無口な槍士が迷宮でパーティーに見捨てられて

常盤今

文字の大きさ
上 下
1 / 1

本文

しおりを挟む
 私の名はセリス。24歳。

 冒険者で槍士をしている。

 現在臨時に組んだパーティーでここギトの街の迷宮の6階層を探索中だ。


 剣士や槍士・弓士は人気がない。

 盾職・魔法士・回復士・斥候職が圧倒的に人気職だ。

 なのでパーティーに入れなかった者同士で即席でパーティーを組み比較的浅い階層で日銭を稼ぐのである。

 私以外は剣士2人と弓士2人の変則的な構成だ。

 剣士2人が小柄なので私が前衛を務めていた。

 戦い方は極めてシンプルだ。

 私が先に戦闘状態に入り敵を引き付けておいて2人の剣士が左右に回り込んで攻撃する。

 弓士は後方からの援護だ。

 固定パーティーであればもっと色々な連携ができるのだが、即席パーティーではこれぐらいが限界だ。

 不人気職が集まる即席パーティーでもリーダーが優秀だとその時々のメンバーに合った連携を指示できるし稼ぎもかなり違ってくると聞く。

 当然のことながら稼げるパーティーの席は即埋まるし、優秀なメンバーがいれば固定化していくことになるので私が入れる隙間はない。

 私が稼げるパーティーに入る為にはまだ皆に知られていない優秀なリーダーを見つけないといけないのだが、そういう意味ではこの即席パーティーのリーダー(剣士の1人)は不合格だ。

