お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~レベル1なのに迷宮の最下層へ。勝手に持ち出した装備は84億円!? 最強装備の初心者が動画をバズらせる~

高瀬ユキカズ

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ハロー、アメリカ

第177話 レベルアップの相談

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「大統領からの依頼を遂行するには、圧倒的なレベルアップが必要だと思う。それと十分な強さを持った装備。私たちはこのままでは弱いから」

 私がこう告げると、タブさんは同意してくれる。

『その通り。あるじたちのパーティは今より格段に強くなる必要がある。そしてもう一つ。足りない要素がある』

「足りない要素? なんだろう?」

 私は考えるが、答えが出ない。タブさんは答えをくれないわけではなく、私がわからなければ教えてくれる。

『足りないのは強くなることの理由だ。強くなりたいという気持ちと言ってもいい。人間は願望を達成するためには、理由や動機が必要なのだ。人間とAIの違うところは心が存在するところだ』

「タブさんのようなAIだったら、合理的な判断だけで動けるのだろうね。私たちはやりたいと思える気持ちがないと動けないってことか」

『そうだな。あるじの場合、兄に認められたいからと行動をしているが、それでは動機が弱いように思える。兄を超えるのだという、強い動機をみつけたほうがいい』

「動機? 動機かあ。別にお兄ちゃんを超えなくてもいいのだけれど」

『ミランダ・モリスのことをもう少し知ったほうがいい。彼女はワールドランク1位だ。あるじを遥かに超える強さを持っている。だからこそ、あるじの兄が惚れたのではないかな』

 私とタブさんの話を聞いていた湊ちゃんが疑問を口にした。

「春菜のお兄さんって、強い女性が好きなのかな?」

 春日井君も話題に入ってくる。

「どうだろうな? 強いからって好きになるものなのかな? 俺にはわからないけれど」

 エリ先生は私たちに説明した。

「3人とも、AIのタブさんが言う通りに、ミランダさんのことを知らないとわからないと思いますよ。春菜さんも、お兄さんのことを知っているようで、知らないはずです。なぜ、お兄さんがワールドランク2位なのか。なぜ、強さを求めているのか」

 私は家にいるお兄ちゃんしか知らない。ミランダさんといるお兄ちゃんを知らないのだ。二人の関係やダンジョンに挑む思いを知りたいと思う。

「なぜ強さを求めるのか、それを知るために……。私も、お兄ちゃんやミランダさんが見ている世界を知るために、強さを求めるのでもいいのかな?」

 強くなりたいという動機としては、まだ弱いのかもしれない。だけど、タブさんは受け入れてくれた。

『最初はそれでいいと思う。あるじよ。強くなるのだ』

 強くなると言っても、口でいうほど簡単ではない。すぐに強くなれるのならば、みんな強くなっているからだ。

 私は春日井君と湊ちゃんに向かって話す。

「まあ、そうは言っても、手っ取り早く強くなる方法なんてないしね。今回も、大統領の要望に答えられるような実力を身につける方法なんてなさそうだし」

「漫画で読んだ『精神と時の部屋』みたいな便利な場所でもあったらいいんだけどな。俺も、ついでに強くなれるから」

 春日井君が空想の例を挙げるが、湊ちゃんはそれに異を唱えない。

「案外あったりするかもしれないよね。春菜はいろいろやらかしているから。すでにそんな物を手に入れていたりして」

 私は手を振りながら、否定する。

「ないない。そんな都合のいい力なんてあるわけがない」

「でも、春菜は一瞬でアメリカから日本に帰ってきたじゃない? それだって某アニメの『どこでもドア』みたいだったよ」

「ドラゴンを召喚したり、ダンジョンを生み出したり、筑紫のやることは規格外だぞ。220階層から生還したこともそうだけれど、漫画みたいなことをやっている。俺もそれにあやかりたいよ。ダンジョンの低層でちまちまやるのは大変だ」

