上 下
29 / 360

026

しおりを挟む
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

-バルーカ城の会議室にて-

 本日の出席者は、
 エルスト・グレドール伯爵(バルーカ領主)
 カール・ゲルテス男爵(第2騎士団長)
 エルカリーゼ・フォン・ビグラム子爵(白鳳騎士団長)
 カダット・ロイター子爵(領軍司令官)

 副官と役人が数名の他、特別に領軍の魔術士隊の隊長が参加している。


「…それで、冒険者による指導で成果はあったのか?」

「大いに。具体的には魔術士隊のほうから」

 ロイター子爵は説明は専門家のほうがいいだろうと麾下の魔術士隊の隊長をこの会議に参加させた。
 あくまで事の重要性を鑑みてのことであり、決して説明が面倒とかの理由ではないと自身の胸中で自己弁護が成立している。

「ハッ。例の魔法に関しましてはサンドアローを回転させて射出したものと判明致しました」

「回転か……」

「ツトム殿の指導のもと修練を開始し、習得には時間が掛かるものの既に通常のサンドアローを超える威力を出す者もおります。
 防衛任務や待機任務がありますので毎日修練という訳にはまいりませんが、近日中にも習得する者が出てくると思われます」

「ロイター子爵」

「はい」

「優秀な者を訓練に専念させることは可能か?」

「数名であれば可能でしょう」

「ならばそのように手配してくれ」

「わかりました。隊長続きを」

「ハッ。ツトム殿はその場にて新たな風魔法を開発し『ウインドランス』と名付け土魔法が使えない者に修練させております」

「ま、待て。新魔法の開発などそんな簡単にできるものなのか?」

 室内がザワつく。
 そんな中でビグラム子爵はニヤリと笑みを浮かべ、その『さすがやるわね』といった表情を事情を知ってるロイター子爵は複雑な顔をして見ていた。

「通常であれば不可能であります。ただこの『ウインドランス』は既存のウインドハンマーの殺傷力を高めた言わば発展形であり思い付きさえすれば習得は容易です。現に既に習得している者が多数おります。
 ツトム殿はこれに更に回転を付加することによって大幅に威力を高めており、現在その習得を目指しております。こちらに関しましては回転させるサンドアローと同様に時間を頂きたく存じます」

「ふむ。その回転させるウインドランスも盾の猿とオーガに有効と考えて良いのか?」

「ウインドランスには射程が短いという欠点がございます。ですので近距離ではウインドランス、中長距離はサンドアローと使い分けが肝要となりましょう」

「魔術士が近距離で猿やオーガと対峙する状況はあるまい。習得の優先度は低く設定するべきか……」

「そのことですが伯爵。ツトム君より1つ案を提示されております」

「ほう。ロイター子爵その案とは?」

「飛行魔法を使える者が体格の小さ目な魔術士を抱えて空から接近して攻撃するという手法です」

「!?」「そのようなことが可能なのか?」「空から攻撃するだと!」

 再び室内がザワつく。

「その場にて飛行魔法を使える者がツトム君を抱えて3回試しましたがサンドアローは的には当たりませんでした。
 場所が訓練場だった為にそれ以上のことはできませんでしたが、範囲魔法や回転するウインドランスならば効果範囲は広いので短期間の訓練で有効な攻撃を行えるようになるでしょう。
 よって魔物側に飛行種のいない戦場ならば切り札となり得ると判断します」

「今まで索敵と伝令、移動にしか使い道のなかった飛行魔法にそのような活用法があるとは……」

 先程から伯爵は腕組みをしながら目を閉じたままだ。
 やがて、

「ロイター子爵。城外で飛行魔法を使った魔法攻撃の検証を続けてくれ」

「わかりました。他にオーガによる投石をマジックシールドで防げないかとも提起されました。
 こればかりは試してみないことには何もわかりませんので、実験用の簡易的な投石機を製作する方向で話を進めようかと考えております。
 冒険者による指導並びに訓練の報告は以上となります」

「ロイター子爵はこの後で執務室に来てくれ。次の議題は南部の索敵並びに哨戒に関するものだったな……」




……

…………



-バルーカ城の伯爵の執務室にて-

「たった1日、しかも1度の訓練でこれだけのモノが出てくるとはな」

「はい」

「マジックシールドの件は別にいい。あんなのは誰でも思い付くことだ。
 しかし、魔法を回転させる・既存の魔法を変質させる・新たに魔法運用を提示する。100年単位でできなかった、考えられなかったことだ。
 まだ特別な力か何かの新魔法ならば納得もできよう。問題なのは属性さえ合えば魔術士なら誰もが使えるという点にある」

「正に。彼の案には新規の発案特有の不安定さと言いますか根拠の無さみたいなものが一切ありません。
 なんと言いましょうか、当然のことを我々に教えてる、そんな感じがします」

「うむ……、裏で何者かが糸を引いてると思うか?」

「あり得ましょうか? 彼がしていることは我が国を引いては南部3国を強化していることです。隠れてやるようなことでは……」

「隠れてやらねばならない国・勢力・立場……、帝国の過激派なんかはどうだ? 家の事情か何かで過激派に属しているものの本心では南部3国を支援したい集団でもいれば……」

「その集団が帝国内で新規の魔法技術や発想を独占しているというのも不自然かと」

「それもそうだな。背後関係を調査させるか……」

「それはお止めになるべきです。彼に露見すればバルーカはもちろん国からも出て行きかねませんよ」

「むむむ」

「彼は商業ギルドの一件での我らの迅速な対応に深く感謝しております。この度の指導に関する報酬も辞退を申し出るほどです。もちろん報酬はきちんと渡しますが。
 ですので彼との関係を悪化させ得る手は控えるべきと考えます」

「そうだな。彼の対応は卿に一任しよう」

「承りました」

「王都の手の者からの報告によると陛下の御体調が優れぬようだ。早晩後継者を定められ御退位される運びとなろう。
 新国王が御即位された暁には国の内外に向けてその威光を示す必要がある」

「では南の砦の奪還を?」

「うむ。大きな軍事行動を起こす日もそう遠いことではあるまい。心しておいてくれ」

「はっ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...