お兄ちゃんの装備でダンジョン配信 ~勝手に持ち出した装備は84億円でした。レベル1なのに迷宮の最下層で動画をバズらせます~

高瀬ユキカズ

文字の大きさ
上 下
162 / 241
ハロー、アメリカ

第162話 カツアゲをする春菜

しおりを挟む
「ところでミリアさあ……」

 私はバナナを手にしているミリアに訊ねる。

「ダンジョンポイントはいくら持っているの?」

「ダンジョン管理協会から支給されたポイントのことですか? お姉様……」

「そうそう、生活費として支給されたでしょ?」

「25万DPが支給されたのです」

「そんなに支給されたの!?」

「はい、お姉様」

「じゃあさ、ちょっと相談があるのだけどさ。買ってほしいものがあるんだよね」

 私はミリアにすり寄るように体を寄せる。
 ミリアは警戒するように私から遠ざかった。

「ポイントはミリアのものなのです。ミリアが自分で使うのです」

「まあまあ、いいじゃない。たくさんポイント持っているんだしさ。配信も始めたんでしょ? スパチャもけっこう貰ったんじゃない?」

「スパチャは10万DPほどなのです」

「おお、合わせて35万になるね」

「なるのです」

「じゃあさ、ちょっとくらいいいじゃない。私はお兄ちゃんから制限されていて、今月はあと3万切っているんだ。これじゃろくな装備も買えないよ。ねえ、この兜がほしいんだけどさ」

 私はタブレットを取り出し、マーケットのサイトを開いた。そこにはダンジョン管理協会の3階にあるショップの商品が並べられている。ネットで会計をして、実物はショップに取りに行くことになる。

「この兜、13万5千DPするんだよね。お兄ちゃんから毎月5万の使用制限を掛けられていて、どうやっても買えないんだよ。だからさ、ミリアの端末から……」

「無理なのです。無理なものは、どうやっても無理なのです」

「いいじゃんか。私とミリアの仲でしょ? ほら、ちょいちょいっとボタンを押すだけなんだよ。とっても簡単な操作だよ。買ってくれないとカレーを口に押し込むよ。ミリア、カレー食べられないよね? 食べたくないよね? 口の中が燃えるように熱くなっちゃうよ。じゃあ、買うしかないよね」

「お姉様、ひどいのです。ミリアのことを拷問しようと言うのです」

 見かねた湊ちゃんが口を挟んだ。

「春菜、それってカツアゲじゃない?」

「冗談だよ、冗談。本当にやるわけないじゃない」

「ひどいのです。お姉様」

 ミリアが本当に泣き出しそうになってしまったので、私は慌てて謝った。

「ごめん、ミリア! 本当にカレーを食べさせたりしないから。あとでバナナをチョコバナナにしてあげるから。バナナをチョコレートでコーティングするんだよ。食べたことある?」

「お姉様!!」

 ミリアは急に立ち上がって叫んだ。

「そんな至高の食べ物があるのですか!?」

「ミリア、急に立ち上がるとびっくりするよ」

 驚いた私に、ミリアは覆いかぶさるようにして顔を近づけてくる。

「だって、だって、バナナにチョコレートなのです! 驚かないわけがないのです。天才的なのです! 悪魔的発想なのです!」

「私が考えたわけではないのだけれど」

「でも、でも……ミリアはチョコバナナを食べたいのです!」

「わかった、わかった。一旦落ち着いて座ろうか。クラス中の注目を集めちゃっているよ」

 周りを見ると、ほぼ全員がこちらを見ていた。私たちの会話を聞いているのは間違いなかった。

「とにかくさ、ミリアはダンジョンポイントの使い道はないでしょ? だから、ちょっと私の装備を買ってほしいなって。駄目なのかな?」

「駄目ではないですが、無理なのです」

「ん? どういうこと?」

「ミリアのダンジョンポイントは残り53DPなのです」

「53?」

「はい」

「どういうこと?」

「ミリアはダンジョン配信をしてスパチャをもらいましたが、ダンジョン配信をたくさん見ているのです。ダンジョン配信の中毒になってしまったのです。推しがお姉様のほかにもたくさんできたのです」

「推し? ん?」

 私が首を傾げると、湊ちゃんは納得したように頷いた。

「わかる、わかる。貢いじゃったんだね」

「そうなのです」

「つまり、35万DPのほとんどを使っちゃったんだ」

 私は何が起こっていたのかを想像して考え込む。

「どういうこと……」

 考えるとすぐに結論が出た。

「あ!」

 動画の配信者に有り金の全部を貢いだということだ。

「ミリア、スパチャしたんだ!」

「はい、なのです。お姉様」

「35万DPを全部使い切ったの!? スパチャで!?」

「いえ、53ポイントは残っているのです。全部ではないのです」

「ぐわああああ………………」

 私はミリアの金銭感覚を嘆き、頭を抱えた。ミリアは人間ではなく、モンスターだ。モンスターに人間と同じ金銭感覚を求めるほうが無理があるのかもしれない。
 
 気を取り直し、別の方法を考える。

「だ、大丈夫。私は使用制限を掛けられているけれど、私からミリアにスパチャをすればいいんだ。とりあえず、こっちから13万5千DPを送るから、それで兜を買ってくれれば……」

 ところが、ミリアは首を横に振る。

「だめなのです、お姉様。ミリアは動画中毒なのです。ミリアは貢ぎたい誘惑に勝てそうにないのです……」

「とりあえず、こっちから送るから。使っちゃ駄目だよ。駄目だからね」

「……」

 ミリアは無言だ。私は少し不安に思いながらも、ミリアのチャンネルを開き、スパチャを送った。

「スパチャしたよ」

「…………」

 無言のミリアは超高速でタブレットに指を走らせていた。ほとんど無意識の反射的な行動だ。

「ミリア?」

「ごめんなさいなのです、お姉様」

 私が送った13万5千DPは見知らぬどこかの配信者の元へと送られていた。大丈夫、私はポイントだけならたくさんあるのだ。まだまだたくさんある。

「もう一回送るから」

「………………………………」

 返事が戻ってこないことを不安に思いつつも、再度スパチャする。ミリアの指が動く。

「…………」

「…………」

 どうやらいくら送っても無駄なようだ。
 私はまったく言葉が出ない。

 私の代わりに、言いたいことを湊ちゃんが代弁してくれた。

「だめだこりゃ」

 呆れ顔の湊ちゃんは、半分は面白がっていた。コントのように、顔の横で両方の手のひらを上に向けて可愛らしい仕草をしていた。

 私は27万DPを失い、何も得られなかった。

 その時、背後に人の気配を感じた。

「なんだよ、筑紫。制限をかけられているのか? 俺が買ってやろうか? 俺のデバイスに送金してくれればそれで買ってやるぞ」

 後ろから声をかけてきたのは春日井君だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

醜さを理由に毒を盛られたけど、何だか綺麗になってない?

京月
恋愛
エリーナは生まれつき体に無数の痣があった。 顔にまで広がった痣のせいで周囲から醜いと蔑まれる日々。 貴族令嬢のため婚約をしたが、婚約者から笑顔を向けられたことなど一度もなかった。 「君はあまりにも醜い。僕の幸せのために死んでくれ」 毒を盛られ、体中に走る激痛。 痛みが引いた後起きてみると…。 「あれ?私綺麗になってない?」 ※前編、中編、後編の3話完結  作成済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...