「うーん。そうは言っても、レベルを上げるにはモンスターを倒すしかないわけだし、経験値が高いモンスターは地下の深くに行かなければいないし」

 確かに、私はレベル2から一気に71へ飛んだ。中間をすっ飛ばしている。でも、それはたまたま運が良かったからだ。

「俺もまだ弱いモンスターとしか戦ったことがないな。いきなりドラゴン戦になった筑紫が例外なんだよな」

「春菜が生み出したダンジョンも確か、いきなりレベル100超えのモンスターがいたよね。春菜はいろいろすっ飛ばしているね」

 私の配信を見てくれている湊ちゃんは細かいところもよく覚えていた。

「長瀞ダンジョンにいるあいつらは私の言う事を聞くよ。ダンジョン・コンピューターの操作権限を私が持っているからね。いくらでも湧いてくるし、倒し放題。でも、無抵抗状態で倒しても経験値は入らないんだよね」

「じゃあ、まったくレベルアップには使えないのか?」

 春日井君に聞かれたので、私はわかっている範囲で答える。

「そうでもないよ。トレーニング・モードというのがあって、その状態でモンスターを稼働させれば、通常通りの経験値が入ってくる。でも、自分のレベルが上がるほどに必要経験値が跳ね上がってくる。だから、次の72になるにはまだまだ先だね。さくさく上げられるのはレベル50くらいまでなんじゃないかな」

 私の言葉を聞いて、春日井君は身を乗り出してきた。

「ちょっと待て。じゃあ、俺がそこに行ったら……」

 湊ちゃんまでもが、私の方へと体を寄せてくる。

「私、ハンターですらないけれど、春菜のダンジョンに連れて行ってもらったらレベル50からスタートってこと?」

 私は手を口元に置き、はたと考える。この2人を私のダンジョンで訓練するということは考えていなかった。

「そうか。私は自分のレベルのことしか考えていなかったけれど、パーティを組んだ状態で戦えば2人にも経験値が入るのか……」

「頼む、筑紫。俺をそこに連れて行ってくれ」

「私も……。でも、危なくないのかな?」

 乗り気になった2人だが、エリ先生は厳しい顔をしていた。

「危ないですよ。レベルが低い状態で強いモンスターと戦うのはお勧めしません。非常識なまでに強い装備でもあれば別ですが」

「神王装備のような?」

 私はエリ先生に聞き返す。

「そうですね」

「大統領は持っていないのかな? 頼んだら貸してくれるかも」

「持っているんじゃない? だって、アメリカ大統領だよ」

 春日井君と湊ちゃんが大統領のことを口にする。
 私は、湊ちゃんの装備はお兄ちゃんから借りようと思った。

「湊のぶんは、お兄ちゃんに神王装備を借りられないか聞いてみる。修理に出したって言っていたけど、そろそろ戻って来るころのはず」

「俺はどうしたら?」

「私の装備だって、初心者用だよ。大統領に頼んでみよう」

 春日井君に聞かれ、私の装備も含めて、大統領に頼れないかと考えた。
 でも、エリ先生はやっぱり否定的だった。

「私は頼みませんからね! あの人がそんなことを許可するわけが……」

 しかし、ロサンゼルス・ダンジョンへの許可を頼むときも同じようなことを言っていたのだ。
 聞いてみなければわからないだろう。

「何日か前も、エリ先生は同じことを言っていたよね……」

「頼んでみないとわかりませんしね」

「案外、簡単に借りれたりして」

 私と湊ちゃん、春日井君が話をすると、エリ先生はまだ否定的な意見を崩さなかった。

「あの人が、そんな許可を出すわけがありません。絶対に、貸してくれないと思いますよ。でも、聞いてみるだけは聞いてみますが」

 それでも、聞いてくれるというエリ先生は甘いなあと思った。ミリアが先生と慕うだけある。

「エリ先生、ミリアを忘れていました。ミリアの装備もお願いします」

 エリ先生は完全に呆れた顔をしていた。

「無理だと思いますよ。でもまあ、一応、聞いてはみますが」
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