔にならないとこに土魔法で小さいベンチを作って座って待てるので気が楽だ。

 しかしよく飽きもせずに商品を物色し続けられるものだと感心する。
 日本の女性と傾向としては似てるのだが、こちらの女性は真剣さが全然違う。
 店で売られてる物の品質が一定以上保証されてる日本とは違い、品によってかなりの落差があるのだ。
 特に古着なんかは物によってはボロボロだったり破けてたりで本当に酷い。


 昼前に古着屋巡りを一旦中断して食事処に行く。
 中々の店構えで高級感が漂っている。
 個室しかないタイプの店のようだ。

 部屋に案内された後に注文しようとメニューを見たがさっぱりわからない。
 言い回しが個性的過ぎるのだ。
 『氷の女王が好む~』『古の帝王が立ち上がった~』『戦士の雄叫びが~』
 本当に料理のメニューなのか?
 何かの寸劇を選んでいるのじゃないか?
 お手上げなので2人に全て任せた。
 ひょっとしたらこの店の何かが『異世界言語』スキルと干渉でもしてるのかもしれん。

 ※店を出た後で2人に聞くと、高級志向の店ではメニューにある店独自の文言から出てくる料理を想像して楽しむという文化があるとのことだ。何が楽しいのか俺にはさっぱり理解できないが。


「買い物は順調なのか?」

「万事滞りなく」

「そうか。2人は酒は嗜むのか?」

「少し飲む程度です(ルルカ)」

「私はそれなりには飲むことができます(ロザリナ)」

「なら酒も買っておこう。ロザリナ、本屋と共に案内頼む」

「わかりました」

 出てくる料理はどれも素晴らしかった。
 味だけではなく、見た目も鮮やかだ。
 料理人の技術が注ぎ込まれているのが素人にもわかる。
 2人も満足気だ。

 ただ、素晴らしい料理だったからこそ日本食への渇望が強くなってしまった。
 ご飯・魚・天ぷら・醤油・味噌……、魚は海沿いの街に行けばあるだろうし、天ぷらは頑張ればいけるかもしれない。
 しかしご飯と醤油味噌はどうにもならない。
 異世界モノでは東に大和的民族がいて米醤油味噌をゲットできるとかあるがこの世界はなぁ…
 ティリアさんが東方に黒髪の民族がいるらしいと言ってたけど、色々聞いた話を総合するとアジア系ではなく南米系の黒髪らしいんだよ。
 作り方を勉強しておけば良かった。
 どうやら俺はこの満たされない欲望を抱えながら生きねばならないようだ。


 午後は古着屋巡りの続きと本屋・酒屋をこなし、いよいよ下着屋に行く。

 3人で店の中を一通り見て回ったが、この店はセクシー系ではなくおしゃれ系だ。
 この世界標準のダボっとした下着よりマシってだけでエロくはない。

 オーダーメイド可能とのことでパンティ・紐パン・ブラ・素肌に直接羽織るスケスケのやつを依頼した。
 注文の際に2人のサイズも測ったのだがその場からは追い出されてしまった。解せぬ。
 店側から商品化も計画したいとのことでルルカ名義で契約を結ぶ。男の名前よりはいいはずだ。

 2人は気に入った下着を何点か買ったようだ。
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