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第5話 配信されていました
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叫び声は森の奥から聞こえてきた。
声は複数だった。
何人かがこちらに走ってきているようだ。
1人が視界に入り、こちらに向けて大きな声を出した。
「逃げろ! 大量のモンスターが来る!」
上空には1台のドローンが飛んでいる。皐月さんのドローンよりもだいぶ大きい。逃げてくる人たちを撮影しているようだった。
続けて、森の奥から何人も逃げてきた。
その向こうからは木々をなぎ倒すような音が聞こえ、たくさんの足音が近づいてくる。足音は不規則でけたたましい。
逃げながら、1人が喚いていた。
「絶対あいつらだ! デスペラーズ! 迷惑系チューバー集団!!」
それを聞いてすぐに、皐月さんは私の手を強く引いた。
「おい、あたいらも逃げるよ。たぶんモンスターパレードを引き起こしたんだ。モンスターを集めて初心者が慌てふためく様子を配信する。迷惑系ダンジョンチューバーのよくやる手口だ」
私たちがなかなかモンスターに遭遇しないのも当然だった。
迷惑系ダンジョンチューバーがモンスターを集めていたと思われる。
彼らは、犯罪行為すれすれの行動により、面白い動画や反感を買うような動画を撮影して視聴者数を稼ぐ集団だ。
ダンジョン内を歩き回ってはモンスターを集めて初心者の冒険者にけしかける。集まったモンスターは当然、初心者の手に負える数ではない。
時にはけが人や重症者が出る。場合によっては死人が出てしまうこともあるらしい。
これはもちろん犯罪行為に該当するのだが、しかし、なかなか証拠がみつからないのだそうだ。
そんな迷惑系ダンジョンチューバーがいる一方、彼らを監視し、なんとかその悪行を暴露しようとしているチャンネルもあると聞く。
「あの」
「ほら、早く逃げるから」
皐月さんは私の手を引いて走り出そうとするのだが。
「私、ハイヒールで走れなくって……」
「そんなもの脱げ!」
「は、はい!」
ハイヒールの紐をほどこうとする。いつもならすぐに脱ぐことができるはずだった。
けれど急いで脱ごうとすればするほど、指がもつれてしまう。
焦れば焦るほどに、思うように動かなかった。
その時、皐月さんが後ろを見て叫んだ。
「あいつ、やばいぞ!」
その視線の先では逃げている1人が転んでいた。さらに向こう側ではモンスターたちが迫ってきている。
ゴブリンだけじゃない。様々な種類のモンスターがいた。
多種多様なモンスターが何百もの大群となってこちらに向かっていた。
転んだのは男性冒険者だった。どうやら足をくじいたようで、引きずるようにしてやっと起き上がっていた。
皐月さんは私の腕をとって、反対方向へと引っ張る。
「あいつには悪いけど、おとりになってもらって逃げよう」
手を強く引く皐月さんに、私は反射的に振りほどいてしまった。
「駄目です」
これは初めての冒険だ。
私にとってダンジョンチューバーは憧れの存在だった。
助手とは言え、今の私はそんなダンジョンチューバーの一人なのだ。
目の前に殺されそうになっている人間を見逃すことなんてできなかった。
ハイヒールの片方をその場に脱ぎ捨て、彼の元へと駆け寄る。
片足だけ裸足だから走りにくかった。
転びそうになりながら、ダンジョンフォンを操作する。
「これを飲んでください」
実体化したポーションを口元に無理やり押し付けて流し込んだ。くじいた足に少しくらいは役に立つだろう。
皐月さんも迷ったようだが、遅れてやってきた。
倒れている彼を二人して肩に担いで起こそうとするが、もう間に合いそうになかった。
私たちのすぐ目の前にまでモンスターは迫っていた。
私は覚悟を決めた。
立ち上がり、デスソードを握りしめる。まっすぐと構えた。
今度はしっかりと目を見開いて狙いを定める。
あの集団の真ん中にぶち込んでやるつもりだった。
大きく振りかぶり、デスソードを水平に振るう。
――ブーーーーーンンン!!
