上 下
1 / 360

プロローグその1

しおりを挟む
「今回はラッキーだったな」

 クレーム対応に取引先に向かった時は憂鬱で仕方なかったが、結局は先方の勘違いで逆に接待されてしまった。とは言っても社員の出張土産らしい菓子の詰め合わせを3箱ほど持たされただけだが。

 車を走らせ会社へ帰る男の名前は川端努、30歳。中小企業に勤める現在彼女なしのオタク趣味の独身者である。学生時代と社会人で1人ずつ女性と付き合ったのだが長続きせずに終わり現在に至る。

 明日からの3連休はゲーム漬けになるぞー!そんな決意を固めた時だった。意識が後方に引っ張られる感じになり体が動かなくなる。
 ヤバイ!運転中だぞ!
 懸命に足を動かしてブレーキペダルを踏もうとするが1ミリたりとも足は動かず意識が途絶えた。




……

…………


「うぅん……ハッ!」

 ガチャガチャ…
 意識が戻り慌ててブレーキペダルを踏むが反応せずそもそも車自体停まってる状態だ。

 あたりを見回すがぼんやりとした白い空間としかわからない。
 ドアを開けてモクモクと白い煙の漂う地面?に恐る恐る足を踏み入れると普通に立つことができた。

「川端努よ……」

「え?」

 キョロキョロと辺りを見回すと上空にピカピカと発光する球が浮かんでいた。

「我はそちの認識で言うところの『神』もしくは『管理人』のような存在である」

 神様だって!?

「事故で死亡した其の方には異世界に行くかこのまま輪廻の輪に加わるか選ぶことができる」

「死んだ!?」

 死んだなんて覚えねーぞ、だがこの状況は……。

「即死だったので覚えてないのは当然だな。許容量を超えた傷を負ったせいで記憶が欠けたのだろう」

 納得なんてできないが納得するしかない状況かー。

「いくつか質問してもよろしいですか?」

「構わんぞ」

「死んだ人全員に異世界に行くかどうかの選択権があるのでしょうか?」

「普通の人間にはないな」

「なぜ私にはあるのでしょう?」

「まず無信仰者であること。
 幼き者と寿命近くで死亡してないこと。
 この世に未練のない者。
 即死した者。
 強き魂を持つ者。
 悪しき者でないこと。
 条件としては大雑把に言うなら以上であるな」

「神様なのに無信仰者であることが条件なのですか?」

「我は厳密には神ではないので、信仰対象に僅かでも信心を捧げてしまうとそれが架空の存在であってもその者に介入することができなくなるのだ」

 案外不便なのだな……。
 しかし無信仰者なんて現代社会ではそこそこいそうな感じだが?

「先の条件はあくまで魂のことであり、近い前世に信仰者がいてもダメだぞ」

「そうなると一気に対象者は激減しますね。この『強き魂を持つ者』というのは私には無縁のような?」

 なにせ殴り合いのケンカなんてしたことないし。

「それも前世が含まれる事項だな。高潔な支配者階級だったり勇敢な戦闘者であった者は強き魂になる傾向が強いようだ」

 おかげで異世界に行けるのなら前世の自分に感謝だな!←さすがオタク趣味なだけあって異世界ものは大好物らしい。


 おっとこれは聞いておかないと。

「異世界とはどのような世界なのでしょう?」

「お主の好きな魔物が跋扈する剣と魔法の世界だな。スキルもあるぞい」

 見透かされてるみたいだ(汗 SF世界かもしれないだろう!!

「基本的に進んだ文明には行けないぞ。
 異世界行きは遅れた文明のとこだけじゃ」

 なるほど、異世界ものの大半が中世ファンタジーな訳だ。リアルと創作物が見事にリンクしてる。

「自分が行く予定の世界は他に異世界から来た人はいますか?」

「そちが初めての異世界人になるな。他にも世界は多数あるし、条件をクリアする人間も極まれなことから仮に同じ世界に送るとしてもずっと後の時代となるだろう」

 同じ境遇の仲間がいないのは寂しいと思うべきなのだろうか?
 次は遂にこの質問を……

「異世界行きを選んだ場合何かスキルみたいなものは頂けるのでしょうか?」

 ここ大事!すごく大事!

