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ハロー、アメリカ
第162話 カツアゲをする春菜
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「ところでミリアさあ……」
私はバナナを手にしているミリアに訊ねる。
「ダンジョンポイントはいくら持っているの?」
「ダンジョン管理協会から支給されたポイントのことですか? お姉様……」
「そうそう、生活費として支給されたでしょ?」
「25万DPが支給されたのです」
「そんなに支給されたの!?」
「はい、お姉様」
「じゃあさ、ちょっと相談があるのだけどさ。買ってほしいものがあるんだよね」
私はミリアにすり寄るように体を寄せる。
ミリアは警戒するように私から遠ざかった。
「ポイントはミリアのものなのです。ミリアが自分で使うのです」
「まあまあ、いいじゃない。たくさんポイント持っているんだしさ。配信も始めたんでしょ? スパチャもけっこう貰ったんじゃない?」
「スパチャは10万DPほどなのです」
「おお、合わせて35万になるね」
「なるのです」
「じゃあさ、ちょっとくらいいいじゃない。私はお兄ちゃんから制限されていて、今月はあと3万切っているんだ。これじゃろくな装備も買えないよ。ねえ、この兜がほしいんだけどさ」
私はタブレットを取り出し、マーケットのサイトを開いた。そこにはダンジョン管理協会の3階にあるショップの商品が並べられている。ネットで会計をして、実物はショップに取りに行くことになる。
「この兜、13万5千DPするんだよね。お兄ちゃんから毎月5万の使用制限を掛けられていて、どうやっても買えないんだよ。だからさ、ミリアの端末から……」
「無理なのです。無理なものは、どうやっても無理なのです」
「いいじゃんか。私とミリアの仲でしょ? ほら、ちょいちょいっとボタンを押すだけなんだよ。とっても簡単な操作だよ。買ってくれないとカレーを口に押し込むよ。ミリア、カレー食べられないよね? 食べたくないよね? 口の中が燃えるように熱くなっちゃうよ。じゃあ、買うしかないよね」
「お姉様、ひどいのです。ミリアのことを拷問しようと言うのです」
見かねた湊ちゃんが口を挟んだ。
「春菜、それってカツアゲじゃない?」
「冗談だよ、冗談。本当にやるわけないじゃない」
「ひどいのです。お姉様」
ミリアが本当に泣き出しそうになってしまったので、私は慌てて謝った。
「ごめん、ミリア! 本当にカレーを食べさせたりしないから。あとでバナナをチョコバナナにしてあげるから。バナナをチョコレートでコーティングするんだよ。食べたことある?」
「お姉様!!」
ミリアは急に立ち上がって叫んだ。
「そんな至高の食べ物があるのですか!?」
「ミリア、急に立ち上がるとびっくりするよ」
驚いた私に、ミリアは覆いかぶさるようにして顔を近づけてくる。
「だって、だって、バナナにチョコレートなのです! 驚かないわけがないのです。天才的なのです! 悪魔的発想なのです!」
「私が考えたわけではないのだけれど」
「でも、でも……ミリアはチョコバナナを食べたいのです!」
「わかった、わかった。一旦落ち着いて座ろうか。クラス中の注目を集めちゃっているよ」
周りを見ると、ほぼ全員がこちらを見ていた。私たちの会話を聞いているのは間違いなかった。
「とにかくさ、ミリアはダンジョンポイントの使い道はないでしょ? だから、ちょっと私の装備を買ってほしいなって。駄目なのかな?」
「駄目ではないですが、無理なのです」
「ん? どういうこと?」
「ミリアのダンジョンポイントは残り53DPなのです」
「53?」
「はい」
「どういうこと?」
「ミリアはダンジョン配信をしてスパチャをもらいましたが、ダンジョン配信をたくさん見ているのです。ダンジョン配信の中毒になってしまったのです。推しがお姉様のほかにもたくさんできたのです」
「推し? ん?」
私が首を傾げると、湊ちゃんは納得したように頷いた。
「わかる、わかる。貢いじゃったんだね」
「そうなのです」
「つまり、35万DPのほとんどを使っちゃったんだ」
私は何が起こっていたのかを想像して考え込む。
「どういうこと……」
考えるとすぐに結論が出た。