 いくら体格が小柄とはいえ前衛も務められない上に、遊撃に回ったところでさして攻撃力がある訳でもない。

 かと言って前衛をしている私の負担を減らす動きもできてないばかりか、そのように努力する意識すらないみたいでただ剣を振っているだけだ。


 『不遇職でもパーティーリーダーができるようになれば楽になるよ』


 出身地が近かったので仲良くしてくれてる先輩の冒険者に言われたことがある。

 しかし口下手な私がパーティーリーダーとして皆を引っ張っていけるか不安だ。

 その他にも迷宮の攻略法や作戦立案など頭の良さも求められる。

 私には無理……




 この迷宮の6階層のメインモンスターである大ネズミと戦っていた時である。

 背後から中階層レベルでは上位にランクされるリザードマン3体の攻撃を受けてしまった。


「槍はリザードマンを抑えてくれ! すぐ援護する!」


 頷いた私は後ろに行きリザードマン達と対峙した。

 私の実力はリザードマンと同じぐらいだ。

 武器が槍な分、間合いがやや有利なぐらいか。

 リザードマン3体相手は厳しいがなんとか時間を稼がないとここで全滅してしまう。

 攻撃はあくまで牽制にとどめることを徹底して、防御主体で必死に時間を稼いだ。



 だけど……

 背後で戦っていたはずの仲間は既にいなくなっていた。

 私にモンスターを押し付けて逃げたんだ……

 壁際に追い詰められ、リザードマンと大ネズミに包囲された。

 こんなところで死ぬなんて……


 『即席パーティーでは他の人を信用してはいけない』


 先輩の冒険者に何度も言われてたことなのに。

 こいつらに生きたまま喰われるぐらいならいっそ……

 覚悟を決めようとした時だった。

 急にモンスターの動きがおかしくなった。

 すごく遅く動く感じだ。


「今だ! 攻撃しろ!」


 リザードマンの背後の通路から声が聞こえた。

 私は必死に槍を振るった。

 モンスターは攻撃も防御もできないみたいだ。

 先ほどまでの苦戦が嘘のように呆気なく倒すことができた。


「大丈夫か?」


 少し小柄な黒髪の男性が近付いてきた。

 その優し気な表情を見た瞬間私の胸はかつてないほど高鳴っていた。




 その後私は彼とパーティーを組んで迷宮に入るようになった。

 彼の名前はヨシユキ。初見では私より年下と思っていたが、2つ上の26歳という。

 なんでも王様が違う世界から召喚した人達の1人だったのだが、変なスキルだった為に城から追い出されたのだそうだ。

 スキル持ちというだけでも凄いことなのに。

 もちろん私にはスキルなんてものはない。

 彼のスキルは『おもり操作』というもので、モンスターにおもりを付けて動きを遅くすることができる。

 10体まで同時に付けることができる凄い能力だ。

 どうしてこんな凄いスキルで城を追い出されたのか尋ねたら、最初は少し重くなる程度で大したことなかったらしい。

 レベル?というのが上がった時に効果が飛躍的に増したのだそうだ。

 迷宮へは通常5人でパーティーを組む。

 これは迷宮の各階層と入り口を行き来できる転移門を1度に利用できる定員が最大5名だからだ。

 別々に転移門を使って迷宮内で合流して大パーティーを組むという方法もできるが、人数が増える分だけ収入は減るのでまずやらない。

 そんな迷宮へ2人パーティーで入る私達がいかに凄いか……いえ、それを可能とする彼のスキルがどれだけ凄いのかは私しか知らない。



 彼と2人で迷宮に入るのは楽しかった。

 彼と迷宮以外で過ごす時間も楽しかった。

 最初は同じ宿でも別々の部屋だったけど、今では同じ部屋で寝起きしている。

 私からやや強引に迫ってしまったのだ。

 だけど後悔はしていない。

 私は彼と過ごす時間の大切さを知っているから。

 彼と過ごす日々がいかに貴重かを知っているから。

 だって私達はもうすぐ……






……


…………



 今私達はギトの街の迷宮の14階層で活動している。

 ここが私の活動できるギリギリの階層だ。

 迷宮は5階層毎にモンスターの強さが上がる。

 今でも10体を超えた時の対処は命懸けだ。

 幾度となく危ない場面があった。


 彼からは何度もパーティーメンバーを増やそうと提案された。

 私はその度に首を横に振った。


 彼との2人の時間を邪魔されたくないという想いは否定はしない。

 だけどそれ以上にヨシユキはこんな中級下位の迷宮に縛り付けていい人ではない。

 もっと上を目指せる人なのだ。

 上級の迷宮にだって挑戦できるような人だ。

 私のヨシユキは……



 私は意を決してそのことを彼に伝えた。

 ちゃんと笑顔で伝えられたと思う。

 たくさん目から涙が出てたけど笑顔だったはずだ。


 彼は『必ず迎えに行くから待っていて欲しい』と言ってくれた。

 その言葉だけで十分だ。

 だって、


『男の冒険者の言うことなんて信じちゃいけないよ』


 と、30過ぎても独身だった先輩冒険者が言ってたから……



 私は彼と別れてすぐにギトの街を発ち故郷に帰って来た。

 だけど実家には帰ってない。

 帰ると農家に嫁に出されるからだ。

 しかも私の年齢だと長男に嫁ぐのはまず無理だ。

 農家の次男三男に嫁ぐのは最悪である。

 生涯に渡って長男家族にコキ使われ、酷い家だと長男や父親の相手をさせられる。



 私は今故郷の近くの小さな町で冒険者を細々と続けている。

 若い子を指導しながら初級の迷宮に潜るのだ。

 風の噂で上級迷宮を次々と攻略しているパーティーには黒髪の小柄な青年がいることを聞いた。








ー3年後ー


 私は冒険者を辞めた。

 街の郊外に家を建てた。

 お腹の中の新しい命を感じながらこれまでのことを想う。

 家の裏で苦労しながら不出来なベビーベッドを自作しているヨシユキとの子だ。




                            完









================================================================
後書き

 異世界モノの恋愛小説が流行ってるということで書いた人生2作目の小説です。

 『小説家になろう』で掲載したものに加筆しました。

 パーティーに関する事柄は昔プレイしていたMMORPG『リネージュⅡ』が下敷きになっています。

 初めてプレイした時はパソコンの画面の中にバーチャルな世界や社会が形成されていて、とても感動したのを良く覚えています。

 もう20年近く前になるのですね、懐かしい思い出です。



 私の1作目の小説『異世界ライフは山あり谷あり』も連載中ですので是非読んで下さい!
 こちらは男性主人公です。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

naimed
2022.04.12 naimed

読ませて頂きました。
ヨシユキの成長を考えて身を引くセリスが少し切ないです。最後は幸せそうでした。
恐れながら作者様は女性の方でしょうか?こういう展開はどうも男性では書け無さそうなので。

常盤今
2022.04.12 常盤今

感想ありがとうございます!
まさか短編のほうに感想頂けるとは思ってもいなかったので大変感激しています。しかも2本共に!