「魂の強さに応じた能力やスキルを与えよう」

 キター!チート来たか!?無双キタコレ!!

「そちが想像してるのとは大分違うが……」

 いいんです。今だけでも夢見させて……。




「最後に神様(仮)にとって私を異世界に送る目的またはメリットはなんでしょうか?」

「『強き魂を持つ者』は世界に良き影響を及ぼすのだ。特に近代化前の世界では及ぼす影響が更に大きくなる」

「英雄的な行動や生き方を求められてるということでしょうか?」

 ハードル高いな! オイ!

「そうではない。そちがあちらでどう生きようと自由だ。行った直後に死んだとしても問題はない。
 そちの魂が異界の輪廻の輪に組み込まれることが重要なのでな」

 オレ個人の生き方に制約がないなら問題ないか。

「わかりました。異世界に行こうと思います!」

「うむ。ではまず最初にそちの所持品を全て没収する。あちらの世界に持ち込むと問題があるものばかりなのでな」

「ハイ……」

 車とスーツのポケットに入れてるスマホと財布、腕時計が一瞬で消えた!
 仕方ないな、スマホもタブレットも充電できなきゃ持って行っても意味ないし、車もガソリンが切れればただの鉄の箱でしかない。
 もっとも車は社用車でオレのではないのだが……。

「さて、これからスキルを授けるのだが、何か希望はあるか?」

 重大な時間が来たな。
 ここでの選択がこれからの異世界ライフに極めて強く影響するのは間違いない!
 まずは定番の……

「はい、あちらの世界の言葉をしゃべれるようになりたいです」

 コミュニケーションは大事だからね!

「うむ、他にあるか?」

 異世界行きを聞いてから心をざわつかせてる問題に着手してみる。

「あの、若返ることは可能でしょうか?」

「可能じゃぞ、こちらの年齢の半分の15歳でどうだ?」

「是非それでお願いします!」

 やった!

「そちの魂の容量的に次が最後だな」

 もう!? 欲しいスキルがまだまだたくさんあるのにぃ(涙)
 異世界スキル三種の神器『アイテムボックス・鑑定・転移』も無理かー。

「ひとつ助言するなら先に申した通り魔物の跋扈する世界なので戦闘系のスキルは必須じゃぞ」

「う~~ん」

 重力魔法とか時空魔法か?
 もっとチートな……

「言っておくが人の手に余る力は無理じゃぞ」

「う!?」

「そもそもそちの魂に入らんしな」

 ならばひとつで多方面をカバーできるのがいいな。

「せっかくの異世界ですので魔法全般が使えるスキルが欲しいです」

「よかろう。『魔法の才能』を授けよう。なかなか優秀なスキルじゃぞ」

「ありがとうございます」

「では向こうに着いたらまず『ステータス』と念じてみるがいい」

「ハイ」

 もう行く感じなのだろうか。
 展開早いな!

「良き二度目の人生を」

 いきなり落下する感覚が襲ってきた!

「色々とありがとうございましたぁ~」

 体や意識全体が落下していく中でなんとかお礼を言ったとこで意識が途絶えた。





……

…………



「!?」

 気が付くと草原の上に立っていた。

 前方に森があり、左右にも遠くに森が見えるがそこまで一面の草原風景である。

「すごいな、地球にはない風景だ。おそらく」 

 おっと、言われた通りに『ステータス』と念じてみ……

 顔の前に液晶画面が表示される。


川端努 男性
人種 15歳
LV1

HP 10/10
MP 30/30

力  5
早さ 5
器用 5
魔力 10

LP 0P

スキル
異世界言語・魔法の才能


 ちゃんと15歳になってるしスキルもあるな!
 ただ……
 ステータス低!!
 この世界の人がどのぐらいの数値かはわからんが神様(仮)の言った通りチート無双は無理と考えるべきだな!憧れがなかったと言えば嘘になるが……
 魔力とMPが高いのは魔法の才能のおかげか?
 LPとはなんだろう?
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...