「あ!」
動画の配信者に有り金の全部を貢いだということだ。
「ミリア、スパチャしたんだ!」
「はい、なのです。お姉様」
「35万DPを全部使い切ったの!? スパチャで!?」
「いえ、53ポイントは残っているのです。全部ではないのです」
「ぐわああああ………………」
私はミリアの金銭感覚を嘆き、頭を抱えた。ミリアは人間ではなく、モンスターだ。モンスターに人間と同じ金銭感覚を求めるほうが無理があるのかもしれない。
気を取り直し、別の方法を考える。
「だ、大丈夫。私は使用制限を掛けられているけれど、私からミリアにスパチャをすればいいんだ。とりあえず、こっちから13万5千DPを送るから、それで兜を買ってくれれば……」
ところが、ミリアは首を横に振る。
「だめなのです、お姉様。ミリアは動画中毒なのです。ミリアは貢ぎたい誘惑に勝てそうにないのです……」
「とりあえず、こっちから送るから。使っちゃ駄目だよ。駄目だからね」
「……」
ミリアは無言だ。私は少し不安に思いながらも、ミリアのチャンネルを開き、スパチャを送った。
「スパチャしたよ」
「…………」
無言のミリアは超高速でタブレットに指を走らせていた。ほとんど無意識の反射的な行動だ。
「ミリア?」
「ごめんなさいなのです、お姉様」
私が送った13万5千DPは見知らぬどこかの配信者の元へと送られていた。大丈夫、私はポイントだけならたくさんあるのだ。まだまだたくさんある。
「もう一回送るから」
「………………………………」
返事が戻ってこないことを不安に思いつつも、再度スパチャする。ミリアの指が動く。
「…………」
「…………」
どうやらいくら送っても無駄なようだ。
私はまったく言葉が出ない。
私の代わりに、言いたいことを湊ちゃんが代弁してくれた。
「だめだこりゃ」
呆れ顔の湊ちゃんは、半分は面白がっていた。コントのように、顔の横で両方の手のひらを上に向けて可愛らしい仕草をしていた。
私は27万DPを失い、何も得られなかった。
その時、背後に人の気配を感じた。
「なんだよ、筑紫。制限をかけられているのか? 俺が買ってやろうか? 俺のデバイスに送金してくれればそれで買ってやるぞ」
後ろから声をかけてきたのは春日井君だった。
私はバナナを手にしているミリアに訊ねる。
「ダンジョンポイントはいくら持っているの?」
「ダンジョン管理協会から支給されたポイントのことですか? お姉様……」
「そうそう、生活費として支給されたでしょ?」
「25万DPが支給されたのです」
「そんなに支給されたの!?」
「はい、お姉様」
「じゃあさ、ちょっと相談があるのだけどさ。買ってほしいものがあるんだよね」
私はミリアにすり寄るように体を寄せる。
ミリアは警戒するように私から遠ざかった。
「ポイントはミリアのものなのです。ミリアが自分で使うのです」
「まあまあ、いいじゃない。たくさんポイント持っているんだしさ。配信も始めたんでしょ? スパチャもけっこう貰ったんじゃない?」
「スパチャは10万DPほどなのです」
「おお、合わせて35万になるね」
「なるのです」
「じゃあさ、ちょっとくらいいいじゃない。私はお兄ちゃんから制限されていて、今月はあと3万切っているんだ。これじゃろくな装備も買えないよ。ねえ、この兜がほしいんだけどさ」
私はタブレットを取り出し、マーケットのサイトを開いた。そこにはダンジョン管理協会の3階にあるショップの商品が並べられている。ネットで会計をして、実物はショップに取りに行くことになる。
「この兜、13万5千DPするんだよね。お兄ちゃんから毎月5万の使用制限を掛けられていて、どうやっても買えないんだよ。だからさ、ミリアの端末から……」
「無理なのです。無理なものは、どうやっても無理なのです」
「いいじゃんか。私とミリアの仲でしょ? ほら、ちょいちょいっとボタンを押すだけなんだよ。とっても簡単な操作だよ。買ってくれないとカレーを口に押し込むよ。ミリア、カレー食べられないよね? 食べたくないよね? 口の中が燃えるように熱くなっちゃうよ。じゃあ、買うしかないよね」
「お姉様、ひどいのです。ミリアのことを拷問しようと言うのです」
見かねた湊ちゃんが口を挟んだ。
「春菜、それってカツアゲじゃない?」
「冗談だよ、冗談。本当にやるわけないじゃない」