naimedさんを失望させてしまうかもしれませんが、すいません。作者は男性です。

解除

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生してしまった様なので

七地潮
ファンタジー
ヒロインに転生したので、逃げます 小説家になろう様でもアップしております。

聖女は聞いてしまった

夕景あき
ファンタジー
「道具に心は不要だ」 父である国王に、そう言われて育った聖女。 彼女の周囲には、彼女を心を持つ人間として扱う人は、ほとんどいなくなっていた。 聖女自身も、自分の心の動きを無視して、聖女という治癒道具になりきり何も考えず、言われた事をただやり、ただ生きているだけの日々を過ごしていた。 そんな日々が10年過ぎた後、勇者と賢者と魔法使いと共に聖女は魔王討伐の旅に出ることになる。 旅の中で心をとり戻し、勇者に恋をする聖女。 しかし、勇者の本音を聞いてしまった聖女は絶望するのだった·····。 ネガティブ思考系聖女の恋愛ストーリー! ※ハッピーエンドなので、安心してお読みください!

異世界に召喚された様ですが、村人Aと間違えられて追い出されましたorz

かぜかおる
ファンタジー
題名のまんま、特に落ちもないので、暇つぶしにフワッと読んでください。

王太子になる兄から断罪される予定の悪役姫様、弟を王太子に挿げ替えちゃえばいいじゃないとはっちゃける

下菊みこと
恋愛
悪役姫様、未来を変える。 主人公は処刑されたはずだった。しかし、気付けば幼い日まで戻ってきていた。自分を断罪した兄を王太子にさせず、自分に都合のいい弟を王太子にしてしまおうと彼女は考える。果たして彼女の運命は? 小説家になろう様でも投稿しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【完結】召喚されて聖力がないと追い出された私のスキルは家具職人でした。

井上 佳
ファンタジー
結城依子は、この度異世界のとある国に召喚されました。 呼ばれた先で鑑定を受けると、聖女として呼ばれたのに聖力がありませんでした。 そうと知ったその国の王子は、依子を城から追い出します。 異世界で街に放り出された依子は、優しい人たちと出会い、そこで生活することになります。 パン屋で働き、家具職人スキルを使って恩返し計画! 異世界でも頑張って前向きに過ごす依子だったが、ひょんなことから実は聖力があるのではないかということになり……。 ※他サイトにも掲載中。 ※基本は異世界ファンタジーです。 ※恋愛要素もガッツリ入ります。 ※シリアスとは無縁です。 ※第二章構想中!

私、平凡ですので……。~求婚してきた将軍さまは、バツ3のイケメンでした~

玉響なつめ
ファンタジー
転生したけど、平凡なセリナ。 平凡に生まれて平凡に生きて、このまま平凡にいくんだろうと思ったある日唐突に求婚された。 それが噂のバツ3将軍。 しかも前の奥さんたちは行方不明ときたもんだ。 求婚されたセリナの困惑とは裏腹に、トントン拍子に話は進む。 果たして彼女は幸せな結婚生活を送れるのか? ※小説家になろう。でも公開しています

サバイバル能力に全振りした男の半端仙人道

コアラ太
ファンタジー
年齢(3000歳)特技(逃げ足)趣味(採取)。半仙人やってます。  主人公は都会の生活に疲れて脱サラし、山暮らしを始めた。  こじんまりとした生活の中で、自然に触れていくと、瞑想にハマり始める。  そんなある日、森の中で見知らぬ老人から声をかけられたことがきっかけとなり、その老人に弟子入りすることになった。  修行する中で、仙人の道へ足を踏み入れるが、師匠から仙人にはなれないと言われてしまった。それでも良いやと気楽に修行を続け、正式な仙人にはなれずとも。足掛け程度は認められることになる。    それから何年も何年も何年も過ぎ、いつものように没頭していた瞑想を終えて目開けると、視界に映るのは密林。仕方なく周辺を探索していると、二足歩行の獣に捕まってしまう。言葉の通じないモフモフ達の言語から覚えなければ……。  不死になれなかった半端な仙人が起こす珍道中。  記憶力の無い男が、日記を探して旅をする。     メサメサメサ   メサ      メサ メサ          メサ メサ          メサ   メサメサメサメサメサ  メ サ  メ  サ  サ  メ サ  メ  サ  サ  サ メ  サ  メ   サ  ササ  他サイトにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。