風切り音が鳴って、禍々しい黒い靄が衝撃波とともにほとばしる
私のスカートが翻る。
地面すれすれを私の攻撃が通り抜け、近くまで迫ってきていたモンスターたちのに襲いかかる。
――ドドドドドドドバババババババババッッッッ!!
無数のモンスターたちが切断され、上半身と下半身が切り離される。体が真っ二つになり、羽がもぎ取れたり、伸ばした触手が引きちぎられる。モンスターたちの残骸があちこちに撒き散らされる。
次々と入る経験値獲得の通知音。
無我夢中だった。モンスターを恐れている余裕なんてなかった。
自分のせいで皐月さんも危険に巻き込んでしまったし、男性のことも助けなければいけないと思っていた。
右に水平にふるったデスソードをこんどは反対の左へ。
モンスターたちは真横切りの状態で切り裂かれ、周囲も木々も巻き込む。
剣が引き起こす衝撃波は突風を生み出し、石や砂を巻き上げた。
まるで嵐のような威力のデスソード。
「まだ上空にも敵がいますね!」
私は叫びながら、斜め上方に向けて剣を振るった。
「おい、あれは違うって!!」
皐月さんが慌てて止めた。けれど、遅かった。
走る衝撃波。
遅れてやってくる金属音。
――ガッキイィィィィンンンンッ!!!!!!
空飛ぶ撮影機材、高級ドローンは真ん中からきれいに2つに分かれた。
まち散らされる部品。浮力を失い、落下する本体。
そのまま勢いよく地上に激突し、地面に落ちて白煙を上げる。
粉々に砕け散った高級ドローン。推定価格、1250万円。
「やば、これ、高いやつ……」
皐月さんは落下して地上に落ちたドローンの残骸から目をそらした。
「逃げるぞ」
皐月さんに手を引かれ、私たちはその場から逃げ出した。
私たちの同接は変わらず12人。
チャンネル登録者数も810人のまま。
けれど、この様子はしっかりと別のドローンに捕らえていた。
迷惑系ダンジョンチューバーを監視するチャンネル。
――ダンジョン探偵局
静かな風切り音を立て、ドローンは私たちの背中を映していた。
私たちのこの行動は思わぬところでバズることになる。
声は複数だった。
何人かがこちらに走ってきているようだ。
1人が視界に入り、こちらに向けて大きな声を出した。
「逃げろ! 大量のモンスターが来る!」
上空には1台のドローンが飛んでいる。皐月さんのドローンよりもだいぶ大きい。逃げてくる人たちを撮影しているようだった。
続けて、森の奥から何人も逃げてきた。
その向こうからは木々をなぎ倒すような音が聞こえ、たくさんの足音が近づいてくる。足音は不規則でけたたましい。
逃げながら、1人が喚いていた。
「絶対あいつらだ! デスペラーズ! 迷惑系チューバー集団!!」
それを聞いてすぐに、皐月さんは私の手を強く引いた。
「おい、あたいらも逃げるよ。たぶんモンスターパレードを引き起こしたんだ。モンスターを集めて初心者が慌てふためく様子を配信する。迷惑系ダンジョンチューバーのよくやる手口だ」
私たちがなかなかモンスターに遭遇しないのも当然だった。
迷惑系ダンジョンチューバーがモンスターを集めていたと思われる。
彼らは、犯罪行為すれすれの行動により、面白い動画や反感を買うような動画を撮影して視聴者数を稼ぐ集団だ。
ダンジョン内を歩き回ってはモンスターを集めて初心者の冒険者にけしかける。集まったモンスターは当然、初心者の手に負える数ではない。
時にはけが人や重症者が出る。場合によっては死人が出てしまうこともあるらしい。
これはもちろん犯罪行為に該当するのだが、しかし、なかなか証拠がみつからないのだそうだ。
そんな迷惑系ダンジョンチューバーがいる一方、彼らを監視し、なんとかその悪行を暴露しようとしているチャンネルもあると聞く。
「あの」
「ほら、早く逃げるから」
皐月さんは私の手を引いて走り出そうとするのだが。
「私、ハイヒールで走れなくって……」
「そんなもの脱げ!」
「は、はい!」
ハイヒールの紐をほどこうとする。いつもならすぐに脱ぐことができるはずだった。