「ひどいのです。お姉様」
ミリアが本当に泣き出しそうになってしまったので、私は慌てて謝った。
「ごめん、ミリア! 本当にカレーを食べさせたりしないから。あとでバナナをチョコバナナにしてあげるから。バナナをチョコレートでコーティングするんだよ。食べたことある?」
「お姉様!!」
ミリアは急に立ち上がって叫んだ。
「そんな至高の食べ物があるのですか!?」
「ミリア、急に立ち上がるとびっくりするよ」
驚いた私に、ミリアは覆いかぶさるようにして顔を近づけてくる。
「だって、だって、バナナにチョコレートなのです! 驚かないわけがないのです。天才的なのです! 悪魔的発想なのです!」
「私が考えたわけではないのだけれど」
「でも、でも……ミリアはチョコバナナを食べたいのです!」
「わかった、わかった。一旦落ち着いて座ろうか。クラス中の注目を集めちゃっているよ」
周りを見ると、ほぼ全員がこちらを見ていた。私たちの会話を聞いているのは間違いなかった。
「とにかくさ、ミリアはダンジョンポイントの使い道はないでしょ? だから、ちょっと私の装備を買ってほしいなって。駄目なのかな?」
「駄目ではないですが、無理なのです」
「ん? どういうこと?」
「ミリアのダンジョンポイントは残り53DPなのです」
「53?」
「はい」
「どういうこと?」
「ミリアはダンジョン配信をしてスパチャをもらいましたが、ダンジョン配信をたくさん見ているのです。ダンジョン配信の中毒になってしまったのです。推しがお姉様のほかにもたくさんできたのです」
「推し? ん?」
私が首を傾げると、湊ちゃんは納得したように頷いた。
「わかる、わかる。貢いじゃったんだね」
「そうなのです」
「つまり、35万DPのほとんどを使っちゃったんだ」
私は何が起こっていたのかを想像して考え込む。
「どういうこと……」
考えるとすぐに結論が出た。
「あ!」
動画の配信者に有り金の全部を貢いだということだ。
「ミリア、スパチャしたんだ!」
「はい、なのです。お姉様」
「35万DPを全部使い切ったの!? スパチャで!?」
「いえ、53ポイントは残っているのです。全部ではないのです」
「ぐわああああ………………」
私はミリアの金銭感覚を嘆き、頭を抱えた。ミリアは人間ではなく、モンスターだ。モンスターに人間と同じ金銭感覚を求めるほうが無理があるのかもしれない。
気を取り直し、別の方法を考える。
「だ、大丈夫。私は使用制限を掛けられているけれど、私からミリアにスパチャをすればいいんだ。とりあえず、こっちから13万5千DPを送るから、それで兜を買ってくれれば……」
ところが、ミリアは首を横に振る。
「だめなのです、お姉様。ミリアは動画中毒なのです。ミリアは貢ぎたい誘惑に勝てそうにないのです……」
「とりあえず、こっちから送るから。使っちゃ駄目だよ。駄目だからね」
「……」
ミリアは無言だ。私は少し不安に思いながらも、ミリアのチャンネルを開き、スパチャを送った。
「スパチャしたよ」
「…………」
無言のミリアは超高速でタブレットに指を走らせていた。ほとんど無意識の反射的な行動だ。
「ミリア?」
「ごめんなさいなのです、お姉様」
私が送った13万5千DPは見知らぬどこかの配信者の元へと送られていた。大丈夫、私はポイントだけならたくさんあるのだ。まだまだたくさんある。
「もう一回送るから」
「………………………………」
返事が戻ってこないことを不安に思いつつも、再度スパチャする。ミリアの指が動く。
「…………」
「…………」
どうやらいくら送っても無駄なようだ。
私はまったく言葉が出ない。
私の代わりに、言いたいことを湊ちゃんが代弁してくれた。
「だめだこりゃ」
呆れ顔の湊ちゃんは、半分は面白がっていた。コントのように、顔の横で両方の手のひらを上に向けて可愛らしい仕草をしていた。
私は27万DPを失い、何も得られなかった。
その時、背後に人の気配を感じた。
「なんだよ、筑紫。制限をかけられているのか? 俺が買ってやろうか? 俺のデバイスに送金してくれればそれで買ってやるぞ」
後ろから声をかけてきたのは春日井君だった。
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