けれど急いで脱ごうとすればするほど、指がもつれてしまう。
焦れば焦るほどに、思うように動かなかった。
その時、皐月さんが後ろを見て叫んだ。
「あいつ、やばいぞ!」
その視線の先では逃げている1人が転んでいた。さらに向こう側ではモンスターたちが迫ってきている。
ゴブリンだけじゃない。様々な種類のモンスターがいた。
多種多様なモンスターが何百もの大群となってこちらに向かっていた。
転んだのは男性冒険者だった。どうやら足をくじいたようで、引きずるようにしてやっと起き上がっていた。
皐月さんは私の腕をとって、反対方向へと引っ張る。
「あいつには悪いけど、おとりになってもらって逃げよう」
手を強く引く皐月さんに、私は反射的に振りほどいてしまった。
「駄目です」
これは初めての冒険だ。
私にとってダンジョンチューバーは憧れの存在だった。
助手とは言え、今の私はそんなダンジョンチューバーの一人なのだ。
目の前に殺されそうになっている人間を見逃すことなんてできなかった。
ハイヒールの片方をその場に脱ぎ捨て、彼の元へと駆け寄る。
片足だけ裸足だから走りにくかった。
転びそうになりながら、ダンジョンフォンを操作する。
「これを飲んでください」
実体化したポーションを口元に無理やり押し付けて流し込んだ。くじいた足に少しくらいは役に立つだろう。
皐月さんも迷ったようだが、遅れてやってきた。
倒れている彼を二人して肩に担いで起こそうとするが、もう間に合いそうになかった。
私たちのすぐ目の前にまでモンスターは迫っていた。
私は覚悟を決めた。
立ち上がり、デスソードを握りしめる。まっすぐと構えた。
今度はしっかりと目を見開いて狙いを定める。
あの集団の真ん中にぶち込んでやるつもりだった。
大きく振りかぶり、デスソードを水平に振るう。
――ブーーーーーンンン!!
風切り音が鳴って、禍々しい黒い靄が衝撃波とともにほとばしる
私のスカートが翻る。
地面すれすれを私の攻撃が通り抜け、近くまで迫ってきていたモンスターたちのに襲いかかる。
――ドドドドドドドバババババババババッッッッ!!
無数のモンスターたちが切断され、上半身と下半身が切り離される。体が真っ二つになり、羽がもぎ取れたり、伸ばした触手が引きちぎられる。モンスターたちの残骸があちこちに撒き散らされる。
次々と入る経験値獲得の通知音。
無我夢中だった。モンスターを恐れている余裕なんてなかった。
自分のせいで皐月さんも危険に巻き込んでしまったし、男性のことも助けなければいけないと思っていた。
右に水平にふるったデスソードをこんどは反対の左へ。
モンスターたちは真横切りの状態で切り裂かれ、周囲も木々も巻き込む。
剣が引き起こす衝撃波は突風を生み出し、石や砂を巻き上げた。
まるで嵐のような威力のデスソード。
「まだ上空にも敵がいますね!」
私は叫びながら、斜め上方に向けて剣を振るった。
「おい、あれは違うって!!」
皐月さんが慌てて止めた。けれど、遅かった。
走る衝撃波。
遅れてやってくる金属音。
――ガッキイィィィィンンンンッ!!!!!!
空飛ぶ撮影機材、高級ドローンは真ん中からきれいに2つに分かれた。
まち散らされる部品。浮力を失い、落下する本体。
そのまま勢いよく地上に激突し、地面に落ちて白煙を上げる。
粉々に砕け散った高級ドローン。推定価格、1250万円。
「やば、これ、高いやつ……」
皐月さんは落下して地上に落ちたドローンの残骸から目をそらした。
「逃げるぞ」
皐月さんに手を引かれ、私たちはその場から逃げ出した。
私たちの同接は変わらず12人。
チャンネル登録者数も810人のまま。
けれど、この様子はしっかりと別のドローンに捕らえていた。
迷惑系ダンジョンチューバーを監視するチャンネル。
――ダンジョン探偵局
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